第500号 100日を切った物流「2023年問題」、1年を切った物流「2024年問題」(前編) (2023年1月17日発行)
第500号 100日を切った物流「2023年問題」、1年を切った物流「2024年問題」(前編)
(2023年1月17日発行)
執筆者 | 長谷川 雅行 (株式会社NX総合研究所 経済研究部 顧問) |
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執筆者略歴 ▼
目次
1.はじめに「物流の『2024年問題』と『2023年問題』」
(1)2024年問題
来る2024年3月末には、自動車運転者に特例として認められてきた現行労働基準法の「時間外労働時間の上限規制」の猶予期間が終わる。
2024年4月1日から改正労働基準法が自動車運転者にも適用され、自動車運転者の時間外労働時間の上限が、年間960時間以内に規制され、違反した企業には「労働基準法違反」として、6カ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金が科せられる。
自動車運転者には、自家用(白ナンバー)も事業用(青ナンバー)も含まれるが、「物流の2024年問題」とは、とくに事業用としてのトラック輸送において指摘されている。
それは、時間外労働時間の上限が年間960時間に規制されると、トラックドライバー数が同じであっても、働くことができる時間が短くなるので、「トラックドライバーが不足する」→結果的にトラックの輸送供給力が減って「トラックが不足する」→荷主の側からすると、足りない分のトラックが手配できなくなり「貨物を運べなくなる」ということになる。これが「物流の2024年問題」と言われている。
荷主のなかには、食品製造業や石油化学工業など、従来から自社ドライバーで自家輸送をしている企業も多いが、これらの荷主は既に「物流の2024年問題」に取り組んでおり、ドライバーの労働時間の改善(「削減」「短縮」というと、すぐ「賃金カット」に結びつける読者も居られるので、「改善」という)や、自営転換(自家輸送から営業輸送への転換)を進めている。
今年は2022年であるから、2024年4月は「2年先」のように感じる。ところが、本稿の執筆時点(2022年10月)からは、あと1年半、18カ月=540日であり、本メルマガ配信時点では500日を切っているものと思われる。五輪や万博など大イベントでも、「500日」は「アッと言う間」でしかない。
あと500日では、「遅きに失する」が、少しでも「上限規制の960時間を実現」すべく(「上限規制の960時間に近づける」というと、違法行為を容認していることになるので)、筆者がこれまでお手伝いしてきた、トラックドライバーの長時間労働の改善の経験から、少しでもお役に立ちたいと思う。
(2)2023年問題
業界も行政もメディアも「2024年問題」で持ちきりであるが、さらに「待ったなし」なのは、「2023年問題」である。
「2023年問題」とは、既に大企業には適用されている「月間60時間を超える時間外労働の割増賃金率50%」(以下、「割増賃金率の引き上げ」という)が、2023年4月からあらゆる業界の中小企業にも適用されることである。
90%以上が中小企業であるトラック運送会社は、当然ながら2023年4月から月間60時間超の時間外労働の割増賃金率が上がる。月間60時間までは、従来通り25%であるが、それを超えた部分については50%になる。あまり、言われていないが、「物流の2023年問題」とも言える。
こちらは、既に100日を切っており、月間60時間超の時間外労働時間には、実態に即して割増賃金を支払わざるを得ない。
さらに、2020年4月施行の民法改正で、賃金についての消滅事項が2年から3年に延長されているので、後述のように、従業員や支援者から時間外不払い等で訴えられるとダブルパンチになり兼ねない。
仮に、改善基準告示の月間拘束時間293時間を遵守しているとしよう。拘束時間には休憩時間が含まれるので、293時間から(労基法で定める1日8時間労働+休憩時間1時間)×月間22日=198時間を差し引いた95時間が時間外労働時間となる(現行改善基準では、月間80時間の「2024年問題」はクリアできない)。
基準内賃金が1時間2,000円(トラックドライバーの場合、基準外賃金・賞与等に跳ね返らないよう、基準内賃金を抑えて諸手当で支給している例が多い)とすれば、従来は、2,000円×1.25×95時間=237,500円が時間外労働の割増賃金(月額)となる。
ところが、2023年4月以降の割増賃金(月額)は、2,000円×1.25×60時間の150,000円に、60時間を超えた分の2,000円×1.5×35時間の105,000円を加えた255,000円(7.4%増)になる。
また、2024年問題で言われている時間外労働時間の年間上限規制960時間(月間平均80時間)から同様に推計すると、200,000円が210,000円と5%増になる。
いずれも計算上は、大したことではないように思える。しかし、この計算例は、現行の改善基準告示や2024年4月から適用される時間外労働の年間上限規制を「遵守していれば」の話である。
これから「2024年問題」にどう対応しようかというレベルでは、実際に払うべき2023年4月からの時間外割増賃金額は、大きくなろう(ドライバーが10人、各100時間の時間外労働とすれば、月間の総額で20万円増)。
割増賃金率の引き上げは、これを契機に実際の労働時間を反映していない時間外労働や給与制度そのものへ不信から、ドライバーの未払い残業代請求への引き金となりかねない。
宅配クライシスと騒がれた2017年を思い出してほしい。そもそもの契機は、大手宅配便業者の時間外賃金の不払い問題であり、同社は会社全体で2年分(当時の消滅時効期限は2年)を遡って巨額の支払いを行った。当時は、「時間外不払いの取り立て代行」に目を付けた「支援者」が、高速道路のSA・PAのトイレ等に「時間外不払いを取り戻すお手伝いをします」とカードを貼ってPRしていた。
今回の「2023年問題」も、上述のように「3年分遡って割増分を追加請求」となれば、成功報酬で稼ぐ連中などには美味しい仕事となるのであろうか。ある日、突然、「〇〇ユニオン」などを名乗る団体から「時間外の割増賃金の不払いの件で、団体交渉を申し入れる」という電話が掛かるかも知れない。
今後、「2023年問題」がインターネットやニュースなどで報じられると、ドライバーは自分の時間外労働時間のうち、割増となる分をシビアに計算する。会社は、給与明細に「25%増が〇時間でXXXXX円、50%増が△時間でYYYYY円」と明記して、ドライバーに説明しなければならなくなる。
一方、ドライバーは「時間外労働の時間は正しく反映されているか」と確認することにより、労働時間とリンクしない日当制や歩合制、固定残業制などの問題が提起され、そのままでは「2023年問題」を解決できないことになる。
上述の宅配クライシス当時の賃金未払い問題は、ドライバーが労働基準監督署等に駆け込んで救済措置を求める等の個別事案であったが、上述のように拡大した「2023年問題」は、一企業に勤務するドライバー全員の問題に発展する可能性があり、労働組合の結成やユニオン等の外部労働組合の介入も考えられる。
上述のように「3年分遡って時間外労働の不払い分を全ドライバーに支払う」となると、仮に、1人1ヵ月5万円(不払い額と既支払額の差額)としても、ドライバー10人であれば、5万円×10人×36カ月=1,800万円となってしまう。
2.対策に王道なし
「2023年問題」も「2024年問題」も、トラックドライバーの長時間労働を、どのように改善するかということに尽きる。
「時間外労働時間の上限規制」については、「法定」なので止むを得ないので従うが、給与を実労働時間による「基本給+時間外等の諸手当」から、上述の「日当制」や運行回数や輸送量に応じた「歩合制」、あるいは「固定残業制」に変更して、「賃金上昇」を回避しようという、「裏技」「禁じ手」のような対策を講じようとする経営者もいるようだ。
2018年成立の一連の「働き方改革関連法」(「働き方改革関連法」という法律はなく、「労働基準法」=時間外労働時間の上限規制等、「パート・有期労働法」=同一労働同一賃金等)の個々の法律が改正・公布されている)の法主旨からすれば、「奇手」「妙手」はなく、荷主の協力を得ながら、さまざま対策を組み合わせて確実に行うのが早道であると思う。
(注)働き方改革関連法と、その実務的対応については、本ロジスティクス・レビュー誌バックナンバーで、第415~416号「働き方関連法改正と実務的対応(1)」、第421~423号「働き方関連法改正と実務的対応(2)」、及び第462~464号「物流業における同一労働・同一賃金の実務的対応」の拙稿も参照されたい。
ドライバーの月間労働時間(月間22日労働として)の目安は、2024年4月以降、「法定労働時間(1日8時間、週40時間)」+「時間外労働時間(月間80時間。休日労働を含まない)」の合計256時間となる(1日1時間の休憩時間は含まない。労働基準法では、月間労働時間は定められていない。また、改善基準告示の月間拘束時間とは異なる)。
この256時間から、無駄な時間を省くことが求められる。
その対策について、例えば、「物流ニッポン」紙では、本年6月10日から8月12日まで2カ月・14回にわたって「2024年問題」を連載している。以下に、その記事タイトルを列記する。
第1回 埋まらぬ労使の溝/改善基準告示改正 着地点いまだ見えず
第2回 「貨物鉄道」代替手段へ期待/モーダルシフト
第3回 全事業者へ周知必要を/標準的な運賃
第4回 標準化むけ推奨規格規定/パレット化
第5回 メーカー主導で広がる/アライアンス
第6回 物量確保が最大の課題/中継輸送
第7回 1人当たりの生産性向上/車両大型化
第8回 ツール林立「標準化」課題/物流DX
第9回 「働きやすい設備」重視/物流施設
第10回 分業化で負担軽減へ/労働環境改善
第11回 解決導く”救世主”に/トラガール
第12回 受け入れの是非検討を/外国人ドライバー
第13回 自動・無人化へ導入不可避/宅配ロボット&ドローン
第14回 取引環境改善の好機/運賃改定
多面的かつ対策の実現可能性を取材・提言した、担当記者の熱意と努力には敬意を表したい。筆者も、このうちの幾つかの対策に、荷主・トラック運送事業者とともに取り組んだことを思い出す。
第1回「改善基準告示」については、現行の「改善基準告示(1997年4月施行)」を、上記の改正労働基準法施行(2024年4月1日)により自動運転車の時間外労働に年間960時間の上限時間が適用されることに合わせて、厚生労働省の労働政策審議会トラック作業部会で見直し作業が進められて、12月23日に告示され、「物流2024年問題」に合わせて、2024年4月から適用される見通しである。
改正された改善基準告示の内容は、厚労省リーフレット「トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント」を参照されたい。
第4回のパレットなど「標準化」については、ロジスティクス・レビュー誌第471~473号で「一貫パレチゼーションのすすめ(前・中・後)」を提唱してきた筆者としては、さらに意を強くしたところである。
第12回「外国人ドライバー」は、2024年4月には間に合いそうもないし、第13回「宅配ロボット&ドローン」は輸送能力の点から、大きくは期待できないのではないだろうか。
例えば、ドローンによる物流ビジネスは既に国土交通省からガイドラインが示されており、2022年12月からは市街地での目視外飛行ができる「レベル4」が解禁されるが、地域の配送ネットワークを担えるのはまだまだ先のように思う。
また、「第7回 1人当たりの生産性向上/車両大型化」とも関連する、トラックの自動運転も「レベル5」の「無人運転」が実現できなければ(監視者の同乗が必要なうちは)、ドライバーの減少には結びつかない。
第1回から第14回までの対策を見ていくと、現実的な対策は、
①積込み・荷卸しの待機時間を減らす
②積込み・荷卸し時間を短縮する
③高速道路を活用する
④長距離輸送では中継輸送等の導入、ダブル連結トラック、スワップボディ・システムの活用や、鉄道・海運へのモーダルシフトなど
⑤「標準的な運賃」告示を活用した運賃改定などが挙げられよう。
③高速道路利用は、「荷主が利用料金を負担しない」という不満が強いが、例えば、最近の開通例では「中部横断道」の静岡~甲府間が全通したことにより、東名・新東名~中部縦断道が名古屋~甲府の最短時間コースとして利用される(国土交通省)ように時間短縮効果も大きい。筆者が住む、横浜市においても圏央道が藤沢方面から延伸されて、横浜横須賀道路から首都高速道湾岸線に直結すれば、その時間短縮効果が期待されている。
①②は、荷主の側から想定すれば、積込み・荷卸しのための待機が常態化していたり、手積み・手卸しなど荷役に時間がかかる荷主は、「時間外労働時間の上限規制」に引っ掛かる(労働基準法違反となる)としてトラック運送会社が敬遠するということである。
これまでのように、「時間外手当を余分に払えば済む」ということでなく、荷主のせいで労働基準法違反として「経営者が懲役に科せられ」たり、「罰金を課せられる」ことになる。
⑤については、トラック運送会社の側では、時間外労働時間が減ったからといってドライバーの賃金を減らしたりしたら、ドライバーに逃げられてしまう。労働流動性が高いドライバー職は、少しでも給与条件の良い他社に移ったり、他の仕事に転職してしまうことも現実に起こる。
実際に、貨物軽自動車によるEC宅配の個人事業主から、ウーバーイーツ・出前館等の料理宅配にトラバーユする例も多い。
国土交通省では、EC宅配や料理宅配に限って、軽乗用車による配送(積載重量制限は、貨物軽自動車の350㎏より少なく、最大でも運転者を除く乗員3人分の155㎏で、後部座席の改造は禁止)の解禁を進め、10月27日から施行されている。軽乗用車であるが、事業用貨物軽自動車=黒ナンバーの登録が必要である。国交省やEC関連団体では、空き時間を活用したギグワーカーの活用が期待できるとしている。
(1)「標準的な運賃」告示を活用した運賃改定
誌面の都合もあるので、上記の現実的な対策を二つ説明する。「物流ニッポン」紙の掲載順なので、順序は逆になるが、「⑤『標準的な運賃』告示を活用した運賃改定」から始めたい。
労働時間が短くなっても賃金を減らさない対策は、賃金を上げることである。それには、荷主と交渉して運賃を上げるか、ドライバーの労働生産性を向上させて売上高を増やすしかない。まず、荷主と交渉
して、これまで低く据え置かれていた運賃を改定したい。
そこで、国土交通省が2020年4月24日に告示したのが、「標準的な運賃」である。歴史を辿れば、「物流二法(1990年制定)」以前のトラック運賃は、JR各社やバス・タクシーと同様に運輸省(当時)が定める「認可運賃」であった。それが物流二法の規制緩和で、トラック運送会社が自由に設定・変更できる届出運賃(事前届出から事後届出)となった。
トラック運送も「免許制」から「許可制」に緩和されたことから、新規参入が増加して価格競争が激化して、現在に至っている。
今回の「標準的な運賃」は、トラック運送会社が提供する輸送サービスが安定的に供給できるよう、貨物自動車運送事業法が2018年4月に改正されたときに、「物流の2024年問題」対策の一環として、他の「荷主対策」と同様に、2024年3月までの「時限措置」として告示されたものである。
国土交通省では、「標準的な運賃」で届出るよう、各地の運輸支局や都道府県のトラック協会を通じて呼びかけている(「届出」を強制すると、カルテル行為として独占禁止法に抵触する恐れがある)。見方によっては、かつての「認可運賃」が30年超ぶりに復活したとも言える。
表1 標準的な運賃(例)
2020年4月24日告示「標準的な運賃」のうち、距離制運賃(関東運輸局)。時間制運賃は省略
2022年9月1日付の「カーゴニュース」誌では、「国交省/標準的な運賃 全国の49%が届出」と題して、「2002年7月末時点の『標準的な運賃』に基づく運賃変更の届出は全国で28,038件、2018年度末の一般貨物自動車運送事業者数56,990者に対する届出率は49.2%」と報じている。
地方ブロックごとでは、最高が四国の84.7%(1,805者)、最低が関東の21.9%(3,951者)とバラツキが大きい。
荷主との契約運賃は別として、「標準的な運賃」を届出ることについて、筆者は次のように意義あるものと捉えている。
「ロジスティクス・ビジネス」誌2022年8月号の特集「物流法令遵守」には、筆者も「関係省庁が連携して荷主企業に網を掛ける」というタイトルで寄稿した。そこでも書いたが、2022年5月25日に発表された公正取引委員会の2021年度「物流特殊指定に関する調査結果」では、「買いたたき」の事例(荷主は設備工事業)として、「荷主は、物流事業者からの契約金額の交渉の要望を門前払いし、最初(40~50 年前)に契約した金額を継続して据え置いている」と記載されている(「物流特殊指定」については、図1参照)。
図1 物流特殊指定の概要 (出所)公正取引委員会資料
上記の「物流特殊指定に関する調査結果」では図1の「物流特殊指定における禁止行為」のうち、①②③⑥などの事例が列挙されている(⑥はリベート・協賛金等が含まれる)ので、公正取引委員会のホームページでご覧頂きたい。
同誌の2022年4月号特集「実勢トラック運賃2022」では、積合せ運賃(特積み)は、「平成2年運賃」が増えていると報じられているが、上記「事例」を見ると、まだまだ「40~50年前」の「昭和51年認可運賃」「昭和57年認可運賃」それも、基準ではなく「下限(10%引き)」が残っているということだろうか。
上述のように、「荷主との契約運賃は別として『標準的な運賃』を届出る」ことにより、「当社の届出運賃はこの通りですよ」と示し、荷主が「契約運賃は『標準的な運賃』の何割引きになっているか」を認識してもらうのが第一歩である。
「51の低(昭和51年認可運賃の下限)」や「57の低(昭和57年認可運賃の下限)」契約では、荷主の担当者も契約運賃の水準が分からず、「昔から継続しているから、ウチの契約運賃は最安レベルだろう」という安心感でしかない。
それが、例えば、表1の「標準的な運賃」がトラック運送会社から示されれば、「ウチの契約運賃は、『標準的な運賃』の〇割引だ」と分かる。
仮に「標準的な運賃の5割引」となれば、荷主の会社内でも、「トラック運賃は常時半額セールでいいのか(ウチの商品は特売もするけれど、常時半額なら赤字だ)」「運賃半額というのは、JRなら『小児運賃』じゃないか。これでは、『大人が子供と偽って電車に乗っている』ことになり、公取委が調査に来ないか」という疑問も生じるのが世間の常識と思う。
荷主に現行の契約運賃水準について理解を求めることが、運賃改定のスタートラインであり、その第一歩が「標準的な運賃」の届出ではなかろうか。
ただ、「標準的な運賃」には告示当時には想定されていなかった問題もある。国土交通省では鉄道・自動車(バス・タクシー・トラック)などの輸送モードごとに「原価計算要領」を定めて、運賃の認可あるいは届出(原価計算書を不要とする場合)の基準としている。
「標準的な運賃」も、国土交通省が原価計算要領等に基づき算定して告示しているが、2020年4月の告示当時の燃料費(軽油)は1ℓ当たり100円で算出していると思われる。ところが、現在の円安・資源高で、資源エネルギー庁が毎週発表している軽油の店頭価格は、1ℓ150円前後と告示当時の1.5倍になっている。
トラックの運行原価は、ドライバーの人件費が4割、燃料費が3割、トラックの償却費他が3割(中長距離運行では、燃料費の比率が約4割)と言われている。即ち、告示当時の「標準的な運賃」を100とすれば、燃料費の高騰分(3割分の1.5倍)を加味すれば、今日の水準では70+30×1.5=115となる。既に、「標準的な運賃」でも原価割れしかねない状況にあると言えよう。
上述したように、「標準的な運賃」をはじめとする貨物自動車運送事業法の「荷主対策」は、2024年3月末までの「時限措置」である。しかし、上記「物流特殊指定に関する調査結果」のように、荷主がトラック運送会社等の物流業者に対して、独占禁止法の「優越的地位を濫用」している事例は多い。
そこで、物流関連の業界団体や労働組合からは、「時限措置」の延長または恒久化が要望されている。
筆者も、少なくとも時間外労働の上限規制である年間960時間が「定着」するまでは、「荷主対策」を延長して、公正取引委員会・厚生労働省・国土交通省や、荷主業界を所管する経済産業省・農林水産省など関係省庁が協力して実施すべきであると思う。
その一環として、「標準的な運賃」も燃料費の高騰を織り込んで見直しを行い、かつての「認可運賃」のように時機を見て告示していくことが望ましい(JR旅客各社・大手民鉄などが、2023年4月以降の値上げ申請をしているのが参考になろう)。
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