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第53号商業地のまちづくりと物流~小売商業における交通問題を踏まえて~(2004年4月8日発行)

執筆者 三好 宏
福山平成大学 経営学部助教授
    執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 1986年 株式会社中国銀行入行
    • 1995年 神戸大学大学院経営学研究科博士課程入学
    • 2000年 同課程修了  博士(商学)
      福山平成大学経営学部講師
    • 2004年 同大学助教授
      現在に至る
    研究テーマ
    • まちづくりと小売商業の関わりに関する研究
    著書・論文
    • 「商業者主導型まちづくりの課題と行政の役割」
    • 『経営情報研究 福山平成大 学経営学部紀要 経営情報学科篇』
      第9号、2004年、37 -49頁。
    • 日本能率協会マネジメントセンター「やさしく学べるロジスティクス入門コース」第1分冊・第3分冊(第1章)
    • 「『まちづくり』における小売業が持つ二重性」
      『経営情報研究 福山平成大 学経営学部紀要 経営情報学科篇』
      第8号、2003年、103 -117頁。
    • 「商学から見た都市のマネジメント」(共著)
      『都市計画』 №222、1999年、 5-8頁。
    所属学会
    • 日本商業学会

目次

1.はじめに

  中心市街地、いわゆる「まち」の衰退・空洞化が大きな社会問題になっている。出張や旅行などで駅を降り立った時、それが地方の主要都市であったとしても、駅前の商店街がシャッター通りとなっているのを目にする経験は、誰しもが持ち合わせていることだろう。
  こうした状況を受け、政府は1998年に「中心市街地における市街地の整備改善および商業等の活性化の一体的推進に関する法律(以下、中心市街地活性化法)」を制定・施行し 、「まち」の顔の復活に向け、様々な支援策を用意している。2004年2月20日現在、同法に基づいて官民一体となり中心市街地の活性化に取り組んでいる地域は、588市町村・606地区に のぼっている(中心市街地活性化推進室ホームページ)。この数字の多さは、中心市街地の再生が特定地域の問題ではなく、わが国全域にわたった課題であることを如実に物語っている。また、「中心市街地活性化法」に相前後して「改正都市計画法」、「大規模小売店舗立地法」が制定・施行され、合わせてそれらは「まちづくり3法」と称され、小売商業と「まち」あるいは地域は、一体となって整備・発展していく必要性が強く主張されるようになっている。
  ところで、ここで「まち」と小売商業の一体的整備・発展といった時に配慮しなければならないことがある。小売商業が引き起こす都市問題である。その一番大きなものとして、商業地域周辺の道路混雑(自転車駐輪も含めて)、騒音といった交通問題をあげることができる。言うまでもなく、その主原因は来店客による自動車であるが、小売商業者にとってこれを排除することは難しい。中心市街地の再生において自動車とどう向き合うのか、小売商業者にとっても重要な課題となっている。もちろん、この自動車の問題は顧客によってのみもたらされるものではない。小売商業者や物流業者が行う物流も大きい。路上駐車による荷捌きなどが交通混雑を招くのである。これまで、物流あるいはロジスティクス・システムは、消費への迅速な対応に向け原材料の調達から生産を含めた最適な仕組みの構築を目指してきた。しかし、これからは、事業者だけの最適化の公式に、「まち」の要素を付け加えることが必要になってくると思われる。そこで本稿では、小売商業における交通問題を踏まえた上で、中心市街地の再生、すなわち商業地のまちづくりの側から見たこれからの物流のあり方について、若干の解説を試みたい。

2.小売商業における交通問題

  (1)小売商業が引き起こす交通問題とそれへの対策
  小売商業によってもたらされる周辺地域の交通問題は、大きく言って二つの視角から捉えることができる。一つは、商業地区(施設)への顧客アクセスの交通手段によって起こされるものであり、もう一つは小売商業者や物流業者が行う商品の搬出入によって起こされる問題である。そして、その大部分が自動車によって引き起こされることは、改めて言うまでもない。特に高度成長期からのモータリゼーションの進展は、小売商業者のあり方を大きく変えた。出店は中心市街地から郊外へと移行し、広大な駐車場を兼ね備える。自動車への対応ができなければ、小売商業の発展はあり得ないといっても決して言い過ぎではない状況である。
  こうした小売商業者の動きに対し、例えば先に述べた「大規模小売店舗立地法」では、大型商業施設(原則店舗面積1000㎡以上)の出店に際し、この交通問題への配慮を義務づけている。来店客のための駐車・駐輪場では十分な広さ(台数)を用意すべきガイドラインが示されているし、物流に関しては、荷捌き施設の整備、計画的な搬出入が要求されている。経済産業省が示した「大規模小売店舗立地法の解説」によれば、荷捌き施設の整備に関して、必ずしも公道に駐停車して商品等の搬出入を禁止するものではないとしながらも、周辺区域の交通の安全、円滑化の視点から運搬車両の駐車するスペースの面積、位置について適切な配慮を求めている。
  また、計画的な搬出入によって周辺道路の混雑は回避、軽減できるという立場から、店舗設置者や管理者に、車両が一定時間に集中することを避けるなどの適切な施設運営計画の必要性を強調している。
(2)交通問題の解決の困難性
  こうした小売商業者が引き起こす交通問題に対して求められる解決策は、何も大型商業施設にだけにあてはまる話ではない。冒頭で触れた、中心市街地の商業集積、すなわち商店街を中心とした商業地においても同様である。しかし、どちらの小売商業者にとっても、交通問題の解決に向けての努力はそれほど容易なことではない。
  その理由として、第一に、一般的に言って小売商業者は、駐車場や荷捌き場など店舗以外への投資に関してはどうしても消極的になりがちだということが言える。例えば、2001年に大阪商工会議所が実施した「大店立地法への対応とまちづくりに対する取組みに関するアンケート結果」によれば、「同法の指針にそった駐車場台数の算定は、実際の必要台数より2、3割多くなるので見直してほしい」という声が寄せられている 。ⅰ
  第二に、基本的に小売商業者においては多数の顧客に来店してもらえることが何を差し置いても重要であり、仮にその顧客が自動車でやって来て違法な路上駐車をしたとしても、顧客に対してそれを咎めることはできにくいのが普通である。
  さらに第三に、大型商業施設の立地の場合と異なり、すでにある商店街などにおいては、改めて駐車場や荷捌き場を設置することができるのかという物理的な問題もある。よく商店街が寂れた理由として、「駐車場がない」ということがあげられるが、店舗や住宅密集地である既存の商業地において新たに駐車場を設けることは困難である。
  いずれにしても、このような条件から、交通問題への取組みは必要だと認識しながらも、その解決は簡単には進まない要因をはらんでいるのである。

3.まちづくりの中の物流:社会実験による取組み

  (1)交通施策の社会実験
  さて、種々の制約要因があることを十分認めながらも、まちづくりの側から言えば、交通の問題をクリアーせずに、「まち」の再生はあり得ない。繰り返すが、「まち」と小売商業は一体的・調和的な発展が必要であり、小売商業者や物流業者の果たす役割は決して小さくない。
  現在、問題解決において有効な手立てに関して試行錯誤が続く状態ではあるが、社会実験によって、小売商業における交通の問題を対処しようとする試みがある。社会実験とは、「事業や施策の本格実施に先立ち、期間と地域を限定して、住民や企業・行政など関係主体が協力・参画し、既存の枠にとらわれない新しい考え方や新制度・新技術を試み、評価を行うこと」である(山崎1999)。要するに、施策を本格的に実行する前に当該地域で実験的にそれを試み、その有効性を判断しようという取組みである。社会実験は国土交通省を中心に、特に交通の分野で盛んな手法であるが、これまで若干ではあるが商業地での物流に関わる実験が行われている。
(2)東京都における事例
  このうち、次にあげる二つの取組みが興味ある結果を示している。一つは、東京都渋谷区、もう一つは練馬区でなされた実験である。紙数の関係で詳しくは国土交通省のホームページ等を参照してほしいが、これら実験は、既存の路上パーキングや近隣の駐車場の一部を路上、および路外荷捌きスペースとして設け、その活用状況を検討したものである。その概要を整理したのが次の表1である。
  この表からもわかるように、実験結果はおおむね好評のようである。特に渋谷区の場合、荷捌きスペースの確保により、平均横持ち距離が44mから39mに短縮、物流業者の4割の人間が、搬出入作業がスムーズになったとアンケートに回答している(国土交通省道路局ホームページ)。そして、実験後この路上・路外荷捌きスペース活用という取組みは本格実施につながっている。
  ただ、練馬の事例が実験からそれ以後進展しなかったように、こうした荷捌き場の設置が有効であるとわかるものの、実施に向けてはかなり課題も多いことが伺える。国土交通省の両実験の総括によると、小売商業者、物流業者、駐車場所有者、住民など関係各署のきちんとした協力・運営体制が整っているかどうかが非常に重要なようである。

表1.物流に関わる社会実験の事例

040408-1

(出所:国土交通省道路局ホームページより引用)

4.おわりに

  これまでまちづくりの視点から、物流のあり方を簡単に探ってきた。先に示したような社会実験は、実のところそれ以外の地域で多く実施されているわけではない。その理由としては、やはり実施にあたって関係者が多数おり、それらの間での協力・合意形成が取りにくいということらしい。
  いくら国や行政が旗を振り、物流業者の協力を取り付けたとしても、地域の商業者や住民が一体となった行動が取られなければ、こうした政策も絵に描いたもちになる恐れが十分にある。その意味からも、まちづくりに際しては活動主体である組織、例えば小売商業者、住民、行政が一体となった「まちづくり協議会」などのようなものが必要であり、そこの常日頃からの地道な活動がなければ、こうした施策が成功する要素は少ないのかもしれない。物流とは少し離れるが、東京商工会議所が行った「大型小売店とまちづくりに関するアンケート調査結果」(2002年実施)によると、約7割の出店関連事業者が「地域のまちづくり計画を確認」し、事業計画との整合性を検討調整しているが、「まちづくり協議会等への参加」を行っているものは、2割弱という数字である。それはこうした組織が当該地域に存在するか否かにも影響されようが、今後はこうした組織の整備とともに、小売商業者だけでなく物流業者もこの組織に積極的に参加し、計画的かつ有効な物流のあり方について、意見を述べたり実行に移したりする必要性がますます高くなるであろう。

――――――――――――――――――――
ⅰだからと言って、全ての業者が過少な台数を求めているわけではない。石原(2003)は、大阪駅前に出店した「ヨドバシカメラ」が基準台数の2倍にも達する駐車場を準備したことに関して、それを想定外の事態とし都心部の交通混雑を引き起こすのではないかと危惧している。

以上

《主要引用・参考文献》
・石原武政(2003)「大阪市小売業の活性化を考える視点」
『都市問題研究』第55巻、第5号、13-24頁。
・大阪商工会議所(2001)『大店立地法への対応とまちづくりに対する
取組みに関するアンケート結果について』。
・経済産業省大規模小売店舗立地法関係ホームページ
http://www.meti.go.jp/policy/distribution/data/e91112aj.html
・国土交通省道路局社会実験関係ホームページ
http://www.mlit.go.jp/road/demopro/index.html
・中心市街地活性化推進室ホームページ
http://chushinshigaichi-go.jp
・通商産業省環境立地局篇(1998)
『中心市街地の活性化 よみがえれ街の顔』通商産業調査会
・東京商工会議所(2002)
『大型小売店とまちづくりに関するアンケート調査結果』
・日本商工会議所(2003)
『平成14年度街づくりの推進に関する総合調査集計結果』
・山崎一真編著(1999)
『社会実験 市民協働のまちづくり手法』東洋経済新報社



(C)2004 Hiroshi Miyoshi & Sakata Warehouse, Inc.

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