第293号 通販物流-ビジネス成功への必要条件-(後篇)(2014年6月5日発行)
執筆者 | 浜崎 章洋 (大阪産業大学 経営学部商学科 特任教授) |
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目次
【配送だけではない通販物流】
通販企業の経営者や担当者と「物流」の話をしていると、なぜか「配送」や「宅配便」のことに限定することが多い。通販企業の93.6%は配送に宅配便を利用している。そして、通販における物流コストは輸送費54.05%、保管費14.57%、荷役費21.12%、包装費2.42%、物流管理費7.84%という構成比となっている。物流コストの半分以上は配送・宅配のコストであり、配送業務のほとんどは宅配会社に委託している。通販会社にとって、物流センターを一歩でも出たら宅配会社の責任となり、「あとは知らんわ」ということになるのであろうか。
しかしながら、消費者や購買者の立場からすると、無事に受け取るまでが通販会社との商取引である。いつ届くかわからない、開けたら中身が壊れていた、注文したものと異なる商品が入っていた、数量やサイズが違うなど納品が完了しないことには、商取引は成立しない。「出荷したらおしまい」ではなく、無事にお届けするまでは商取引が完了していないことを理解いただきたい。
納品や配達は、陸上競技のリレーに例えるとアンカーであり、「配送」が大事なことは間違いない。しかし、商品間違いや数量間違いがないよう正確に商品をピッキングする荷役、配送時に商品がダメージを受けないような包装(あるいは梱包材の廃棄物が少なくなるような簡便な包装)、商品が劣化しないような保管といった配送以外の物流業務も大切である。
【フルフィルメント】
通販企業では、フルフィルメント(Fulfillment)という言葉が良く使われる。通販業界においては、「商品の受注、配送、代金回収、アフターサービス(クレーム処理を含む)という一連業務全体」をいう。つまり、物流業務に加え、受注や代金回収、カタログやサンプル発送、返品、返品に伴う返金なども含まれる。
一階を物流センター、二階部分を受注センターというように、物流センターと受注センターを一体化させたものをフルフィルメントセンターと呼んだりする。
さて、フルフィルメントセンターには、在庫を保管して、そこから受注に応じて出荷する在庫型(Distribution Center型, DC型)と、受注後に商品等を仕入れ入荷したものを出荷する通過型(Transfer Center型、TC型)がある。また、在庫型と通過型を併用している場合もある。つまり、在庫品は在庫から、在庫品以外は受注後に仕入れて発送している。
そして、通販の物流には、もうひとつ、ドロップシップメントと呼ばれる形態もある。ドロップシップメントとは、通販会社は在庫を持たず、また通過型の物流センターを持たず、商品はメーカーや卸などのサプライヤーの物流センターから直接顧客へ発送されるというものである。
通販の物流形態を整理すると、
1 在庫型
1´在庫型+通過型の併用
2 通過型
3 ドロップシップメント型
※通販会社は商流のみで発送等はメーカーや卸などのサプライヤーが行う
に分類できる。
在庫型は受注後、在庫品から出荷できるので納品リードタイムが短くなる、分納が少なくなるので配送コストを削減できるというメリットがあるが、過剰在庫のリスク、物流センターの保管料の発生などのデメリットがある。
TC型は在庫リスクがない代わりに、受注後に商品等を仕入れるため、納品リードタイムが長くなる傾向がある。また、複数アイテムを受注した場合、商品の入荷日が異なると、一緒に梱包して出荷できず分納となる場合がある。分納は、顧客側からすると、一回の発注が複数回に分けて送られてくるため不便であり、また企業側では配送料金が高くなる。
通過型にするならドロップシップメント型のほうが良いと思われるかもしれないが、いくつかの理由で、ドロップシップメント型に出来ないことがある。
例えば、自動車やバイクの部品の通販ビジネスの場合、メーカーは個人やバイク店など小規模の顧客とは直接取引口座を開けない。債権管理の手間などを考えると小規模の取引金額の顧客管理を敬遠するためだ。また、通販会社の立場として、サプライヤーに顧客情報(通販の利用者)を知られたくないということもあげられる。
物流やフルフィルメントは、商品開発・調達・営業・マーケティングなどと同様に通販企業の重要な業務である。
【物流、フルフィルメントのアウトソーシング】
さて、多くの通販企業にとって、配送業務は宅配会社や物流会社に委託している。倉庫内における入荷、出荷・梱包などの業務を物流会社等にアウトソーシングしている企業も増えてきている。また、近年では、受注や在庫管理などを含めたフルフィルメント業務全般をアウトソーシングしている通販企業もある。フルフィルメント業務を受託しているのは、物流会社だけでなく、コールセンター運営会社や情報システム会社、あるいは大手通販企業の物流子会社といった例もある。
通販企業にとって、物流やフルフィルメントは外部に委託するのは
①ヒト・モノ・カネなど経営資源を商品企画やプロモーションに集中したいという経営戦略的視点
②物流は物流のプロに任せたほうがコストが安く、サービスレベルが高くなるといった経
営管理視点
の判断によるものと思われる。
一方で、アマゾンやアスクルのように、外部委託していた物流やフルフィルメントを自社化する動きもある。
筆者の知るところでは、一般的には外部委託したほうが効率が良いが、「物流」を通販のコア・コンピタンスという場合は自社化もメリットが大きいと思われる。どちらにしても、顧客との接点であり、顧客満足度を高めるとともに、コストを削減し利益拡大に貢献する「通販物流」から目が離せないことは確かである。
海事プレス社より上梓した『通販物流-ビジネス成功への必要条件-』では、通販企業における物流の重要性、物流企業にとって通販物流のビジネスとしての魅力について解説している。また、アメリカ、中国、ヨーロッパの通販の事例、日本の物流会社が通販物流に参入した事例なども紹介している。ご一読いただければ幸いである。
以上
【参考文献】
- 浜崎章洋他(2014年1月)『通販物流-ビジネス成功への必要条件-』(海事プレス社)
- 日本通信販売協会(2011年4月)『通信販売ファクトブック2011』
- 日本通信販売協会(2012年12月)『第30回通信販売企業実態調査報告書』
- 日本ロジスティクスシステム協会(2013年6月)『2012年度物流コスト調査報告書』
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