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物流人材

第463号 物流業における「同一労働同一賃金」の実務的対応(中編)(2021年7月8日発行)

執筆者  長谷川 雅行
(株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)

 執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会理事
    • (社)中小企業診断協会会員
    • 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    • 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか

 

目次

*前号(2021年6月22日発行 第462号)より

3.「2020年最高裁判例」を読み解く

(4)東京メトロコマース事件(正社員・契約社員A・契約社員Bは同社の雇用区分)

①事件の概要
  同社は東京メトロの子会社(以前は、「地下鉄互助会」)で、地下鉄の駅売店で働く有期雇用従業員(10年継続勤務の契約社員B)と正社員の処遇格差(本給、各種手当、賞与、退職金、褒賞制度の有無、時間外割増率)が、「労働契約法」第20条に抵触するか、争われた事件である。

②判決の概要
  判決は、
〇退職金→(不支給でも)不合理ではない
〇本給・資格手当・賞与→不合理ではない(高裁判決が確定した)
〇住宅手当・時間外割増率の差・褒賞制度→不合理(高裁判決が確定した)
とされた。

③筆者の考察
  最高裁で、「退職金」の格差(正社員は本給×勤続年数に応じた支給月数で支給。契約社員は不支給)が不合理でないとされたのは、退職金の性質は、「職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報奨的な複合的な性質を有
するもの」
であり、支給の目的は、「正社員としての職務を遂行する人材の確保、その定着を図ること」とされたことによる(なお、高裁では、「10年前後の長期間にわたって勤務していて功労報奨の性質を有する退職金を一切支給しないことは不合理として、正社員と同一基準の算定額×4分の1が相当」と判断されていたのが、逆転判決となった。退職金の性格については、最高裁判決において一部裁判官の補足意見もあるが、本稿では省略する)。
  また、「本給」「資格手当」「賞与」については、「不合理でない」とした高裁判決が最高裁でも支持され確定した。
  「本給」については、正社員は「年齢給+職務給」である一方、契約社員は入社時一律給(毎年昇給)と格差があったが、「正社員は長期雇用を前提とした年功的な賃金制度を設け、本来的に短期雇用を前提とする有期雇用とは異なる賃金制度を設計することは、人事施策上の判断として一定の合理性が認められる」とされ、日本的な「年功賃金制」が容認された。
  「賞与」については、正社員・契約社員とも支給されていたが算定根拠等に格差があったところを、「正社員賞与は個人の業績を反映させたものではなく、主に対象期間の労務の対価の後払いといえる。しかし、時間給の契約社員Bが大幅な労務の対価の後払いを予定しているとはいえない。長期雇用を前提とする正社員に手厚くすることで有為な人材の獲得・定着を図るという人事施策上の目的にも一定の合理性がある」とされ、「退職金・賞与」には「労務の対価の後払い」性格があるとされている。
  「住宅手当」「時間外割増率の差」「褒賞制度」については、格差は「不合理」とした高裁判決が、最高裁でも支持された。
  「住宅手当」については、「実際に住宅費を負担しているか否かを問わず支給されており、生活費補助の必要性は職務の内容によって差異が生じない。正社員(売店業務)であっても転居を必然的に伴う配置転換は想定されていない。会社は有為な人材の確保・定着を図る目的がある主張としていたが、手当の主たる趣旨から考えて契約社員Bに支給しないことを正当化するものではない」とされた。手当の趣旨・目的および、転居を伴う配置転換がある正社員とではなく売店業務に従事する正社員(実態はごく少数)と比較して「不合理」と判断されたものである。
  「時間外割増率の差」は、正社員のみに労基法で定めた割増率以上の割増率で支給するもので、物流業でも「早出・準深夜勤務」等で散見される。これについては、「労働基準法第37条の趣旨が時間外労働という特別な労働に対する補償であり、使用者に経済的負担を課すことによる時間外労働の抑制であることから、割増率に相違を設ける理由はない」と労働基準法の趣旨から厳しく「不合理性」が指摘されている。
  「褒賞制度」は、正社員に対してのみ「勤続10年で3万円。定年退職時に5万円相当の記念品」を贈る制度であり、「業務の内容にかかわらず一定期間勤続した従業員に対する褒賞という性格上、不支給は不合理である。契約社員Bも定年65歳であり、長期勤続が少なくない」とされた。
  同事件でも事業者(東京メトロコマース)側が、正社員・契約社員(A・B)ごとに予め就業規則を作成・届出していたこと、就業規則によれば、複数駅売店のエリア・マネジャー業務の有無など、正社員・契約社員B間の相違があったこと、契約社員から正社員への登用制度に実績があったことも判決に影響したと推測される。
  さらには、前述の通り、正社員全体と比較しているのではなく、売店業務に従事する正社員と比較していることが、判決の大きな特徴として挙げられる。

(5)日本郵便事件(大阪・佐賀・東京)

①事件の概要
  郵便業務を担当する正社員と月給・時給制の契約社員の待遇格差が「労働契約法」第20条に抵触するかが、大阪・佐賀・東京の各地で争われた事件である。とくに、郵便業務のうち、郵便ポストからの取集や届け先への配達という郵便外務は、宅配等の物流業と近い業務なので参考にされたい。
  原告の契約社員は、2007年10月1日の郵政民営化前から有期雇用契約が反復更新されており、郵便外務または郵便内務事務のうち、特定の業務のみに従事している。職場・職務内容を限定して採用され、昇任・昇格は予定されていない。契約期間は、月給制契約社員は1年以内、時給制は6カ月以内の有期雇用労働者である。

②判決の概要
  大阪・佐賀・東京の各高裁判決を経て争われた最高裁判決は、
〇扶養手当・年末年始勤務手当・夏期冬期休暇・祝日給・病気休暇・住居手当→不合理
(うち、「住居手当」は高裁判決が確定)
と、事業者である日本郵便が「全敗」に近い結果となった。
〇夏期年末手当(賞与)→不合理ではない(高裁判決が確定)

③筆者の考察
  まず、「扶養手当」は、正社員については扶養親族の種類に応じて月額1,500~15,800円を支給され、契約社員については不支給であり、高裁判決では「不合理ではない」とされたが、最高裁判決では、「相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、趣旨は妥当、有期雇用の更新を繰り返して勤務するものも存するなど、相応に継続的な勤務が見込まれているといえるので、労働条件の相違があることは不合理」と判断された。つまり、「扶養手当」は生活保障・生活設計のためのものであり、待遇差は「不合理」と言えよう。
  次に、「病気休暇」は、正社員については有給の病気休暇(勤続10年未満は90日、10年以上は180日)であるのに対し、時給制・月給制契約社員には、無給の休暇として1年度に10日の範囲内で取得可能とされていた。これは、東京高裁・大阪高裁も有給・無給の差が「不合理」とされ、最高裁判決でも、「有期雇用の更新を繰り返して勤務するものも存するなど相応に継続的な勤務が見込まれているといえるので、日数の相違はともかく有給か無給かについての相違があることは不合理」とされた。
  続いて、「夏期・冬期休暇」は、正社員には「労働から離れる機会を与えることで心身の回復を図ること」を趣旨に、夏期、冬期それぞれに3日の有給休暇を付与(6~9月に3日間、10~3月に3日間)する一方で、契約社員には付与されていなかったことに対し、各高裁では「不合理(勤続年数で不合理判断した高裁もあり)」とされ、最高裁判決でも「契約社員は、繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく、業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれているので、労働条件の相違があることは不合理」とされ、「夏期・冬期休暇は有給休暇として所定の期間内に所定の日数を取得できるものであるところ、それが与えられなかったことにより本来する必要がなかった勤務をせざるを得なかったため、財産的損害を受けたものとできる」と判断された。
  年賀状という郵便特有とも言える「年末年始勤務手当」は、「郵便業務の最繁忙期であり、多くの労働者が休日として過ごしている期間に業務に従事したことに対し、その勤務の特殊性から支給」する趣旨で、正社員には12月29日~1月3日に勤務したときに1日4,000円(年末)5,000円(年始)を支給する一方で、契約社員には「不支給」とされていた。これも「不合理(勤続年数で不合理判断した高裁もあり)」とされた高裁判決を支持する形で、最高裁でも「業務内容の難度に関わらず勤務したこと自体を支給要件としている点からも、契約社員にも支給することが妥当、労働条件の相違があることは不合理」と判断された。
  「祝日給」も年賀状時期という郵便特有の事情でもある「年始期間の祝日給」で、正社員には、1月1日~1月3日に勤務したときに、通常の給与に加えて割増手当を支給し、1月4日以降に特別休暇の取得も可能であることに対し、契約社員には割増手当も特別休暇もないというものであり、「夏期・冬期休暇」「年末年始勤務手当」同様の経過で、最高裁判決では、「有期雇用の更新を繰り返して勤務する者も存するなど、繁忙期に限定された短期の勤務ではなく、業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれている。年始期間の勤務の代償として祝日給を支給する趣旨は契約社員にも妥当するため労働条件の相違があることは不合理」とされた。
  業務の最繁忙期対策でもある「年末年始勤務手当」「祝日給」あるいは休日振替である「特別休暇」について、契約社員については「不支給」「適用なし」は、筆者もいかがなものかと思う。
  物流業でも、「年末・年度末の繁忙期」、とくに引越しでは「3月下旬~4月上旬」のピーク期、宅配等であれば「中元・歳暮時期」は、正社員や短期・有期雇用労働者に限らず、手当や振替休日を厚くして乗り切るのではなかろうか。旅行業などでは、GWやお盆・年末年始のピーク期の添乗には、通常の2~3倍の手当を支給しているとも聞く。
  「住宅手当」については、正社員は所定の要件に該当する場合に家賃や住宅購入の借入額に応じて、月額27,000円を上限として支給する一方、契約社員は不支給であった。高裁判決では、「転勤がある旧一般職との相違は不合理ではないが、比較対象である『転勤のない新一般職』との相違は不合理であり、住宅手当に長期的な勤務に対する動機づけの効果及び有為な人材を採用しやすくする狙いがあっても、支給しないことの不合理性は否定できない」とされ、高裁判決が確定した。
  最後に、「夏期年末手当(賞与)」については、正社員には夏期年末手当(賞与)が支給され、契約社員には臨時手当(賞与)が支給されていたが、高裁判決では「(正社員と契約社員で)職務内容、配置変更の範囲が相違しているので、手当に相違があることには一定の合理性がある。賞与には対象期間における労働の対価としての性格だけでなく、功労報奨や将来の労働への意欲向上としての意味合いも有し、長期雇用の前提として、将来的に重要な職務及び責任を担うことが期待される正社員に対する賞与支給を手厚くすることにより、優秀な人材確保・定着を図ることは人事上の施策として一定の合理性がある」として「不合理でない」とされ確定した。これは、「臨時手当」と名称は異なるものの契約社員にも支給されていたことが影響しているものと思われる。
  日本郵便事件では、業務範囲や配置転換等が、正社員と契約社員間で同一であるので、多くの待遇差で「不合理」との司法判断が下された。日本郵便の外務(取集・配達等)と比較して、多くの物流業でも業務範囲や配置転換等は類似していることが多いので、同事件の判決は大いに参考になると思われる。

※後編(次号)へつづく



(C)2021 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.

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