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第29号物流人材に求められる能力要件とは-物流人材キャリアアップ診断シートを活用して-(2003年04月04日発行)

執筆者 浜崎 章洋
社団法人日本ロジスティクスシステム協会 関西支部 プログラムディレクター
    執筆者略歴 ▼
  • プロフィール
    • 1991年 立命館大学経済学部卒業後、ニュージーランドで有機農法を学ぶ。
    • 1992年 タキイ種苗入社、海外営業部にて欧州・アフリカ・南アジア担当。
    • 1998年 JILS入職
    • 2001年 MBA取得(マネジメントシステム専攻)
    • 現在  社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)関西支部 プログラムディレクター。

目次

はじめに

厳しい経済環境下、コスト削減やサービスレベルの向上といった競争力強化にむけて、物流が注目されて久しい。しかし、物流に携わる人材に必要な能力要件について、定義したものは非常に少ない。多くの企業では、「額に汗し、長時間働く」、「緊急出荷など無理を聞いてくれる」というような人が高い評価をされているのではないだろうか。
物流に携わる人材は、どのような能力や知識・経験を備えなければならないかを定義付けることは、物流業界の共通の課題という認識のもと、社団法人日本ロジスティクスシステム協会(以下JILS)関西支部が主催する物流合理化推進研究会(以下合理化研)では、「物流人材キャリアアップ診断シート」(以下本診断シート)を開発し、物流担当者の知識や経験を定量的かつ客観的に診断することを試みた。本稿では、診断シートを活用し、物流人材に必要な能力要件についてまとめるとともに、ロジスティクス時代に対応するために必要と思われる能力について筆者の意見を紹介することとする。

1.「物流人材キャリアアップ診断シート」とは

診断シートは、JILS関西支部主催の合理化研の2000年度の活動において開発された。開発メンバーの一人で同研究会幹事長(当時)の間島によると、開発にあたって、『部分最適から全体最適へとトータルな視点で業務に携われる物流人材が必要との認識のもと、物流担当者が自分の物流における知識や能力要件を自己診断しキャリアアップ形成に役立てていただければ(中略)、開発にあたっては同僚として、またパートナーとして求められる中堅クラスの物流担当者の理想像を描き、それらに求められる能力や知識を指標化したうえで、この指標にしたがった』とある。
筆者もメンバーの一人として開発に携わったが、メンバーとのディスカッションを通じて、物流人材の能力要件を6つの側面から診断することが可能だという結論に達した。本診断シートを開発するにあったてメンバーで定義した物流人材に必要な6つの能力要件とその内容は表-1の通りである。

表-1「物流人材に求められる能力要件」

さて、本診断シートは、物流担当者に必要な能力、知識や経験のレベルを客観的かつ定量的にグラフ化するための質問票である。具体的には、表-2で示すように、6つからなる大項目を、それぞれ5つの中項目(ネットワーク力のみ3項目)に分け、各項目には、レベル1から4という、4つのレベルを設定している。スペースの関係上、表-2には、レベル1(最低)とレベル4(最高)のみを掲載している。自己診断する際には、対象者はそれぞれの設問項目を読み、全ての設問に自分の知識や経験に合致すると思われるレベルを選び、その数字を回答欄に記入する。

表-2 物流人材キャリアアップ診断シート(レベル1とレベル4のみ掲載)

自分の該当するレベルが、仮に設定レベルの中間だと思われる場合には、その中間値(レベル2と3の間なら2.5)とする。そうして出てきた点数を大項目別に小計し、満点(20点、ネットワーク力のみ12点)からの百分率をレーダーチャート上に示したものが、図-3と図-4の診断結果例である。

これらのサンプルは少し極端なものであるが、試験的な利用の結果から、本診断シートでは物流における能力や知識・経験を80%くらい反映できるという感触を得ている。
さて、本診断シートによる診断結果は、健康診断と同じく診断自体に効果を期待するものではなく、診断結果をもとに行動することに意義がある。自己診断で定量化された物流に関する知識や経験、能力について、「自分の得意分野をさらに伸ばす」、「全体的なレベルをあげる」など自主的に目標を設定するとともに、目標が達成できるように切磋琢磨することが必要である。具体的には、セミナー受講や書籍購入、最近ではインターネットなどを通じて知識を習得する、経験したい部門や関連会社への人事異動を願い出る、同僚や協力会社の担当者と勉強会や研究会を開催するといった行動をとり、知識や経験、ネットワークを身につけるといったことが考えられる。

2.ロジスティクス時代に求められる能力要件とは

本診断シートを参考にしたうえで、社会の動向を考慮しながら、今後の物流担当者にとって特に重要だと思われる能力について、以下、筆者の個人的な意見を整理する。

提案力(提案力、文章力とプレゼンテーション力)

荷主に対するさまざまアンケート調査から、荷主が求める物流企業はコスト競争力だけではなく、提案力に優れた企業ということが言われている。荷主あるいは自社の物流の課題について科学的・定量的に分析するとともに、その対策を的確に企画書に表現し、実施に向けて関係者を説得するためのプレゼンテーションの能力が必要である。
過去において、物流企業の営業担当者はクラブ営業(ゴルフと飲み会の付き合い)といった仕事以外の人間的な魅力で、荷主の開拓や定着をさせていたようであるが、今後は、仕事で存在価値を高めることが必要と思われる。

分析力

分析力とは本来、提案力(あるいは企画力)に必要な能力と思われるが、勘や経験が重視されていた物流現場においては、定量的なアプローチの必要性からあえて分けて考えることとする。
顧客(あるいは自社)に対して、最適な提案をするためには、データや客観的事実に基づいた科学的な分析手法を習得しておかなければならない。具体的にはQC七つ道具等にある統計的手法、シミュレーションなど最適化手法、管理会計や物流ABC(活動基準原価計算)などについて、知識を有するとともに、実際に活用できることが必要である。
最終的には、物流あるいはロジスティクスの視点から顧客や自社の経営分析ができるくらいの分析力が求められることになるであろう。

ネットワーク力

今後のネットワーク力の必要性は大きく2つに分けられる。ひとつは、領域の広い物流業務において、一人の人間が習得できる知識や経験には限界があるため、それを補ってくれる自分の専門分野以外に知識や経験を有するひとからのアドバイスなどの期待。もう一つは、取り扱う製品や商品、流通チャネル、法規制や商慣習などによって物流のオペレーションは大きく異なるが、他企業や異業種のベストプラクティスのうち自社に参考になるものを取り入れる必要性である。例えば、コンビニエンスストアなどに商品を供給している加工食品や日用雑貨業界にあるバラピッキングや時間指定配送のノウハウ、通信販売業界にある一般消費者からの不特定多数の返品処理(経理・返品管理・返品再生)のノウハウなどは、ゼロから自社で構築するのではなく、ある業界や他社のベストプラクティスを盗み自社に活用するといったことが必要である。
盗むといっても経営方針や新製品開発の素材やノウハウではなく、業務の手順やオペレーションの方法なので、倫理観に反することではなく、むしろ物流の効率化によって得られる物流業界全体の発展に役立つものと考えれば良い。
自分に足りない知識や経験を補い、そして異業種や他企業のベストプラクティスを自社に応用するためのネットワーク力が必要と思われる。

倫理観

物流会社や物流部門は、公道を利用し事業活動や業務を遂行している。よって、安全や環境に対する法律や社会的なルールや制約を守ることが必要である。また、物流活動なくして市民生活は成り立たないことから、社会的なインフラとしての責任感を持つなど、今後は企業人として、そして市民として今まで以上に倫理観が重要と思われる。

3.おわりに 今後の課題

本稿では物流人材に必要な能力要件を「物流人材キャリアアップ診断シート」をもとに解説するとともに、ロジスティクス時代に対応するための能力についての私見を紹介した。残念ながら、物流担当者がキャリアアップするため、どのような教育体系や能力開発プログラムが必要で、有効かということには触れていない。
医学では、健康診断の結果、改善の必要がある項目については、手術や投薬などによる治療や、食事療法や生活習慣の改善など、さまざまな治療方法が体系化され、実施されている。物流における人材育成についても、能力や経験を診断するだけではなく、人材育成プログラムの体系化が必要と思われる。そのためには、物流を教える大学や団体において早急な開発が必要ではないだろうか。
本稿あるいは本診断シートが、物流に携わる方々に、少しでもお役に立てれば幸いである。

以上



(C)2003 Akihiro Hamasaki & Sakata Warehouse, Inc.

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