第71号流通システムのインフラストラクチャーとして~玉生 弘昌氏(株式会社プラネット 代表取締役社長)インタビュー~(2005年1月28日発行)
執筆者 | 玉生 弘昌 株式会社プラネット 代表取締役社長 |
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執筆者略歴 ▼
更なるコンテンツの充実を目指し、本年よりロジスティクスや経営の分野でのオピニオンリーダーたる方々へのインタビュー企画を開始致します。
初回は株式会社プラネット代表取締役社長 玉生弘昌氏。
主に日用雑貨業界における流通を、情報システムの基盤づくりの視点から見つめられてきた玉生氏に、”インフォメーション・オーガナイザー”としてプラネットを設立された経緯から現在、そして今後の展望についてお聞きしました。
――御社の設立からの経緯についてお聞かせください。
電気通信事業法の施行(1985年4月)で通信が自由化され、民間会社がコンピュータ通信を始めてもいいということになって、日々のB to Bの取引、まずは発注データ、そして納品データをコンピュータでできないかと考えました。しかし、やみくもにユーザーのニーズを聞きながら通信会社が作っていくと、会社ごとの要求レベルの違いや解釈の違いで、網がたくさん出来る恐れがあるわけです。それを“インフォメーション・オーガナイザー”ということで、業界VAN(Value Added Network付加価値通信網)構想の提案をして、「プラネット」を始めたわけです。それは今からいえばEDI(Electronic Data Interchange電子データ交換)であったわけで。発注データや販売データといった、基礎的な5・6種類のデータの中で、標準化・統一化すべきものはプロトコルとフォーマットとコードである、ということが業界の実務者から見てはっきりしていましたので、最初はそれらを中心に標準化をしたわけです。幸いニーズが具体的にあったものですから、次々にユーザーは増えていきました。ただ、大手のユーザーは工場や支店との間のコンピュータ通信の経験があったのですが、中にはコンピュータ通信をやったことがないという会社もたくさんありました。そういったところに対して、懇切丁寧に相談に乗りながら、一つ一つとつなげてきた、その地道な努力が報われて、以来19年ようやくEDIのユーザーに満足していただけるレベルのEDIができたと思います。
満足していただく一番のポイントは、発注データがしっかり通信されるということです。仕入れデータが通信されると伝票がなくなるとか直接的メリットはわりとあるのですが、全体の総合的メリットを享受するには、発注データの発信・受信がより重要です。そのパーセンテージが高ければ高いほど良くなります。そのためには、発注する側も単品別在庫管理がしっかり出来ていないと仕組みは作れないので、だいぶ苦労しました。ようやくメーカさんのほうもオンライン受注比率が8割・9割まできている、やった甲斐があったかなということですね。
――これらの取り組みが、プラネット様の企業理念“安全”で“中立的な”“標準化された”サービスに具現化されていますね。
このようにして本当に名実ともに欠かせない業界ネットワークになると、プラネットのサービスが途絶えた時、業界全体に影響が出るわけですよね。売上の9割をそれで仕事をしているとなると、パニック状態に陥りかねないわけですから、安全ということについては色々な手段を講じています。コンピュータの障害はありえないわけではないですし、また今日のようにインターネットEDIが発展してくると、電力とか、通信回線とかそういった支えてくれている既存のサービスがこけたら全部止まってしまう。また、なりすましとか破壊工作とか意図的に悪いことをする人もいて、かなり脆弱な構造の中にたっているわけです。そういうことを認識しながら、それでも途絶えないという二重化三重化の対策を費用と時間と人をかなりかけてやっています。安全対策について尽きることは無いです。2005年8月からはホットスタンバイで二重化して、さらに安全性を高めます。
――2004年2月にJASDAQに上場をされましたが。
このようなインフラとしての安全性、サービスの継続ということを考えますと、あるときどうもうまくないからやめたというわけにはいきません。未来永劫続けるための体制を考えて株式を公開しました。インフラとしての存在基盤をより一層強固にし、表も裏もない、日本の社会全体の中で認知される開かれた組織になろうということなんですね。今後も安全で標準化されたサービスを、広く安定的に継続するための大きな第一歩ということです。元々、業界大手ユーザーの出資によって会社が始まって、今後も安定株主になってくれますので、証券市場において問題が生じる心配はないと思っています。
【プラネットのサービス領域】
――プラネット様の現在の事業展開についてお聞かせください。
データベース事業は、「商品」と「取引先」の2つがあり、商品データベースについては今41000アイテムくらい蓄積しています。EDIの商品マスターとしての業界共有化を目的として始め、さらに画像にも対応していますが、それ自身の採算性というのは非常に難しいですね。ですから商品データベースをやって撤退したという会社はいくつもあるわけです。他業界でやっていても赤字ばかりでうまくいかないという話もたくさん聞いています。というのは、受発注だとか請求、在庫管理だとか事務合理的な使い方と、棚割りシステムみたいな情報系の画像のしくみ、つまりマーチャンダイジングの使い方で、マスターのニーズはかなり違うんですよね。それを両方やっているわけですから、かなり難しい。ただ他にないですから、求心力があがるという重要な事業の柱としてプラネットが重要な役割を果たしていけると思っています。
――今後ですが、今ある業界で底辺を広げるというよりも、御社としては常に新しい分野を開拓されるというご方針でしょうか?
ユーザーを増やし、データボリュームを増やしていくには、隣接業界に展開するっていうのは一番直接的な戦術ですよね。同じしくみで動くわけですからね、稼動率も上がる。幸いにもペット業界でも理美容業界でも業界団体が、介護用品でも多くの企業がプラネットを使うという話になっています。色々見渡すとね、園芸用品とか、DIY関係とか、要するに消費財のノーフーズ関係にはチャンスはあるし、またプラネットのしくみはそのまま適応できる世界ですからね。機会を見て、これからどんどん取り組んでいきたいと思っていますけどね。
もう1つの川上川下について、川上では既に資材EDIをやっていますけど、これはまだまだ時間がかかりますね。川下は、小売店EDIの標準が見えないから、なかなか旗振りも難しいですね。今現在コンピュータ通信の技術的な過渡期であって、混沌とした状態ですし。小売店については常にウォッチングしていますけれども、かなり難しいでしょうね。外資系なんかも話題が尽きないけども、今のところなんとも 言えないですね。
――外資系の中には、直取引について考えている企業もありますが。
そういった経緯も別にプラネットとしては、あまり関係はない。日用雑貨業界にしても加工食品業界についてもメーカの数が非常に多いですよね。たくさんのメーカの商品を扱いたいという小売店は、たくさんのメーカとの取引をしなきゃいけない。1000社に発注したら1000台トラックがくるんじゃ、たまらないわけですよね。だから、必ず中間結節点は必要なんですよ。卸店の役割は今後も必要でしょう。業界 サプライチェーン研究会では、中間結節点として意味のある規模は250億円以上、つまり日雑 (日用雑貨)を250億円以上売っていないと直販する意味はないというような研究結果を発表しています。直取についても今のところ非常に大容量で回転の速い商品についてだけのようですね。
――卸の再編、大口化が進みましたが、御社としてどのような対応をされてきたのでしょうか?
別に特に対応はしていないですよ。日用品雑貨業界の卸の再編成、集約化というのは、他業界以上に進んだんですが、2強ともビックユーザーですから、今後とも緊密な関係を保っていけると思っています。確かに卸店やメーカが合併すると、プラネットユーザーが減り売上も減るわけだけど、それ以上に拡大していますのでね。そのマイナス面はカバーできています。でも、合併してもデータ量は減らないですから。むしろ業界全体の流通機構ということで考えたら、プラス面のほうが大きいですよね。そもそもそういうことが我々の目的ですから、そうたいしたことではないですね。
――あまりデータが減らない、その理由というのはどこにあると思いますか?
やっぱり本部一括発注ばかりじゃないんですよね。地域別発注とか1日の中での発注回数が増えるとか。大手卸は多頻度バラ物流が得意ですからね、発注もきめ細かいですね。
――プラットフォーム事業は、具体的にどのような方向で進められているのでしょうか?
今、プラネットでは事務合理化ネットワークからマーケティングネットワークへという戦略があるんですね。バイヤーズネットがそうなんだけど。
EDIは、受発注やって、伝票処理をうまくやるという事務合理化の話なんですよね。それに対して、会社には情報系の仕事っていうのがたくさんあるんですよ。受注担当、請求書発行をしている人っていうのは、社員100人のうち数人しかいない。それ以外の人は何をやっているかっていうのは、ほとんど非定型の仕事をしている。流通の世界で言えばマーケティングとか、マーチャンダイジングとかね、営業とかね、そういったところでコンピュータを使ったネットワークっていうのが、ますます使われるようになってくる。で、今は個人的なスキルで、パソコン上手に使える人と、そうではない人との差がバラバラですけれども、そういうマーケティングネットワークをこの業界で標準化したものを展開したい、ということでバイヤーズネットをやっています。
――非定型とおっしゃいますと
非定型っていうのは、手順が決まってない。結果も必ずしも一定ではない。中身はどういうものかっていうと、分析・企画・調整なんですよ。マーケティングプランの立案をするときにも営業でも同じです。だから、商品情報もセールスプロモーション情報もデータベースで情報を提供し、分析をスムーズにやっていただくとかね、商談についてもこのバイヤーズネットを調整のための通信手段として使ってください、オペレーションはプラネットをお互いに使いましょう、という形を提案しています。これも放って置くといろいろなやり方がいっぱいできてしまうわけで、先に提案しているわけです。携帯メールとか、パソコンメールで商談もできなくはないんだけど、例えば来月のシャンプーのキャンペーンといって、メーカ何社にもアクセスしてやっと情報を集めて分析する、それが個々バラバラだったらかなりの手間になる。それを1つの統一した業界情報系ネットワークで提案したいということで、数年前から始めています。これはまだかなり時間がかかると思いますね。
もう1つ、この情報系っていうのは個々の発想、分析力によってなされるものですから、そのネットワークの使用者が誰だかは分からないよね。受発注だったら、発注担当者―受注担当者という特定の担当者だけど、バイヤーズネットではメーカのセールスが100人いたら、100人使えるわけですよね。そこのメーカとつながるというより、そのメーカの社員とつながるわけだから、B to E(Business to Employee)になるんです。それだけセキュリティも難しいですよ。だけどプロレベルで業務に使うんですから、セキュリティは徹底しないといけない。インターネットだとそのあたりが難しいですね。今そういうものを作ってこれで商談するから、毎月1万円払って商談で使えっていう小売店がいっぱい出てきている。そういうことをやられると困りますよね。ですからプラネットグループはメーカも卸もみんなバイヤーズネットでやりましょう、と提案しています。
――インターネットEDIに進出する経緯に関しては、ユーザーのご要望が強かったのでしょうか、あるいは御社として今後インフラとしてインターネットも無視できないという中で進出を検討したのでしょうか?
両方ですね。戦略的には広くあまねく、究極的には業界企業すべてつなぐということを考えたら、手段としてはインターネットになりますよね。また、そういった最先端テクノロジーについて対応していくのは、プラネットとしては当たり前の話です。確かに最先端でどんどんやってもね、ユーザーがついてこないっていうのもあるんですけど、先手打ってやるというのは、一歩リードして業界標準をつくっていくことになりますしね。昔は通信システムを作るっていうと開発費やサーバーのコストがすごくかかったけど、今はわりと安い。最先端のことを始めて、ユーザーが少なくても成り立つわけですから。
――経済産業省の委員(『流通・物流システム小委員会』委員)もお引き受けされていますが、ITを含めた今後の流通について、お考えをお聞かせください。
GLN(Global Location Numberグローバル・ロケーション・ナンバー)・GTIN(Global Trade Item Numberグローバル・トレード・アイテム・ナンバー)という新しいコードをグローバル標準といってやっていますよね。プラネットの世界では、ほとんどコードについては用が足りているんです。ただ日本全体でいいますと、ロケーションナンバーについては不統一なんですよ。標準取引先コードというのがあるんだけど桁数が足りません。登録している小売店は百貨店くらいしかなくて、実務的にはほとんど機能していない。だからそれをGLNでやれば、はじめて統一化される可能性がある。そのためにはいいことだと思いますよ。だけどプラネットはもうやっちゃってますからね。
それから、今経済産業省が熱心なのは、電子タグですよね。これについては物流面で、理想論を言うと個々に電子タグがついていると、レジの自動化とかスーパーの棚におけるリアルの在庫把握とかが非常に合理的にできる。技術的な理想論を言うと、 良いことがたくさんあることは間違いない。出版業界とか、偽物を防止したいブランド業界とか、熱心な業界もあるわけでね。聞いてみると切実なニーズは、万引きとか偽物とか盗難とかの防止、そういう世界ですね。流通段階で1.7%消えてなくなるアメリカでは、先進的に使っているといってもほとんど盗難防止。パレットごとなくなるっていうのがあるんですよ。そうするとパレットにつけたいとかね。日本ではそれほど流通段階でなくなるということはないから、安くなればっていうことなんだけど、どれだけ安くなれば個々のシャンプーや洗剤につくかっていうと、1/10になってもコスト的には非常に難しいですよね。ところがウォルマートが2005年から商品につけ始めています。読み取りエラーが4割あるそうですけれど、それでもやるのかと、今興味を持ってウォッチしようと思ってます。
――御社のインターネットEDIは、例えば携帯電話からWebにアクセスするという形を今後の展開として考えていらっしゃいますか?
当然モバイルについては考えています。やっぱりモバイルにするにはデータがアスキーにならなければできない。プラネットは19年前に出来て、システム・サービス始めたから、しくみはレガシーです。オープン系のしくみについては1999年から提案をして、2005年8月には完全なオープン系のサービスも出来る、文字コードはアスキーコードもできますよ。ただそのニーズがなかったわけですよ。日本のユーザー会社の定型業務の基幹系システムはほとんどアスキーではなくて、イビシディック(EBCDIC)コードですよね。それが現実ですから、1999年から全部アスキーだといっても誰もお客さんはついてこない。だけどいよいよお客さんもつくだろうということで始めます。インターネットにしても携帯にしても、もう世界標準はアスキーですし、情報系の世界は全部アスキーですよ。しかしインターネットを使ったネットワークはセキュリティーに問題がありますので、ベリサインという認証サービスをつけます。もちろん暗号化をします。
――ニーズとセキュリティを加味した上で、今後の展開も決定していくというわけですね。
まだ、各メーカにしても発注データや在庫データがアスキーデータになっているかというと、ほとんどなっていないんですね。お客さんの方がついてこないわけです。ただ、いつのタイミングでそういうグローバルスタンダードに対応していくのかっていうことは、ユーザーのニーズを 引き上げながらしていきます。時間はかかりますが、メリットは大きいですから、文字コード変換してでもやるユーザーはたぶん急速に増えると思うんですよ。展開は電子タグよりはるかに速いと思う。
――とにかく便利ですからね。
B to C の世界ではもう当たり前ですよね。プラネットがやっているのはB to Bの取引の中ですから、そこはかなり保守的ではあるんですが、ただ情報系については、これはどんどん進むと思います。ですから、今まで事務合理化ということに偏りがちではあったのですが、その基礎がある上で、今後としては、マーケティングの方へシフトしていこうと考えています。
――本日はありがとうございました。
以上
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