第72号物流業界に対応した経営分析・業績評価システムのフレームワーク(2005年2月10日発行)
執筆者 | 後藤 勇一郎 株式会社クエスト エンタープライズ・ソリューション部 ビジネス・コンサルティング部 ディレクター |
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目次
旧来型の企業の人事評価システムが変革を迫られる中で、より公平で従業員にやる気をもたらすしくみとしての業績評価システムが多くの企業の関心を集めているが実際の取り組みはまだ始まったばかりである。本稿においては、物流業界におけるITを用いた経営分析に基づき効果的な業績評価を行うしくみについて事例に基づいて検討し、より良いしくみとは如何にあるべきかについての考察を行う。
1.経営分析のための基礎データとは?
ITを用いた経営分析を行っていくにあたっては、基礎データとなる作業実績、在庫管理、財務会計等のデータを既存のシステムまたは新規に導入されるシステムより収集するしくみの構築が必要となる。実際に用いられるのはユーザーが指定した切り口(コスト積算等を行う単位:例えば組織や顧客)により、分析・レポート出力を行うデータウエアハウスのしくみを用いた経営分析用ツールであり、多くのソフトウエアベンダーによりERP(Enterprise Resource Planning:統合基幹業務アプリケーション)等の基幹システムの機能として提供されている。
基礎データ収集の実例としては、弊社にて開発を行った「物流原価計算システム」が挙げられる。現場において実績収集を行うWMS(Warehouse Management System:倉庫管理システム)を基にして下記のようなしくみで構成されている。
・入出荷、ピッキング、搬送等の作業実績データのインポート
・ABM(Activity Based Management:活動基準原価計算)を用いた原価計算と配賦
・ユーザーの指定した様々な切り口からの物流コスト集計
原価計算においては、大きく分けて作業費・スペース費・輸送費の3つの要素についてのデータを基幹システムより出来る限り詳細な形式で収集し集計する。特に作業者の作業実績、運送業者からの請求明細データ等については正確なデータが得られるような業務プロセスの見直し・修正も含めた対応が必要となってくる。
2.ITを用いた経営分析の手法について
EOS経営分析の手法のうち、ITを用いたビジネスインテリジェンスの機能として主に次のようなものが活用されている。
① ABC/ABM
活動基準管理(activity based management)とは、活動基準原価計算(activity based costing)によって、活動ごとに把握された原価情報などを活用し、コストの視点から活動の管理に重点を置く技法である。活動の分析を通じてプロセスのムダ(非付加価値活動)が明らかにされるので、リエンジニアリングを実施する際に役立つ方法とされている。システム機能としては、各コスト要素をアクティビティ(例えば、運搬のような作業単位)単位に分解して最終的にコストオブジェクトとして定義された属性によって集計する。
② バランススコアカードについて
’90年代初頭に米国で開発され、その後、米国の製造業、サービス業に広く浸透した業績管理手法。企業活動を「学習と成長の視点」「顧客の視点」「社内ビジネス・プロセスの視点」「財務的視点」という4つの視点で捉え、たとえば情報システムの再構築による経営革新構想などを、長期の企業ビジョンと戦略にリンクさせようとする手法である。
これらの方法は業績評価を行う際の基準データとなるものであるが、評価のためには更にそれらの管理指標を経営目標に即して集約するしくみが必要となる。
実績収集のしくみ
3.物流の経営分析指標と業績評価のしくみ
① 物流KPI
物流業界において経営分析を行うための主な指標(KPI:Key Performance Indicator)としては、
・業務の効率性・正確性に関するもの
(納期遵守、オーダーの正確性、在庫の正確性、返品のサイクルタイム、
配送のサイクルタイム)
・稼働率(設備、トラックの使用率)
・サービスに関するもの
(顧客のクレームの削減、返品削減、不良品削減)
・コストにインパクトをもたらすもの
(在庫、物流費削減)
等があげられる。主要KPIを見ることによって業務・運用の成否、達成度等を判断することが可能であるが、どの指標を重要視するかまたその重み付けは会社・業務によって異なる。
② 経営目標とオペレーション上の目標の統合的な管理
個々のオペレーションに関する目標(主に管理目標)は各部門の業務に対応して通常適切なものが掲げられており日報もしくは業務システムの集計により把握することができる。
例えば、
・作業生産性 経費削減、担当業務の改善
・システムトラブルの軽減 トラブル発生率、サービス対応件数
・管理上の指標 納期遵守率、欠品発生率、誤配率
・営業上の指標 売上高、新規顧客数
といったものを指す。しかし、個々のオペレーションを業績評価に結びつけるためには全社で共通となる経営上の目標について作業プロセスを明確化し、目標・アクションを設定し投資効果を把握するというサイクルが必要となってくる。全社目標となるのは、次のようなものである。
・管理手法の導入
・新規顧客の開拓
・システム投資効果の向上
・業務改善
・業界シェアの向上
各部門は部門単位の経営目標+管理目標を遵守する。KPI間のトレードオフを明確にし、かつ管理目標のみに偏ることのないようなしくみを作成する必要がある。従って現状のビジネスインテリジェンスのIT上の枠組みに目標管理の機能を付加したものが理想と考えられる。
③システムの導入と継続的な運用
経営分析システムの導入効果については様々な指標の組み合わせがありその関連性含めて評価していくことから最終的な見極めには1,5-2年程度の期間が必要となろう。
KPIの項目並びに経営目標とオペレーション目標のバランスの見直しはユーザー側のプロジェクトチームが主体となって定期的にレビューを行っていくことが望ましい。
またITツールのユーザーインターフェースはユーザーが容易に変更を行えるようなしくみをもつべきと考えられる。指標や評価方法を逐次修正することが必要となるからである。
以上
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