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インタビュー

第75号SCMの今後の方向性と企業のあり方~入江 仁之氏(ベリングポイント株式会社 ヴァイス プレジデント)インタビュー~(2005年4月15日発行)

執筆者 入江 仁之氏
ベリングポイント株式会社 ヴァイス プレジデント

 執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • ベリングポイント株式会社 ヴァイスプレジデント。
    • 約20年におよび、大手日本企業を中心に数十社のクライアントに対するコンサルティングの実績を有する。
    • 対象サービスは、事業戦略および、経営管理(パフォーマンスマネジメント、グローバル経営管理)から、サプライチェーン(顧客発注管理、調達管理、物流管理、生産管理、管理会計)、B2Bマーケットプレイス、CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント、顧客関係性戦略、セールス・マーケティング)、製品/サービス開発プロセスまでの領域におけるビジネスソリューションおよびシステム導入、ア
      ウトソーシング・ディールの経験を有する。
    • 製品/サービス開発(PLM)分野においては、日本で大手ハイテク企業を中心に他社に先駆けて本格的なプロジェクトを実施し、先駆的なコンサルタントとして評価されている。
    • 産業分野として、ハイテク並びに自動車、重電、消費財を中心とした製造業、運輸産業のクライアントに対するコンサルティングをはじめ、中央官庁、地方自治体や製薬業、金融業に対するコンサルティングの経験を有する。
    主な著書訳書
    • 「リエンジニアリング実践ノウハウ集」(JMAM),「企業変革」(ダイヤモンド社)
    • 「システム監査論」(DPC)
    • 「SAC(Systems Auditability and Control)Report(Institute of Internal Auditors)
    • 「ブラーの時代 :e コマースの新経営戦略」(ピアソン)
    • 「顧客の役割を重視するデマンドチェーンマネジメント」(ダイヤモンド社)
    • 「市場をリードする業務優位性戦略:実践サプライチェーン」(ダイヤモンド社)
    • 「インターネット資本論:21世紀型の資産形成」(富士通経営研修所)
    • 他 関係著書並びに関係学会等の論文、ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー誌等の専門誌の論文、ロジビズ等でのインタビュー掲載等
    講師・委員等
    • ハーバード大学留学後、日本において関係大学院での客員講師、国際学会等での基調講演、TVメディア等での活動、公認会計士協会コンピュータ委員会委員、グローバルロジスティクス研究会常任理事等を歴任他、担当産業分野および担当サービス分野で第一人者として認識されている。公認会計士。システム監査技術者。

 
  今回のインタビューは、約20年にわたり大手グローバル企業のコンサルタントとして活躍され、また多くのビジネス書・訳書を手がけていらっしゃる 、ベリングポイント株式会社 ヴァイスプレジデント 入江仁之氏に、主に企業のグローバル化、サプライチェーン・マネジメントの観点からお話を伺いました。

――入社された頃からサプライチェーン・マネジメント(以下SCM)という概念はあったのでしょうか。
  いや、私が始めた頃はSCMという概念はありませんでした。大手のグローバルメーカで、私が基幹業務の改革プロジェクトを行った時に、アメリカのサプライチェーン(以下SC)の考え方をふまえた先進的なモデルを作りまして、その事例を日本で紹介する時に「サプライチェーン・マネジメント」の名前で紹介した、そういった前後関係です。

――アメリカのSCMの構築は、日本よりもかなり先行していたと思うのですが。
  いや、そうは思わないです。アメリカのSCというのは、典型的な例ではトヨタシステムをかなり研究され、それをベースにBPR(Business Process Reengineering:リエンジニアリング)、SCという概念に取りまとめています。ですから、日本のJIT(Just In Time:ジャスト・イン・タイム)のしくみなどを元に、日本にきてトレーニングを受けたメンバーが、それをもっと良いものにしようと、 VA(Value Analysis:価値分析)とか、VE(Value Engineering:価値工学)とか、TQM(Total Quality Management:総合的品質管理)とかそういう様々な経営理論を包括的に概念化して、色々な会社に適応できるモデルを作った、というのが基本的な考えです。また、日本はかんばんでオペレーションをしていましたから、現場で目で見る管理であったのですが、アメリカに入った後に 情報システムによって武装化されました。さらにBPRの中にゴールドラッドのTOC(Theory of Constraints:制約理論)などの理論も出てきて、 SCの概念は成熟していきました。つまり、SCのモデルには、TOCのような考え方もあれば、トヨタシステムのような考え方もあって、といくつか流派があるわけです。私が大手グローバル企業で日本での SCMを構築した時には、両者を統合するようなモデルを取り入れました。カンバンシステムをベースに、アメリカのSCの考え方を取り込んで、需給調整やリードタイムの短縮化を行って、在庫を最適化させたわけですけれども。

――SCMを進める前提としてモノと情報の共有化があり、中でも情報システムは核となると思われますが。
  そうではないと思います。情報の共有によって在庫をコントロールできますから重要ではありますけれども、組織、人、そして業務プロセスを含めた上で、情報システムと連携させて改革することが重要だと思います。それをPPT(People・Process・Technology)と呼んでいますが、この3つを統合して改革することがポイントになります。情報システムを入れても業務改革ができていなかったり、目標とすべき在庫の削減、リードタイムの削減ができてなかったり、そういったことはよくあります。業務がどれだけ改善されるか、改革されるか、業績が向上するかという方が、より重要だと思います。インパクトとしてはそちらの方が大きいから。

――ITはあくまで手段であって、本当にSCMを実現するには、それを使って業務の改革を推し進めることが重要であるということでしょうか。
  ええ、そうですね。

――近年では、国内メーカでもSCMという言葉が頻繁に聞かれるようになりました。
  SCという言葉は、言葉として年数が経っているので、「何を指しているか」という受け止め方や、「それで何をすべきか」という問題意識も各会社、各人各様で違ってきています。ですけど、94年に私がSCを紹介した時から申し上げているのは、SCっていうのは当時のBPRやSIS(Strategic Information System:戦略(的)情報システム)と違って、基幹業務、或いは業界をまたがった業務プロセス、或いはモノの流れ、情報の流れ、それらを総合的に把握する考え方であって、はやりの言葉で捉えるべきものではないと言ってきています。

――概念としては一時的なものではなくて、恒久的に重要な概念であると。
  ええ。そのSCという基幹の業務は存在し続けるはずですから、その対象業務領域をSCということは変わらない。

――今まで、日本を中心としてグローバルに展開されている企業のSCM構築をご経験されてきたと思いますが、グローバルな視点からのSCMについて、お聞かせ頂きたいと思います。
  従来日本の企業は、日本でモノを作って海外に輸出するというのが基本的な流れだったわけですけれども、今、例えば中国で生産が拡大していて、日本への輸入も増えてきています。昨今は中国で生産したものをアメリカに輸出する、ヨーロッパに輸出する、そういったケースも出てきていますし、会社によっては生産能力が余ったヨーロッパの工場から東南アジアに売るといった流れもあるわけです。そこでSCのしくみも、モノを1つの国で作って複数の国に輸出入するというモデルと、複数の国で作って複数の国に輸出入するというモデルでは、全く違うものになります。モノの流れもお金の流れも、情報のコントロールの仕方も全然違ってきます。生産だけではなくて、製品開発というファンクションをどこに持つべきかという議論も出てきているわけで、これは究極どうなるかと言うと、従来から私が申し上げているんですが「トランスナショナル型」のモデルに変わっていくことになるはずなんです。輸出型の「インターナショナル」であったり、あるいは各国で独自に運営をしてやっていく「マルチナショナル」というモデルであったり、いくつかモデルがある中で、これからは地球上で最適なところで研究し、最適なところで生産して、でターゲットとする場所へ最適な方法で納入していくと、そういうモデルを構築する必要があるんです。実際、そういう形を実現するチャレンジが、今グローバル企業では起こっています。輸出入のモデルであったり、決済のしくみであったり、或いはキャッシュマネジメントのしくみであったり、それらを入れているところです。そして全体を統括してモノの流れを掌握するというしくみを入れ始めています。

――アジアが台頭に関しては、安くて品質の良いものが出来、コストの削減という意味でも注目されています。
  そうですね。今グローバル化はどんどん進んで、「オフショア化」は1つのトピックになっています。システム開発、あるいは業務処理をアジアに移転し、オフショア化することによってコストを削減する動きはかなり進んでいますし、それをベースで長期的なデフレ基調というのが起こっているのではないかと思います。

――そのような海外への「オフショア化」が進むことによる物流への影響について、考えをお聞かせください。
  どういうルートで流すかというオペレーションの方法に、今各社が取り組んでいると思います。ダイレクト・シッピング、ダイレクト・デリバリー、あるいはドロップ・シップとか。そういった考え方でやるべきなのが、グローバルSC、国内のSCでも言える基本的な考え方であって、だからこそ今、中国から直接アメリカに輸出する、あるいはヨーロッパからオーストラリアに直接輸出する、ということをやっているわけです。
  「ハブアンドスポーク」という考え方もありますが、それはSCのネットワークの最適化のシミュレーションをして決めるべきことであって、当然にハブをどこに作ればいいという話にはならないと思います。どこかへ集めるっていうのはモノが滞るわけで、そこでまたハンドリング・コストもかかります。ただ、物流とは別に商流に関しては、利益を税金の高いところで発生しないようにするために、どこを通すかということは別途判断しその処理プロセスを構築する必要があります。

――ITの観点から、インターネットを使用して、双方向の通信ができるようになり、従来の既成概念にとらわれないようなサービスを提供できるようになりました。
  いろいろな局面があります。ですから、インターネットを使うビジネスというのは基本的に双方向に、多対多でコネクションされていくというところで、従来とは違うしくみというのが実現できます。例えば価格付けについても、固定の価格で全ての人たちに同じ価格で販売するということではなくなって、お客によって、時間によって価格が違ってくるわけです。そういった価格によって需給を調整して、利益の最大化を図るということもできます。重要なお客に対しては特別な対応で、価格も違うし、サービスの中身も違うということができるわけです。ダイナミック・プライシングという考え方です。あるいはプロモーションの‘販売’についても、今まで受身の販売だったものに対して、こちらからのアウトバウンドコールによって販売のプロモーションをかけることも出来るようになっている。そういうしくみは特に需要と供給を結びつけるところで増えています。例えばオークションや、リバースオークションですとか。
  なおかつ、個別のサービスが提供できるようになったことで、いろんなモデルが出てきています。例えばアメリカやヨーロッパでは病院の診断などもインターネットを使って、オフショアでサービスする、そういったことがかなり増えてきています。その裏側で、インドでカルテを読み取って電子化し、かつ専門の医者がアドバイスするしくみができている。そうすると、国をまたがって、一番コストの安いところでのサービスができるわけで、オフショア化はますます進んでいくと思います。
  企業でも、製品開発の設計ファンクションをインドや中国でやるとか、インドの専門家がシミュレーション、リサーチしてレポートを出すとかといったことが実際出てきています。今われわれが関わっているところも、オペレーションについては可能な限りオフショアで業務を終了するという形でプロジェクトを進めているところもあります。日本で何割っていう人間がいても、何割しか必要ないんじゃないか、という発想で。そうするとオペレーションも、日本でやらなくちゃならないものと、あとは地球上で最適なところでやるべきものというのが個別に分担されて、結び付けをインターネットでやるというモデルです。
  ダイナミックに多対多で個別にサービス提供ができるようになってきましたから、従来型とは全く違う考え方で、今の有効なポイントを生かせるようなしくみをつくっていって、実際に具現化できた会社が成功するんじゃないかと思います。インターネットという場は、情報を多人数でシェアする、共有化するというより、実際に複数の多人数の人たちが処理をする場ということです。

――現在、物流業界では、例えば貨物追跡、コスト計算のシミュレーションという観点で、かなりITの進展が見られます。
  もう1つ、輸出入のドキュメント処理とか、各国の規制に対応したそういう処理まで自動化させて、そこでモノの滞りとかを全部モニタリングするというしくみを各社入れ始めています。アメリカですと、ホームランドセキュリティという組織ができました、9.11以降。そこで、例えば、1日前に通関の情報をもらえないと通関処理が滞るとかというようにいろいろな規制があります。そういった各国の規制はどんどん変わっていきますので、随時更新して対応していくという話が今出ています。

――SCMの取り組みの中で、サービスレベルの維持とか、在庫のコントロールをしていこうと思いますと、やはり末端の顧客に全て同様のサービスを提供するのではなくて、顧客をセグメンテーションして対応していくこと、つまり CRM(Customer Relationship Management:カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)の概念も必要と思われますが。
  基本的には、顧客のニーズにどれだけ対応するか、によってしくみを考えていくことになると思います。そこでまず、顧客のニーズをどうやって判断するかということですが、どれだけの利益をもたらすかっていうのは顧客によって当然違ってくるわけですから、重要な顧客と重要でない顧客、あるいはその会社が対応するにあたって主観的な判断で重要かどうかという判断がなされるべきです。それに基づいて対応する製品の販売、サービスの提供、また営業の活動に、どの程度のコストをかけて顧客を管理していくかと考えるべきで、そこでABCの分析をやるべきだと思います。そういうところまでやっているところは、特に日本ではなかなかありません。顧客別に税引き前利益まで把握して収益性を管理する、ということはなかなかやられていない。顧客別に重要性をみて、サービスするコストを考えて、顧客のニーズに対応するしくみを構築して対応していくことが基本になっていくと思います。これらは時系列、経年推移で把握するのが重要で、そこまでやるべきだと思います。そうしますと自ずと投資すべきでない、かけるべきでないコストがかけられているケースもありますし、あるいはもっと対応すべきところが対応されていないということもあります。無駄なコストの削減というだけで利益がかなり出る場合も私が関わっているケースではよく出てきています。
  この傾向は業界によって差がありますが、航空業界ではかなり先行しています。これはフライト・プロフィタビリティ・マネジメントということで、長期、中期、短期から、フライトの収益分析をして随時利益を最大化するようなオペレーションをしています。長期というのはフライトをどこのルートに飛ばすかとか、座席の予約率に従って航空券の販売の価格を変えるとか、そういった様々なオプションを貢献利益ごとに、長・中・短期で把握して最適化するモデルが出てきています。

――お客様個々のニーズをできるだけ取り入れると、どうしても物流では多頻度小口が増えて、その結果、物流コストは増加してしまいます。
  それはシェアードサービス化する必要があって、各社が取り組んできているものです。ある地域に配送するところでは同じ便に乗せるとか、複数の物流業者が持ち寄って共同配送便で配送するとか、あるいは最終のユーザーのところまで共同で持っていくとか、という取り組みは出てきています。多様なニーズに対して多頻度で多様なサービスをしていくというのが当然流れとして重要ですが、一方でスケールメリット、規模の経済性を追求する必要があります。1つの業務について1つの会社から受託するのではなくて、複数の会社から受託することによって共同化して、束ねることでコストを削減することをしないと、業績はうまく向上できないわけで、両方を実現させるモデルを考えて入れていくのが重要だと思います。

――中小企業の場合でも、自分の得意な分野を生かしていければよいと。
  そうですね、あとは連携して。そうすることによって、しくみが作られていくわけです。あとは、そのしくみの中で、規模の経済性(Economy of Scale)がその領域だけでできるかどうか、です。それは幅の経済性(Economy of Scope)という言葉で言うこともあります。どれだけ自分が決めた領域で、幅を広くできるかということです。

――最後に、今後の企業のあるべき姿というところで何か付け加えることがあれば、お考えを頂戴できればと思います。
  私から申し上げたいのは、SCがどこまで出来ているか出来ていないかという議論がよくありますが、そういうことはあまり有意義な議論ではなくて、重要なことは、環境が変化している中でより良いモデルが何かを常に追求して、実現していくということで、それをやっている企業が生き延びていくと思うんです。そして成功している会社は、実際幾つか今ご紹介しました取り組みをされていて、業績を上げて、結果的に株式時価総額が高い会社になっています。だから、環境の変化にいかに対応できるかっていうことを1つのテーマにして考えていくのが良いと思います。

以上



(C)2005 Hiroyuki Irie & Sakata Warehouse, Inc.

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