第25号ネット・コミュニケーションによる新しい顧客関係づくり(2003年02月07日発行)
執筆者 | 岡本 充智 株式会社パワー・インタラクティブ 代表取締役 |
---|
目次
- 1.『顧客の囲い込み』は本当に出来るのか?
- 2.それでは、『真の顧客関係づくり』とは何か?
- 3.顧客に信頼と親近感を感じてもらうための切り口とは
- 4.顧客の視点で考えてみるということ
- 5.「お客様」の中から「顧客」を選び出していく
- 6.顧客との良き関係づくりをしていくためのキーワード『顧客を知る』
1.『顧客の囲い込み』は本当に出来るのか?
インターネットを活用して営業プロセスを変革していくことの関心は急速に増大している。それとともに、いかに顧客を囲い込むかと言うことも、多くの営業現場で語られるキーワードである。さて『顧客の囲い込み』は本当に出来るのか。ネット・コンサルティングの実際の現場から感じていること、及び今後どのようにネット上で顧客との関係を作っていくかということを見ていく。
ネットで 『顧客を囲い込む!』私はこの言葉を聞いたときに、何か割り切れないものを感じる。もし、自分が顧客という立場になった時、本当に囲い込まれたいかというと、たぶん囲い込まれたくはないだろうと感じる。もっと言うならば、「顧客は企業との関係作りに対して積極的であるかどうか」という質問を投げ掛けた時に、おそらく積極的ではないだろうと言える。ここに『顧客を囲い込む』というネット・マーケティング課題を難しくしている要因がある。
2.それでは、『真の顧客関係づくり』とは何か?
それでは顧客との関係において、「真の顧客との関係づくりとは何なのか」と言った時に、「顧客の信頼を得ることと、親近感を獲得すること」に戦略の重点を置こう。現実には多くの企業はこのことを頭で分かってはいても、目の前の目標数字をクリアしなければならない状況にある。「いつまでに、これだけのネット受注を上げなければいけない」「これだけの見込客を獲得しなければいけない」というような状況に置かれている。
こう言うケースはどうだろうか。「メールマガジン登録者を1万人集めよう」という目標が出た。でも冷静に考えてみたら、例えば1万人集まったとしても、その1万人は単なるプレゼント目当てのスカスカの1万人だった。片や1千人しか集まらなかった。でも、その1千人は一人一人、その配信先に対して、興味・関心を持っている。どちらの方が企業にとっては好ましいのかと言うことである。どちらの方が親近感のある関係を作る事が出来るかということでもある。
3.顧客に信頼と親近感を感じてもらうための切り口とは
顧客の信頼と親近感を獲得する」というところに、顧客関係づくりの目標を置いてみる。私は今、仕事柄、約50本位のメールマガジンを購読している。きちっと読ませてくれるメルマガというのは「顧客の信頼感・親近感を獲得する」というところに、たしかに目線を置いている。あまり囲い込むところにはハードルを置いていない。メルマガで売上をこれだけ上げなければいけないとか、メルマガの購読者をこれだけ獲得しなければいけないとか、悲壮感漂うような目標というのを置いていない。
今まで企業は、あらゆる手段を使って顧客との関係作りをしてきているが、ネットにおいては企業からの一方的な情報発信という場合がかなり多い。従って、顧客の囲い込みをしようと言ってるが、実際は顧客を囲い込まないようにしてしまっている。顧客に来て欲しければ、情報発信よりも情報受信に重きを置いたネットの展開ということを重視しなければならない。
4.顧客の視点で考えてみるということ
われわれは日常的に店の会員制のクレジットカードを複数持っている。これらの会員カードに共通している事は、最初の1年目は年会費無料で、2年目から有料になるようになっている事である。これは会員を増やすために最初のハードルを下げているわけである。しかし、考えてみれば、新規申込顧客には年会費無料として既存顧客よりも明かに優遇していることになる。羊飼いに例えれば、柵のない囲いにどんどんと羊を入れていることになる。ある時、囲い込まれていると気づいた羊は勝手に囲いから出ていく。もし、気づかない羊がいたら、彼らはまた1年間、柵から出るのを待たなければならない。カードで言えば、2年目の更新の時に解約しなければいけないなと思いながら、気付けば引き落としになっていたという経験である。
私もこのような経験がある。流通系のカードで、年会費の請求書が来たのですぐに電話をして解約が出来た。解約しやすいように表示されていたのである。当然の事ながら、この流通系の会社には親近感を持つ。別の流通系のカードでは、解約したくてもどうやって解約していいかわからない。会員料の請求書に標記されてあった電話番号にかけたら、そこからどこかに電話をたらい回しされて、やっと解約の手続きになった。この流通系の会社の気まずい対応はいまもしっかりと記憶に刷り込まれている。
メルマガでも同様のことが言える。メルマガ会員登録は「入りやすく、出やすく」することを心掛けたい。登録解除は分かり易いところに標記し、解除された方には快く送り出す事である。そのことで、結果的に見込性の高い登録者を保有する事になる。最近、ヘッダーの部分に解除の場合のアドレスが明記されているメルマガを良く見かけるが、この理由からである。
5.「お客様」の中から「顧客」を選び出していく
これからの低成長の時代は、「どういうお客様と一緒に仕事をしていきたいか」「どういうお客様を顧客と見極めていくか」ということが重要になってくる。「お客様」と「顧客」はどこに違いがあるのか。ここで、取引をしている全ての方を「お客様」と呼ぶ。その中で、きちっと収益を上げさせていただいて、いい関係を保てる方々を「顧客」と呼ぶ。顧客満足という点では、こういう方々に対しての満足を与えることを優先すべきであって、全ての「お客様」に対して顧客満足を行うことは、優良顧客に対しての手厚いサービスができなくなる。低成長時代は顧客の要望により、明確なスミワケ状態が発生すると想定される。そのためには、二兎を追うのではなく、優良顧客と決めたターゲットに徹底したサービスを提供するべきである。
また、優良顧客とは、単に利益を大きく与えてくれるお客様だけではなく、自社の事業展開の方向に合うか合わないかで考えたらスッキリする。そのことで、どのようなメール・コミュニケーションを取るべきか、どういうメルマガを配信すべきかが明確になってくる。
6.「お客様」の中から「顧客」を選び出していく
CRMの考え方に「クロスセリング」がある。関連販売とも言うべきものである。「クロスセリング」というのは、何かを販売したときに「これもいっしょにどうですか」と一緒に勧めるやり方である。天丼を食べに行って「赤だしいかかですか?」とすすめられて「じゃ、下さい」と注文する。これがクロスセリング。一言言うだけで客単価アップに繋がる。これをネットで広範囲にやり出したのがアマゾンドットコム。「この本をご注文いただいた方は、他にこのような本も選ばれています」。いわゆるリコメンド=推奨販売である。
ところで、本当に私達がやりたいことは「ネクストセリング」だ。これは、「今日天丼を食べにこられたお客様は、また来週も来られて天丼を食べられるだろうか?果たしてうちは本当に天丼だけでいいのか?同じ天丼でも野菜天丼にすると、もしかしたら食欲のないときはそれに切り替えてくれるかも知れない」ということである。つまり、今これを買った人は次に何を買うのだろうかと推測するのである。
これこそ、「需要予測」である。もし、顧客の購買行動を確実に把握する事が出来れば、「需要予測」もかなり精度アップできる。ここで、重要なキーワードが見えてくる。『顧客を知る』である。インターネットの低い敷居を利用して顧客との親密なコミュニケーションを取ることで、顧客を知ることはとても有効である。
『顧客を囲い込む』ことよりも、まず『顧客を知る』ことから始めたい。顧客を良く知る事で、必ず顧客はわれわれの周りに集まってくる。
もう、羊を集めるのに柵はいらない。いるのは、羊の気持ちを知る仕組みだけだ。
以上
――下記より、昨年のWPC EXPOで配布しました小冊子【あなたはインターネットで顧客を獲得できると思いますか?】~新規顧客獲得のためのインターネット活用10のポイント~のPDF版をダウンロード出来ます。
どうぞ、インターネットの有効活用にお役立て下さい。
http://www.powerweb.ne.jp/power/dl.html
(C)2003 Michitoshi Okamoto & Sakata Warehouse, Inc.