ロジスティクス・レビュー

第452号 ドライバーはなぜ会社を辞めるのか ~従業員満足度(ES)調査による離職・定着要因の把握~(後編)(2021年1月19日発行)

執筆者 久保田 精一
(合同会社サプライチェーン・ロジスティクス研究所 代表社員
 城西大学経営学部 非常勤講師、運行管理者(貨物))
    執筆者略歴 ▼

  • 略歴
    • 1995年 東京大学 教養学部教養学科 卒
    • 1995~1996年 国土交通省系独立行政法人
    • 1997~2004年 財務省系シンクタンク(財団法人日本システム開発研究所)
      産業振興、物流等の調査業務を担当
    • 2004~2015年 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所
      物流コスト、物流システム機器等の調査業務を担当
    • 2015年7月 独立
    略歴
    • 1995年 東京大学 教養学部教養学科 卒
    • 1997~2004年 財務省系シンクタンク(財団法人日本システム開発研究所)
    • 2004~2015年 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所
    • 2015年7月~ 現職
    活動
    • 城西大学 非常勤講師
    • 流通経済大学 客員講師
    • 日本工業出版「流通ネットワーキング」編集委員 ほか(いずれも執筆時点)
    著書
    • 「ケースで読み解く経営戦略論」(八千代出版)※共著 ほか

目次

*前号(2021年1月19日発行 第451号)より

6.男女の違い~ワークライフバランス、コミュニケーションの違い

  トラックドライバーの女性比率は3%程度と極めて低いのが現状であり、これを拡大していくことが業界の課題だ。
  そこで本項では、男女別に見たESの傾向の違いについて確認しておきたい。

  図表6ではまず、ES評価点および定着意向の男女による差異を整理してみたが、男女ではいずれも大きな差は無いことが分かる。つまり、「女性はドライバーの仕事に対し不満が強い(弱い)」といった傾向は見られないのである。

図表6 男女別に見たES・定着意向の平均値
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

  しかしこれはあくまでESの総合的な評価について言えることに過ぎない。ESの評価点を項目別に見て行くと、中身にはかなりの差異が見られる。

  図表7は、男女別に項目別の評価点を示したものだが、これから以下のような傾向の違いを指摘できる。

  最も顕著なのは、ワークライフバランス関連項目への評価の違いだ。
  残業時間、休日日数等へのマイナス評価は、ドライバーのES全体を引き下げる要因だが、女性による評価はさらに低い。逆に言えば、勤務時間を短縮すれば(場合によって収入額は少なくても)、不満を持たない女性労働者が多いということでもある。運送会社としては、例えば午前だけ・午後だけといった短時間シフトの業務は、稼働率が低下するため忌避する傾向があるが、このような女性労働者のニーズとマッチする可能性がある。

  このように女性の評価が低い項目がある一方、評価がむしろ高い項目もある。例えば「困ったときの上司の信頼」といった項目がこれに当たる。ほかにも、人間関係やコミュニケーションに関わる評価は女性の方が高い傾向がある。
  この理由はさらに細かい分析が必要だ。ただ、女性ドライバーが加わることで、職場の人間関係・コミュニケーション上の不満が改善されるのであれば、女性雇用によるプラスの効果として、運送会社としてもポジティブに受け止めるべきだろう。

図表7 男女別のES評価傾向
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

  次に、定着意向への影響の大きさという観点で、男女別の傾向の違いを見ていこう。図表8では、定着意向との相関係数が大きい(つまり、関連性が強い)順に男女それぞれのES項目を並べてみた。
  これを見ると、定着化の障害となる要因についても、男女によって異なる傾向があることが分かる。

  このうち最も顕著なのが、「性別・年齢等の平等性」である。
  男性ではこの項目は定着意向との相関はほぼないのだが、女性は2番目に高い相関を示しており、女性が特に重視していることが分かる。
  もちろん、女性差別的な職場であれば、女性の定着が難しいのは当然である。ただ運送業の現状では、社風などソフト面、休息施設等のハード面のいずれでも男女同等の扱いが出来ている企業はほとんどないのが実態である。女性の雇用を拡大するに当たって、男女平等が実現できているかどうか、各社で再度確認することが求められる。

  一方、男性で上位に上がっている「配車マンとの意思疎通」については、女性ではランク外となっている。
  つまり、配車マンとドライバーとのコミュニケーション上の問題は、男性ドライバーの離職要因となっている一方、女性では主要な問題とはなっていない。
  前にも述べたとおり、職場の人間関係・コミュニケーションは大きな男女差があり、女性ドライバーの職場参画による効果として期待できる要素でもある。この点は男性ドライバーを定着化するうえで有効に機能する可能性もある。

図表8 定着意向と相関が高い項目(太字は特に傾向が異なる項目)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

7.年齢による違い

  男女に続いて、年齢による違いについても簡単に紹介しておきたい。
  図表9は年齢層別のESおよび定着意向を示す。図からは、年齢が上がることにESの評価が下がる傾向が見られる。一方、定着の意向はそれほど変わらない。年齢により転職の難易度が上がるため、職種に関わらず高年齢層ほど職場に留まる傾向はあるが、いずれにせよ、年齢を重ねるにつれて仕事への不満が募る一方で、転職せずに会社に留まるというドライバーの姿が浮かび上がる。

図表9 年齢層別に見たES・定着意向の平均値
注:50代以上についてはサンプル数の関係で割愛した。
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

  さて、では高年齢になるにつれて不満が高まる原因は何だろうか。

  図表10は、これまでも見てきたとおり、定着意向との相関係数の大きさで並べた表である。これをもとに、年齢層による不満ポイントの違いを見てみよう。

  図では30代までの若年層、40~50代の高年齢層の2つに分けて分析している。このうち若年層では、「会社の経営方針への不満」や、「困った時の上司への信頼」「同僚同士の良好な関係」といった、会社の方向性やコミュニケーションに関わる項目が上位に上がっている。一方の高年齢層では、「運行時間・距離」「休日日数」「勤務時間・残業時間」といったワークライフバランスや身体負荷に関連する項目が上位を占めている。

  このような傾向は、年齢を重ねるにつれて、長時間労働等の身体負荷が負担となってくること、家庭の形成により家族との時間が重要となること、といったライフステージの変化から説明できるだろう。
  いずれにせよ、ドライバーの不満を解消し、定着化を促進するためには、このような要因の違いを考慮することが必要だ。例えば本人の意向やライフステージを踏まえたジョブローテーションを設計するといった対応が考えられるだろう。

図表10 定着意向と相関が高い項目(年齢層2区分)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

8.最後に

  以上、本稿では、ES調査をもとにトラックドライバーの仕事に抱える不満の実態や、さらには定着化・離職の要因について分析し、そのた結果を紹介してきた。
  ドライバーの職場環境を改善し、定着化を促進することが社会的課題となっているが、そのためには、ここで紹介してきたようなドライバー自身の意向を踏まえ、業界全体および運送各社がニーズに合致した対策を実施することが期待される。

  なお、本研究は今後さらに参加企業数を増やし、より精緻な分析を行っていきたい。このような取り組みにご興味・ご関心をお持ちの方は、筆者まで問い合わせいただければ幸いである。

以上


  
【参考資料】

  • 日本工業出版「流通ネットワーキング」2020年9-10月号、「トラック運送業の人手不足対策と従業員満足度(ES)」


(C)2021 Seiichi Kubota & Sakata Warehouse, Inc.


このページのトップへ戻る