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第379号 マネジメントの常識・非常識(2018年1月11日発行)

執筆者 山田 健
(中小企業診断士 流通経済大学非常勤講師)

 執筆者略歴 ▼
  • 著者略歴等
    • 1979年日本通運株式会社入社。1997年より日通総合研究所で、メーカー、卸の物流効率化、コスト削減などのコンサルティングと、国土交通省や物流事業者、荷主向けの研修・セミナーに携わる。2014年6月山田経営コンサルティング事務所を設立。
    • 著書に「すらすら物流管理(中央経済社)」「物流コスト削減の実務(中央経済社)」「物流戦略策定のシナリオ(かんき出版)」などがある。中小企業診断士。

 

目次

1.理論と原則が出発点

  物流業界での教育の必要性や次世代経営者育成などについて、経営全般にも共通する一般的なマネジメント手法について考えてみたい。
  あらためて言うまでもないが、この分野には豊富な情報があふれているし、多くの教科書も出版されている。マネジメントを理解、習得するための教育研修カリキュラムも数えきれない。考え方や手法はすでに確立されていると考えてよい。したがって、いまさらそうしたものを整理・紹介しても意味がないだろう。「そんなのとっくに知っている」「本を読めばわかる」と言われるのがオチである。
  マネジメントについては、一応人並みに勉強してきたつもりではある。そして、現場の管理者としてそうした理屈を意識しつつ、ある時は忠実に、またある時は無視して「マネジメントもどき」を実行してきた。うまくいったこともあるし、失敗したこともある。ただどちらかといえば、失敗した時の方が多いというのが正直な実感である。もちろん、それらはひとえに筆者の努力不足、力量不足に起因することに疑いの余地はない。理論や原則は、識者の長年の試行錯誤や経験の蓄積の中から、実践的に導き出されたものであり、それが間違っているわけでは決してない。

2.マネジメントの作用と反作用

  ただ、力学には作用反作用がある。キャッチボールは自分の投げ方だけ知っていても成り立たない。相手が投げ返してくるボールの受け止め方も大切な要素である。人を対象とするマネジメントも同じである。物事には必ず表と裏がある。表面である教科書に忠実にしたがっているだけでは、うまくいかないこともある。予想もしない上司や部下、同僚のリアクションに、どう対応していけばいいのか。筆者も明確な答えは持ち合わせているわけではない。
  「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という。残念ながら本稿は「経験に学ぶ」域を脱するものではないが、筆者の拙いマネジメント経験とエピソードをもとに、理論・原則とその影の部分に焦点を当て、考えていくことにしたい。

図1
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  ただ、一口にマネジメントといっても、その範囲は広い。あれもこれも取り上げてしまうと、まとまりのない話になりかねない。筆者はその分野の専門家でもない。
  そこで、本稿では日常業務で避けて通れない以下の2つのテーマを取り上げる。
    ・人の話を聞く
    ・部下は褒めて育てる・部下の良いところを見る

3.人の話を聞く

○最難関の原則

  原理原則の第一は「人の話を聞く」。おそらく誰でも知っているマネジメントの一丁目一番地である。「聞き上手」は営業の極意ともいわれる。でも、簡単そうに見えてこれがなかなか難しい。
  有能であればあるほど、しゃべるネタには事欠かないからである。「一を聞いて十を知る」といわれるように、有能な人は相手の一言に対して、「突っ込みどころ」や「私の主張」、「自慢ネタ」などが瞬時に浮かんでくるものである。こうなると、もう止まらない。次から次へ話題が湧いてきて、気が付けば独演会となっている。
  誰でも、しゃべるのは気持ちいい。だからこそ相手にしゃべらせ、気持ちよくさせてやることがマネジメントの要諦であるのだが、頭では分かっていても、いったんしゃべりだすと自分に酔ってすっかり忘れてしまう。立場が上になるほど部下は意見を言わなく(言えなく)なるので、この傾向は強まる。職制の階段を登るのに反比例して原則と逆方向へ向かっていくのが普通である。

○しゃべることがリーダーシップ?

  物流会社の経営層にこの傾向が顕著である。労働集約型産業であり、多くの現場作業員を指示命令で動かなさなければならないという特性もあろう。とくに人の命にかかわるような安全面の指示では、やさしく言い聞かせるより、厳しく命令しなければならない場面も多い。必然的に「聞く耳を待たない」独裁君主になりやすい。一方的にしゃべることがすなわちリーダーシップと思い込んでしまうのである。
  筆者がこのことを再認識したのは、物流会社のOBであるAさんとの雑談の中であった。久しぶりにお会いしたAさんは、定年退職後、障害者施設入所者の話し相手のボランティアを行っているとのことであった。話し相手といっても、実際は入所者の話をただひたすら聞くだけ。でも、それだけで相手は満足してくれるらしい。ここでAさんは初めて「拝聴」の意味を理解したのだという。
  目を輝かせながら「この歳になって初めて人の話を拝聴することの意味を知ったのは、目からうろこだった」と語るAさんが見せてくれたのは、マネジメントの教科書では定番の、「聞くこと」の大切さを説いた資料であった。目新しい内容ではなかったが、驚いたのは、「これまで、ひたすら自分の思いや考えを話すことが現場でリーダーシップを発揮することだと思っていた」との発言であった。Aさんの話を一方的に「拝聴」するばかりであった筆者には、返す言葉が見つからなかった。
  断っておくが、Aさんは現場の支店長、関連会社の役員を歴任し、人格的にも優れた人物である。サラリーマンとしては十分に成功した部類といえる。その経営の中枢を歩んできた人物が、現役時代に「人の話を聞く」ことの大切さを知らなかったのである。あるいは昔は知っていたけど、上に行くにつれて忘れてしまったのかもしれない。

○「何でも言ってこい」は「俺の話を聞け」

  もう一つ気を付けなければならないのは、「何でも言ってこい」と公言する上司である。そういう上司に限って、「ドアを開けて待っているのに、なぜ誰も相談に来ない」などと不満を言う。また、「皆と話をしたい」などと言って、やたらに懇親会をセッティングしたがる経営者も要注意である。懇親会といいながら、気が付けば経営者の独演会になってしまっているケースが少なくない。どちらも本当は話が聞きたいのではなく、自分の話を聞かせたいだけなのであろう。
  「何でも言ってこい」「皆と話をしたい」と発言すること自体、普段から聞く耳を持っていないことの証明である。人の話を聞く姿勢が相手に伝わっていれば、ことさら声に出さなくても人は自然に集まってくるものである。部下は上司が考えている以上に上司の姿勢・行動を見ている。相談に行っても、一方的に「青年の主張」みたいなことを返されるのがわかっているのなら、誰も来ない。

○聞くだけではダメ

  では、とにかく部下の言うことは何でも聞けばいいかといえば、それほど単純ではない。ただ聞いてあげるだけで相手が満足してくれるならそれでもいい(とくに夫婦間では成立するかもしれない)が、上司としては何らかのアクションが必要となる場合が多い。

図2
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  人の話は玉石混交である。聞く姿勢を持った上司には、どうでもいいこと、自分中心のただのわがまま、他人を貶める話なども次々と入ってくる。おおむね8割はこの手の話題と考えてもいいだろう。このようなくだらない話にいちいち本気で対応していたら、収拾がつかなくなってしまう。
  ある中小企業では、物流センターへのWMS導入を巡って「導入すべし」と「必要ない」とのまったく逆のスタンスのグループが社内で対立していた。社長は部下の話によく耳を傾けるのはよかったのだが、聞きすぎるあまり、対立グループの意見を聞くたびに「導入する」「導入はやめる」と指示が180度コロコロ変わってしまった。その都度部下は振り回されて右往左往。仕事どころではない状態になってしまった。
  これが「人の話を聞く」ことの負の側面である。話の内容より、まず話している人間を見抜くことである。日ごろから言動を注意深く観察し、「こいつの言うことは信頼できる」「こいつの言うことはあてにならない」といった判断基準、軸をしっかり持っておくことが重要である。

4.部下は褒めて育てる・部下の良いところを見る

○褒めると威厳が落ちる?

  これもマネジメントの常識であるのだが、やはり残念ながら、これができない物流会社の管理者、経営者が多い。少なくとも筆者は上司から褒められた記憶はあまりない(褒められるに値する仕事してこなかったからといってしまえばそれまでだが)し、褒められている同僚を目にしたこともあまりない。
  部下を褒めることは逆に自分を貶めることであり、自分のプライドが許さない、威厳が落ちる、とでも考えているのではないかと邪推してしまう。それほどまでに、部下を褒めて育てようという風土はみられない。

○モチベーションがすべて

  極論すれば、仕事はモチベーションがすべてだと思う。職制と業務命令で人を動かすことはできるが、やる気を持って自ら考え動くのとでは、結果がまるで違う。命令だけではいい仕事は絶対にできない。
  ここを勘違いしている管理者・経営者は多い。「やらせればいいんだ」「やらなければクビにすればいい」と公言してはばからない上司を何人も見てきた。たしかに、部下が上司の指示に従って動いてくれなければ、組織が成り立たないことは言うまでもない。社員が勝手にバラバラに行動していたら会社は崩壊する。
  問題はその「従わせ方」である。上司の役目は命令して従わせるのではなく、部下を「その気」にさせること、すなわちモチベーションにより動かすことである。命令するだけなら誰でもできるので、高い給料をもらっている必要はない。部下のモチベーションをいかに高めていくか、それこそ上司に求められる能力と行動である。
  「その気」にさせるもっとも効果の高い方法が、「褒める」ことなのである。よほどのへそ曲がりでない限り、褒められてやる気を出さない人はいない。経営者にとっても、褒められた部下が気分よく仕事をしてくれるほどハッピーなことはないはずである。そして、「褒める」ためにはあえて部下の良いところを見てあげなくてはならない。悪いところを褒めることはできないからである。
  ただ、良いところを見つけ出すのは結構難しい。悪いところはいくらでも目につくが、よほど意識しないと良いところには気が付かないものである。まして、学生の就職人気ランク上位に登場するような物流会社はほとんどない。残念ながら、非の打ちどころのないような優秀な社員は初めから集まらないのである。悪いこところばかり見ていたら社員は誰もいなくなってしまう。現実的には悪いところには目をつぶり、良いところだけ見てあげるしかないのである。
  実際、筆者も経験の中でこのマネジメントは間違っていないことを実感している。褒められることによって、やる気を出し、生き生きと仕事をしてくれた部下を何人も見てきた。

○つけ上がる

  ただ、「褒める」にも負の側面はある。あまり上品な表現ではないが、褒めることによって「つけ上がる」社員がいることも事実である。上司から褒められたことで自信過剰となり、負の方向に向かってしまうのである。自信過剰はやがて周囲の社員を見下す姿勢につながっていく。こうなると、その社員は皆から敬遠され孤立していく。周りの協力が得られないから仕事もうまく進まなくなる。褒めたことが、結果的にまったくの逆効果となってしまう。
  お恥ずかしながら、筆者もこの失敗を何度か犯している。お世辞にもそれほど有能とはいえない社員に自信をつけさせてあげようと思うあまり、ネタを探し出しては褒めていたところ、「自分は優秀なのだ」と勝手に思い込んでしまったらしい。ことあるごとにそれが態度に出て、次第に誰からも相手にされなくなってしまった。
  ただし、これはその人の性格、キャラによるところが大きい。こうした「勘違い」をするのは、どちらかといえば劣等感が強いタイプに多いような気がする。それまでずっと劣等感に苛まれてきたのが、珍しく褒められたことで「逆上」してしまうのかもしれない。もちろん、褒められることによって自信をつけ、努力を重ねそれが新たな成果を生み、自信を深めていく、といった好循環につながっていくケースも多いので、一概には言い切れないが。

○周囲からの反発

  上司が褒めたことによって、周囲から反発を受け次第に浮いた存在になってしまうことがある。ある意味、前項の「つけ上がる」に近いかもしれないが、こちらは本当に実力があるケースで起こる。
  現場の係長を務めていた時のことである。部下に非常に有能な女性がいた。仕事のスピードが抜群に早く、しかも正確さはナンバーワンである。人の3倍の仕事量を時間内に終えてしまう。時間外勤務も発生しないし、上司としてこれほど頼もしい存在はない。筆者としては、定時での退社を高く評価し積極的に早く帰るよう勧めてもいた。
  ところが、この会社は長時間労働が評価される典型的な日本型トラディショナル企業であった。仕事の内容は二の次、三の次で、とにかく遅くまで会社に残っている社員が「よくやっている」「がんばっている」と称賛されていた。筆者はそもそも残業が嫌いで、仕事は可能な限り効率的にこなし、早く家に帰って家族と過ごしたいと考えるタイプであるので、そのような評価基準にはかねてから疑問を持っていた。その点で彼女はうってつけの手本となるべき存在であった。
  待ち受けていたのは、長時間労働の体質にどっぷり染まった社員たちの反発であった。「皆が遅くまで仕事しているのに、なぜ彼女だけが早く帰ってしまうのか、早く帰してしまうのか」といった批判である。こちらは、「あなた方の3倍の量をこなしているのだから褒められこそすれ、責められる所以はない」と言いたいところだが、そんな理屈は通じようもない。これはもう企業体質という域を超えて企業文化にまで「昇華」してしまっている。企業文化に理屈は通じない。
  批判はそのような勤務行動を黙認している筆者にも向けられた。しまいに、不満を高じらせた社員たちは筆者を飛び越えて上司の課長への直訴に及んだ。課長は当然のことながら企業文化の伝承者である。その訴えを受けた課長は彼女に直接「注意」するに至る。
  結果は・・・、ご想像の通りである。理不尽な批判に耐えきれなくなった彼女は会社を去ることになる。会社は一人の有能な社員を失ったのである。

図3
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○「褒める」企業文化がないと

  失敗の原因は、理屈では正しいとはいえ、企業文化に背くようなマネジメントを性急に進め過ぎたことにあったのかもしれない。ある意味、企業文化を変えていくよいチャンスではあったかもしれないが、孤立無援の中ではじっくり時間をかけ、周りを巻き込んで理解を得ながら、といった慎重さが必要であったのかもしれない。そのような思慮深さを持つには、筆者はまだ若すぎたのか。

5.マネジメントの常識・非常識

  日常業務で直面する、マネジメント上の2つの課題について、理論・原則と、自身の体験をもとにその影の部分を考えてきた。マネジメントに限らず、われわれは教科書で学んだことを基本に行動することになるのであるが、それだけでは必ず壁にぶつかる。物事には負の側面がつきものである。
  「そんなことはわざわざ教える必要はない。自分で体験し学べばよい」という考えもあるだろう。その方が本人のためかもしれない。しかし、失敗することによって貴重な人材やビジネスチャンスなど、失うものも少なくない。今回はそのような機会ロスやリスクを、少しでも減らしていくこと、失敗を乗り越え、より高次元のマネジメントを追求していくことが教科書の本来の役割であるとも考え、あえて取り上げてみた次第である。

以上



(C)2018 Takeshi Yamada & Sakata Warehouse, Inc.

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