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マーケティング

第264号サプライチェーンにおける小売業者-サプライヤー関係(前編) -カテゴリー・マネジメント(CM)研究からの示唆-(2013年3月26日発行)

執筆者 小宮 一高
香川大学 経済学部 経営システム学科 准教授

 執筆者略歴 ▼
  • 学歴 神戸商科大学商経学部(1992.04-1996.03)
    神戸大学経営学研究科(-2008.09)
    職歴 香川大学経済学部講師(2001.04-2002.04)
    香川大学経済学部助教授(2002.05-2007.03)
    香川大学経済学部准教授(2007.04-)
    学位 博士(商学)
    研究テーマ 都市商業地の空間的動態に関する研究
    アパレル産業の事業システムに関する研究
    小売りサプライチェーンの研究
    主な論文 商店街を舞台とした地域活性化教育の類型について, 香川大学経済研究所ワーキングペーパー, 2012.02
    Strategies within Japanese Apparel Manufacturers, paper presented at the International Textiles and Costume Conference, Bandung, Indonesia, 2011.10
    産地企業のマーケティング活動に関する試論, 香川大学経済論叢, 2011.06
    商店街を舞台としたフィールドワーク型教育について, 香川大学経済研究所ワーキングペーパー, 2011.03
    転校生はアーティスト -観音寺アーティスト・イン・スクール2010 活動の記録-, 香川大学経済研究所ワーキングペーパー, 2011.03
    Japanese Apparel Industry: A Recent Survey of Wholesalers and Manufacturers, The International Journal of Costume Culture, 2010.11
    商業集積の組織特性の再検討 -商業集積マーケティング論の構築に向けて-, 流通研究, 2010.03
    商業集積の階層性と観光, 地域観光の文化と戦略 第11章, 2010.03
    奮闘する「まちづくり」の現場 -ドピカーン観音寺:5年目の成果と課題-, 香川大学経済研究所ワーキングペーパー, 2010.03
    都市型商業集積の形成と街並み, シリーズ流通体系4 地域商業の競争構造 第7章, 2009.07
    所属学会 日本商業学会, 日本商品学会, 組織学会

 
*今回は2回に分けて掲載いたします。

目次

1.はじめに:サプライチェーンにおける小売業者-サプライヤー関係

  近年は,インターネット販売を中心とした無店舗型販売の普及が著しく,消費者の購買スタイルにも急速な変化が見られる。しかし,依然として消費者の購買の多くが店舗を経由していることも事実であり,多くの消費財は小売業者の店頭が最終消費者との接点となっている。そのため,サプライチェーンにおける小売業者と,そのサプライヤーとなる製造業者・卸売業者との関係は,実務的にも,学問的にも高い注目を集めてきた。
  小売業者とサプライヤーとの関係に基づく取り組みに対しては,ECR(Efficient Consumer Response)やQR(Quick Response)といった早期の取り組みから,CPFR(Collaborative Planning Forecasting and Replenishment)といった近年の取り組みに至るまで,いくつかの概念が欧米を経由して紹介されてきた。その中で,学問的な立場から比較的多くの研究がおこなわれてきた分野の1つが,食品や日用品といった日用消費財の分野におけるカテゴリー・マネジメント(以下,CM)である 。
  後に詳しく紹介するが,CMは小売業者とそのサプライヤーである製造業者と卸売業者が,小売業者と協働しながら店舗でのマーチャンダイジングを計画・実践する取り組みである。その際,関連・代替する商品の集まりである「カテゴリー」を戦略的事業単位とすることから,その名前がついている。
  本稿では2回に渡り,CMに関する近年までの研究業績を紹介し,それら通して今後の小売業者-サプライヤー関係について示唆を得ること目的としている。以下では,まずCMの概念について簡単に紹介し,その後CMに関する主要な研究の結果を見ていくことにしよう。

2.CMについて

  最初に,CMがどのような取り組みであるのかについて,簡単に確認しておこう。CMの取り組みを主導してきた組織・ECRによるCMの概説書「The Essential Guide to Day-to-Day Category Management」(ECR 2000)は,カテゴリーとCMを表1のように定義している。


  カテゴリーとは,端的に言えば,消費者が1つのグループとして認識する商品群である。カテゴリーにどのような商品を含めるか,どのような括りとするか,という点については,小売業者によって異なる可能性があり,またそれが戦略的に重要なケースも存在するのであるが,典型的には「スナック」「アイスクリーム」「ヘア・ケア」といった商品グループが,カテゴリーと認識されることになるだろう。CMでは,このカテゴリーの1つ1つを戦略的事業単位とし,小売業者とサプライヤーが協働してそのマネジメントすることになる。具体的には,カテゴリーの品揃え,価格付け,棚割,プロモーション,またそれらの商品のロジスティクスなどが協働の対象となる。
  日用消費財を提供する食品スーパー等の小売業者は,多数のサプライヤーと取引するため,カテゴリーではなく「商品」を単位としてマーチャンダイジングをおこなうと,カテゴリー単位で商品を認識する傾向のある消費者にとっては,買いにくい売り場になる懸念がある。このため小売業者とサプライヤーは,カテゴリーを単位として情報や知識を出し合い,最適な売り場をつくるように協働するのである。
  ECR(2000)によれば,理想的なCMは表2のような4つのフレーズから構成される。最初に,CMの前提となる小売業者の戦略が確定され,その後各カテゴリーでパートナーとなるサプライヤー(カテゴリー・アドバイザー;CA)が決定される。そして,そのサプライヤーと共にカテゴリー・プランの作成に入る。その後,プランに基づいた実践と評価がおこなわれ,フィードバックを得た上で,次のプランの策定に入る。CMではこのような連続的なプロセスが想定されている。

3.CMにおける機会主義行動と成果に関する研究

  この典型的なCMにおいて1つの論点となってきたのが,サプライヤーの機会主義的行動である。この問題の起点は,CMにおいては小売業者が1つのカテゴリーに対して1社のサプライヤーを「カテゴリー・アドバイザー(以下,CA)」として選択することを想定している点にある。CAは「カテゴリー・キャプテン」とも呼ばれ,小売業者からPOSデータ等の販売情報を独占的に得て,小売業者と共にカテゴリー・プランの策定をおこなう存在である。当然,プランの決定に大きな影響を及ぼすことになる。
  そして1つのカテゴリーに対するCAが1社である,ということは,CAと競合するサプライヤーの商品であっても,CAの影響力の元で作成されたカテゴリー・プランに基づいてマネジメントされることを意味している。
  この点から,CMの実施においては,小売業者とCA以外のサプライヤーが,CAの「機会主義的行動」に対する懸念をもつ可能性がある。つまり,①小売業者にとっては,CAが当該カテゴリー全体とって最適ではなく,CAにとって最適なカテゴリー・プランを提案するのではないか,という不安が存在し,②CA以外のサプライヤーにとっては,CAの商品が有利,自社の商品が不利な扱いとなるプランが策定されるのではないか,という不安が存在することになるのである。
  このようCAの機会主義的行動の論点が存在するため,CMに関わる研究では,①CMが小売業者やサプライヤーの成果(売上や利益など)に与える影響と,②サプライヤーの機会主義的行動が成果に与える影響,という大きく2つの論点が存在することになった。
  最初に,サプライヤーの機会主義的行動に焦点を当てたモーガン他(Morgan et al.2007)の研究結果を見てみよう。この研究では,イギリスのスーパー・マーケットを対象としたアンケート調査を実施している。イギリスは大手食品スーパーの寡占度が高く,食品小売業の売上の95%をトップ11社が占めており,その11社をアンケートの対象としている。各スーパー・マーケットに対しては,35のカテゴリーをあらかじめ設定した上で,カテゴリーの責任者にアンケートを配布し,最終的に73票を回収し,分析している。
  この研究によると,主要なサプライヤーの機会主義的行動は,それほど強くないが存在している,とされる。小売業者のカテゴリー担当者は,例えば「主要なサプライヤーは,自分たちをいくつかの機会でだまそうとしている」といった質問に対して,「強く同意する:7」から「全く同意しない:1」までのスコアで回答するように指示されているが,その平均は2.98であった 。小売業者がサプライヤーの強い機会主義的行動を認識している訳ではないが,全くないとはいえない,と解釈できるスコアである。
  またこの研究では,サプライヤーの機会主義が強いほど小売業者のカテゴリー成果が低くなる,という結果が統計的に示されている。つまり,サプライヤーが機会主義的行動が,当該カテゴリーのパフォーマンスを下げる可能性が高いことが示されているのである。
  またグーナー他(Gooner,et al. 2011)の研究は,モーガン他の研究を発展させたものであり,CMのカテゴリー成果への影響についてより深い検討がなされている。この研究では,アメリカのスーパー・マーケットを対象としたアンケート調査が実施されている。ここでは同じく35のカテゴリーを設定し,各カテゴリーの責任者にアンケートを配布し,最終的に256票を回収している。
  この研究では,CMについて表3のような質問をおこない,その回答を合成することで「CMの強さ(CM Intensity)」という指標をつくっている。そして,このCMの強さと小売業者のカテゴリーの成果が正の関係をもつことを統計的に示している。つまり表3に示したような一連の活動に多くの時間と努力を投入しているカテゴリーほど,成果が高いことが示されている。


  サプライヤーの機会主義的行動に関しては次のような結果であった。カテゴリーで最も影響力のある主要なサプライヤー(CAによるCMにおいては,CAが該当する)の機会主義的行動は,強くないが存在する(7ポイントスケールで,平均が2.5)。そして,主要なサプライヤーの機会主義的行動は,他のサプライヤーのプログラムへの敵対意識(CMに対して敵意を持っている程度)を高め,さらに,カテゴリーの成果を低める。以上のような結果である。先の研究と同様,サプライヤーの機会主義的行動は,カテゴリー成果を低くする,という結果になっている。
  また,この研究ではCAにより注目しており,CAが明確なCMが,カテゴリー成果にどのような影響を与えるかについても分析している 。対象となったスーパー・マーケットは,すべてCAを決めた形のCMをおこなっている訳ではなく,CAを定めているものとそうでないものが存在する。その両グループを比較すると,CAを明確に定めてCMを実施しているカテゴリーの方が,成果が高いことが統計的に示されているのである。
  この結果は,CAを明確にしたCMはカテゴリー成果を高める可能性が高いことを示している。また,CAを明確にしたCMの方が成果が高くなっているということは,CAの機会主義的行動の影響も大きくないことを意味している。つまり,この結果からはCAによる機会主義的行動は存在するものの,CMにおいて大きな問題となっていないと考えられるのである。

4.小括

  以上のように,CMに関する既存研究からは,CAを定めたCMは小売業者のカテゴリー成果を高める傾向がある。さらに,CAによる機会主義的行動も,存在はするものの,成果に対して大きな影響は与えていない,といった点が示されている。
  しかし,このような結果の解釈には注意しなければならない点がある。それはこれらの結果が小売業者側のアンケート調査に基づいた分析である,という点である。CMは小売業者とサプライヤーによる共同の取り組みであるが,小売業者側がすべてを正確に認識しているとは限らない。例えば,サプライヤーの機会主義的行動に関して言えば,小売業者がサプライヤーの機会主義的な行動をすべて認識できるかどうかについては疑う余地がある。またCA以外のサプライヤーの評価(上記では敵対意識として測定されていた)についても同様である。
  またCMが有効である,という認識が一般的に存在するとしても,その実践に際してはいくつも問題が発生する。現場においては,実践上の問題の克服がより重要な課題となっているだろう。CMを実践する際に直面する困難さついては,どのような対処が必要なのだろうか。次回は,これらの問題の検討に参考となる研究成果を踏まえながら,CMについてさらに検討することにしたい。

以上

<参考文献>

  • ECR (2000), “The Essential Guide to Day-to-Day Category Management”, ECR Europe http://ecr-all.org.
  • Gooner, R. A., Morgan, N. A. and Perreault, W. D. (2011), “Is Retail Category Management Worth the Effort (and Does a Category Captain Help or Hinder)?”, Journal of Marketing, Vol.75, No.5, pp.18-33.
  • Morgan, N. A., Kaleka, A. and Gooner, R. A. (2007), “Focal Supplier Opportunism in Supermarket Retailer Category Management”, Journal of Operations Management, Vol.25, No.2, pp.512-527.

※後編(次号)へつづく



(C)2013 Kazutaka Komiya & Sakata Warehouse, Inc.

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