第506号 業務用化粧品業界におけるサプライチェーン・ロジスティクスの一考察(サカタウエアハウス株式会社)(後編)(2023年4月18日発行)
執筆者 | 松田 晃輔 (サカタウエアハウス株式会社 企画室 室長代行 兼 営業本部/管理本部 特別担当) |
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執筆者略歴 ▼
本論文は、当社企画室 松田が、明治大学 専門職大学院 グローバルビジネス研究科 修士論文として作成したものを、前編と後編の計2回に分けて掲載いたします。
目次
- 4.インタビューを受けて想定される業務用化粧品業界の問題点について
- 4.1.不正流通(横流し)問題
- 4.2.サロン直送ブランドの問題
- 5.今後想定される問題について
- 5.1.サロン/美容室の今後の動向
- 5.2.メーカーが今後抱えるであろう問題
- 6.業務用化粧品業界に今後必要と思われる物流サービスの仕組みについて
- 6.1.サロン直送ブランドに関するソリューション
- 6.2.商流および物流情報のサポート
- 7.考察
- 7.1.今回得られた示唆と考察
- 7.2.今後の課題と展望
- 8.参考文献
4.インタビューを受けて想定される業務用化粧品業界の問題点について
今回は業務用化粧品業界の流通に携わっている現役の実務者の方々、(メーカーから1名、卸・代理店から1名、サロンから1名)計3名にインタビューを実施した。3名のプロフィールについては、デモグラフィックデータを参照。(表3参照)
各プレーヤーには主に物流に関するインタビューを行った。返ってきた答えはもちろん物流に関する回答が多かったが、中には商流や情報流に関する回答も散見された。今回インタビューしたことによって得られた各プレーヤーが抱えている問題/課題については、「物流」、「商流」、「情報流」ごとに区分を分けて問題/課題を整理した。(表4、表5、表6参照)
今回のインタビューで浮かび上がった問題/課題は、あくまでも実務者が現在見えている問題/課題であり、根本的な問題/課題はさらにその奥にあると思われる。そこで、根本的な問題/課題を抽出するために、流通チャネルの変化や不正流通に関する問題/課題の因果関係を分析した。その結果、メーカーが卸・代理店に対するプッシュ戦略*3に主たる原因が隠れていると推察した。このプッシュ戦略によって、サプライチェーン上で過剰供給となり、横流しの問題を誘発していると思われる。この横流し問題は業務用化粧品業界において、非常に大きな問題であると認識しているので、このあと詳しく後述したい。
また、今後の業務用化粧品業界にとって重要なポイントと思われるサロン直送ブランドが抱えている問題についても着目し後述する。
4.1.不正流通(横流し)問題
そもそもなぜ横流しが問題なのかについては、上述したように市場での価格を統制し、価格崩壊が起こらないようにメーカーが卸・代理店と代理店契約を締結しているのにもかかわらず、卸・代理店が通販(EC)やバラエティストアといったような、契約で指定されていない所に業務用品を流通させてしまうから問題なのである。
それでは、横流しが発生する原因についてこれから論じたい。まず、横流しが発生しているルートの確認だが、図5の赤線の矢印を見ての通り、卸・代理店から横流しをしているケースと、サロンや美容室から横流しをしている2パターンのケースが考えられる。まず、卸・代理店が横流しをする理由として考えられるのは、大量にある在庫を捌く為ではないかと推測する。卸・代理店は実需要である美容室からの注文のみで在庫を捌く必要があるが、それだけでは在庫を捌ききれないので、美容室以外に業務用品を流通させてしまうのではないかと思われる。メーカーの営業マンは売上を上げるために、原価の低い業務用品にリベートを付け、取引量を増やす商慣習がある。いわゆるメーカーのプッシュ戦略によって、卸・代理店は過剰に在庫を抱えてしまい、横流しが発生するということである。(図7参照)
また、サロンや美容室から横流しをしているケースについては、次のような原因が考えられる。冒頭で述べたように美容室は毎年約1%ずつ店舗数が増えている。その中には順調に経営ができている店舗と経営がうまくいっていない店舗があると思われる。美容室の業界では、開店1年以内に60%の美容室が閉店し、3年以内に90%の美容室が閉店すると言われており、経営がうまくいかず資金繰りに困った美容室が少しでも売上の足しにする為や、閉店することになった美容室が在庫を捌く為に通販(EC)を利用して、業務用品を売っているのではないかと推測される。
4.2.サロン直送ブランドの問題
サロン直送ブランドとは、図5の青色の矢印で示されているように、卸・代理店のDCを経由せずに、メーカーのDCからサロンや美容室に直接届けるための業務用品である。そもそもなぜメーカーはサロン直送ブランドを立ち上げる必要があったかについて、まずは説明していこう。
メーカーは卸・代理店に対し、帳合*4を通すことによる手数料のような代金(以下、帳合金という場合もある)を支払っており、今回実施した卸・代理店へのインタビューでも触れられていたが、卸・代理店はサロンや美容室に対し、代金回収する役目を担っている。なお、それに掛かるコストを見越して、メーカーは帳合金を支払っている。これはサロン直送ブランドに限った話ではなく、通常の業務用品においても帳合金は支払われており、メーカーはリベートに加えて、帳合金も卸・代理店に支払っている。そういったこともあり、メーカーとしては自分達の利益が卸・代理店に食われてしまっているという認識をしているため、脱・卸・代理店という考え方がメーカーの間で広がっていったのである。
また、近年は大手の卸・代理店によるM&Aが進み、中小企業の卸・代理店が吸収され、力が大手の卸・代理店に集約されつつある。メーカーとしては、購買力のある大手の卸・代理店に頼らざるを得なくなり、価格の統制が取れなくなることを非常に恐れているのである。
さらに、メーカーとしては、サロンや美容室のビジネスを守るという役目を担っているという自負があるので、卸・代理店による横流しを防がなければならないのである。その対策として、どこの卸・代理店が横流しをしたかわかるように業務用品にトレーシングができるような策を施すメーカーもある。これにより、横流しが確認されて取引停止となった卸・代理店もあれば、トレーシングができるような策を見抜き、いまだに横流しをする卸・代理店もあるといった状況となっている。
こういった事業環境に加えて、近年EC物流の注目度が高まったことにより、メーカーは自分達の販売網および流通網で、卸・代理店を頼らずに、サロンや美容室に業務用品(専用ブランド)を届けたいという想いで、こぞって多くのメーカーはサロン直送ブランドを立ち上げたのである。このサロン直送ブランドは、卸・代理店のDCを経由しないことで、卸・代理店に支払われる帳合金が少し軽減されると言われており、卸・代理店へのインタビューでは、帳合金が約5%軽減すると述べられていた。
そのようにして、始まったサロン直送ブランドであったが、一つ大きな問題が生じたのである。それは、物流費(特に配送費)の問題である。なぜかというと、卸・代理店経由で業務用品を流通させるよりも、サロンや美容室に直接業務用品を届ける方が圧倒的に非効率だからである。卸・代理店は何十ケースという単位で発注するが、サロンや美容室の発注単位はせいぜい1、2ケースであり、まとめて10ケースを1ヶ所の卸・代理店に届けるよりも、サロンや美容室に対し、1ケースを10店舗届ける方が圧倒的に配送費が多く掛かるのである。これにより、商品1本当たりの物流費が大きく変わってくるのだ。そこに近年急激に上昇する運賃値上げ問題が加わり、なおさらサロン直送ブランドが儲かりにくい事業環境となってしまっているのである。あまりにも1本当たりの物流費が高すぎて、採算が合わず、サロン直送ブランドの立ち上げに二の足を踏むメーカーがいくつか存在するほどである。
5.今後想定される問題について
5.1.サロン/美容室の今後の動向
本稿では、この先変化するであろう事業環境の変化について、触れていきたい。冒頭でも述べたように、美容室は毎年約1%ずつ店舗が増加している傾向にあり、理容室は毎年約1%ずつ減少傾向にあるが、トータルでは毎年店舗数が増えている傾向にあると説明した。廃業する理美容室がある中、それを上回る勢いで出店する店が多いため、今のところは順調に毎年店舗数が増えている。しかし、今後は美容師の労働人口の減少や人口動態の変化に関する影響により、サロンや美容室の出店の勢いが無くなってくると推測される。それにより、今は個人経営の店が多くチェーンストア化されていない美容室だが、今後は美容室がチェーンストア化されてくることで、購買力を持つようになり、安く業務用品を仕入れることができるようになってくるのではないだろうか。
それでは、美容室の出店の勢いがなぜ今後減少するかについて説明しよう。この業界が抱えている問題はいくつかある。例えば、労働環境が悪い、他業界に比べて低賃金である、労働集約産業であり機械化が進まない等といったようなことが挙げられる。NBBA*5の資料によると、美容師の労働環境について、次の図のように示している。(図8参照)
労働時間が長く、人と接する仕事なので、ストレスも掛かる。さらに、水や薬品を触る機会の多い仕事内容なので、手あれがひどいという声も頻繁に耳にする。そのような労働環境では美容師を志す人も今後減ってくるであろう。それに加えて、低賃金であることも大きな問題ではないだろうか。(図9参照)
図8の通り、理美容師の推定年収は全産業平均の推定年収よりも、約200万円も低いという結果となっている。もちろん店舗によって給料は様々かもしれないが、美容室の従業員がたくさん給料を貰っているという話はあまり聞いたことがない。
そういった要因もあって、今後美容師の数は減り、出店数よりも廃業数の方が上回ることで、現在35万店舗以上ある理美容室も減少してくるのではないだろうか。そして、チェーンストア化できている店舗が残るという現象が起こると、川下にパワーが集まるようになり、安く業務用品を仕入れることができるようになるので、業務用化粧品業界の様相は大きく変わると推測される。よって、メーカーや卸・代理店はその事業環境の変化に対応できるよう、準備が必要となってくるのではないだろうか。
5.2.メーカーが今後抱えるであろう問題
上述したような事業環境の変化も踏まえ、今後メーカーにとってどのようなことが問題となってくるか述べていこう。まず、川下のパワーが強くなることで、メーカーの業務用品は買い叩かれてしまい、価格の維持が難しくなってくると推測される。
そして、もし卸・代理店による横流しが目に余る状況となると、さすがにメーカーもサプライチェーン上に供給する量を減らさざるを得なくなると推測する。そうなると、卸・代理店に対する押し込みが減少するとともに、取引量も減少し、そのまま売上にも影響するであろう。
さらに、年々上がり続けている物流費(特に配送費)はこの先もまだ上昇傾向にあるので、物流費が利益をさらに圧迫するであろう。その影響をサロン直送ブランドはもろに受けるため、何か新しい仕組みを考えなければ、なかなか利益が残りにくい状況からは抜け切れないと推察される。
これまでは高い利益率を叩き出しながら良い思いをしてきたメーカーだが、恐らくこれからは同じ手法では通用しなくなってくると思われる。川下のパワーが強くなり、大手の卸・代理店の集約が進むとなると、ドラッグストアで取り扱っているような一般化粧品や一般用医薬品の業界に近いイメージとなる。もしそうであれば、メーカー間での競争が一層激しくなり、商品のプロダクトライフサイクル*6が今よりも短くなると思われる。商品の流行り廃りが頻繁に起こり、今よりも早いペースで新商品を出さなければ同業他社との競争に勝てなくなるのである。さらに、新商品を世に送り出すばかりではなく、それと並行してアイテムの改廃を進めなければ、物流費(特に保管料)が膨らむ一方となる。これまでの業務用化粧品業界はアイテム改廃をあまり行うことなくこれまでやってきた為、アイテム数が増える一方であった。しかし、上述したような事業環境になった場合、メーカーは物流費をもっとシビアに管理する必要が出てくると思われる。今後メーカーはそういったことも想定しながら動かなければならないのではないだろうか。
6.業務用化粧品業界に今後必要と思われる物流サービスの仕組みについて
ここに至るまで、業務用化粧品業界で現在発生している問題および業務用化粧品業界で今後発生するであろう問題について、述べてきた。ここからは、それらの問題に対し、3PL(サード・パーティー・ロジスティクス)企業がどのようなソリューションが提供できるか、もしくはどのようなソリューションを提供すべきかについて論じる。
6.1.サロン直送ブランドに関するソリューション
まずは、本論文の中盤部分で触れたサロン直送ブランドの問題に対するソリューションについて論じよう。サロン直送ブランドが抱えている問題は、物流費(特に配送費)であると述べた。これに対するソリューションとしては、物流共同化がフィットするのではないだろうか。これは物流を共同化することで、物流費を抑えるというものである。それでは、物流を共同化するとはどのようなことか説明しよう。
さて物流には、保管・荷役・輸配送・流通加工・包装梱包・物流情報処理の6つの活動があると言われる。そして物流の効率化を図ろうとする場合、共同化が一つの有効な手段であると言われ、従来は6つの活動の中でも特に輸配送の共同化-いわゆる共同配送-の取り組みが少なからず行われてきたと思われる。つまり、共同配送を実施することにより、トラックの積載効率を上げたり、車両台数を減らすなどの物流効率化を図ろうといった取り組みである。
一方、従来の共同配送の取り組みにおいては、例えば、複数のメーカーが共同で、卸売業者の元に荷物を届けるといった形-仮に水平型の共同配送と呼ぶ-が一般的であった。(図10参照)
この共同配送をサロン直送ブランドで展開することで、問題となっている物流費(特に配送費)を低減することができると思われる。もちろんこの水平型の共同配送だけでも効果はあるが、配送部分のみの共同化となるので、共同化の余地がまだ残っている。残りの保管、荷役、流通加工、包装、物流情報処理が共同化できるとすると、さらなる効率化が可能となるのである。(図11参照)
複数メーカーのサロン直送ブランドを一つの倉庫内、さらに言えば同じ保管場所内で、統一の情報システムを使用し、荷役作業や流通加工作業等を行うことで、物流費を低減することが可能となる。さらに、複数ブランドが梱包された物を共同配送することで、さらなる効率化を図ることができる。
6.2.商流および物流情報のサポート
もう一つの問題として、メーカーの過剰供給による卸・代理店の横流し問題がある。この過剰供給を解決するには、リベートを廃止することが一番効果的であると考えるが、これは商慣習によるところが大きいので、これを解決に導くのは非常に難しく、業界として取り組まなければ解決しない。よって、本稿ではもしこの業界でリベートが廃止されたら、どのような仕組みが求められるかということについて論じたい。その前にまずは業務用化粧品業界の情報流・商流に関する情報の整理を行う。
現在、メーカーは卸・代理店に対して、業務用品を供給しているので、卸・代理店にどのくらいの物量を供給しているかは把握できている。また、サロン直送ブランドもあるので、そのブランドにだけ限って言うと、実需要が把握できている。業務用品が実際に消費されるのはサロンであり、美容室であるので、そこから注文される分が実需要ということになる。つまり、メーカーとして把握できる実需要は、サロン直送ブランドのみであり、卸・代理店に対して供給している分の業務用品では商品添付のリベートも含まれているので、実需要を把握できないのである。一部のメーカーおよび一部の卸・代理店の間で、セルアウト*7データをやり取りしているが、卸・代理店がデータを取り纏めており、全てのデータをメーカーに渡しているわけではない。また、基本的には1ヶ月に1回しかデータをやり取りしていないため、このセルアウトデータはリアルタイムのデータとはなっていない。このような情報流・商流の流れについては、インタビュー結果を踏まえて作成した図を参照してもらいたい。(図12参照)
それでは本題に戻すが、もしこの業界でリベートが廃止されたら、どのような仕組みが求められるかということについての結論をまず述べると、メーカーはリアルタイムの実需要、さらに言えばリアルタイムの実消費量がわかるような物流情報をサポートする仕組みが今後必要となるのではないだろうか。
もし、リベートが廃止されると、メーカーは在庫量を見直すに伴い、工場での生産量も見直す必要がある。現在は商品添付のリベート分を含めて生産する為、生産効率を重視しており、実需要に応じた生産体制にはなっていないと推察される。メーカーへのインタビュー結果を見ても、リアルタイムではないセルアウトデータは生産計画において、参考にならないといったような発言が見受けられた。よって、今後はリアルタイムの実需要を把握し、それをもとに生産計画を作れるようにならなければ、過剰に在庫を持ってしまうことになるのではないだろうか。そうなるとまた、卸・代理店に対し、在庫を押し込んでしまい、通販(EC)やバラエティストアのようなところに流通してしまう。必要なモノだけを適宜届けられる仕組みを作らなければならない。つまり、実需要対応のサプライチェーンが必要なのである。
それでは、実需要がわかる仕組みというのはどのような仕組みかについて、説明しよう。上述した通り、この業界で実際に業務用品が消費されるのは、サロンや美容室である。しかし、理美容店C氏へのインタビューの結果を見ての通り、サロンや美容室では店舗の在庫を管理するようなシステムが整備されていないのである。
よって、まずはサロンや美容室に在庫管理ができるシステムを導入する。そして、その在庫情報はメーカーや卸・代理店が確認できるようネット上に計上する。計上方法としては、例えば、美容室が発注した発注データをもとに入荷検品という形で、美容師の方が入荷した業務用品に付いているバーコードをバーコードスキャナーでスキャンすると、自動で店舗の在庫管理システムに計上され、同時に入荷検品も可能となるような仕組みが考えられる。そのシステムと連動するような形で、消費者に売れたもしくは施術で使い切った際に、業務用品に付いているバーコードをスキャナーで読み取ることで、システム上で店舗在庫がその分自動的に引き落とされるような仕組みがあれば、メーカーはリアルタイムの実需要さらにはリアルタイムの実消費量を把握することができる。そうすると、メーカーはそのデータを分析し、生産計画を見直すことで、適正な量の生産が可能となるのではないかと思われる。また、卸・代理店もそのデータにもとづいて、メーカーに発注をかけることができるようになるので、需要予測が容易となり、究極は発注業務を全てAIに任せることも可能となる日が来るかもしれない。(図13参照)
さらに、卸・代理店のB氏に実施したインタビューの中で、サロン直送ブランドを発注するシステムが各メーカーによってバラバラで苦労しているという発言があった。これは商流・情報流において、発注システムのユーザーでもあるサロンや美容室にとっても問題となっている。いまだにFAXを使用していたり、何かとアナログな業務が残っている業界だからこそ、システム化(デジタル化)を川下の方に浸透させるべきである。
そこで、店舗の在庫を管理するシステムに加えて、発注するためのシステムを連動させることで、サロンや美容室での問題となっていたアナログ対応が減少し、美容師の負担低減にも繋がる。そうするとサプライチェーンの全体最適となり、業務用化粧品業界にとって今後必要なシステムになると確信している。
7.考察
7.1.今回得られた示唆と考察
今回インタビューを実施したことにより、業務用化粧品業界が現在抱えている問題を聴取することができた。しかしそれはあくまでも表面的に見えている問題であり、それを解決するには、さらにその奥にある原因を突き止める必要があった。そこで、表面的な問題に対し、なぜなぜ分析を繰り返したことで、その奥にある原因が少し見えてきたのである。今回、確認できた原因はこの業界における商慣習によるものだと思われるので、それを変えるには業界として取り組む必要がある。よって、もし原因が本当にそれであったとしても、簡単に変えられるものではない。しかし、事業環境は刻々と変化しており、今のままの状態でビジネスが続けられるような甘い世界ではなくなってきているのも事実である。そこで、今のうちに事業環境の変化を予測して、事前に準備を行い、環境の変化に対応できるようにしておくことで、他よりも一歩先を行くことができるのではないだろうか。
そこで今回ソリューションとして提示したのが、水平型の物流共同化であり、商流および物流情報のサポートである。メーカーが本気で横流しを問題視するのであれば、実需要に対応できるような物流の仕組みがないと、同業他社に負けてしまうと思われる。恐らくメーカーだけでこのような仕組みを業界全体に構築するのは難しいので、そこで3PL企業が間に入り、フルフィルメントサービスとして、業務用化粧品業界に展開すべきであると思われる。
7.2.今後の課題と展望
昨今の人手不足、ドライバー不足や、いわゆる働き方改革関連法の施行といったような情勢を受けて、改めて最近、物流共同化に注目が集まっている。ただし、従来の物流共同化や、現在取り組みが進んでいる事例は、例えばメーカー同士が協力するといったようないわゆる水平型の物流共同化が多いように見受けられる*8。しかし、サプライチェーン全体の最適化となるような、真に消費者にとって価値のある物流を実現するには、水平型に加えて、サプライヤー、メーカー、卸・代理店、小売店が協力し合うといったような、垂直型も含む物流共同化がこれから求められるのではないだろうか。
8.参考文献
1) 中田信哉・湯浅和夫・橋本雅隆・長峰太郎(2003)「現代物流システム論」有斐閣
2) 諸上茂登・Masaaki Kotabe・大石芳裕・小林一(2007)「戦略的SCMケイパビリティ」同文舘
3) 房文慧(1999)「化粧品工業の比較経営史」日本経済評論社
*3:プッシュ戦略とは、メーカーが自社の製品の販売を有利にする為に卸売業者や小売店等に対して働きかけるという経営戦略である。
*4:帳合とは、業者間取引で実際の荷物のやり取りをしない第三者(帳合先)に間に入ってもらい、取引をすることを指す。
*5:NBBAとは、全国理美容製造者協会の名称である。理美容の業務用化粧品および関連製品製造業の総合的改善と発展を図り、理美容産業の健全な伸展を目的とする協会。
*6:プロダクトライフサイクルとは、ある商品やサービスが市場に投入されてから、支持を得て、だんだんと売れなくなって消えてしまう(撤退)までのプロセスを示したもの。
*7:セルアウト(Sell Out)とは、卸・代理店から美容室に販売した実績のことである。
その実績を卸・代理店により、取り纏めたデータをセルアウトデータという。
*8:過去の事例では、プラネット物流が取り組んだ物流共同化、最近の事例ではF-LINEが取り組んだ水平型の物流共同化が挙げられる。
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