第305号 生鮮流通は究極のロジスティクス運営:在庫極小化を目指す-物流はロジスティクスに舵を切ったのか-(2014年12月4日発行)
執筆者 | 野口 英雄 (ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表) |
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目次
- 1.鮮度管理ビジネスが伸びる:自然・調理済み食品
- 2.鮮度を維持するということ:在庫極小化
- 3.在庫を持たない流通:Dゼロ運用
- 4.フレッシュ・ロジスティクスの要件:鮮度管理の基本
- 5.衛生管理の重要性:物流HACCP
1.鮮度管理ビジネスが伸びる:自然・調理済み食品
生鮮3品(野菜・鮮魚・精肉)は人々の生活には無くてはならないものであり、最近では調理済みの総菜があらゆる小売業態で重要な位置を占めている。外食・中食産業では原料としての半調理品が多く使われており、基本的には3温度帯(冷凍・チルド・常温)の一括物流であり、それには非食品としての材料も含まれる。
生鮮品としての消費期限表示商品は微生物の増殖を抑制するため、主にチルド帯(±5℃)で管理する。この範囲は自然のままの素材の持つ美味しさを保つ温度帯でもある。生鮮野菜も大きな比重を占め、これは鮮度を維持するため収穫後予冷を行い、以降低温に維持するのが基本であり、他食品との同一チャネルによる一括納品を求められることが多くなってきている。そして季節波動を吸収するため調達はグローバルとなり、情報化・品質管理・セキュリティー確保が必須になることは言うまでもない。
食の安全安心および健康志向からますます生鮮ニーズが高まり、また女性の社会進出そして高齢者の一人暮らし、個食化ニーズ等から調理済み食品はさらに拡大していく。気候変動による一次産品の高騰等もこれを加速させている。鮮度を維持するためには在庫を持たない流通ないしは極小化する、非常に難易度の高いロジスティクス運用となる。それはリスクが発生しやすく、併せて危機管理が重要になる。
2.鮮度を維持するということ:在庫極小化
鮮度の低下とは、流通段階における在庫日数の総和が製造日からの後退ということになり、これを如何に縮小するかが鮮度管理の基本となる。言い換えれば各流通段階への到達日数管理であり、目標とすべき後退限度(在庫日数)以内に収まるようにする。賞味期限が未だ充分にあっても、そのおよそ1/3が流通限度という慣習があり、それに合致するように流通させなければ返品となってしまう。これは再販も難しく、莫大な資源の無駄・環境負荷に繋がる。
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(鮮度を維持する方策)
- 実需に即した毎日生産: 需要予測が重要 ➝ 多品種小ロット生産
- 所定の温度に維持する: 微生物の増殖を抑制する ➝ 品質保持、野菜類は予冷が必要
(完全なコールドチェーン運営) - 流通在庫を圧縮する: 自社だけではなく社外も ➝ 在庫消化策と連動
- 流通経路を短縮する: 最短距離の流通 ➝ 流通の中抜きに繋がる
- 多頻度小ロット化: 毎日出荷 ➝ 1日複数回も
- 末端への到達日数管理: 製造日付後退限度管理 ➝ 出荷ロット管理が必須
まずはロジスティクスのコアである需給管理の精度を上げ、在庫過剰・欠品を回避させなければならない。鮮度後退による商品廃棄に伴うコストロスや、販売チャンスロス発生による欠品ペナルティー等は極めて重い負担であり、これらも重大なロジスティクスコストである。その削減には販売部門との連携が不可欠であり、需要予測の精度を上げ販売施策との連動を図る必要がある。物流ネットワーク運営は基本的に直送であり、前進拠点ではスルー型業務になる。
一方小ロット生産や調達で足腰を鍛えておく必要もあり、そして実需に併せて365日対応とすることが理想である。休日を取ると見込み在庫で対応することになり、そのブレにより鮮度を後退させるリスクが生じる。労働力不足の状況でこれは誠に過酷だが、この体制を如何に確保できるかが重要な鍵を握る。
3.在庫を持たない流通:Dゼロ運用
消費期限管理商品はまた、在庫を持たないDゼロ運用ということになる。Dゼロとは製造日当日に出荷してしまう方式であり、微生物検査判定は後追いということで非常にリスクが高くなる。検査は培養方法であり最低でも1日を要し、菌種まで特定するには4~5日程度掛かかり、これも鮮度後退の要因になる。その結果を待つのではなく先行出荷させ、万一異常が判明したら流通を止めるという運用で、つまり出荷トレーサビリティーが大前提となる。
これは一歩間違えば、消費者に危害を及ぼす恐れのある商品がその手に渡ってしまうということであり、この種の問題は未だ発生することがある。これを流通の力で食い止めることも重要な課題である。
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(Dゼロ運用の基本)
- 関連工程との管理同期化: 調達~原料~製造 ➝ 完璧な工程管理
- 先行出荷~工場直送: 出荷ロット管理 ➝ エリア完結型
- 出荷トレーサビリティー: 当該ロット・出荷先 ➝ 流通停止処置
- 在庫ステータス管理~検査判定: 判定待ち~再検査~不良 ➝ 製造ロット別
- リバース物流対応: 回収~検品~廃棄 ➝ 異常時の処置体制
この方式は需要予測精度がまず重要であり、販売動向を見極めながら値引き等の処置も行う。つまり売り切りにより在庫が発生することを抑え、まさに生産から販売が一体となった運営である。SPAという業態はこのメリットを追求している。小売業からの発注が遅れ変更も多発するので、場合によっては先行生産を行い、受注確定で最終生産量を調整することも必要になる。
4.フレッシュ・ロジスティクスの要件:鮮度管理の基本
在庫を極小化ないしはゼロで運営することは、究極のロジスティクス運用である。その根幹は需給管理であり、高品質・高スピードの物流である。リスク対策や危機管理が必須となることは前述した。
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(フレッシュ・ロジスティクスの要件)
- 高精度な需給管理: 需要予測、流通在庫管理、販売施策との連動
- 365日~24時間運用: 休日というイレギュラーを作らない
- 温度~品質管理: 商品特性に見合った適温管理
- ダイレクト物流: 流通経路短縮、複合チャネル一括
- 新鮮供給による販売促進: 到達日数管理、消費者へのインパクト
- 情報システムによる支援: 需要予測、トレーサビリティー、物流ネットワーク管理
低温物流という装備率や変動費が高く、なおかつ物流機能サービスレベルを上げるため、高コスト・高リスク構造を打破するシステム稼働率の向上が必須である。365日・24時間体制を維持するフル稼働が理想だが、交代勤務を行う付加要員コストも発生する。まず単位時間当たりの固定費を削減し、トータルコストを抑制する。そのためには業務集積度を上げる必要があり、共同物流の意味がまずはここにある。そしてそれは資源や環境対策にも繋がっていく。
この体制を確立し一定の業務品質を保てれば、ロジスティクス・ビジネスとしての生産性を高め、収益力を上げることも可能になる。逆に管理レベルが上がらなければ、業務リスクによるコストロスに苛まれることになる。収益力の高い物流事業者は、日常業務品質管理活動を基本にこの管理体制を確立したところである。
5.衛生管理の重要性:物流HACCP
生鮮流通の落とし穴は衛生管理の問題である。生鮮品は生食するものが多く、食中毒の危険性が常につきまとっていることを肝に銘ずべきである。このことを重視する業態の荷主から、物流においても製造工程に準じたHACCPの要求が出される。
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(物流HACCPの要求)
- 密閉型の業務運営: 外気と接触しない運営、ドライバーの出入り制約
- 入出庫動線の分離: 入庫は汚染品、出庫は清潔品扱い
- 庫内の不良品保管禁止: 清潔ゾーンに汚損品は不可
- 無菌エリア確保: 流通加工場
- 防虫防鼠措置: 網戸設置・下水溝に遮蔽
- その他: トラックヤード傾斜(水溜りを排除)、植栽は害虫付着に注意
物流において製造工程と全く同等の密閉性を保証するのは不可能に近いが、極力それに近付けていくことが重要である。密閉型にすることはセキュリティーの確保にもつながる。物流業務は5Sから7Sへの意識改革が必要になり、+2Sは洗浄と殺菌である。樹脂パレットやリサイクル容器ではもはや重要管理項目である。
物流HACCPの出発点は、一般的衛生管理手順という基本を確実に実践することである。現在では食品限定のISO22000として国際品質認証が設定されており、食品関連では業種を問わずこれを取得することがこれからは必要となる。
以上
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