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マーケティング

第460号  料理宅配を真の消費起点バリューチェーンに:末端系物流の盲点を探る(2021年5月25日発行)

執筆者  野口 英雄
(ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表)

 執筆者略歴 ▼
  • Corporate Profile
    主な経歴
    • 1943年 生まれ
    • 1962年 味の素株式会社・中央研究所入社
    • 1975年 同・本社物流部
    • 1985年 物流子会社出向(大阪)
    • 1989年 同・株式会社サンミックス出向(現味の素物流(株)、コールドライナー事業部長、取締役)
    • 1996年 味の素株式会社退職、昭和冷蔵株式会社入社(冷蔵事業部長、取締役)
    • 1999年 株式会社カサイ経営入門、翌年 (有)エルエスオフィス設立
      現在群馬県立農林大学校非常勤講師、横浜市中小企業アドバイザー、
      (社)日本ロジスティクスシステム協会講師等を歴任
    • 2010年 ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表
    活動領域
      食品ロジスティクスに軸足を置き、中でも低温物流の体系化に力を注いでいる
      :鮮度・品質・衛生管理が基本、低温物流の著作3冊出版、その他共著5冊
      特にトラック・倉庫業を中心とする物流業界の地位向上に微力をささげたい
    私のモットー
    • 物流は単位機能として重要だが、今はロジスティクスという市場・消費者視点、トータルシステムアプローチが求められている
    • ロジスティクスはマーケティングの体系要素であり、コスト・効率中心の物流とは攻め口が違う
    • 従って3PLの出発点はあくまでマーケットインで、既存物流業の延長ではない
    • 学ぶこと、日々の改善が基本であり、やれば必ず先が見えてくる
    保有資格
    • 運行管理者
    • 第一種衛生管理者
    • 物流技術管理士

 

目次

1.料理宅配という新しいニーズ:リスク回避ばかりが先行

  昨今のコロナ禍で人々のライフスタイルが変化し、料理宅配という新しいニーズが高まってきた。これは従来からの飲食店出前と何が違うのか。出前という形態は飲食提供の延長線上にあり責任主体が明確であるのに対し、新しい形態では情報マッチング事業者がコアとなって集積化し、その前後の工程リスクを徹底的に排除する狙いがある。つまり調理や配送実務はあくまで個人事業で、自らのビジネスモデル責任は極力回避するというものである。

(図表―1:様々な食品宅配ビジネス)
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  (図表―1)に示すように今では様々な事業展開が行われているが、ブランドを背負ってビジネス展開する以上責任主体はあくまで主宰者にあるはずだ。
  消費者への料理提供を一つのサプライチェーンと考えれば、その対象商品は極めて高付加価値・ブランド化されたもので、その状態を的確に維持し、最終顧客の満足度を高めるという崇高な目的があるはずだ。これを原材料調達~調理~配送というプロセスで役割分担が行われているとすれば、全体プラットホームをプロバイダーが提供し、その業務運用を厳しく管理する必要がある。自動配車システムで不特定多数の飲食業を対象に、機能を提供するということであれば、その調理以降の工程では配車事業者に管理責任があるだろう。またできたての料理品である以上、単なる荷物の配送とは自ずと条件は違ってくる。
  ところが現実にはその情報処理機能を提供するだけで、実務はあくまでドライバーの自由裁量で行うとして、品質保証や交通安全等が個人のリスクに帰せられている。アメリカでは自由な時間に働くギグワーカーとして、州裁判所の判断は個人責任に傾いているようだ。だがイギリスでは逆の判例も出ている。日本においても働き方改革の一環としてこの業務を選択する人が増え、稼ぐ人は年収1千万円にも達するという。平均では2百万円程度らしいが、これでは単なる非正規労働の受け皿に過ぎない。既に登録ドライバーが4万人を超えているということでは、このまま看過することはできない。このような実態に対し、衛生管理・物流事業・交通安全・就労管理といった法規制が全く対象外ということは有り得ない。飲食店数は凡そ60万店舗程度であり、大手料理宅配では各4~5万店程度の顧客を抱えていると考えられている。

2.宅配が個人事業なら何の法的制約もないのか:究極の物流事業規制緩和?

  サプライチェーン運営として、ラスト1マイルの重要性は以前から叫ばれてきた。適時適量性が求められる一方で再配達リスクも大きく、物流事業者としてのチャンスは高まるものの採算性が厳しく、そして慢性的な人手不足である。環境問題としての課題も抱えている。更に料理宅配という新しいジャンルについて言えば、品質・衛生管理を基本に、如何に付加価値を維持するかという難易度の高いロジスティクスとなる。まさにこれも以前から問われてきた、消費起点バリューチェーンとしての運営そのものである。
  店頭や街で良く見掛けるようになった料理宅配は、まず輸送容器を床面に直接置き、素手でハンドリングしている。要冷商品では冷媒を使用するとはいっても、ほんの気休め程度であり、更に容器の洗浄や除菌をどうしているか等が気に掛かる。これが個人事業者であれば、全く管理されていないに等しい状況であろう。自転車による首都高速道路走行、歩道での人との接触、自動車への追突事故等が度々報道されている。使う自転車の盗難も起きたようだ。自転車といえども、まず道路交通法上の責任はある。

(写真1~3:料理宅配にまつわる風景)

  

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  運送事業として考えてみるとどうか。かつて大幅な規制緩和が行われ、車両の最低保有台数が5台程度まで緩められ、更に1台というのが究極の目的のはずだ。既にお隣の韓国ではそうなっており、日本で言えば白ナンバーが公認されている。自転車は自動車ではないので、事業用車両と見るかどうかは微妙だが、その使用目的が運送であれば運送用車両と見做すことも可能ではないか。宅配事業で使われているリヤカーも同様である。個人事業者といえども運送業が目的であるなら、物流事業法・衛生管理等の対象に含めていかなければ、ますます野放しということになる。

3.飲食バリューチェーンの大前提は品質管理:機能・責任分担

  サプライチェーンとしてのロジスティクスが基盤となり、商品やサービスの付加価値をどう高めていくかという、バリューチェーン・マネジメントが必須であることはもはや論を待たない。

(図表―2)ビジネスの必要要素
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  そして全体システムを一つの事業主体が一貫して見ることは不可能に近く、基本的には機能・役割分担ということになる。更なる前提は品質管理であり、これらが最終消費者に伝えられて一連の管理が完結する。機能分担の前提は管理基準が定量化され、管理状況が可視化され、責任所在が明確化されることである。これが工程間で次々と連結され、最終ゴールが消費者ということになる。
  膨大なサプライチェーン運営を、一事業者が行うというビジネスモデルももちろん存在する。原料調達や生産は海外で行い、販売も世界中に広がり、それに優れたマーチャンダイジングシステムをリンクさせている事例もある。運営の大前提はリアルタイムの情報把握であり、このプラットホームはその専門事業者を活用する。マーケティングとロジスティクスは企業運営の車の両輪であり、これはどんなビジネスモデルでも普遍的な真理として変わることはない。しかしこの理念をきちんと持っているビジネスが、果たしてどの位あるのだろうか。
  マネジメントとしての品質管理も、日本ではもうすっかり忘れられているのかも知れない。その出発点はまず管理状況定量化であり、これを管理基準に照らし判断し処置する。組織を上げて運動的に展開することが経営としての有効手法となるが、それだけに頼っていては時間ばかりが掛かり、トップダウンで行う課題と併用しなければ、改革には中々繋がらない。またトップダウンだけでは、実行に移す段階で種々の困難が待ち受けている。

4.活況を呈する末端系物流:料金設定とサービス

  人々の生活様式や価値観が大きく変化し、以前にも増してネット・TV通販や買物代行等に伴う、末端系物流が活況を呈している。その中心プレーヤーである宅配・軽車両等に加え、この料理宅配のような更に末端系を担う物流が求められてきているということであろう。しかし物流業としてはこれらの領域はリスクも高く、インフラとしての安定性も求められる。現状で盤石な体制とは言い難く、種々の課題が内在している。
  まず料金設定が業務用の数倍というレベルでは、真に消費者利益を追求している姿には程遠い。再配達や時間帯指定といったハイレベルのサービスのため加算されているという要素はあるが、原価計算方式が通常の運送事業とは別となっている感は否めない。低温宅配料金では更に固定額が上乗せされ、代替手段がないため競争原理も働かない。また人手不足のために、季節的なピークでは集荷を抑制すること等も容認される。一方物流事業法では小口混載便が別枠で認められているが、消費者領域では(図表―3)に示すように淘汰され、大手3社の独占になっていることも競争的な状況を後退させている。時間指定サービスを依頼してそれが守られないというケースも何度か経験しているが、ドライバーには厳重注意することにしている。街で見掛けるその基本動作にも、首を傾げたくなるような場面がある。車輪に歯止めを掛けていないケース、ドアを解放したままの戸口配達、それに昨今の衛生管理ニーズへの対応等々。マンションにおける宅配ボックスも、管理者による温度・衛生管理状況のチェックが必要である。高サービスレベルは高コストであることは否定しないが、コスト抑制努力も消費者サービスの大きな目的のはずだ。

(図表―3:宅配便事業者シェア:2018年度)
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  料理宅配では料金設定レベルが売価の35%程度の模様で、これで利用者側店舗コストをどれだけ下げられるかの努力にかかってくる。一方ドライバーへの支払い方式は定額又はランク制と考えられ、収受料金が変動制で支払いが固建制というのも採算管理が難しい料金方式である。この方式は本来認められていないが、センターフィーを商品通過金額の歩率とする方式が罷り通っている。物流原価は殆ど商品価額に関係せず、主に物理的要素で決定される。価額にスライドということは、高額商品に偏っていく危険性もある。いずれにしてもこの新規ビジネスが、飲食業のピンチを救うものになることが期待される。

5.更なる規制緩和への視点:真に経済活性化に寄与させる

  平成の時代に入り、(図表―4)に示すような物流事業の規制緩和が行われてもう久しい。果たして競争状況が活性化され、事業の高度化や業界としてのステータスアップ等に繋がったのか。料金自由化とは言っても旧料金体系やレベルが依然として存在し、顧客ニーズに対し全くの競争状態が実現しているわけでもない。物流がロジスティクスのレベルにステップアップし、サプライチェーンやバリューチェーンのレベルに進化することは、もはや夢のまた夢なのか。グリーン・ロジスティクスという重たい課題もある。今回の事例は、運送取扱事業に該当するだろう。

(図表―4:物流事業規制緩和)
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  前述した韓国の事例では最近のTV番組で、若い夫婦が1台のトラックをローンで購入し、宅配を手掛けて借金を返済し、個人事業主として成長していく姿を特集するものがあった。もちろんこれを組織化するプロバイダーの存在はあるだろう。アメリカの大型トラックドライバーも皆個人事業主であり、そのプロ意識たるや相当なものであることを見聞したことがある。多品種少量かつ変化の激しい日本市場で、末端物流がどう機能すべきか困難も多くあるが、だからこそ究極の規制緩和に向かってチャレンジすべきであろう。
  資本主義経済による利潤確保がますます枯渇し、既得権益を守ることに走りがちな昨今に対し、もう一度真の消費者サービスを目指して、コストや品質の競争にチャレンジしていく必要がある。品質の3要素とはコスト(価値と価格)・クオリティー(物だけではなくサービスを含む)・デリバリー(スピード・適時性)であり、これが競争力の源泉であることは言うまでもない。料理宅配という個人レベル事業者がこの競争に参加し、既存事業者が大きな影響を受けることは間違いないはずだ。

以上



(C)2021 Hideo Noguchi & Sakata Warehouse, Inc.

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