ロジスティクス・レビュー

第416号 働き方改革関連法改正と実務的対応(その1)(後編) (2019年7月23日発行)

執筆者  長谷川 雅行
(株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)
    執筆者略歴 ▼

  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会理事
    • (社)中小企業診断協会会員
    • 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    • 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか

目次

*前号(2019年7月11日発行 第415号)より

5.上限規制の実務的対応のポイント

(1)適用猶予(5年間)されるドライバーと適用猶予されないドライバーの区分

  新しい36協定書様式では、時間外上限規制の異なる労働者ごとに記入する様式になっている。
  そこで、ドライバーを改善基準が適用されるか否かで区分して、新様式の36協定書を作成して労基署に提出する。

(2)適用されないドライバー及び内勤者への時短取り組み

  適用されないドライバーについては、2020年3月31日までに、年間の時間外労働が360時間(上限規制)あるいは最低でも720時間以内(特例)に収めなければならない。
  また、内勤者(物流センター作業者等を含む)についても、同じく1年以内に、時短に取り組む必要がある。
  労基署によっては、上記のように「月間時間外労働時間と休日労働を合わせて100時間超」の場合、過労死ガイドラインとなるので、「もっと短時間の協定で提出し直しなさい」と受理拒否するケースがある(上記、附則に基づく「助言指導」と思われる)。
  今後は、5-(2)項で述べたような長時間労働の可能性がある「36協定」は認められないであろう。

(3)適用猶予期間中の早期取り組み

  「5年間の猶予期間中に、年960時間まで減らせばいい」というのは、いささか甘いと思われる。
  対象は「労働時間」と異なるが、海上コンテナ用のトレーラについて、思い出して欲しい。
  2軸車ではフル積載の40ftコンテナ(最大30.48トン)を積むと、CVW(連結総重量)44トン以内でも軸重が法規制の10トンを超えてしまう。そこで、10年以内に2軸車を償却して、3軸車への代替えが義務付けられた。
  ところが、10年経っても代替絵が完了せず、未だに2軸車が「貨物を減トンしている」との名目で大手を振って走っている。
  言い方は悪いが、「カネで済む」ことでも10年経ってもできない業界が、労働時間の短縮という難しい問題に半分の5年でできるとは思えない。
  警察庁(2軸トレーラ)は目こぼししてくれたかも知れないが、厚労省(労基署)はそんな甘くはない。5年経ったら「必ず立ち入り検査がある」と腹を括って、早めの時短取り組みが必要である。5年なんか、アッと言う間に来る。
  具体的な時短取り組みについては、厚労省や国交省から種々のパンフレット・事例集等が出ているので、ここでは簡単に述べる(参考文献として紹介。筆者も厚労省等のパイロット事業をお手伝いして、パンフレット・事例集に一部が収録されている)。

1)労働時間の把握(厚労省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」2017.1.20参照)
①労働時間の管理義務の所在
 使用者には労働時間を適正に把握する義務がある。
②労働時間の考え方
 労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間である。
③労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置
 ・使用者自ら現認することにより確認する
 ・タイムカード・デジタコ・パソコン稼働時間等、客観的な記録を基礎として確認する
 ・やむを得ず「自己申告制」とする場合の措置(例えば、手取り保証のために、「残業はやってもやらなくても、月間〇〇時間」という「つかみ取り」や、乗務の前後2時間は「積卸し・洗車」等など)

2)労働時間に該当するもの


図表2 労働時間に該当するもの
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

  危険物関係の資格やフォークリフト運転など、属人的であっても、会社指示であれば、研修日が休日であっても労働時間となる。

3)サービス労働
  サービス労働(時間外不払い)をさせていると、それが弱みとなって労働時間の厳正な管理ができない。また、労基署の立ち入り検査では、真っ先に勤怠データと賃金台帳の突合せが行われる。

4)適正な拘束時間管理
  運行管理者は使用者の代理として、輸送の安全確保(過労運転の防止、ドライバーの健康管理等)のために拘束時間管理を行っている。拘束時間管理は、ドライバーの労働時間管理の基本である。
  ところが、なかには「月間拘束時間が293時間を超えてしまった」というだけの「拘束時間結果管理」が散見される。なぜ超えたのか、超えるドライバーは偏っていないか、超える仕事(荷主)は何なのかを把握する。
  拘束時間管理表を日々チェックして超えそうなドライバーには早めの対策を打つようにしないと、いつまで経っても時間外労働時間は減らないし、ドライバーの健康管理上もよくない。
  デジタコが導入されて、拘束時間管理がデジタコ任せになっていないか、もう一度チェックして欲しい。

(4)今後の方向

  適用(5年)後の上限時間は年960時間であるが、将来的には一般則(基本は月間45時間、年間360時間。特例で月間100時間未満=法定休日労働含む、2~6カ月平均で80時間以下=法定休日労働含む、年間720時間以下)の適用について「引き続き検討する」とされている。
  したがって、適用(5年)後以降も自動車運転業務の時間外上限規制は、さらに厳しくなっていくことが想定される(当然、改善基準告示も厳しくなると思われる)。

6.年休5日の付与義務化

(1)改正のポイント

  まさか年休(年次有給休暇)を取得させていない(付与していない)物流企業はないと思うが、念のため、労基法における年休に関する規定を再掲する。

「第三十九条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
(二~六項 省略)
七 使用者は、第一項から第三項までの規定による有給休暇(これらの規定により使用者が与えなければならない有給休暇の日数が十労働日以上である労働者に係るものに限る。以下この項及び次項において同じ。)の日数のうち五日については、基準日(継続勤務した期間を六箇月経過日から一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日をいう。以下この項において同じ。)から一年以内の期間に、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。ただし、第一項から第三項までの規定による有給休暇を当該有給休暇に係る基準日より前の日から与えることとしたときは、厚生労働省令で定めるところにより、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。
八 前項の規定にかかわらず、第五項又は第六項の規定により第一項から第三項までの規定による有給休暇を与えた場合においては、当該与えた有給休暇の日数(当該日数が五日を超える場合には、五日とする。)分については、時季を定めることにより与えることを要しない。

(九項以下、省略)」

  しかし、年休を取りにくいのが、物流業に限らず多くの企業の実態であって、先進国のなかでも日本の年休取得率は低い。
  これが、長時間労働の要因の一つであるとして、今回の改正が行われた。最低でも半分の5日間は取得させるという主旨である。
  年休規定については、「年休日数」「短時間労働者の年休」「年休の繰り越し」「年休の半日単位・時間単位付与」「年休の時季変更権」「年休の計画的付与」等もあるが、ここでは誌面の都合もあるので省略する。
  5日間の付与義務についてポイントを列記すると、以下の5点となる。
1)使用者による時季指定
2)対象者
3)付与時季
4)労働者からの意見聴取義務
5)年次有給休暇管理簿の作成・保存義務

(2)企業の年休付与義務

  上記の5ポイントについて、簡単に説明する。

1)使用者による時季指定
①労働者本人の希望を聞いたうえでの使用者による時季指定(今回改正で追加)
②労働者本人の時季指定による取得
③計画的付与(労使協定の締結が必要)
のいずれかの方法によらなければならない。③は、年末年始・ゴールデンウィーク・盆休みのほかに、荷主の休業に合わせて設定することも可能である。

2)対象者
  管理監督者やパートタイム(短時間)労働者等も含め、付与日数が10日以上である労働者を対象に、年5日は使用者の時季指定義務(年休付与義務)が課される。労働者の時季指定した年休等と併せて、年休を消化させることが企業の義務となる。

3)付与時季
  10日以上の年休を労働者に付与した日を「基準日」として、基準日から1年以内に5日間の年休を取得させなければならない。

4)労働者からの意見聴取義務
  使用者は、労働者に取得時季の意見を聴取(例:年次有給休暇取得計画表等)したうえで、労働者の意見を尊重して取得時季を指定しなくてはならない。意見どおりに与える必要はない。

5)年次有給休暇管理簿の作成・保存義務
  取得時季・付与日数・付与日(基準日)を労働者ごとに明らかにした書類(年次有給休暇管理簿)を作成して、年次有給休暇を与えた期間中および当該期間の満了後3年間(合計4年間)保存する必要がある。年次有給休暇管理簿は、労働者名簿・賃金台帳との併用でもよい。

(3)罰則

  年休付与義務を履行しなかった場合、使用者には「労働者1人あたり30万円以下」の罰金が課せられる。
  仮に、内勤者(兼務役員・管理監督者・パートも含む)・ドライバー合わせて20名が働いていて、全員が10日以上の年休付与対象であるのに、実際は年休4日以下だったら、最大30万円×20名=600万円の罰金となる。
  実際には、一気に罰則を、しかも5日間の年休を取らせなかった違反対象者全員分を適用することはないと想定される。
  これまで同様に、「立ち入り検査→是正勧告→改善命令→改善監査」という手順を踏んで、「改善されない=悪質」と判断されて、「罰則」適用となると思われるが、「罰金さえ払えば」ということでは済まない。

7.年休5日付与の実務的対応のポイント

(1)「年休付与日(基準日)の統一

  中途採用の多い物流現場では一人一人の雇入れ(採用)日が異なるので、年休付与の「基準日」も異なる。したがって、「5日間の付与」期限についてもバラバラで管理が煩雑となる。
  そこで、基準日を会社で統一して、年休管理や取得を進める方法がある。ただし、基準日の統一には、「入社日ごとの付与日数の管理不要」というメリットの一方で、「法定以上の付与日数」「入社月による労働者間の不公平感」というデメリットがあるので、管理コストと年休増コストを勘案ずる必要がある(実態として、取得日数に関係なく年5日しか取得しないのであれば、基準日統一が年休増コストにはならない)。
  基準日を統一する場合の就業規則例を掲げておく。年2回の基準日(例:4月1日と10月1日)とする場合は、このバリエーションとなる。


図表3 年休付与日(基準日)の統一例
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

(2)使用者による時季指定を行う

  使用者による時季指定の方法としては、例えば、労働者の意見を聴いたうえで、年次有給休暇取得計画表を使用者が作成して通知することが考えられる。また、使用者による時季指定義務は労使協定が不要であり、就業規則に時季指定の方法を規定しておけばよい。
  トラック運送会社のように、実態として個人別に自由に時季指定する会社では導入しやすいのではなかろうか。
  その他、休日出勤の代休を廃止し、年休取得を促したり、業務の閑散期に、年休取得を促進する方法もあるが、従前の年間休日が減って「不利益変更」にならないように、注意しなければならない。

8.時間外労働における割増賃金率の見直し

  「時間外労働の削減」については、既に3~5項の「時間外労働の上限規制」でも述べたことではあるが、「割増賃金率」と最近の「残業代不払い」について、注意を述べておきたい。

(1)月間60時間超は50%以上の割増賃金率

  従来、中小企業には適用猶予になっていた「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率5割以上」が、2023年4月1日から適用されることになった。
  これは、2010年の労基法改正で決められており、既に大企業では適用されているが、中小企業では適用猶予とされていた。
  筆者も手伝ってきた「トラック輸送における取引環境・労働時間改善」パイロット事業では、「早く長時間労働を改善しないと、割増賃金率の適用猶予が撤廃されて、中小トラック運送事業者の経営が危なくなる」ことも念頭に置いて推進してきた。

(2)残業代不払い等の労働紛争化のプロセス

  「割増賃金率」以前に、そもそも「残業代(所定外賃金)が適正に払われているのか」という問題がある。大手宅配便業者から始まった「宅配危機」問題も、同社の2名のドライバーが労基署に残業代不払いで駆け込んだことに端を発している。
  この場合は、労基署が立ち入り検査して、出勤簿・賃金台帳・ドライバー端末の稼働時間等のデータを突き合わせた結果、不払いが判明して是正勧告(支払い勧告)を行った。
  大手宅配便業者では、残業代請求の消滅時効期間である最大2年間遡って、全社の労働者を調査して不払いだった残業代を支払った。

  このようなケース以外に、もっと面倒なケースが多発している。例えば以下のようなケースである(これは実例に基づいている)。

1)○○ユニオンを名乗る労働組合から、労働組合のないトラック運送事業者(トラック運送事業者では、東証一部上場でも労働組合のない大企業もある)に、「御社の○○△△氏が当組合に加入しましたので通知します」と通知書が届く。

2)その後、○○ユニオンから「某月某日某時から御社にて団体交渉を行いたい」と団交申入書」が届き、指定時刻に○○ユニオンから大勢来社し、不払い残業代の支払い要求団交が始まり、労働問題化する(後述する「成果報酬」が目当てなので、最近は赤旗・鉢巻・拡声器は少ないようである)。ドライバーから「俺も不払いだ」と同調者が出て来ると、火に油を注ぐことになる。

3)多くの場合、ドライバーから入手・コピーしたデジタコ記録から拘束時間等を把握しており、会社からは反論できないことが多く、過去2年分の不払い残業代を支払わされる。

4)当該ドライバーが退職者の場合、賃金不払いから始まって「不当解雇」による地位確認請求(復職)を求め、うまく収めて「解決金」、悪くすれば長期の裁判(結果は金銭での和解が多い)となり、会社の時間的・経済的負担が大きい。

  何もユニオンだけでなく、弁護士が相手の場合もある。ユニオン・弁護士は不払い残業代・解決金から「成果報酬」を得ることが目的であることが多い。サラ金返済過払い金問題が下火になったので、不払い残業代に目を向けているとも言える。ネットや高速のSA・PAなどでは、彼らの「不払い残業代はありませんか」という広告が目に付く。
  しかも、2020年4月1日施行の改正民法では、図表4のように、消滅時効が一律5年になる。飲み屋のツケ(時効1年)、不払い残業代(時効2年)も時効5年になる。荷主への運賃請求権の時効が1年から5年に延長されると、喜んでばかりは居られない(図表4では、民法改正の主要ポイントだけを列挙した。詳細は別途確認願いたい)。


図表4 民法改正(2020年4月施行)の主要ポイント
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

  既に誌面も尽きたので、「同一労働同一賃金」などは、「その2」で説明することとしたい。読者が、働き方改革関連法に沿って改善に取り組むときの参考資料を、以下に掲げるので、活用を願いたい。

(つづく)


  
【参考文献】

  • リーフレット「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」厚生労働省 2017
  • 「トラック運送サービスを持続的に提供するためのガイドライン~荷主・運送事業者双方の共通理解に向けて~」厚生労働省・国土交通省・経済産業省・農林水産省 2018
  • 「トラック運送における生産性向上方策に関する手引き」国土交通省 2017

(C)2019 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.


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