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第504号 業務用化粧品業界におけるサプライチェーン・ロジスティクスの一考察(サカタウエアハウス株式会社)(前編)(2023年3月22日発行)

執筆者  松田 晃輔
(サカタウエアハウス株式会社 企画室 室長代行 兼 営業本部/管理本部 特別担当)

 執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • サカタウエアハウス株式会社に入社。化粧品物流管理業務を担当後、企画室に異動。
    • 明治大学専門職大学院教授を招いてのロジスティクス・SCM分野の研究会(楽々ゼミナール)の立ち上げを担当。
    • 現在は新倉庫の建築に関する社内プロジェクトならびに荷主企業様との新センター開設プロジェクトの事務局長等を兼任。

本論文は、当社企画室 松田が、明治大学 専門職大学院 グローバルビジネス研究科 修士論文として作成したものを、前編と後編の計2回に分けて掲載いたします。

 

目次

1.はじめに

 1.1.研究の動機

  近年、物流業界ではトラックドライバーの人手不足が大きな問題となっている。トラックドライバーが不足する原因としては、運送業が他業種と比べて労働時間が長く、その上激務であり、それに見合った報酬が与えられないなどの要因が挙げられている。この問題はこれまでも指摘されてきたが、個別の企業努力で対応してきた。運送会社は取引先に対して運賃の値上げ依頼に踏み切ることができず、十分な収益を確保することが容易でないために、トラックドライバーの取り巻く業務環境を変えることができたとはかならずしも言えないだろう。
  こうした環境下、近年のアマゾンをはじめとする通販市場の急成長により、小口配送の宅配事業に貨物が集中し、物流のオーバーフローを起こした。いわゆる「宅配クライシス」と称される現象が発生したのである。貨物輸送の需給バランスが崩れたことによる宅配事業の不全といえよう。労働環境の改善が進まないことから、特に若手のドライバー不足が一向に改善していないことも深刻である。そこで各運送会社はいっせいに運賃の値上げに踏み切ったのである。運賃改正を受け入れない取引先に対しては集荷のトラックを出さないといったような強い姿勢で各運送会社は交渉に臨み、荷主企業としては運賃改定を飲まざるを得ない状況にまで至っている。今後も人手不足の影響は続くと想定されることから、物流市場の需給バランスの崩れは当面解消しそうにない。
  このような状況の中、最適な物流を提供するには物流事業者は、どのようなことに取り組み、どういった価値を荷主に提供できるか考え直す時期に入っている。
  特に、商流と物流が一体的に行われるような伝統的なサプライチェーンを色濃く残す業界では、ロジスティクス面での多くの問題を抱えている。例えば、美容室等で使用される業務用の化粧品のサプライチェーンはその典型的な例と言える。そこで、本論文では業務用化粧品の物流を事例として取り上げ、当該流通チャネルおよびサプライチェーンの現状とその問題点について調査し、整理した上でそれらの諸問題が発生した要因を分析する。そこから当該業界のサプライチェーンにとって最適な物流の在り方について考察する。

2.業務用化粧品業界について

 2.1.業務用化粧品とは何か

  業務用化粧品とは、ヘアサロン(以下、サロンという場合もある)もしくは美容室において国家資格である美容師免許を持った美容師が施術で使用したり顧客に販売 (当該業界では店舗販売を略して店販と称する) するヘアトリートメントやシャンプー,リンスなどの頭髪用化粧品のことである。基本的には美容師の技術をもって施術において使用され、そこでサービスとして消費されるという特徴を持っている。一般化粧品よりも高機能で理美容師の専門的技術に適合させるよう多種類の品目を要することが多く、このことは物流面の課題に対する原因となる傾向が指摘される。

2.2.理美容室店舗数の推移

  業務用化粧品業界の事業環境に強い影響を及ぼす我が国の理美容室の店舗数の推移は下記の通りである。(図1参照)

                図1 理美容室店舗数の推移
                  出所:https://www.beautopia.jp/4000(2019年6月28日)

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  図1から、美容室は年々増加傾向にあり、反対に理容室は年々減少傾向にあることがわかる。現在は美容室と理容室を合わせると35万店舗以上あり、コンビニの店舗数約6万店舗をはるかに上回っていることがわかる。(表1参照)
  表1は、平成元年から平成29年までのわが国における美容室および理容室の店舗数の推移表である。美容室が毎年約1%ずつ増加しており、理容室が毎年約1%ずつ減少していることがわかる。

               表1 理美容室店舗数の推移と前年比

                  出所:https://www.beautopia.jp/4000(2019年6月28日)

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2.3.業務用化粧品業界の持つ特徴について

  本稿では業務用化粧品業界が持つ特徴について論じる。大きな特徴としては、2つある。

  まず、メーカーの利益率が製造業の平均値に比べて高いということである。平成28年度の経済産業省の統計によると製造業の平均値の利益率は、製造業の売上高営業利益率は平均で4.8%となっている。また、卸売業の売上高営業利益率の平均は1.7%となっている。(図2参照)

            図2 主要産業の売上高営業利益率と売上高経常利益
              出所:「経済産業省」のホームページから引用(2019年6月28日)
                                https://www.meti.go.jp/

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  理美容品製造業の売上高対営業利益率の平均値は不明であるが、参考までに、業務用化粧品業界の市場でトップシェアを誇る株式会社ミルボンの2018年度の利益率をみると図3の通りである。(図3参照)
  図3の通り、株式会社ミルボンの売上高営業利益率は17.8%となっており、先ほどの製造業における平均売上高営業利益率と比較してみると10ポイント以上の差があることがわかる。

              図3 株式会社ミルボンの2018年度財務成績
            出所:「株式会社ミルボン」のホームページから引用(2019年6月28日)
                         http://www.milbon.co.jp/company/gaiyou

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  ちなみに少し古いデータではあるが、業務用化粧品業界の卸・代理店では最大手である株式会社ガモウの売上高営業利益率を計算してみると、平成20年度で4.7%、平成21年度で3.4%、平成22年度で2.7%という結果であった。(表2参照)

           表2 株式会社ガモウの平成20年度から平成22年度財務成績

             出所:「理美容ニュース」のネット記事から引用(2019年6月28日)
                             http://ribiyo-news.jp/?p=3094

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  こちらも、図2の卸売業の平均よりも売上高営業利益率が高い結果となったが、メーカーほどの大きな差の開きはなかった。この結果を踏まえて、業務用化粧品業界のメーカーは非常に利益率が高いことがわかる。
  そして業務用化粧品業界が持つ特徴として第2に、食品のような賞味期限がないため、基本的には長期での保存が可能ということである。これにより、期限超過による廃棄のリスクもないことから、メーカーとしては在庫を削減することよりも工場での製造にかかる生産効率を重視する傾向にある。そのため、メーカーは必要以上に在庫を抱えているという恐れがある。しかし、多めに商品を作り過ぎたとしても長期保存が可能であるために廃棄のリスクが低いのである。
  第3に、商品添付という無償の商品数割り増し提供の改修がある。これは得意先に対するリベートの一種と考えられる。メーカーとしては金額による値引きを行わず、商品添付によるリベートを提供することにより、取引量を増す行動に出やすい体質がある。なぜなら上述したようにメーカーは、工場での生産効率を重視しているため、大量生産することで、製造にかかる原価を抑えることができる。また、メーカーの粗利益率が高いので、現金によるリベート提供よりも商品提供による利益供与の方がメーカーの実質的費用負担が少なくなるためである。

2.4.業務用化粧品業界の流通チャネルについての整理

  本稿では業務用化粧品業界の流通チャネルについて、情報整理しておきたい。業務用化粧品業界では代理店制度が敷かれており、メーカーと卸・代理店との間では代理店契約が締結されている。代理店契約には様々な条項が記載されているが、その中に卸・代理店はサロンや美容室といった正規ルートにしか業務用化粧品の商品(以下、業務用品という場合もある)を流通させないという条項が含まれているケースがほとんどである。つまり、業務用化粧品業界で一番スタンダードな流通チャネルは次のような図となる。(図4参照)

        図4 業務用化粧品業界のスタンダードな流通形態(筆者作成)
              (注)この図は単にモノ(業務用品)の流れだけを示している。

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  工場で作られた業務用品はメーカーのDC*1 に運ばれ、いったんそこで保管される。そこから注文された量の業務用品をトラック等で卸・代理店のDCに届けられ、またそこで保管される。そしてサロンからの注文を受けて、卸・代理店のDCから必要な量の業務用品が納品され、美容師が施術で使用したり、店舗で販売される(店販)という流れになるのである。
  それでは、この基本となる流通チャネルを踏まえて、現在の流通チャネルがどのような形態になっているか図を使って確認しよう。(図5参照)

            図5 現在の業務用化粧品業界の流通形態(筆者作成)
              (注)この図は単にモノ(業務用品)の流れだけを示している。

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  図4に示した従前のチャネルと大きく変わった点は、通販(EC*2)とバラエティストアが登場したことである。近年、スマートフォンが登場したことで、消費者の購買行動が変わり、通販(EC)ビジネスが非常に注目されるようになった。その流れが業務用化粧品業界にも大きな影響を及ぼし、流通チャネルが変わってきたのである。また、ドラッグストアやドンキホーテのようなバラエティストアの力が強くなり、バイイングパワーを持つようになった。そうしたことから、代理店契約で指定されていない場所で、業務用品が売られるという現象がここ数年で非常に活発になってきたのである。こうした正規ルート以外に業務用品を流通させてしまう行為を「横流し」と業界では呼ばれており、メーカーは卸・代理店等による横流しを防ぐ為に様々な方策で流通制御を講じているのが現状である。
  それでは、なぜメーカーは横流しを防ごうとしているのか。通販(EC)やバラエティストアに業務用品が流通してしまうと価格競争に巻き込まれてしまい、いずれは間違いなく価格崩壊を招いてしまい、その結果、メーカーのブランド価値が低下するからである。また、通販(EC)やバラエティストアに業務用品が流通してしまうと、一般の消費者でも簡単に入手可能となり、サロンや美容室で店販売上が減少し、店販ビジネスを潰してしまう恐れがある。そうした事態を回避するためにメーカーはできるだけクローズドな流通チャネルで、流通をコントロールしようとしているのである。
  実際の業務用化粧品の「横流し」の経路を示したの図5の、赤線の矢印の経路によって、通販(EC)やバラエティストアに業務用品が流通してしまっていると思われる。こういった不正流通は卸・代理店から流れてしまっていることが多い。さらに、一部のサロンや美容室では、通販(EC)に出品してしまうケースもあり、なぜこれらのように横流しが多発してしまうかについては後述する。
  また、メーカーは図5の青色の矢印のように、卸・代理店のDCを経由せずに直接サロンや美容室に業務用品を届ける為のブランドである「サロン直送ブランド」を立ち上げ、新たな流通形態を作っている。サロン直送ブランドを立ち上げる理由はいくつかあるが、上述した不正流通対策も理由の一つである。サロン直送ブランドの詳細についてもこのあと後述する。

3.サプライチェーン・マネジメントについて

 3.1.ロジスティクスの概要

  ここではロジスティクスの概要について整理する。橋本(2003)は、ロジスティクスの概念について、ロジスティクスは本来、マネジメントの概念であり、マクロの経済的活動や個別の経営職能の領域における活動として位置付けられる物流とは次元の異なる概念である。ただし、この物流活動にマネジメントとしてのロジスティクスを適用した場合、その範囲をどこに位置付けるのかが問題となるとしている。そして、「物流は輸送、保管、荷役、包装、流通加工、物流情報処理などの活動を統合したものと一般には考えられている。そして、それは当初、完成した商品の販売活動の範囲を対象としていた。しかし、物流においても調達活動を含むという考え方も存在していた。(図6参照)

                 図6 ロジスティクスの範囲
            出所:橋本雅隆(2003)「現代物流システム論」有斐閣をもとに筆者作成

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  こうした物流をいかに管理するかが『物流管理』である。この物流管理は、個別の活動管理の色彩の強いものであった。しかし、ロジスティクスの導入によってひとつの変化が生まれている。その特徴は、構造化された仕組みの設計・構築とその運用ということである。ロジスティクスの重要な点は、単に物流の管理領域が拡大されたというものではないということである。モノの流れに沿って業務プロセスが統合され、企業活動の全体最適をめざす体系が構築される。それは職能別の分業型組織構造を横断するものである。そしてそのことが、サプライチェーンの概念につながっていく。つまり、ロジスティクスはサプライチェーンの基盤となるという考え方である」と述べている。
  つまり、物流という活動(輸送、保管、荷役、包装、流通加工、物流情報処理)は、経営機能として企業が持っている機能の一部であり、そこには調達物流および販売物流という2つの側面がある。そこに生産を含め、それらの活動を効率的に遂行するための仕組みもしくは、そのマネジメントの概念をロジスティクスという。

3.2.サプライチェーン・マネジメントの概要

  そもそもサプライチェーン・マネジメントとは何かということから整理していきたい。諸上(2007)はサプライチェーン・マネジメントの定義について、次のように述べている。

  「最近のCSMP(Council of Logistics Management より改名)の定義によると、『ロジスティクス・マネジメントは、顧客の要求に応える為に発地点から消費地点までの財、サービスおよび関連情報の効率的、効果的な川下へのまたは川上へのフローを計画、遂行、統制するSCMの一部である』。また、『SCMはソーシング、調達、コンバージョン、その他すべてのロジスティクス・マネジメント活動に含まれるすべての活動の計画と管理を含む。重要なことは、それがサプライヤー、中間業者、サードパーティ・サービス・プロバイダー、顧客などのチャネル・パートナーたちとの調整とコラボレーションを含むことである。本質的に、SCMは企業内、企業間で供給管理と需要管理を統合するものである』(CSCMPのホームページ2006.8より)。すなわち、ロジスティクス・マネジメントはSCMの一部であると捉えられる。そして、SCMは、ロジスティクス・マネジメントよりはるかに広い概念であり、企業内、同一企業グループ内での活動の最適化(部分最適化)を超えて、サプライチェーンへの参加者である様々なチャネル・メンバーとの調整とコラボレーションを含んでいる。一般的に、その目的はサプライチェーンの全体最適を追求することで、トータル・コストを削減し、顧客満足を高め、競争優位を構築・維持しようとすることにあると考えられている。」
  一方、湯浅(2003)は、サプライチェーン・マネジメントの定義について、次のように述べている。
  「サプライチェーン・マネジメントとは、市場における販売動向に供給活動を適合させることにより在庫の適正化をはかり、ローコストの供給体制を実現することを目的に行われるサプライチェーンを対象としたマネジメントである」
  さらに湯浅(2003)は、サプライチェーン・マネジメントとロジスティクスの関係について、次のように述べている。
  「企業ごとの管理は、サプライチェーンという視点では『個別管理』の域を出ない。各企業によっていくら最適な業務運営が確保されたとしても、それは個別最適であり、サプライチェーン全体でみると多くの無駄が存在することは避けられない。個々の企業ごとの合理化は、結果として他企業に非合理な状況を転嫁するだけにすぎない構造にあるからである。これらの無駄を排除し、サプライチェーン全体での最適化を求める考え方がSCMなのである」
  「ロジスティクスは、企業の供給活動を市場の販売動向に適合させる為のマネジメントである。つまり、販売動向としての出荷に関する情報を把握し、それをベースに供給活動を行うことを目的としたマネジメントである。
(中略)
  そこで、ロジスティクスは、自社の物流センターから顧客への出荷情報をベースに自社の供給活動を市場に同期化させる為のマネジメントとして位置づけられたのである。ロジスティクスは、個別企業レベルのマネジメントとしてスタートしたといってよい。これに対し、前述したように、SCMはサプライチェーン、つまり企業連鎖を対象にしたマネジメントである。そして、そのねらいは、市場の販売動向にサプライチェーンの供給活動を同期化させることにある。つまり、ロジスティクスの展開である。その意味で、SCMは、サプライチェーンを対象にロジスティクスを展開するマネジメントということができる」
  つまり、サプライチェーン・マネジメントにおいて、重要なことは2つある。それは、サプライチェーン全体を俯瞰的に観察し、物と情報の流れを最適化することが重要であるが、それは部分最適ではなく、全体最適でなければならない。そしてもう一つは、最終的に消費者にとって、価値がなければならないということである。しかし、それは消費者だけに価値があるものではなく、あくまでもサプライチェーン全体として最適であるべきなのである。
※後編(次号)へつづく



*1:DCとはDistribution Centerの略称であり、商品をいったん保管し、物流センター内での荷捌き・流通加工を行った上で出荷指示に基づき各届け先まで配送する「在庫型物流センター」のことである。
*2:ECとは、Electronic Commerceの略称であり、電子商取引のことである。「ネットショップ」や「ネット通販」とも言われる。


(C)2023 Kousuke Matuda & Sakata Warehouse, Inc.

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