第86号マーチャンダイジング(MD)強化によるCO2の削減-チェーンストアの新たな環境責任の可能性と対策-(2005年10月20日発行)
執筆者 | 森川 竜行 カート・サーモン・アソシエイツ マネージャー |
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目次
1.はじめに
「近い将来、物流で生じるCO2削減の責任が、チェーンストアに課される可能性がある」と聞くとどう思われるだろうか?
京都議定書の数値目標達成に向けて閣議決定された改正省エネ法では、荷主と運送会社が協力して運送面のCO2削減に取り組むべきだとする方針が示された。「荷主」の定義は、「発荷主」としてのサプライヤーのみならず、今後物流サービスに影響を与える「着荷主」としてのチェーンストアにも拡大される可能性がある。また、その場合、対応には応分のコストが生じることは間違いないと思われる。
ここでは、チェーンストアの中心課題であるMDの強化を通して、CO2削減の対応を図る方策について考えてみたい。
2.改正省エネ法がチェーンストアにもたらす環境責任の可能性
温室効果ガス排出量の削減目標を定めた京都議定書は、1990年比で、2008年~2012年に一定数値(日本6%、米7%、EU8%)を削減することを義務づけているが、我が国における近年の排出量実績はこの目標を大きく上回っている。
この為、京都議定書の目標達成に向けた道筋を確実なものとする為、温暖化対策の大きな柱である省エネ法(エネルギーの使用の合理化に関する法律)の改正が検討され、今年8月に可決された(来年4月施行予定)。下記は同改正法で新設された運輸分野に対する措置を中心に抜粋した。
◆法律改正の目的
前略)エネルギー起源の二酸化炭素の排出量は引き続き増加しており、2002年度において1990年度比で約12%増加している。特に運輸部門や業務・家庭部門から民生部門における伸びが著しい。こうした状況を踏まえ、産業・運輸・民生各分野におけるエネルギーの使用の合理化を一層進める為の所要の改正を行う。
◆法律案の概要
前略)運輸分野における省エネルギー対策の導入;一定規模以上の貨物輸送事業者、旅客輸送事業者、荷主に対し省エネルギー計画の策定、エネルギー使用量の報告を義務付けるとともに、省エネルギーの取り組みが著しく不十分な場合に主務大臣が勧告、公表、命令を行なう等、運輸分野における対策を導入する。(後略)
上記の通り、本改正では「荷主事業と物流事業者の連携により物流のCO2排出削減策を効果的に推進しようといった考え方」にたっている。これは、これまで①低公害車の開発普及、②鉄道・海運の利便性向上、③モーダルシフト、④トラック輸送の共同化・大型化等による取り組みを中心に進めてきたものの、CO2削減に十分な実効性があがらなかった経過を踏まえて修正された。
そこで気になるのは、「荷主とは誰を指すのか?」といった点である。一般的な認識はサプライヤーつまり「発荷主」であるが、チェーンストアつまり「着荷主」がサプライチェーン全体に及ぼす影響が増大傾向にあることも、周知の事実である。従って、今後はCO2削減の実効性向上を目的に、「着荷主」の責任が問われる可能性がある。
そこで以下では、チェーンストアが担うMD上の問題が、サプライヤーに対して過度な多頻度小ロット納品を招くケースを想定し、このテーマを掘り下げてみたい。
3.マーチャンダイジング(MD)がロジスティクスに及ぼす影響
商品を売れる分だけ仕入れて在庫することはビジネスの原則とは言うものの、実行には様々な困難が伴う。もしこの理想的な品揃えと在庫の配分、即ち各SKUを売上動向に比例した在庫量に維持できるならば、全てのアイテムの在庫は同様なペースで減っていき、死に筋の問題も顕在化しないことになる。
しかし多くの場合は、まず死に筋商品が陳列スペースを占領し、売れ筋商品の陳列スペースが制限される結果、売れ筋商品だけを小ロットで頻繁に補充する状態に陥りがちである。もちろん売れ筋商品の多頻度発注は一定のレベルで容認されるべきだが、経済的発注量を大きく下まわるロットで発注し続けることは非効率である。
死に筋商品の在庫量がある程増えたとしても、バックヤードにゆとりのある在庫スペースがあれば、売れ筋商品をまとまったロットで発注し、保管することが出来る。しかし、好立地の店舗では、地価の高さもあり、通常バックヤード(在庫スペース)は最小限に抑えられている。
また仮にバックヤードが小さく店頭在庫主体の店舗だとしても、取り扱いアイテム数が絞り込まれていれば、個々の商品におけるライフサイクルの把握が容易となり、衰退期のスムーズな縮小や処分も可能となるが、品揃えの豊富さを訴求する店舗の場合には、この取り組みも困難を極める。
従って、品揃え豊富な商品を店頭在庫中心で展開しているチェーンストアには、常に大変高度なMD能力が求められ、万一この力が損なわれると、死に筋商品に売場が占領され、結果、過度に小ロット多頻度な発注状況に陥るのである。
チェーンストアのMDの高度化は、間接的にサプライチェーンの環境負荷を軽減する。このことは、サプライヤーに要求するリードタイムと関係している。チェーンストアのMDが高度化し、店頭スペースが死に筋商品に占領される状態から解放されれば、サプライヤーの発注ロットはまとまり、サプライヤーに要求する納品リードタイムも長くなる。サプライヤー側は、リードタイムが長くなれば、輸送計画の制約条件が緩くなる為、CO2削減が実現するのである。
もちろん、小売業にとっても過度な多頻度小ロット発注は経営的損失が大きい。売れ筋の欠品が生じ易くなれば、機会損失(機会コスト)が拡大し、売上が減少する。また発注や荷受・品出し工数も増大する為、人件費増大を招く。いずれのコストも、表面化しづらい側面があるが、MD強化(品揃えと陳列量の適正化)により過度な多頻度小ロットを是正することは、このコストの削減に大きな効果がある。
4.MD強化(品揃えと陳列量の適正化)の切口
弊社カート・サーモン・アソシエイツ(KSA)は大手小売業に対して、マーチャンダイザーに求められる役割やスキルを定義し定着させるコンサルティングサービスを提供している。 KSAがサポートを行なってきたクライアントには、売上に影響を及ぼすことなく30%以上の在庫削減を達成した企業が複数あるが、ここではその経験の中から開発した「品揃え最適化手法」の概要を紙面の許す範囲で説明する。
品揃え最適化手法は、まず品揃えの効率を分析し、企業内の品揃え制約条件を明確にする下記分析が第1ステップとなっている。
◆スペース制約分析
様々な店舗タイプにより異なる売場面積や什器の制約を、下記視点から検討する。
① | 各店舗は、売場の演出性と商品管理の合理性を維持する範囲内で、いくつのSKUを持つことができるか? |
② | 店舗は、投入された商品を適切に陳列することが出来るか? |
③ | 店舗のスペース配分やレイアウトは、需要や在庫目標と合致しているか? |
◆需要パターン分析
売れ筋スタイルや不振スタイルが何であるかを明確にすることを目的に、売上や粗利実績を下記視点から分析する。
① | 売上の中核になっているのは、SKUの何%か? |
② | 定番の中核商品の販売実績と比較して、シーズン商品の販売実績はどの程度か? |
③ | 顧客がよい反応を示す商品アイテムは、品揃えの何%か? |
◆在庫量分析
先の分析から導き出されたニーズ及び陳列要件と、実際の供給量との比較を行う。そして需要に対応する為に、最低陳列基準を変更する必要があるかを見極める。
そして第2ステップでは、分析結果をふまえて、SKU数、スペース、シーズン商品の投入量等について定量的な目標を設定する。
次に第3ステップでは、四分位分析や四象限分析(下図参照)等の手法やツールを活用し、消費者ロイヤルティや商品の独自性といった定性的な要因を考慮し、品揃え戦術を確定する。
品揃え戦術が確定できれば、体系だった商品投入と売場展開、補充活動が実施可能となる。そして一連のプロセスが確立されることで、実績データの蓄積、実績と目標の対比も可能となり、継続的な改善が図られる。
以上、サプライチェーンのプレイヤーであるチェーンストアが、「着荷主」といった概念で、応分の環境責任を求められる可能性について説明した。そしてチェーンストアは、これに対応する為に中核機能であるMDを強化すべきであるとの考えとその切口について述べた。
今後益々高まるであろうCO2削減に向けた社会的要請は、個別企業にとっての新たなコストにつながる為、少し行方を気にしてみる必要があるのではないだろうか。
以上
参考:
※「エネルギーの使用の合理化に関する法律の一部を改正する法律案」
経済産業省、国土交通省
※「グリーン物流パートナーシップ会議について」国土交通省政策統括官
※「商慣行の改善と物流交通の効率化」
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