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第523号 【緊急寄稿】100日を切った物流2024年問題(前編)~(2024年1月11日発行)

執筆者  長谷川 雅行
((一社)日本物流資格士会 顧問)

 執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    • 2017年(一社)日本物流資格士会 顧問
    活動領域
    • 日本物流学会
    • (一社)日本SCM協会
    • (一社)日本物流資格士会会員
    • 流通経済大学客員講師
    • 港湾短期大学校非常勤講師
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師

本論文は、前編と後編の計2回に分けて掲載いたします。

目次


  新年明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
いよいよ「2024年」になりました。「物流2024年問題」がスタートする4月1日まで、100日を切りました。

1.はじめに「物流2024年問題」とは何か

  国土交通省(以下、「国交省」と略す)の資料によれば、「物流2024年問題」とは、以下のように説明されている。
①物流業界は現在、担い手不足やカーボンニュートラルへの対応など様々な課題を抱えている。そのような中、2017年6月改正の「働き方改革関連法」に基づき、自動車の運転業務の時間外労働についても、2024年4月より、年960時間(休日労働含まず)の上限規制が適用される。
②併せて、厚生労働省がトラックドライバーの拘束時間を定めた「改善基準告示」(貨物自動車運送事業法に基づく 行政処分の対象)により、拘束時間等が強化される。
③この結果、我が国は、何も対策を講じなければ物流の停滞が懸念される、いわゆる「2024年問題」に直面している。
  新聞・テレビなどのメディアは、売上げや視聴率至上主義のためか、4月になれば、すぐにでも「ドライバーがいなくなる」「貨物が運べなくなる」かのように、いささか無責任に、あるいは面白おかしく「オオカミ少年」のように、こぞって危機感を煽り立てているのではないだろうか。
  筆者は、本ロジスティクス・レビュー誌 第500号(2023年1月17日) 第502号(同2月21日)の「 100日を切った物流『2023年問題』500日を切った『物流2024年問題』(前編・後編)」で、早期の対策取り組みを提案した。
  しかし、最近の各調査を見ていると、取り組みは捗々しくないようである。このままでは、行政・荷主・トラック業界が懸念している「2024年問題」が、4月以降に現実のものとなってしまう。
  そこで、取り組みが遅れている(と思われる)中小トラック運送事業者が、3月末までに今すぐ行うべき対策に絞って、取り組みを進めることを再度訴えたい。一部が、500号・502号と重複することはご容赦されたい。
  なお、お断りしておくが、上記の「自動車の運転業務の時間外労働の上限規制」オーバー即ち、「労働基準法」違反による罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)も、4月1日に即日課されるのではない。
  各労働基準監督署(労基署)が4月以降に、時間外労働時間の実態を踏まえて(現認して)適用されることになる。これまで同様に、重大交通事故を起こした事業者や悪質な事業者から適用されるのではないだろうか?仮に、時間外手当の不払いなどがあると、ドライバーが労基署に駆け込んで調査が入るということも想定される。
  繰り返すようであるが、冒頭述べたように、「物流2024年問題」は4月1日からスタートするのであって、「4月1日(あるいは前日の3月31日)」がゴールではない。4月1日以降も引き続いて取り組んでいかねばならないのである。

2.今すぐ取り組むべき対策

  「対策」以前に、まずは、いま一度「物流2024年問題」とは何か、正しく理解する。それには、(公社)全日本トラック協会(以下、「全ト協」と略す)のサイト「知っていますか?物流の2024年問題」をご覧頂きたい。
https://jta.or.jp/logistics2024-lp/

図1 全ト協サイト「知っていますか?物流の2024年問題」トップページ
(出所)全ト協ホームページ
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

  同サイトでは、上述の国交省の説明が、データ付きで分かりやすく説明されている。なお、国交省・全ト協では、「物流の2024年問題」と表記されている。これは、上記メディア、とくに新聞は「見出し」の字数を減らすため、「2024年問題」「24年問題」など短縮・省略して記載するが、人手不足に起因する「2024年問題」はバス・タクシーの旅客輸送、あるいは建設業にも共通する。そこで、わざわざ「物流の~」と表記しているのではなかろうか。
  閑話休題。
  全ト協のサイトには、「2024年問題(働きか方改革)特設ページ」もあり、関連法令や各省庁の資料をはじめ、以下に述べるような対策を進めるに役立つ情報が掲載されているので、こちらもご覧頂きたい。
https://jta.or.jp/member/rodo/hatarakikata_tokusetsu.html

図2 全ト協「2024年問題(働き方改革)特設ページ」トップページ
(出所)全ト協ホームページ
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

  同ページは、会員向けであるが、一部「会員専用」情報以外は、誰でもアクセスして資料をダウンロードできる。
  さて、筆者が「残り100日を切った時点」でお薦めする主な対策は、順不同で、
(1)勤怠管理を適正に行う
(2)運行計画を見直し拘束時間を減らす
(3)労働環境・労働条件を改善する
(4)ドライバーを確保(採用・育成)する
(5)輸配送システムを変更する
(6)ITシステムを活用して物流DXを推進する
といったところであるが、(4)~(6)は誌面の都合もあり、時間が掛かり「100日」足らずでは間に合いそうもないと思われるので、またの機会にしたい。
  ここでは、喫緊の対策として(1)~(3)について、筆者の持論を述べたい。

(1)労働時間管理を適正に行う

  「何をいまさら」と思われるかも知れないが、ある調査(2023年11月実施)では、「トラックドライバーの労働時間の集計が正確にできているのは3割以下」という驚くべき結果が示されている。10社に7社は、自社のトラックドライバーの労働時間を正確に把握していないことになる。
  その他の調査でも、「自社のドライバーに『物流2024年問題』を知らせていない」、さらには、「物流2024年問題を知らない」という耳を疑う回答もある。
別の調査では、ドライバー側からも「勤務先で2024年問題に関する研修や説明があったか」について「何も行われていない」が77・0%という結果も出ている。「ドライバーに知らせない」のは、賃金を上げたくないからかも知れないが、これだけメディアが報じても「知らない」のはいかがなものだろうか。
  またまた、閑話休題。

図3 「物流2024年問題」の調査事例
(出所)jinjer株式会社 物流・運送業界における勤怠管理に関する実態調査サマリー。同社HPより
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

  自社のトラックドライバーの労働時間を正確に把握していないのは、
①「拘束時間」は改善基準告示違反とならないようにデジタコ等で把握しているが、拘束時間から休憩時間あるいは、賃金の支払い対象にしていない手待ち時間を除いた「実労働時間」を正確に把握していない(国交省の監査対象である運転日報には、労働時間を記載する義務がないため)。
②賃金が、実際の時間外労働時間に基づかす、ドンブリ勘定で「月〇〇万円」と生活給を最低保証するような形で支払われており、正確な時間労働時間を把握する必要がない。
③労働時間管理のためにタイムレコーダーを導入すると、ユニフォームへの着替え時間や、点検点呼の所要時間も労働時間に入ってしまう(タイムレコーダーに依らなくても、労働時間である)ので、労働時間は運転日報などから手書きで管理している。
等の理由が考えられる。筆者の経験でも、このような中小トラック事業者がある。
  ②については、退職金や賞与に跳ね返る「基本給」を上げたくないため、行政書士・税理士の先生方の指導もあって、残業手当・食事手当・歩合給等の諸手当の引き上げにより、長年対応してきた結果、賃金体系が歪んでしまい、同一労働同一賃金の裁判では、最高裁で会社側敗訴となった事例もある。
  労働時間管理のイロハは、出退勤時刻の把握と実労働時間の算定であり、まず、これを適正に行わねば、「物流2024年問題」解決は覚束ない。さらに、ドライバーの労働時間管理を正確に行わなければ、労働基準法に違反し、罰則の対象になる可能性がある。
  上記調査で労働時間を把握していない7割以上の会社は、ドライバーの時間外労働時間の実態調査を、最低でも過去3カ月分行うべきである。そして、上限規制に引っ掛かりそうな「時間外労働時間80時間超」となっているドライバーからヒアリングして、長時間労働となっている問題点を抽出する。
  なお、労働時間管理は「勤怠管理」とも言われるが、「怠」は「怠ける・サボる」の意もあるので、筆者は労基法等に従い「労働時間」管理という用語を使いたい。

(2)運行計画を見直し拘束時間を減らす

  次に、現在行っている日々の運行計画(運行指示書)を見直し、拘束時間を減らせないか、運行管理者とドライバーが協同で検討する。
  例えば、運転日報等から手待ち時間のデータを収集し、それぞれの手待ち時間の原因等を探る。
  ドライバーは時刻指定等の「余裕」のため、「早め早め」と行動しがちになる。指定時刻に遅れて荷主から叱られるのは、まずドライバーなので仕方ない。
  筆者の経験(東北から関東への運行)では、当初は指定時刻の「30分前に到着するよう営業所を出発」していたのが、いつの間にか「1時間前に到着するよう出発」が常態化していた。運行記録をチェックすると、荷主へ行く途中のCVSで時間調整(休憩)していることが分かった。筆者から運行管理者に、「ドライバーと話し合って、元の30分前に戻すように」提案したこともある。
  「手待ち時間」については、「バース待ち」「積卸し待ち」など荷主の理由によるものが多いが、自社で解決できる問題と、解決できない問題を仕分けて、自社で解決できる問題について、改善策を実施する。
  上述の例では、1泊2日運行として、発荷主へは月11回(22日稼働)とすれば、30分×11回=15.5時間(月間)の拘束時間の削減になり、労働時間も削減できる(手待ち時間全てが、賃金支払い対象時間とは限らないが)。
  長時間労働を短縮する特効薬はない。運行計画と実態をチェックして、「ここで10分」「あそこで15分」と改善していけば、「塵も積もれば山となる」で時短の成果が出てくる。
  ところが、運行管理者(多くはドライバー経験者)としては、ドライバーから嫌われたくないので、ドライバーには強く言えない場合もある。その場合は、運行管理者以外の経営者・管理職からドライバーに徹底することも必要である。
  運行計画は、荷主から引き受けた輸送条件(リードタイムなど)に基づいて、運行管理者が作成するが、ドライバーの労働時間に関する規制にあわせて調整することも必要である。
  運行計画の作成・調整には、荷主に協力を求めることも手掛けたい。荷主都合による手待ち時間など、自社だけで解決できない問題について、荷主との協同による改善策を検討する。

(3)労働環境・労働条件を改善する

  労働環境や労働条件を改善することは、働きやすい職場づくりに欠かせないので、不断の見直しが必要である。労働時間の長さや給与水準などがドライバー不足の原因であり、働き方や処遇に不安がないことが、離職を防止するカギである。
  労働時間(2024年4月以降の「時間外労働の上限規制」や給与を正しく伝えた上で、
車両や休憩施設の整備、健康管理の充実などの職場環境づくりを始めたい。

※後編(次号)へつづく

【参考資料】
1.(公社)全日本トラック協会ホームページ
2.jinjer株式会社ホームページ「物流・運送業界における勤怠管理に関する実態調査」
3.国土交通省「原価計算の活用に向けて」2017年
4.国土交通省「トラック運送事業者のための価格交渉ノウハウ・ハンドブック」2017年
5.(公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流変革の波:2024年問題対応に向けた実態調査レポート」ほかホームページ
6.内閣官房・国土交通省・経済産業省・中小企業庁・資源エネルギー庁・公正取引委員会のホームページ
7.日本経済新聞・カーゴニュース・LNEWS・ロジスティクストゥディ等の記事
8.長谷川雅行「 100日を切った物流『2023年問題』500日を切った『物流2024年問題』(前編・後編)」ロジスティクス・レビュー誌第500号(2023年1月17日)・502号(同2月21日)

以上



(C)2024 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.

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