第418号 共同・協業化の規模の経済性で効率化・省人化を考える。(前編)(2019年8月20日発行)
執筆者 | 髙野 潔 (有限会社KRS物流システム研究所 取締役社長) |
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執筆者略歴 ▼
目次
1.はじめに
100年に一度と言われる日本の物流業界の変革が訪れようとしています。
これからも続く人手不足を少しでも補う手助けになればとの思いから約20数年前に物流の集大成として取り組んだ「中小企業流通業務効率化促進法」の契機と言われた共同・協業化物流をご紹介し、ロジスティクス4.0時代の中小・中堅企業の次世代の活性化の一助と限られた労働力(人手不足)の下で省力化、省人化を可能にする共同・協業化で変革(拠点内物流の効率化、配送の活性化)を目指して欲しいとの思いを込めて記述してみました。
この未曽有の変革の時代に物流を業とする中小・中堅企業は、経営統合、または、経営統合を考えずに共同・協業化の推進で生き残る術を探り、実行する時が来たと考えます。
これからは、共同・協業化でスケールメリット(規模の経済性)を享受できる商圏の醸成、商物分離で物流連携、配送網の再構築でビジネスプロセス・リエンジニアリング(拠点内物流と配送業務の最適化)の研究を行い、物流拠点と物流システム(仕組み)、情報システム、配送ネットワークなどの共同・協業化の実践概要と単独企業以上の省力化・省人化の成果を実現した事例をご紹介したく思います。
2.事業の目的・狙い
中小・中堅企業の事業の目的は、当時の消費者ニーズの多様化(多品種少量納品)、情報化の進展、新しい小売業態の展開、メーカー、小売業の大型化などに伴い、卸業としても流通の近代化が社会的に要請されており、そのニーズに対応することでした。
さらに、卸業としての市場競争力の強化、市場や経済環境の構造変革に対処するための物流力の増強、収益力の向上、人材の確保に着目、商物分離を図り、リティールサポート力の向上と営業力の強化を促進したいとの思いから時代にマッチした大型物流拠点と物流量の増大を軸に物流イノベーション(技術革新)を図るべきと考えていました。
そこで、同業他社の物流量を束ねてスケールメリットを生みだし、物流コストの明確化と合理化を推進し、競争力の源泉であるローコストオペレーション、物流サービスレベルの向上と顧客ニーズを基本に定時定ルート配送、コンピュータを駆使した売れ筋商品の把握と適正在庫の確保、徹底した欠品・遅配・誤配の撲滅、労働力の安定化、人手不足の解消などの大きな目的・狙いを共有化して地域卸が共同・協業化に挑戦することでした。
3.主な事業概要
事業概要は、同一商圏・同業者の物流業務を物流拠点に集約し、共同で仕入支払、拠点内の受注、荷役、保管、流通加工、返品、棚卸、配送、情報処理などを指定された条件のもとで最高の精度・品質、納期、コストを実現することでした。
参加企業のうち、化粧品・日用雑貨卸4社と菓子卸1社は、営業活動とマーチャンダイジング、さらに、商品政策、商品化計画、適切な数量、適切な価格、タイミングで商品を顧客により多く提供するための企業活動に専念する商物分離を取り入れました。
化粧品・日用雑貨卸4社で結成している協同組合が資金管理、商品の調達と在庫コントロール(一括仕入、一括支払)を行っていました。
庫内業務、在庫管理、コンピュータ運用、返品業務などの庫内作業全般を関係会社の出資で立ち上げた作業運用(専門)会社が担当することになりました。
配送業務は、参加卸の商圏を網羅する配送ネットワークをもつ物流会社に委託しました。
物流拠点の概要は、所在地が神奈川県横須賀市、土地面積9,900㎡(3,000坪)、延床面積22,110㎡(6,700坪)、建物は、5階建、倉庫フロアが4層でした。
事業規模は、出荷金額・・・≒300億円/年 、従業員数は≒230人(協同組合、作業会社のパート、アルバイト含む、運送担当の物流会社の運行管理者、ドライバーは含まず)
参加企業の物流拠点使用料負担は、庫内作業の統一化を前提に独自の物流コストの算出方式でピッキングや値札付けなどの作業内容毎に料金を決め、作業量や時間に応じて参加各社が使用料金(共同在庫と各社在庫の二本立)を負担することにしました。
配送費は、荷姿、距離、納品指定時間などの諸条件を加味して個建て料率を策定し、参加各社の配送条件を加味した料金負担にしました。
例えば、50kmを越える配送料金は、該当企業のみの実費負担としました。
4.情報システムの概要
共同・協業化の際に頭を悩ませたのが情報システムの開発、運営、維持、情報系のトラブル対応など、情報系に精通した人材が少ないことを危惧する声が多くあり、人材の豊富な物流企業に情報システムの維持管理と運営、開発を含めて委託することにしました。
情報システムの特徴としては、一日当たりの取引先が≒1,300社以上もあるため、スタート時は、各社の既存の受注システムと窓口機能を活用することにしました。
即ち、混乱を来さないように小売業(顧客)とのデータ授受は、従来通りVAN会社経由で各社を中継し、受注データのチェック完了後、物流拠点に伝送することにしました。
特例として受注リードタイムに余裕のないデータ(特に大手量販店)は、直接EOS(電子受発注システム)にて物流拠点で受注することにしました。
メーカーへの発注と入荷検収実績、一括仕入・支払(一括決済)などのデータ授受は、VAN会社経由で物流拠点が一括授受を行うことで参加卸の負担を軽減しました。
5.定量効果(評価)と収支試算(実績)結果
共同・協業化の実施前と実施3年後の効果は、共同・協業化で物流量を束ねたスケールメリットの効果が現れていました。
成果の大きな一つに在庫削減があり、仕入先メーカーは≒350社、共同・協業化後の全体の在庫金額は約176千万円から123千万円(▲30%)と大幅に減りました。
労働生産性(作業人員)は、266人(8H/日)から154人(8H/日)と約112人(▲42%)に減らすことができました。
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