ロジスティクス・レビュー

第455号 段ボールは商品か(2021年3月4日発行)

執筆者 山田 健
(中小企業診断士 流通経済大学非常勤講師)
    執筆者略歴 ▼

  • 著者略歴等
    • 1979年日本通運株式会社入社。1997年より日通総合研究所で、メーカー、卸の物流効率化、コスト削減などのコンサルティングと、国土交通省や物流事業者、荷主向けの研修・セミナーに携わる。2014年6月山田経営コンサルティング事務所を設立。
    • 著書に「すらすら物流管理(中央経済社)」「物流コスト削減の実務(中央経済社)」「物流戦略策定のシナリオ(かんき出版)」などがある。中小企業診断士。
    • URL:http://www.yamada-consul.com/

目次

I.バブルのおもひで

  冒頭から私事で恐縮だが、以前にも書いたようにバブルの真っ只中、筆者は東北のある都市で物流会社の営業をやっていた。担当は酒類・飲料、食品メーカーである。当時、この業界はバブルの消費拡大と、1987年に発売されたアサヒビールの「スーパードライ」の爆発的ヒットにより空前の活況を呈していた。
  物量増加とドライバー不足により、車探しと欠車との闘いが続く毎日。「仕事をとってくる」ことではなく、「仕事を断る」ことが物流営業の仕事といってよかった。
  今でいう「物流危機」に瀕したのは、業界が物量の多さと季節波動の大きさでは筆頭格であったことと無縁ではないだろう。報じられているように、昨今の新型コロナ下でも活況を呈していることからもこの業界の物量規模と層の厚さ、そして重要性がうかがえる。
  また一方では、定着した独特の商慣習の多さにも驚かされた。この点でも筆頭格といえるかもしれない。
  たとえば、納品時の棚入れ作業である。ここ数年、ようやくドライバーの手積み、手卸し作業が問題となり、徐々にではあるが付帯作業として有料化も図られつつある。筆者の物流業界経験の振出は海運業界であったが、海上コンテナ輸送では「オントラック受け」「オントラック渡し」という基本ルールは常識であった。コンテナのバンニング・デバンニング作業時にドライバーは貨物には一切手を触れない。そもそも「輸送すること」が運賃の対象とされていることを考えれば、このルールには疑問の余地がない。
  しかし、国内のトラックは違った。ドライバーが貨物の積み卸しをするのは当たり前。それだけではなく食品業界では納品先のフォークリフトを使って棚入れするのも常態化していた。棚に適当な空きがなければ、他の商品とのはい替え作業も行う。棚入れ最中に商品を破損したり、最悪のケースとしてフォーク運転中に人身事故でも起こしたりしたらどうなるのであろう。
  想像するのさえはばかられる事態だが、長年にわたって定着してしまった商習慣には容易に手を付けられない。発荷主に問題提起したところで、他社の納品も同じ作業をしている中で、一社だけ異を唱えるわけにもいかなかったろう。運送会社が問題視する風潮も醸成されていない。結局は誰もが見て見ぬふりをするしかない、というのが当時の偽らざる実態である。
  ドライバー不足を背景に、ここへきてようやくこうした付帯作業の有料化が検討されはじめたのは小さいながらも前進である。都市部では手積み手卸しを強要するとドライバーが辞めてしまうため、作業自体を拒否する業者もでてきている。ただ、一部の大手はまだしも、全般的にはまだまだである。問題とは感じつつ、納品先にも荷役する人員が不足している。依然として「サービス付帯作業」に終わりは見えない。

II.段ボールも商品

  毎度のことながら前置きが長くなってしまったが、驚かされたもうひとつの商慣習が今回のテーマである「段ボールも商品」である。ビール、飲料業界などでは商品を梱包した段ボールも商品なのだという。「商品」であるから、段ボールに傷やつぶれがあれば中身の「本当の商品」にダメージがなくても「不良品」になってしまうので納品できない。商品代金は事故を起こした物流事業者が賠償することになる。
  その先もある。筆者が担当していた1990年代くらいまでは中身にダメージがなければ、新たな段ボールに詰め替え「良品化」して納品できた。被害は最小限にとどめられたわけである。

  ところが最近、この商慣習は大きく変わった。段ボールが破損したら商品はすべて賠償したうえで中身は廃棄、しかも廃棄費用は物流事業者負担というルールに変更されていた。賠償した商品を物流事業者で社内販売を含む「社内処理」することも認めないという。おそらく商品がおかしなルートに流されて、極端な価格下落を招いたり、ブランドイメージが低下したりすることを避けるための処置であろうが、理解に苦しむルールである。
  パレットに積載された一部の段ボールにつぶれなどがあった場合、パレット積載のすべての段ボールとその中身の商品が賠償対象、廃棄となる場合もあると聞く。
  そもそも段ボールは商品なのかという点と、賠償した商品の処理まで荷主に指示されているという2点が混在していることが、事態をわかりにくくしている。

III.包装には2種類

  第1点目の問題については、中央職業能力開発協会(JAVADA)の発行している「ビジネスキャリア検定試験2級」のテキストを参照する。同書によれば、包装には2つのコンセプト(定義)があるという。1つが「消費者包装」である。これは文字通り「消費者が商品を購買する際に、購買意欲を惹起することに力点を置いて(テキスト原文)」開発された包装である。したがって、過剰包装・過大包装、ごまかし包装など消費者の不利になるような条件をなくし、かつ内容品の保護性、安全性に十分配慮した包装が必要となる。このコンセプトにしたがえば「段ボールが商品」はすなわち「段ボールは消費者包装」と定義していることになる。
  消費者包装された商品は、そのまま物流ルートに持ち込むと、包装箱表面のこすれなどによって包装外観が劣化したり、内容品に影響が出たりする可能性が高いため、外側にさらに輸送のための包装を施されるのが普通である。この包装が第2のコンセプト「輸送包装」である。
  輸送包装は「物流過程で包装が受ける振動、衝撃、圧縮などの外力による影響から内容品を保護する機能を有する包装」と定義されている。
  こうした定義から、「段ボールが商品」とすれば消費者包装のまま物流を行っていることになり、甚だ不適切である。適正包装がなされない商品の破損などについて物流会社は免責である。
  仮に段ボールが輸送包装だったとしたらどうか。、定義にある通り、輸送包装は内容品を保護する機能を有するので、包装に傷等があっても内容品にダメージがなければ問題ない。むしろ内容品を保護する役割を立派に果たしたといえる。
  定義を長々と解説してしまったが、どう解釈しても「段ボールも商品」には無理があると言わざるをえない。

IV.賠償した商品は誰のモノ?

  少々固くなって恐縮であるが、国土交通省が告示している標準貨物運送約款(賠償に基づく権利取得)第五十一条に、「 当店が貨物の全部の価額を賠償したときは、当店は、当該貨物に関する一切の権利を取得します」とある。つまり事故などにより物流事業者が賠償した商品はその事業者のモノになるのである。少々乱暴な言い方をすれば、賠償した商品をどう扱おうが物流事業者の勝手と解釈できる。
  当然、その処理方法まで荷主が物流会社に指示する権限はない。仮に指示するのであれば、その処理にかかわる費用は指示した荷主が負担するのが筋となる。

V.正常化に向けた動きが

  以上整理してきたように、包装の問題、賠償の問題の2つの点で現状は、常識を逸脱した処理といわざるを得ない。残念なのは、少なくとも筆者の知る物流事業者の間では、こうした不合理な商慣習について荷主へ目立った反論や是正交渉が行われてこなかったという点である。「事故を起こしたのは自分たち」といううしろめたさがあるのだろうか。事故を起こしたことと、その処理を正当に行うことは本来別問題である。どちかが一方的に弱い立場に追い込まれることはフェアではない。
  ドライバー不足に端を発した運賃や運送条件などさまざまな見直しの中で、この商慣習にもようやく正常化へ向けた動きがみられようになった。
  経産省、国税庁、国土交通省、飲料メーカー、物流事業者などがメンバーとなった「飲料配送研究会」である。研究会は2019年7月に報告書を発表している(図1)。以下、その報告書のポイントを解説していこう(取扱範囲を考慮して報告書の「運送事業者」は「物流事業者」と読み替えている)。


図 1 飲料配送研究会報告書概要(出所:経済産業省)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

①毀損範囲の取り決め
  まず基本的な原則として、
「包装資材(段ボール)については、商品である中身が毀損していなければ、包装資材に傷や汚れがあっても、輸送・保管等に支障をきたす場合等を除いて、そのままの荷姿で販売することは許容されるべき」
としている。
  段ボールは消費者包装ではなく、輸送包装であることが確認されたのである。
  次に、段ボールに何らかの傷やへこみなどがあった場合、中身の商品にどのようなダメージが及んでいるのかを推測する合理的な基準を作成することが求められた。事故のたびにいちいち開梱して中身を点検するのは現実的ではないため、外観から判断する明確な基準を設定することにしたのである。判断基準が作成、共有されていない場合(こちらがほとんどと思われるが)は必ず物流事業者と協議の上作成することも要請された。荷主の一方的なルール策定ではダメということである。

②廃棄費用の負担についての取り決め
  ごく当たり前のことであるが、「毀損に伴う損害賠償の対象範囲は、実際に毀損している商品」と定義された。ダメージがあった商品だけが賠償の対象であることがあらためて確認されたわけである。段ボールの外観から中身のダメージを推定する場合も、当然推定された範囲での賠償となる。
  運送約款で明示されているように、「物流事業者が貨物の全額を賠償した場合、物流事業者が貨物の所有権を取得する」ことも確認された。賠償した商品は物流事業者のモノとなる。
  荷主がブランド信用力を維持するための処置についても明らかにされた。様々な理由から物流事業者に処分されるのを回避するためには、荷主がその商品の所有権を得る必要があるというものである。商品を処分する自分のモノにしてからというわけである。
  そのステップは次のとおりである。
(1)飲料メーカーが物流事業者から相当程度に減額された金額で買い戻す
(2)そもそも物流事業者が賠償する価額を相応に減額された金額とする
(3)これを契約で明文化する。この場合において、廃棄処理等を飲料メーカーが行う場合は、廃棄費用は飲料メーカーが負担する。
  おそらく、事故品と良品が混在した中身の段ボールを買い戻すことを想定しているものと思われる。事故品を減額された価格で買い戻すか、あるいは良品との差額を物流事業者が賠償するかの処理により荷主は所有権を得る(または維持する)ので、物流事業者の負担はいずれにしても事故品のみとなる。
  買い戻した商品を廃棄するには荷主の費用負担において行う。


図 2 毀損した商品だけ賠償(出所:国土交通省)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

  飲料団体及び物流事業者団体は、相談窓口を整備することも規定された。今後も定期的にこの研究会を開催し、問題事例を協議するという。

VI.速やかな実行を

  こうしたルールとは別の次元で、事故を最小限にとどめることは物流事業者の責務であることを忘れてはならない。事後処置のルールが正常化したとはいっても、それによって物流事業者が免責となるわけではない。物流事業者には保管、荷役、輸送などあらゆる作業面において、物流品質の向上に向け継続した取り組みが求められる。
  今回の報告書によって、先に提起した課題はすべてクリアになったように思われる。研究会への参加団体は、国の関連省庁と主要飲料メーカー、大手卸、大手小売りそしてトラック業界団体、物流事業者、学識経験者など広範囲に及ぶ。産官学が発したメッセージの意義は決して小さくない。
  報告書が公表されて以降、筆者は機会をとらえては物流事業者に実施状況を確認するよう意識している。ただ残念ながら公表から1年以上を経過した執筆時点では、研究会関係企業も含めた荷主から明確な賠償ルールが示されたという話は聞かない。物流事業者から交渉の働きかけを行ったという例も確認できていない。
  筆者の拙いネットワークでの話なので、あるいは一部で動き出している可能性もあるが、全体的な動きには至っていないのは確かである。取り組む前に新型コロナに巻き込まれてしまってそれどころではない、という事情もありうる。
  ただ、過去のこうした研究会での成果が実行されないまま立ち消えとなってしまった例は枚挙にいとまがない。良品廃棄は、無駄で無意味な物流を発生させるだけでなく、年間600万トンともいわれる食品ロスの一因にもなり得る。「何が当たり前なのか見極めて判断、大胆に実行する」。菅首相の言葉を借りるまでもなく、物流業界に定着してしまった不合理な商習慣が一刻も早く見直されることを願ってやまない。

以上



(C)2021 Takeshi Yamada & Sakata Warehouse, Inc.


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