ロジスティクス・レビュー

第464号 物流業における「同一労働同一賃金」の実務的対応(後編)(2021年7月20日発行)

執筆者  長谷川 雅行
(株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)
    執筆者略歴 ▼

  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会理事
    • (社)中小企業診断協会会員
    • 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    • 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか

目次

*前号(2021年7月8日発行 第463号)より

4.正社員の労働条件引下げによる「同一労働同一賃金」

(1)格差の逆縮小と不利益変更

  「2020年最高裁判決」によって、日本郵便には是正措置が求められている。郵便物減少という事業環境の悪化に直目する日本郵便には、正社員19万3千人とほぼ同数短期・有期雇用労働者18万5千人がおり、今回「不合理」と判断された諸手当等の支給だけでも経営に与える影響は大きい。
  新聞報道等によれば、既に裁判が進行中であった2020年4月時点で扶養手当が見直される一方で、転居を伴わない正社員5千人の住宅手当を廃止するなど、逆に正社員の待遇を引下げて、「禁じ手」とも言える「格差の逆縮小」を図っている。
  諸手当が「賃金」に該当するかについて、賃金とは、「賃金、給料、手当、賞与その他の名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの(労基法11条)」とされており、「労働の対償」とは、原則として、①任意的・恩恵的給付(慶弔見舞金等)②福利厚生給付(貸金貸付等)③企業設備・業務費(作業用品の購入費等)以外のものであると考えられるので、「2020年最高裁判決」の諸手当は賃金に該当する可能性が高い。
  そこで、趣旨・目的に照らして、変更に際しては基本的に賃金の引下げと同様に合理性が求められれば、「不利益変更」としての労使協議等が必要になる。

(2)労働条件の不利益変更

  労働条件は、労働者と会社(使用者)の双方の「合意」によって決まるのが原則であり、合意によって決定された労働条件(雇用時の雇用契約書、就業規則など)は、使用者が労働者の意思に反して一方的に労働条件を変えることはできない。
  労働契約法第9条では、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない」と定められており、これが「不利益変更」である。
  次条である労働契約法第10条では、「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。(以下、「ただし書き」部分は省略)
  「不利益変更」に合理性があるかどうか、判例では以下の5要素を総合的に考慮して(4要素に照らして合理的か否かを)判断している。紙面の都合があるので、①~⑤の説明は割愛する。

①労働者の受ける不利益の程度
②労働条件の変更の必要性
③変更後の就業規則の内容の相当性
④労働組合等との交渉の状況
⑤その他の就業規則の変更に係る事情

  日本郵便が正社員の処遇を切り下げたことを「不利益変更」と捉えられて、非正規の処遇向上を目指す「同一労働同一賃金」の法制化の趣旨に反することにもなりかねないが、日本郵便ではJP労働組合との交渉・合意により、「転勤を伴わない社員の住宅手当の廃止」等を進めている。
  「パートタイム・有期雇用労働者法」の趣旨は、短期・有期雇用労働者の処遇を上げることであり、正社員の処遇を引き下げることや、賃金原資を一定にしたうえで正社員と短期・有期雇用労働者の処遇を決めること、さらには制度改正で全従業員を同じ処遇にすることは、立法時には想定していないと思われる。
  仮に日本郵便の正社員が「不利益変更を被った」と訴訟を起こせば、労働契約法第9条・第10条を巡って争われる恐れがある。
  日本郵便に限らず企業は、短期・有期雇用労働者からだけではなく、処遇の切り下げ(不利益変更)を理由に正社員からも訴えられるリスクも抱えることになる。

5.同一労働同一賃金に向けての早急な取り組みを

  「同一労働同一賃金」が2021年4月から中小企業にも適用されているにも関わらず、1項で述べたように、その取り組みが遅れているのではないか、筆者が危惧するところである。
  その取り組み方法・手順については、前回も述べた(重複を避けて、本稿では割愛する)。
  中小企業を会員とする東京商工会議所では、上記「2018年最高裁判例」「2020年最高裁判例」「ガイドライン」を基に、2020年11月に「同一労働同一賃金まるわかりBOOK」を作成し会員に配布している。
  同BOOKでは、取り組みの「対応手順」が図1のように示されている。

図1 同一労働同一賃金の施行に向けた対応手順

(出所:東京商工会議所「同一労働同一賃金まるわかりBOOK」)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

  図1手順と前回示したポイント・留意点を参考に、1日も早く取り組まれたい。その際、さらに幾つかのポイント・留意点(順不同)を付け加えておきたい。

ポイント1.先送りするほど不利になる
  仮に、正社員と短期・有期雇用労働者の格差つまり財産的損失が、月5万円に相当すると推計した場合、2019年民法改正により消滅時効が2年になったので、最大で5万円×24カ月分=120万円(総額)となる。裁判や行政(厚生労働省・労働基準監督署)による助言・指導やADRにより、「和解金」「解決金」等として支払うことも想定される。
  これまでも時間外賃金不払いや労災補償(過労死)等では、労働組合(ユニオン)や弁護士が乗り出して支援するケースもあったが、彼らが労働者から受ける成果報酬は20~30%と言われている。仮に総額120万円であれば、成果報酬は24~36万円となり、対象期間が長ければ長いほどユニオン・弁護士が関与することも想定される(逆に、早く取り組めば少額で済むとも言える)。

ポイント2.就業規則や賃金制度の改定を社会保険労務士・行政書士任せにしない
  図1の第5ステップのように、就業規則・給与規程・説明文書(いわゆる合理的な格差である「均衡待遇」を説明するための文書)等の作成については、社会保険労務士・行政書士などの専門家に依頼することになるであろう。
  しかし、雇入れ時や、説明を要求された時の説明義務は事業者(経営者や管理者、つまり営業所長・物流センター長)がしなくてはならない。説明文書を渡して「これを読んでおいて下さい」で、説明義務を果たしたとは言えないので、就業規則・給与規程・説明文書等については、マスターしておかねばならない。

ポイント3.ドライバーの均衡待遇=合理的格差は難しい(均等待遇=同一労働同一賃金)
  これは、「2018年最高裁判例」でも、多くの諸手当が「不合理判断」されている。「運転」という業務について言えば、「常時選任運転手(正社員)」でも「その他選任運転手(短期・有期雇用労働者)」でも、運転技能や責任は変わらない。
  ここで留意しておきたいのは、「東京メトロコマース事件」で不合理とされた「時間外賃金の割増率の差」である。正社員と短期・有期雇用労働者で「割増率」の差を付けている例は多い。是正にあたっては、「働き方改革関連法の改正」で決定された「月間60時間超の割増賃金」について中小企業では2023年4月から「50%以上の割増」が適用されることである。
  ドライバーの拘束時間が月間293時間(これも2024年4月からは、時間外労働の上限が年間960時間となる)の場合、単純計算で月間45時間分が「60時間超」となる。
  一方で、事務員については3項の(3)「大阪医科薬科大学事件」や(4)「東京メトロコマース事件」のように「職務内容」という「合理的格差」を付ける余地はあるのではなかろうか。例えば、同じ事務員でも、短期・有期雇用労働者の場合は、単純事務のみとし、正社員の場合は、「荷主等への簡単な用務=営業」を加えて単純事務・営業事務として、就業規則にも書き込む等が考えられる。

ポイント4.曖昧な手当は訴訟につながる
  前回も説明したが、総人件費を増やさずに済ませるため、曖昧な手当を設けている企業も多い。「2010年最高裁判決」で個々の手当の趣旨・目的に照らし格差の合理性を判断する見方が示されたことから、趣旨・目的が曖昧な手当は訴訟の火種となり得るので、図1の第2ステップで精査・整理しておく必要がある。
  廃止を実施すると、4項のように「不利益変更」となるので、本給や他の手当に統合加算する等の配慮が必要である。
  具体的な取り組みについては、前回の内容を参考にされたい。

6.おわりに

  「ガイドライン」自らが述べているように、各業界・企業ごとに異なる全ての賃金制度や福利厚生制度が「ガイドライン」でカバーされているわけではないので、「同一労働同一賃金」の施行に伴い、今後とも多くの裁判が行われることが想定される。最高裁判例は下級審を規制するので、大筋は、「2018年最高裁判例」「2020年最高裁判例」の流れに従うことになるが、両判例で示されていない賃金・諸手当等について、これからは「パートタイム・有期雇用労働法」での事案が出てくることになる。
  また、行政(厚生労働省・労働基準監督署)による助言・指導も、当面は「手探り」状態が続き、いすれは「助言・指導基準」が公表されると思われる。
  始まったばかりの「同一労働同一賃金」を、今後ともウォッチして新たな情報を提供していきたい。

以上


  
【参考資料】

  • 長谷川雅行「ロジスティクス・レビュー」第416・421~423号、2019年
  • 本稿中で掲げた各裁判の判例
  • 東京商工会議所「同一労働同一賃金まるわかりBOOK」2020年(なお、同書は東京商工会議所HPからダウンロード可能)
  • 岡崎淳一「働き方改革」(日経文庫ビジュアル 2019)
  • 日経新聞その他紙誌記事。


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