admin_sakata

第466号 コロナ禍を機に在庫管理のあれこれを考える。(2021年8月17日発行)

執筆者  髙野 潔 (有限会社KRS物流システム研究所 取締役社長)  執筆者略歴 ▼ 職歴・履歴 日産自動車株式会社(33年間) (出向)株式会社バンテック(7年間) (起業)有限会社KRS物流システム研究所(平成11年~) 組織・履歴 神奈川流通サービス協同組合・物流システム研究所所長(5年間) 株式会社湘南エスディ-・物流顧問(5年間) 株式会社カサイ経営・客員研究員(7年間) 物流学会・正会員(8年間) 物流学会・ロジ懇話会事務局(5年間) 日本情報システムユーザー協会・個人正会員(JUAS-ISC)(9年間) 日本情報システムコンサルタント協会(JISCA:東商会員) 正会員・理事(平成25年~) 委嘱(受託)・履歴 通産省(現・経済産業省) 荷姿分科会委員・委嘱(1年間) 運輸省(現・国土交通省)輸送分科会委員・委嘱(1年間) 中小企業基盤整備機構  物流効率化アドバイザー・委嘱(8年間) 中小企業ベンチャー総合支援センター 新事業開拓支援専門員・委嘱(6年間) 中小企業基盤整備機構  企業連携支援アドバイザー・委嘱(6年間) 中小企業大学校(関西校) 非常勤講師・委嘱(4年間) 海外技術者研修協会 [AOTS]関西研修センター 非常勤講師・委嘱(2年間) 座間市観光協会・事務局長(2年間) 座間市・都市計画審議会委員(2年間) 著書・講師・履歴 日本のロジスティクス (共著:日本ロジスティクスシステム協会) 物流共同化実践マニアル (共著:日本ロジスティクスシステム協会・日本能率協会) 図解 なるほど!これでわかった よくわかるこれからの物流 (共著:同文館) 雑誌掲載:配送効率化・共同物流で大手に対抗(日経情報ストラテジー) 雑誌掲載:情報化相談室回答担当者(日経情報ストラテジー) 雑誌掲載:卸の物流協業化・KRS共同物流センター事業 (流通ネットワーキング) 雑誌掲載:現場が求めるリテールサポート・ドラックストア-編 (流通ネットワーキング) その他  :執筆実績多数 講師(セミナー、人材育成、物流教育・etc):実績多数   目次 1.はじめに…。 2.コロナ禍を機にやるべきこと 3.コロナ禍に於ける在庫管理の重要性 4.コロナ禍の在庫の在り方を考える […]

第465号  今、突然注目を浴び始めたコールドチェーン :コロナワクチン接種に見る低温ロジスティクス(2021年8月5日発行)

執筆者  野口 英雄 (ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表)  執筆者略歴 ▼ Corporate Profile 主な経歴 1943年 生まれ 1962年 味の素株式会社・中央研究所入社 1975年 同・本社物流部 1985年 物流子会社出向(大阪) 1989年 同・株式会社サンミックス出向(現味の素物流(株)、コールドライナー事業部長、取締役) 1996年 味の素株式会社退職、昭和冷蔵株式会社入社(冷蔵事業部長、取締役) 1999年 株式会社カサイ経営入門、翌年 (有)エルエスオフィス設立 現在群馬県立農林大学校非常勤講師、横浜市中小企業アドバイザー、 (社)日本ロジスティクスシステム協会講師等を歴任 2010年 ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表 活動領域 食品ロジスティクスに軸足を置き、中でも低温物流の体系化に力を注いでいる :鮮度・品質・衛生管理が基本、低温物流の著作3冊出版、その他共著5冊 特にトラック・倉庫業を中心とする物流業界の地位向上に微力をささげたい 私のモットー 物流は単位機能として重要だが、今はロジスティクスという市場・消費者視点、トータルシステムアプローチが求められている ロジスティクスはマーケティングの体系要素であり、コスト・効率中心の物流とは攻め口が違う 従って3PLの出発点はあくまでマーケットインで、既存物流業の延長ではない 学ぶこと、日々の改善が基本であり、やれば必ず先が見えてくる 保有資格 運行管理者 第一種衛生管理者 物流技術管理士   目次 1.コロナ禍の切り札・ワクチン接種:-80℃という超低温域での流通 2.コールドチェーンという発言が相次ぐ:一昔前に叫ばれた低温流通インフラ 3.低温物流インフラとしての課題:温度を維持するという物理的諸問題 4.低温ロジスティクスは未完の大器:サプライチェーンとしての課題 5.究極のフレッシュ・ロジスティクス:生鮮サプライチェーンへの挑戦 1.コロナ禍の切り札・ワクチン接種:-80℃という超低温域での流通   感染抑制が見通せない中で、ワクチン接種が切り札として各地で展開されている。ただ殆どの製品が-80℃で保管しなければならないという極めて厳しい条件があり、早くもそれが維持できず廃棄したという事例も散見される。その温度帯は、食品で言えば冷凍マグロの様な超低温域を更に下回る。また医薬品では生化学的な制癌剤等に適用される温度帯であり、種々の注意が必要になる難しい扱いとなる。流通末端においてこの温度領域では、ドライアイスと断熱容器を使うことになる。 (図表―1:温度帯区分) *画像をClickすると拡大画像が見られます。   まず超低温域という温度環境を実現する、物流インフラとしての冷凍倉庫や低温トラックは、分厚い断熱材で密閉する必要があり、該当商品では冷媒としてのドライアイスを併用するのが普通である。鮮魚類では冷凍帯もあるが、冷蔵帯とする場合は氷を使うこともある。冷却システムにおける冷媒も脱フロン化の流れで、代替フロンから更に自然冷媒への切替えが進んでおり、冷却効率は低下する。冷凍トラックでこの温度帯を実現できるのは、液体窒素方式であるが、それは余り一般的ではない。   更にこれらの温度管理要素間を繋ぐ、ハンドリングの温度環境も問題になる。倉庫や輸送の単体毎における温度維持が出来ても、物流の結節点においては常温環境を通過するということに成りがちである。その為にドックシェルターと呼ばれる倉庫とトラック荷台を密着させる設備が必要になり、また如何に短時間でハンドリングするかも重要な管理事項となる。倉庫内でも作業エリアと保管エリアでは、自ずと温度帯が違ってくる。現実にはドックシェルターの設置がされていない低温倉庫も、未だある。 […]

第464号 物流業における「同一労働同一賃金」の実務的対応(後編)(2021年7月20日発行)

執筆者  長谷川 雅行 (株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)  執筆者略歴 ▼ 経歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任 2009年 同社顧問 保有資格 中小企業診断士 物流管理士 運行管理者 第1種衛生管理者 活動領域 日本物流学会理事 (社)中小企業診断協会会員 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師 著書(いずれも共著) 『物流コスト削減の実務』(中央経済社) 『グローバル化と日本経済』(勁草書房) 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫) 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか   目次 4.正社員の労働条件引下げによる「同一労働同一賃金」 5.同一労働同一賃金に向けての早急な取り組みを 6.おわりに *前号(2021年7月8日発行 第463号)より 4.正社員の労働条件引下げによる「同一労働同一賃金」 (1)格差の逆縮小と不利益変更   「2020年最高裁判決」によって、日本郵便には是正措置が求められている。郵便物減少という事業環境の悪化に直目する日本郵便には、正社員19万3千人とほぼ同数短期・有期雇用労働者18万5千人がおり、今回「不合理」と判断された諸手当等の支給だけでも経営に与える影響は大きい。   新聞報道等によれば、既に裁判が進行中であった2020年4月時点で扶養手当が見直される一方で、転居を伴わない正社員5千人の住宅手当を廃止するなど、逆に正社員の待遇を引下げて、「禁じ手」とも言える「格差の逆縮小」を図っている。   諸手当が「賃金」に該当するかについて、賃金とは、「賃金、給料、手当、賞与その他の名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの(労基法11条)」とされており、「労働の対償」とは、原則として、①任意的・恩恵的給付(慶弔見舞金等)②福利厚生給付(貸金貸付等)③企業設備・業務費(作業用品の購入費等)以外のものであると考えられるので、「2020年最高裁判決」の諸手当は賃金に該当する可能性が高い。   そこで、趣旨・目的に照らして、変更に際しては基本的に賃金の引下げと同様に合理性が求められれば、「不利益変更」としての労使協議等が必要になる。 (2)労働条件の不利益変更   労働条件は、労働者と会社(使用者)の双方の「合意」によって決まるのが原則であり、合意によって決定された労働条件(雇用時の雇用契約書、就業規則など)は、使用者が労働者の意思に反して一方的に労働条件を変えることはできない。   労働契約法第9条では、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない」と定められており、これが「不利益変更」である。   次条である労働契約法第10条では、「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。(以下、「ただし書き」部分は省略)   「不利益変更」に合理性があるかどうか、判例では以下の5要素を総合的に考慮して(4要素に照らして合理的か否かを)判断している。紙面の都合があるので、①~⑤の説明は割愛する。 ①労働者の受ける不利益の程度 ②労働条件の変更の必要性 ③変更後の就業規則の内容の相当性 ④労働組合等との交渉の状況 ⑤その他の就業規則の変更に係る事情   日本郵便が正社員の処遇を切り下げたことを「不利益変更」と捉えられて、非正規の処遇向上を目指す「同一労働同一賃金」の法制化の趣旨に反することにもなりかねないが、日本郵便ではJP労働組合との交渉・合意により、「転勤を伴わない社員の住宅手当の廃止」等を進めている。   「パートタイム・有期雇用労働者法」の趣旨は、短期・有期雇用労働者の処遇を上げることであり、正社員の処遇を引き下げることや、賃金原資を一定にしたうえで正社員と短期・有期雇用労働者の処遇を決めること、さらには制度改正で全従業員を同じ処遇にすることは、立法時には想定していないと思われる。 […]

第463号 物流業における「同一労働同一賃金」の実務的対応(中編)(2021年7月8日発行)

執筆者  長谷川 雅行 (株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)  執筆者略歴 ▼ 経歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任 2009年 同社顧問 保有資格 中小企業診断士 物流管理士 運行管理者 第1種衛生管理者 活動領域 日本物流学会理事 (社)中小企業診断協会会員 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師 著書(いずれも共著) 『物流コスト削減の実務』(中央経済社) 『グローバル化と日本経済』(勁草書房) 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫) 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか   目次 3.「2020年最高裁判例」を読み解く *前号(2021年6月22日発行 第462号)より 3.「2020年最高裁判例」を読み解く (4)東京メトロコマース事件(正社員・契約社員A・契約社員Bは同社の雇用区分) ①事件の概要   同社は東京メトロの子会社(以前は、「地下鉄互助会」)で、地下鉄の駅売店で働く有期雇用従業員(10年継続勤務の契約社員B)と正社員の処遇格差(本給、各種手当、賞与、退職金、褒賞制度の有無、時間外割増率)が、「労働契約法」第20条に抵触するか、争われた事件である。 ②判決の概要   判決は、 〇退職金→(不支給でも)不合理ではない 〇本給・資格手当・賞与→不合理ではない(高裁判決が確定した) 〇住宅手当・時間外割増率の差・褒賞制度→不合理(高裁判決が確定した) とされた。 ③筆者の考察   最高裁で、「退職金」の格差(正社員は本給×勤続年数に応じた支給月数で支給。契約社員は不支給)が不合理でないとされたのは、退職金の性質は、「職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報奨的な複合的な性質を有 するもの」であり、支給の目的は、「正社員としての職務を遂行する人材の確保、その定着を図ること」とされたことによる(なお、高裁では、「10年前後の長期間にわたって勤務していて功労報奨の性質を有する退職金を一切支給しないことは不合理として、正社員と同一基準の算定額×4分の1が相当」と判断されていたのが、逆転判決となった。退職金の性格については、最高裁判決において一部裁判官の補足意見もあるが、本稿では省略する)。   また、「本給」「資格手当」「賞与」については、「不合理でない」とした高裁判決が最高裁でも支持され確定した。   「本給」については、正社員は「年齢給+職務給」である一方、契約社員は入社時一律給(毎年昇給)と格差があったが、「正社員は長期雇用を前提とした年功的な賃金制度を設け、本来的に短期雇用を前提とする有期雇用とは異なる賃金制度を設計することは、人事施策上の判断として一定の合理性が認められる」とされ、日本的な「年功賃金制」が容認された。   「賞与」については、正社員・契約社員とも支給されていたが算定根拠等に格差があったところを、「正社員賞与は個人の業績を反映させたものではなく、主に対象期間の労務の対価の後払いといえる。しかし、時間給の契約社員Bが大幅な労務の対価の後払いを予定しているとはいえない。長期雇用を前提とする正社員に手厚くすることで有為な人材の獲得・定着を図るという人事施策上の目的にも一定の合理性がある」とされ、「退職金・賞与」には「労務の対価の後払い」性格があるとされている。   「住宅手当」「時間外割増率の差」「褒賞制度」については、格差は「不合理」とした高裁判決が、最高裁でも支持された。   「住宅手当」については、「実際に住宅費を負担しているか否かを問わず支給されており、生活費補助の必要性は職務の内容によって差異が生じない。正社員(売店業務)であっても転居を必然的に伴う配置転換は想定されていない。会社は有為な人材の確保・定着を図る目的がある主張としていたが、手当の主たる趣旨から考えて契約社員Bに支給しないことを正当化するものではない」とされた。手当の趣旨・目的および、転居を伴う配置転換がある正社員とではなく売店業務に従事する正社員(実態はごく少数)と比較して「不合理」と判断されたものである。   「時間外割増率の差」は、正社員のみに労基法で定めた割増率以上の割増率で支給するもので、物流業でも「早出・準深夜勤務」等で散見される。これについては、「労働基準法第37条の趣旨が時間外労働という特別な労働に対する補償であり、使用者に経済的負担を課すことによる時間外労働の抑制であることから、割増率に相違を設ける理由はない」と労働基準法の趣旨から厳しく「不合理性」が指摘されている。   「褒賞制度」は、正社員に対してのみ「勤続10年で3万円。定年退職時に5万円相当の記念品」を贈る制度であり、「業務の内容にかかわらず一定期間勤続した従業員に対する褒賞という性格上、不支給は不合理である。契約社員Bも定年65歳であり、長期勤続が少なくない」とされた。 […]

第462号 物流業における「同一労働同一賃金」の実務的対応(前編)(2021年6月22日発行)

執筆者  長谷川 雅行 (株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)  執筆者略歴 ▼ 経歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任 2009年 同社顧問 保有資格 中小企業診断士 物流管理士 運行管理者 第1種衛生管理者 活動領域 日本物流学会理事 (社)中小企業診断協会会員 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師 著書(いずれも共著) 『物流コスト削減の実務』(中央経済社) 『グローバル化と日本経済』(勁草書房) 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫) 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか   目次 1.はじめに 2.働き方改革関連法改正と実務的対応 3.「2020年最高裁判例」を読み解く 1.はじめに (1)「同一労働同一賃金」への取り組みの遅れ   「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下、「パートタイム・有期雇用労働法」という)により「同一労働同一賃金」が定められ、大企業は2020年4月から、中小企業は2021年4月から施行されている。   正規・非正規労働者間の不合理な待遇格差を禁じる「同一労働同一賃金」制度は、以前は「労働契約法」で定められていたが、「働き方改革」に向けて関連法を整備する際に、当該規定は条文ごと、「労働契約法」から「パートタイム・有期雇用労働法」に移行された。   物流業界の中小企業比率は、日本物流団体連合会「数字でみる物流2000年版」を見ると、トラック運送事業で99.9%、倉庫業で91%と高く、業界全体としては「同一労働同一賃金」は2021年4月から施行と考えてよいだろう。   物流業界における「同一労働同一賃金」の推進割合については、統計調査等が見当たらないので何とも言えないが、北海道新聞が2021年3月に道内主要企業240社に対して実施した調査(回答190社)によれば、大企業・中小企業を含めて、同制度について「既に対応している」「対応する予定」とした企業は計54.3%に留まっている。   これは一例でしかないが、おそらくは中小企業の多い物流業界においては、さらに取り組み実態が遅れているのではないかと推測され、早急に取り組む必要がある。   全日本トラック協会のホームページを見ると、2021年3月に会員向けの「同一労働同一賃金」対策動画を配信しているようであるが、取り組みが遅いのではないかと心配でならない。 (2)行政による事業主への助言・指導など   「労働契約法」には罰則規定がないので、労働者が「同一労働同一賃金」について争うには裁判しかなかった。物流業界における具体的な裁判事例としては、ニヤクコーポレーション事件(2017年)、ハマキョウレックス事件(2018年)、長澤運輸事件(2018年)がある。   今次、「労働契約法」から「同一労働同一賃金」に関する条文が移された「パートタイム・有期雇用労働法」も罰則規定はないが、迅速に労働者を救済するために「行政による事業主への助言・指導等」や「裁判外紛争解決手続(行政ADR)」が整備されている。   具体的には、「同一労働同一賃金」に不満を持つ労働者が、時間外賃金の未払い等と同様に労働基準監督署に駆け込めば、労働基準監督署が指導に乗り出すこともあり、ADRで「和解金を払う」ということである。   労働基準監督署が立ち入り検査すれば、他の事案にも波及するかも知れない。厚生労働省によれば、労働基準監督署が立ち入り検査した道路貨物運送業のうち、8割で労基法違反(長時間労働、時間外賃金等の不払い等)が、6割で改善基準告示違反が、毎年のように発見されている。そのような実態からみれば、「同一労働同一賃金」問題が、行政罰のある「労基法違反」、運輸支局への相互通報制度により車両停止等の行政処分対象である「改善基準告示違反」に発展する恐れは大きい。   なお、本稿では、参考資料として掲げた「同一労働同一賃金まるわかりBOOK」(東京商工会議所)に従い、通常の労働者(無期雇用・フルタイム労働者)を「正社員」、有期雇用労働者全般(パートタイマー・アルバイト・契約社員・嘱託社員等含む)、無期雇用のパートタイマーを「短期・有期雇用労働者」と表記する。貨物自動車運送事業法でいう「運転者」は、ドライバーと表記する。 2.働き方改革関連法改正と実務的対応   筆者は、2019年に本ロジスティクス・レビュー誌で「働き方改革関連法改正と実務的対応」を連載したが、そのうち下記の3回にわたって「同一労働同一賃金」への取り組みについて提起した。 第421号 働き方改革関連法改正と実務的対応(その2)【前編】 (2019年10月10日発行)   1.はじめに   2.「同一労働同一賃金」に関わる働き方改革関連法   3.同一労働同一賃金ガイドライン […]

第461号  GS1 Digital Linkのご紹介: GS1識別コードからウェブへつながる情報発見(2021年6月10日発行)

執筆者  佐藤 友紀 (GS1 Japan ソリューション第2部 RFID・デジタル化推進グループ)  執筆者略歴 ▼ 略歴 平成21年より慶應義塾大学・Auto-ID Lab. Japanに所属し、電子タグ及び、EPCIS等のGS1標準の情報システムの研究に従事。 平成29年 アールト大学Department of Communications and Networking訪問研究員。 平成30年 慶應義塾大学政策・メディア研究科特任助教。 令和2年よりGS1 Japanに所属し、EPCIS・GS1 Digital Link等のデジタル化関連標準を担当。   目次 GS1 Digital Linkはサービス発見のための仕組み GS1 Digital Linkの基本 リゾルバによるリダイレクト先の選定 GS1 Digital Linkとデータキャリア GS1 Digital Linkに関わる最近の動向 おわりに   本稿では、現在GS1が力を入れている標準の一つである、GS1 Digital Linkを紹介する。GS1 Digital Linkは、GS1識別コードと、関連するインターネット上の情報・サービスをつなげる仕組みである。 GS1 Digital Linkはサービス発見のための仕組み   商品情報ページやキャンペーン、リコールの通知など、商品に関する様々な情報やサービス(ここでは「サービス」と総称する)がブランドオーナーなどによりインターネット上で公開されている。消費者に、そのようなサービスに一意に辿り着いてもらうにはどのようにすればよいか。商品名を検索エンジンに入力するのでは、検索エンジン最適化などの施策を取ったとしても、これらのサービス以外の結果も大量に表示されてしまう。一般に、商品に対応するサービスを提供したい場面では、それらサービスの場所を指し示すURLをQRコードなどにエンコードして商品やパッケージに印字しておく手法が広く取られている。しかしこれでは、複数のサービスを提供するためにはその数だけURLをエンコードしたシンボルを印字しなければならず、商品やパッケージのデザインが制約を受ける。消費者も読み取るシンボルを間違えてしまうかもしれない。さらには、提供するサービスの種類や場所が変わるたびに商品やパッケージのデザインを変更しなければならない。   本稿で紹介するGS1 Digital Linkは、商品に付けられるGTIN(JANコード等)などのGS1識別コードから、これらサービスの所在を発見するための仕組みである。図 1に示す通り、サービスが複数あろうとも、それらサービスの場所が変更されようとも、それらを発見するための最初の端点は常にGS1識別コードであり変わらない。GS1識別コードとサービスとの紐づけを後から変更することもでき、そうすれば、例えば期間限定キャンペーンへの案内などをパッケージデザインの変更なしに実現できる。サービス発見の仕組みはウェブの技術に基づいており、一般的なウェブラウザで利用できる。GS1 Digital Linkによるサービス発見は、商品を識別するGTINだけでなく、様々なGS1識別コードとそれらにより識別される対象に対しても適用でき、上述したB2Cの用途の他にも、B2Bの用途に利用することもできる。 図 […]

第460号  料理宅配を真の消費起点バリューチェーンに:末端系物流の盲点を探る(2021年5月25日発行)

執筆者  野口 英雄 (ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表)  執筆者略歴 ▼ Corporate Profile 主な経歴 1943年 生まれ 1962年 味の素株式会社・中央研究所入社 1975年 同・本社物流部 1985年 物流子会社出向(大阪) 1989年 同・株式会社サンミックス出向(現味の素物流(株)、コールドライナー事業部長、取締役) 1996年 味の素株式会社退職、昭和冷蔵株式会社入社(冷蔵事業部長、取締役) 1999年 株式会社カサイ経営入門、翌年 (有)エルエスオフィス設立 現在群馬県立農林大学校非常勤講師、横浜市中小企業アドバイザー、 (社)日本ロジスティクスシステム協会講師等を歴任 2010年 ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表 活動領域 食品ロジスティクスに軸足を置き、中でも低温物流の体系化に力を注いでいる :鮮度・品質・衛生管理が基本、低温物流の著作3冊出版、その他共著5冊 特にトラック・倉庫業を中心とする物流業界の地位向上に微力をささげたい 私のモットー 物流は単位機能として重要だが、今はロジスティクスという市場・消費者視点、トータルシステムアプローチが求められている ロジスティクスはマーケティングの体系要素であり、コスト・効率中心の物流とは攻め口が違う 従って3PLの出発点はあくまでマーケットインで、既存物流業の延長ではない 学ぶこと、日々の改善が基本であり、やれば必ず先が見えてくる 保有資格 運行管理者 第一種衛生管理者 物流技術管理士   目次 1.料理宅配という新しいニーズ:リスク回避ばかりが先行 2.宅配が個人事業なら何の法的制約もないのか:究極の物流事業規制緩和? 3.飲食バリューチェーンの大前提は品質管理:機能・責任分担 4.活況を呈する末端系物流:料金設定とサービスく 5.更なる規制緩和への視点:真に経済活性化に寄与させる 1.料理宅配という新しいニーズ:リスク回避ばかりが先行   昨今のコロナ禍で人々のライフスタイルが変化し、料理宅配という新しいニーズが高まってきた。これは従来からの飲食店出前と何が違うのか。出前という形態は飲食提供の延長線上にあり責任主体が明確であるのに対し、新しい形態では情報マッチング事業者がコアとなって集積化し、その前後の工程リスクを徹底的に排除する狙いがある。つまり調理や配送実務はあくまで個人事業で、自らのビジネスモデル責任は極力回避するというものである。 (図表―1:様々な食品宅配ビジネス) *画像をClickすると拡大画像が見られます。   (図表―1)に示すように今では様々な事業展開が行われているが、ブランドを背負ってビジネス展開する以上責任主体はあくまで主宰者にあるはずだ。   消費者への料理提供を一つのサプライチェーンと考えれば、その対象商品は極めて高付加価値・ブランド化されたもので、その状態を的確に維持し、最終顧客の満足度を高めるという崇高な目的があるはずだ。これを原材料調達~調理~配送というプロセスで役割分担が行われているとすれば、全体プラットホームをプロバイダーが提供し、その業務運用を厳しく管理する必要がある。自動配車システムで不特定多数の飲食業を対象に、機能を提供するということであれば、その調理以降の工程では配車事業者に管理責任があるだろう。またできたての料理品である以上、単なる荷物の配送とは自ずと条件は違ってくる。 […]

第459号 コロナ禍の物流現場の変化のあれこれ(2021年5月13日発行)

執筆者  髙野 潔 (有限会社KRS物流システム研究所 取締役社長)  執筆者略歴 ▼ 職歴・履歴 日産自動車株式会社(33年間) (出向)株式会社バンテック(7年間) (起業)有限会社KRS物流システム研究所(平成11年~) 組織・履歴 神奈川流通サービス協同組合・物流システム研究所所長(5年間) 株式会社湘南エスディ-・物流顧問(5年間) 株式会社カサイ経営・客員研究員(7年間) 物流学会・正会員(8年間) 物流学会・ロジ懇話会事務局(5年間) 日本情報システムユーザー協会・個人正会員(JUAS-ISC)(9年間) 日本情報システムコンサルタント協会(JISCA:東商会員)正会員・理事(平成25年~) 委嘱(受託)・履歴 通産省(現・経済産業省) 荷姿分科会委員・委嘱(1年間) 運輸省(現・国土交通省)輸送分科会委員・委嘱(1年間) 中小企業基盤整備機構  物流効率化アドバイザー・委嘱(8年間) 中小企業ベンチャー総合支援センター 新事業開拓支援専門員・委嘱(6年間) 中小企業基盤整備機構  企業連携支援アドバイザー・委嘱(6年間) 中小企業大学校(関西校) 非常勤講師・委嘱(4年間) 海外技術者研修協会 [AOTS]関西研修センター 非常勤講師・委嘱(2年間) 座間市観光協会・事務局長(2年間) 座間市・都市計画審議会委員(2年間) 著書・講師・履歴 日本のロジスティクス (共著:日本ロジスティクスシステム協会) 物流共同化実践マニアル (共著:日本ロジスティクスシステム協会・日本能率協会) 図解 なるほど!これでわかった よくわかるこれからの物流 (共著:同文館) 雑誌掲載:配送効率化・共同物流で大手に対抗(日経情報ストラテジー) 雑誌掲載:情報化相談室回答担当者(日経情報ストラテジー) 雑誌掲載:卸の物流協業化・KRS共同物流センター事業(流通ネットワーキング) 雑誌掲載:現場が求めるリテールサポート・ドラックストア-編(流通ネットワーキング) その他  :執筆実績多数 講師(セミナー、人材育成、物流教育・etc):実績多数   目次 1.はじめに。 2.コロナ禍の物流現場の安全・安心の担保 3.コロナ禍に求められる次世代物流システム 4.コロナ禍に求められる物流現場の改革 5.コロナ禍に求められる物流拠点の再配置(BCP) 6.コロナ禍のドライバー不足に伴う輸配送方策のあれこれ! 7.最後に。 1.はじめに…。   コロナ禍の下で物流現場に求められる変化とは、感染防止などの衛生管理面のことですが、入退出時の検温、消毒、マスク着用、3密回避(物流現場・詰所、休憩所・更衣室、食堂)などの確保が求められています。コロナの感染対策で重要な換気面においても窓や扉の開放、さらに、夏冬の空調、大型天井扇風機、物流拠点(物流センター)の施設の設計にも新たな工夫が必要となってきています。さらに、物流作業においても非接触・非対面、ペーパーレス化が新たなトレンドとなり、さらなる進展が求められています。 […]

第458号 物流施設は建てすぎなのか?(2021年4月20日発行)

執筆者 久保田 精一 (合同会社サプライチェーン・ロジスティクス研究所 代表社員 城西大学経営学部 非常勤講師、運行管理者(貨物))  執筆者略歴 ▼ 略歴 1995年 東京大学 教養学部教養学科 卒 1995~1996年 国土交通省系独立行政法人 1997~2004年 財務省系シンクタンク(財団法人日本システム開発研究所) 産業振興、物流等の調査業務を担当 2004~2015年 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所 物流コスト、物流システム機器等の調査業務を担当 2015年7月 独立 活動 城西大学 非常勤講師 流通経済大学 客員講師 日本工業出版「流通ネットワーキング」編集委員 ほか(いずれも執筆時点) 著書 「ケースで読み解く経営戦略論」(八千代出版)※共著 ほか   目次 1.はじめに 2.「需要は堅調である」サイドの論拠 3.前項の論拠の検証 4.まとめ 1.はじめに   近年、物流施設の建設が高水準で進んでいる。2019年度は近年最高水準であり、2020年度はコロナ禍により失速するかと思われたが、実際には引き続き高水準を維持している(本稿執筆時点、年度前半までの実績)。   ただし、マクロ的に見ると、以下のような論拠から「物流施設は建てすぎなのではないか?」との見方がある。 (1)少子高齢化で人口は確実に減少する。今後は毎年中核市が一つずつ消えていくほどのスピードで減少するのだから、施設需要も減るはずだ。 (2)そもそも物流量は長期的に減少している。貨物輸送量(トンベース)は最盛期である平成初期の7割程度しかない(なお、物流量の減少は人口減の影響もあるが、平成年間の主たる減少要因は、建設ストックへの投資縮小と長寿命化である)。 (3)マクロ的な在庫量は、企業の在庫削減努力やITの進展によって減少している。 (4)上記の要因に加えて、コロナ禍によりグローバル化にブレーキが掛かり、当面は世界的に景気が調整局面入りする可能性が高いのではないか。   ただし、この論点は、各所でさんざん議論されてきた問題であり(※)、すでに議論の余地がないとも言える。   (※例えば月刊ロジビズ・2020年10月号「物流不動産」特集、流通ネットワーキング・2020年9-10月号特集「物流センターの開発と運営」などを参照。)   一方で、議論のベースとなっているレポートの多くは、物流施設の開発者側が、開発のポテンシャルを確認するために作成しているものが多い。だから中立性に問題があるのだ、と言いたいわけではないが、ある時点での開発ニーズとマクロ的な総需要とでは、傾向が必ずしも一致しない(例えば、住宅分野で、空き家が社会的に問題化するのと同時に、新築マンションの供給が高水準であったとしても、矛盾はしないことと同様である)。   このような点を踏まえて、本稿ではマクロ的な需給状況の視点にたち、主要な論点を整理しておきたい。 図表1 発注者別の倉庫・物流施設建設工事受注額の推移 出典:国交省:2020年代の総合物流施策大綱に関する検討会・資料 *画像をClickすると拡大画像が見られます。 2.「需要は堅調である」サイドの論拠   上述の「建てすぎ」論に対しては、様々な観点から反論が挙がっている。主要な論拠は以下のとおりである。なお余談ながら、この分野の有識者の中では(いまのところ)、これら論拠をもとに「需要は堅調だ」との立場が主流である。 (1)足下の需給(現に新しい倉庫は埋まっている)   次々に大型倉庫が新規供給されているが、結果的に埋まっている。よって需要はある、という立論。 (2)ECの需要が拡大する   人口減でも施設需要が減らないのは、EC(特にネット通販)の需要拡大が続くからである。 (3)土地がないから供給過多にはならない   需要が過多なら供給が増えることでバランスするのが通例だが、現状でそうなっていないのは「土地不足」による。 (4)集約化・自動化で大型化する   これは施設需要の総量が増えるという主張ではないが、物流拠点は集約化・統合化される傾向にあるため、小規模な既存拠点ではなく、新たな大型拠点のニーズが増える。 3.前項の論拠の検証   これらの主張の論拠について、一点ずつ検証していこう。 (1)足下の需給について   「実際に埋まっている」というのは現時点では明らかであり、従って需要がある、という点についても異論を差し挟む余地はなさそうだ。   この論拠の問題を挙げるとすると、「過去に供給された倉庫が埋まること」は、「将来供給される分に相当する需要が生まれること」の説明要因とはならないということだろう。言うまでも無く、「前者の説明要因(説明変数)が、後者でも引き続き有効である」ことの証明が必要だ。 […]

第457号 卸売市場法改正と最近の生鮮食品流通(後編)(2021年4月8日発行)

執筆者  長谷川 雅行 (株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)  執筆者略歴 ▼ 経歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任 2009年 同社顧問 保有資格 中小企業診断士 物流管理士 運行管理者 第1種衛生管理者 活動領域 日本物流学会理事 (社)中小企業診断協会会員 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師 著書(いずれも共著) 『物流コスト削減の実務』(中央経済社) 『グローバル化と日本経済』(勁草書房) 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫) 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか   目次 4.生鮮食品流通を巡る最近の動向 5.終わりに *前号(2021年3月16日発行 第456号)より 4.生鮮食品流通を巡る最近の動向   それでは、生鮮食品流通を巡る最近の動向について、とくに物流との関わり合いにおいて述べたい。それは、生鮮食品の輸配送を担っている事業者にも少なからず影響が出てくると思われるからである。 (1)市場外流通する輸入農水産物   第381号の図表5では、北海道の大手スーパーにおける青果部門の仕入先構成(金額比)は、札幌中央卸売市場30.0%、生産者(JA等)直取引31.7%、商社等38.3%で、市場流通のシェアは3割である(その後2年経過し、2項の築地市場から豊洲市場移転でも分かるように、さらに市場流通のシェアが低下していることが想定される)   その理由は、第381号図表5にあるように、中央卸売市場経由の「荒利率」が18.8%と、生産者直取引(同25.5%)、商社等(同22%)と比べて低いからである。スーパー側からは、「市場を通して仕入れるのでは(荷受・仲卸のマージンもあるので)儲けが少ない」ということである。   これは、例示した北海道のスーパーだけではなく、筆者が聞き取りをした限りでは、全国的にも同様な傾向にある。   このうち、「商社等」には輸入青果物も含まれていると思われる。農林水産省の「農林水産物の輸出入概況(各年版)」を見ると、「冷凍野菜」が年々増加している。最近は「カット野菜」が増加著しい。   水産物についてはサケ・エビ・マグロ・ウナギ・タコなど、輸入が多いことはご存知の通りである。   これら、輸入農林水産物については、市場を経由しないで直接取引されることが多いので、国内消費に占める輸入シェアの増加は、市場シェアの低下にもつながる。 (筆者注:商社だけでなく、荷受自身も農水産物を輸入して販売するケースもある) (2)既存の生鮮食品流通チャネルの革新   第447~448号「続・軽トラ運送が熱い」では、「買い物難民」対策としても増加しつつある移動スーパーを掲げ、とくし丸の事例を紹介した。ただし、とくし丸は提携したスーパーから生鮮食品を仕入れているので、既存の生鮮食品流通チャネルのなかで、移動スーパーという販路革新をもたらしたと言えよう。   また、最近はECやネットスーパーでも、生鮮食品の取扱いが増えている。   例えば、第447号で紹介したアマゾン・フレッシュでは、ECで注文を受けると、アマゾンのエージェントである水産仲卸が、卸売市場で鮮魚を調達して、フルフィルメントセンターに運んで加工・包装し、アマゾン・フレックが配送する事例が、TV番組で紹介されていた。   ネットスーパーでは、既存の市場ルート・市場外ルートで仕入れた生鮮食品を、ネット販売して宅配している(ライフでは、アマゾン・フレックの配送チャネルを活用している)。   アマゾンやライフも既存の生鮮食品流通チャネルを利用して、当日配送システムにより個人宅に届けているビジネスモデルである。仲卸が飲食店・小売店向け、あるいは個人向けにネット通販を始めた事例もある。 (3)新たな生鮮食品流通チャネルの構築   これとは別に、市場や中間業者(商社・卸売など)を通さず、生産者が消費者に直接届けようという新たな生鮮食品流通チャネルの構築が始まっている。   例えば、オイシックス・ラ・大地やポケットマルシェのような産直や、漁港で水揚げされた水産物を漁船から直接買い付けて(産地卸売市場を通さず)、消費地の飲食店・鮮魚店に届けるという例も増えている。 […]

第456号 卸売市場法改正と最近の生鮮食品流通(前編)(2021年3月16日発行)

執筆者  長谷川 雅行 (株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)  執筆者略歴 ▼ 経歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任 2009年 同社顧問 保有資格 中小企業診断士 物流管理士 運行管理者 第1種衛生管理者 活動領域 日本物流学会理事 (社)中小企業診断協会会員 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師 著書(いずれも共著) 『物流コスト削減の実務』(中央経済社) 『グローバル化と日本経済』(勁草書房) 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫) 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか   目次 1.はじめに 2.開場2年を経た豊洲市場 3.卸売市場法の改正 1.はじめに   2018年2月の第381・382号で、「卸売市場を主体とした生鮮食品サプライチェーンの現状と課題」を報告させて頂いた(バックナンバー参照)。   その後、全国の水産物流通の中心である、東京都中央卸売市場の築地市場が豊洲市場に移転するとともに、2020年には改正卸売市場法が施行され、いよいよ生鮮食品流通については大きな変革が始まろうとしている。   既に、卸売市場が生鮮食品流通に占めるシェアは低下しており、大きな変化は起こらないという関係者もいる。   そこで、上記2大イベント「豊洲移転後」「卸売市場法改正」を中心に、最近の生鮮食品(農産物・水産物に限る)流通の動向や、物流業界への影響・対応等を述べたい。 2.開場2年を経た豊洲市場   2018年10月に築地市場が移転した豊洲市場は、開場2周年を迎えた。新旧両市場を比較したのが、図表1である。 図表1 築地市場と豊洲市場の比較 (出所:2018年10月6日時事通信) *画像をClickすると拡大画像が見られます。   移転後は、築地市場当時と比較すると取扱量が減少している。築地市場が通年開場した最終年次である2017年の取扱量が385,004トン(図表1参照)であったのに対して、豊洲市場が初の通年開場となった2019年は346,212トンと、10%減少している。   2020年は、コロナ禍や不漁により、高級魚などを中心に取扱量が減少していると報道されている(2020年8月6日付日経新聞等)。   また、卸売業者(後述の「荷受」)は7社で変わらないものの、図表1の水産仲卸業者は524社から、488社に減少している(2019年4月現在)。移転を機に廃業した業者もあったようである。   仲卸は卸売業者(一次卸。荷受)から買った生鮮食品を小売店・飲食店に売る二次卸で、鮮度や品質に対する「目利き」と呼ばれる技術が不可欠で、経験年数が必要とされる。一方で、中小・零細の業者が多く、東京都によれば、2017年時点で約4割が経常赤字となっている。   東京都の中央卸売市場(大田・豊洲など11ヵ所)全体では、青果・水産・食肉・花きの仲卸業者は、2019年4月時点で976社と、近年は減少傾向が加速している。   このうち、豊洲市場は年間、346千トン・約4千億円の生鮮食品(2019年実績。一部青果も含む)を取扱う最大規模の中央卸売市場である。   東京という日本最大の消費地を控えて、荷(生鮮食品)が多く集まる大田・豊洲の両市場は、他の中央卸売市場・地方卸売市場で取引される参考となる価格を形成する「建値市場」としての役割もある。マグロやメロンは、豊洲や大田のセリ値が全国の取引価格を形成していると言っても過言ではない。   スーパーなどは卸売市場を通さず、産地の生産者(JA・漁協)等から直接仕入れるケース(市場外流通・相対取引)が増えている。その結果が、2項で述べる「生鮮食品流通占める卸売市場の取引シェアが3割」という実態を招いているとも言える。   その場合の相対価格も、大田や豊洲のセリ値が目安(大田のセリ値の○%引きなど)とされている。   この全国の価格指標だった高級魚・高級果物等の需要が、コロナ禍による外出自粛・巣ごもりにより「蒸発」したため、大田・豊洲の両市場関係者は、上述のように取扱量の減少に苦しんでいる(同様に、小売店・飲食店も苦しんでいる)。 […]

第455号 段ボールは商品か(2021年3月4日発行)

執筆者 山田 健 (中小企業診断士 流通経済大学非常勤講師)  執筆者略歴 ▼ 著者略歴等 1979年日本通運株式会社入社。1997年より日通総合研究所で、メーカー、卸の物流効率化、コスト削減などのコンサルティングと、国土交通省や物流事業者、荷主向けの研修・セミナーに携わる。2014年6月山田経営コンサルティング事務所を設立。 著書に「すらすら物流管理(中央経済社)」「物流コスト削減の実務(中央経済社)」「物流戦略策定のシナリオ(かんき出版)」などがある。中小企業診断士。 URL:http://www.yamada-consul.com/   目次 I.バブルのおもひで II.段ボールも商品 III.包装には2種類 IV.賠償した商品は誰のモノ? V.正常化に向けた動きが VI.速やかな実行を I.バブルのおもひで   冒頭から私事で恐縮だが、以前にも書いたようにバブルの真っ只中、筆者は東北のある都市で物流会社の営業をやっていた。担当は酒類・飲料、食品メーカーである。当時、この業界はバブルの消費拡大と、1987年に発売されたアサヒビールの「スーパードライ」の爆発的ヒットにより空前の活況を呈していた。   物量増加とドライバー不足により、車探しと欠車との闘いが続く毎日。「仕事をとってくる」ことではなく、「仕事を断る」ことが物流営業の仕事といってよかった。   今でいう「物流危機」に瀕したのは、業界が物量の多さと季節波動の大きさでは筆頭格であったことと無縁ではないだろう。報じられているように、昨今の新型コロナ下でも活況を呈していることからもこの業界の物量規模と層の厚さ、そして重要性がうかがえる。   また一方では、定着した独特の商慣習の多さにも驚かされた。この点でも筆頭格といえるかもしれない。   たとえば、納品時の棚入れ作業である。ここ数年、ようやくドライバーの手積み、手卸し作業が問題となり、徐々にではあるが付帯作業として有料化も図られつつある。筆者の物流業界経験の振出は海運業界であったが、海上コンテナ輸送では「オントラック受け」「オントラック渡し」という基本ルールは常識であった。コンテナのバンニング・デバンニング作業時にドライバーは貨物には一切手を触れない。そもそも「輸送すること」が運賃の対象とされていることを考えれば、このルールには疑問の余地がない。   しかし、国内のトラックは違った。ドライバーが貨物の積み卸しをするのは当たり前。それだけではなく食品業界では納品先のフォークリフトを使って棚入れするのも常態化していた。棚に適当な空きがなければ、他の商品とのはい替え作業も行う。棚入れ最中に商品を破損したり、最悪のケースとしてフォーク運転中に人身事故でも起こしたりしたらどうなるのであろう。   想像するのさえはばかられる事態だが、長年にわたって定着してしまった商習慣には容易に手を付けられない。発荷主に問題提起したところで、他社の納品も同じ作業をしている中で、一社だけ異を唱えるわけにもいかなかったろう。運送会社が問題視する風潮も醸成されていない。結局は誰もが見て見ぬふりをするしかない、というのが当時の偽らざる実態である。   ドライバー不足を背景に、ここへきてようやくこうした付帯作業の有料化が検討されはじめたのは小さいながらも前進である。都市部では手積み手卸しを強要するとドライバーが辞めてしまうため、作業自体を拒否する業者もでてきている。ただ、一部の大手はまだしも、全般的にはまだまだである。問題とは感じつつ、納品先にも荷役する人員が不足している。依然として「サービス付帯作業」に終わりは見えない。 II.段ボールも商品   毎度のことながら前置きが長くなってしまったが、驚かされたもうひとつの商慣習が今回のテーマである「段ボールも商品」である。ビール、飲料業界などでは商品を梱包した段ボールも商品なのだという。「商品」であるから、段ボールに傷やつぶれがあれば中身の「本当の商品」にダメージがなくても「不良品」になってしまうので納品できない。商品代金は事故を起こした物流事業者が賠償することになる。   その先もある。筆者が担当していた1990年代くらいまでは中身にダメージがなければ、新たな段ボールに詰め替え「良品化」して納品できた。被害は最小限にとどめられたわけである。   ところが最近、この商慣習は大きく変わった。段ボールが破損したら商品はすべて賠償したうえで中身は廃棄、しかも廃棄費用は物流事業者負担というルールに変更されていた。賠償した商品を物流事業者で社内販売を含む「社内処理」することも認めないという。おそらく商品がおかしなルートに流されて、極端な価格下落を招いたり、ブランドイメージが低下したりすることを避けるための処置であろうが、理解に苦しむルールである。   パレットに積載された一部の段ボールにつぶれなどがあった場合、パレット積載のすべての段ボールとその中身の商品が賠償対象、廃棄となる場合もあると聞く。   そもそも段ボールは商品なのかという点と、賠償した商品の処理まで荷主に指示されているという2点が混在していることが、事態をわかりにくくしている。 III.包装には2種類   第1点目の問題については、中央職業能力開発協会(JAVADA)の発行している「ビジネスキャリア検定試験2級」のテキストを参照する。同書によれば、包装には2つのコンセプト(定義)があるという。1つが「消費者包装」である。これは文字通り「消費者が商品を購買する際に、購買意欲を惹起することに力点を置いて(テキスト原文)」開発された包装である。したがって、過剰包装・過大包装、ごまかし包装など消費者の不利になるような条件をなくし、かつ内容品の保護性、安全性に十分配慮した包装が必要となる。このコンセプトにしたがえば「段ボールが商品」はすなわち「段ボールは消費者包装」と定義していることになる。   消費者包装された商品は、そのまま物流ルートに持ち込むと、包装箱表面のこすれなどによって包装外観が劣化したり、内容品に影響が出たりする可能性が高いため、外側にさらに輸送のための包装を施されるのが普通である。この包装が第2のコンセプト「輸送包装」である。   輸送包装は「物流過程で包装が受ける振動、衝撃、圧縮などの外力による影響から内容品を保護する機能を有する包装」と定義されている。   こうした定義から、「段ボールが商品」とすれば消費者包装のまま物流を行っていることになり、甚だ不適切である。適正包装がなされない商品の破損などについて物流会社は免責である。   仮に段ボールが輸送包装だったとしたらどうか。、定義にある通り、輸送包装は内容品を保護する機能を有するので、包装に傷等があっても内容品にダメージがなければ問題ない。むしろ内容品を保護する役割を立派に果たしたといえる。   定義を長々と解説してしまったが、どう解釈しても「段ボールも商品」には無理があると言わざるをえない。 IV.賠償した商品は誰のモノ?   少々固くなって恐縮であるが、国土交通省が告示している標準貨物運送約款(賠償に基づく権利取得)第五十一条に、「 当店が貨物の全部の価額を賠償したときは、当店は、当該貨物に関する一切の権利を取得します」とある。つまり事故などにより物流事業者が賠償した商品はその事業者のモノになるのである。少々乱暴な言い方をすれば、賠償した商品をどう扱おうが物流事業者の勝手と解釈できる。   当然、その処理方法まで荷主が物流会社に指示する権限はない。仮に指示するのであれば、その処理にかかわる費用は指示した荷主が負担するのが筋となる。 V.正常化に向けた動きが   以上整理してきたように、包装の問題、賠償の問題の2つの点で現状は、常識を逸脱した処理といわざるを得ない。残念なのは、少なくとも筆者の知る物流事業者の間では、こうした不合理な商慣習について荷主へ目立った反論や是正交渉が行われてこなかったという点である。「事故を起こしたのは自分たち」といううしろめたさがあるのだろうか。事故を起こしたことと、その処理を正当に行うことは本来別問題である。どちかが一方的に弱い立場に追い込まれることはフェアではない。   ドライバー不足に端を発した運賃や運送条件などさまざまな見直しの中で、この商慣習にもようやく正常化へ向けた動きがみられようになった。   経産省、国税庁、国土交通省、飲料メーカー、物流事業者などがメンバーとなった「飲料配送研究会」である。研究会は2019年7月に報告書を発表している(図1)。以下、その報告書のポイントを解説していこう(取扱範囲を考慮して報告書の「運送事業者」は「物流事業者」と読み替えている)。 図 1 飲料配送研究会報告書概要(出所:経済産業省) *画像をClickすると拡大画像が見られます。 ①毀損範囲の取り決め   まず基本的な原則として、 「包装資材(段ボール)については、商品である中身が毀損していなければ、包装資材に傷や汚れがあっても、輸送・保管等に支障をきたす場合等を除いて、そのままの荷姿で販売することは許容されるべき」 としている。   段ボールは消費者包装ではなく、輸送包装であることが確認されたのである。 […]

第454号 GS1 Japan Data Bankの最新動向~商品情報を国内・国際に公開する商品情報データベースサービス~(2021年2月16日発行)

執筆者 銅直 正 (GS1 Japan(一般財団法人流通システム開発センター) データベース事業部 次長)  執筆者略歴 ▼ 略歴 入所以来、流通情報システムに関する標準化と関連するデータベースの運用と普及などに携わる。 現在、データベース(GEPIR、JICFS/IFDB、G JDB、GLNDB)の運用と普及活動に従事。   目次 はじめに 1. GS1 Japan Data Bankの概要 2. GS1 Japan Data Bankの登録状況 3. GS1 Japan Data Bankの今後の展望 はじめに   インターネットの発展と普及に伴い、あらゆる商品がネットを通じて国や地域を越えて販売されており、商品を国際的に、重複なく識別・管理することができる GTIN(JANコード)の重要性が増しています。   これにともない、 GS1(注1)には世界中から「GS1 識別コード(注2)に関する情報が必要」という、強い声が寄せられています。「この商品の GTIN は、どの事業者のものか。また、GS1 事業者コードを使う権利がある事業者が正しく使用しているのか」、「この GTIN の番号は、何の(どんな)商品に付けられているか」、などです。   こうした声を受けて、GS1 では、GTIN を設定するための根幹である GS1 事業者コードを、世界的により厳格に管理・運用していくこと、および、GTINなど各種 GS1 識別コードの情報を一元的に管理し、参照できる機能を提供していくことを打ち出しています。   当財団も GS1 の一員である GS1 Japan として、グローバルな動きと歩調を合わせて GTINに関する基本的な情報を管理し、国内・国際の必要な相手先に公開するためのインフラとして、2019年10月にGS1 Japan Data […]

第453号 働き方改革が進まないわけ(2021年2月4日発行)

執筆者 山田 健 (中小企業診断士 流通経済大学非常勤講師)  執筆者略歴 ▼ 著者略歴等 1979年日本通運株式会社入社。1997年より日通総合研究所で、メーカー、卸の物流効率化、コスト削減などのコンサルティングと、国土交通省や物流事業者、荷主向けの研修・セミナーに携わる。2014年6月山田経営コンサルティング事務所を設立。 著書に「すらすら物流管理(中央経済社)」「物流コスト削減の実務(中央経済社)」「物流戦略策定のシナリオ(かんき出版)」などがある。中小企業診断士。 URL:http://www.yamada-consul.com/   目次 I.リモートワークが進む? II.物流が止まる? III.アマゾンが出社前提のオフィス拡張 IV.働き方改革が進まないわけ V.「自分だけ時短」はダメ VI.管理不在の管理 VII.生活残業をどうする VIII.社会全体で負担を I.リモートワークが進む?   落ち着いたりぶり返したりの新型コロナ感染拡大を避けるため、リモートワークがまた復活しつつある。仕事の生産性が上がるか否かといった議論は別にして、労働者の「働き心地」という点からはどうなのであろうか。   冒頭から私事で恐縮であるが、サラリーマンからフリーランスに転じた筆者などは、リモートワークが基本である。その経験からいえば、「慣れると快適」といったところであろうか。もちろん、家の間取りや家族構成など「家庭内環境」にもよるが、個人的には自宅勤務の生活には満足している。   それはさておき、報道では在宅勤務の普及によって多くの企業で出社の機会が減り、オフィス重要も一時的に減少しているという。こうした情報に接していると、「オフィス不要論」といった極端から極端に振れる風潮を感じる。   その割には筆者の周辺企業の動きは鈍い。電車も空いてることは空いているもののまだまだ混んでいる。たしかに、机上やパソコン上で仕事がほぼ完結する一部の知識集約型業界ではありうるだろうが、こうした産業だけで世の中が成り立っているわけではない。むしろそうではない業界、企業の方が圧倒的に多いのではないか。 II.物流が止まる?   その典型が物流業界である。一部の大手事業者の本社や管理部門で在宅勤務を行っているものの、大半の物流事業者で在宅勤務は「夢のまた夢」である。本社や管理部門などのホワイトカラーは元より在宅勤務のハードルは高くない。問題の根はやはり現場にある。   夏真っ盛りの先日、中堅運送会社の営業所で配車担当者が新型コロナに感染した。無症状であるが、14日間の自宅待機を課せられる。その営業所では大手消費財メーカーの問屋向け配送を中心とした配車を行っている。一日に運行させているのは自社車両、傭車含めて100台以上におよぶ。本人の自宅待機はまだしも、他の従業員まで感染が広がり出社できなくなってしまったら、配車業務がストップし商品の配送が完全に止まってしまう。関係者は凍り付いた。会社は在宅勤務に対応するため急遽、社員全員のノートパソコンを準備する手はずまで整えたという。   幸い、社員は濃厚接触者とはならず感染者もなかったため、配車・配送停止という最悪の事態はギリギリのところで回避することができたが、新型コロナが配送の要である配車機能を通じて物流を麻痺させてしまうことを改めて認識させる出来事であった。   配信される業界ニュースをみても、物流会社の社員が新型コロナに感染したという記事を目にしない日はない。それでいて、当該営業所が閉鎖されたという事実はほとんどなく、濃厚接触者の調査と消毒で「通常営業」を維持しているケースがほとんどである。保健所の指導によるものだろうが、「止められない」物流の事情が垣間見えるようである。   では、配車をはじめとした物流業務でリモートワークは不可能なのか。結論からいえば不可能ではない。ただし、すべての荷主、協力会社との紙による情報のやり取りが完全にデジタル化し、すべての業務手順が標準化・マニュアルされ、追加オーダー、発注ミス、緊急対応など荷主との一切のイレギュラー処理がなくなり、商品の検品・出荷ミス、破損、配送遅延、交通事故など一切の現場のトラブルもゼロとなる、さらに社内の報告や経理・各種の事務処理などがIT化されている、といった条件がほぼ満たされれば、である。これでも現場事務関係の在宅勤務が実現するレベルであり、さらに倉庫内、配送などの作業は完全無人化とならない限り難しい。   物流スタートアップ企業などの出現が目覚ましいところであるが、残念ながらこれらが実現するのがいつになるのか予想すらできない。もっと夢のある話をしたいのはやまやまであるのだが。 III.アマゾンが出社前提のオフィス拡張   日経新聞(2020年8月29日)によると、米アマゾン・ドット・コムがニューヨークなど米6都市で、技術者やクラウドインフラの設計者、データサイエンティスト、UX(ユーザー体験)などの高度人材計3,500人を追加採用するという。さらに新型コロナウイルスの収束後を見すえ、出社を前提としたオフィス拡張などに約1,500億円を投じる。ニューヨークでは、5番街にある老舗百貨店ロード・アンド・テイラー跡地の建物を取得、約5万8千平方メートルのオフィスに衣替えをする。   社員に無制限の自宅勤務を認めるIT企業が多い中、アマゾンの対応に奇異な印象を持たれる読者も少なくないだろう。ましてGAFAの一角として挙げられる同社が在宅勤務に逆行するとは。   この答えは同社がIT企業である以上に「物流企業」だからに他ならない。記事によれば、アマゾンは自宅で働ける従業員に対しては2021年明けまで在宅勤務を認めている。ただ、物流施設や小売店では新型コロナの感染拡大局面でも多くの人が施設で勤務を続けた。ホワイトカラーだけが在宅で働き続けることには社内から反発もあるとされ、いずれは多くの従業員を通常の勤務に戻す考えとしている。   この記事からは、先に挙げた物流現場の「止められない事情」に加えて、現場とホワイトカラーの課題が見えてくる。ホワイトカラーが現場に気を遣うなどというのは、ジョブ型雇用である欧米企業にしてはきわめて日本的と言わざるを得ないが、これが物流をはじめとした現場を抱えている企業の実情であろう。   実際、日本の物流事業者の本社や管理部門では、在宅勤務をやろうと思えばできるけど現場の手前行っていないという例も少なくない。アマゾンの記事に接して、その対応に改めて納得がいく。 IV.働き方改革が進まないわけ   新型コロナのインパクトがあまりに強すぎるため、前置きが長くなってしまったが、本題と関係がないわけではない。   今回のテーマは「働き方改革」である。産業界で取り組みが進む働き方改革であるが、中でも物流業界の一番悩ましいのは労働時間上限規制である。ご承知の通り、大企業では2019年4月より、中小企業では2020年4月より時間外労働時間は最大単月100時間以内、年間で720時間以内に規制される。違反企業には6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則も課せられる。罰則が加わったことで、企業にはいやおうなく対応が求められる。   ちなみに本題からはややそれるが、この規制は医師、建設、自動車運転業務(つまりバスやトラックのドライバー)には5年間の猶予が認められ、さらに自動車運転業務は猶予期間後も960時間の規制にとどまる。   この「規制緩和」について読者はどう感じるだろうか。バスやトラックのドライバーは5年間時間外の上限規制がないだけでなく、5年後からは960時間という「産業界最長」の長時間労働が「保証」されるのである。この規制を見て、この業界で働きたい、ドライバーになりたい、と思う若者が果たしてどれだけいるだろうか。経営上の都合もあるのだろうが、筆者には官民共同で「この業界には来てくれるな」といいうメッセージを発しているとしか思えない。   本題に戻そう。今回はドライバーではなく、物流会社、中でもトラック運送会社の事務系社員などドライバー以外の職種を対象に考えていきたい。つまり、他の作業と同じく年720時間規制の働き方改革である。   大企業はまだしも、今年の4月から適用されているこの時間外規制への対応に苦慮している中小の運送会社が少なくない。先の罰則はおそらく現場の管理者に課せられるはずであるから、彼ら彼女らにとってもこれまでのような(?)他人ごとではない。   筆者は先日、関係するある中堅運送会社の経営者、管理者での会議で対応を協議した。ここでは筆者自身の経験とその会議で検討した課題を改めて整理し、今後の方向性を考えてみたい。 V.「自分だけ時短」はダメ   物流会社の働き方改革を論じる際、どうしても「荷主が悪い」という論調になってしまいがちである。物流業界出身の筆者のスタンスもどうしてもそちらに偏りがちになるため、その点は厳しく中立を保ちたいとは思う。   ただそれを踏まえながらも、どうしても最初に述べておかなければならないのは「荷主の姿勢」の問題である。   たとえば、最近ではすっかり影が薄くなってしまった「プレミアム・フライデー」。当時、大手企業を中心に金曜日の時短勤務が進んだ。これはこれでとてもいいことだと思う。どんどん進めるべきだと思うのだがなぜトーンダウンしてしまったのだろうか。   問題なのは自分たちだけプレミアム・フライデーを実践し、その分の業務を外注先や物流会社にしわ寄せしてしまうことである。実際、ある大手荷主では金曜日の受注業務はこれまで通り15時まで受付としつつ、時短で午前中勤務のみ、以降の外注先と物流会社の業務は変わらず、という「自分たちだけ時短」を行った。また消費財を中心に現在でも一般的に行われている、自分たちは完全週休二日制の一方、土曜、祝日出荷を継続しているケースがある。   もちろんこれらはそれだけでは問題ない。世の中には人の休んでいる時に働いている仕事はいくらでもある。電車だってバスだってそうだし、スーパーだってコンビニだってそうである。こうした業態は基本的に24時間365日営業するための勤務シフトとそれを支える売上収入を確保している。   物流業界がそうした勤務体系を組み、そしてそれを維持するだけの適正な収入が確保できていればいいのであるが、現実はそうではないところに問題がある。現在「人が休んでいる時に稼働できる」体制と売り上げが確保できているのは、もともと年中無休を前提とした大手の宅配事業者くらいである。   それ以外の運送会社は、休日出勤と時間外労働で荷主の「時間外・休日配送」を支えており、シフト勤務を維持するための人員増を賄えるだけの運賃収入もままならない。人手不足の代表業界にあっては人の確保も厳しい。必然的に働き方改革のハードルはとてつもなく高くなる。   「自分たちの時短」を行うためには、こうした配送パートナーの時短を実現するための出荷・配送時間、日程の見直しを行うか、さもなくば時間外・休日配送に見合った運賃を負担するか、の2つを考えるしかない。   誰かの犠牲の上に成り立つ働き方改革が本当に労働者のための改革とは到底思えない。アマゾンの例のように現場へのそれなりの配慮が必要になるはずである。 […]

TOP