第114号物流業界の人材育成策はホンモノか(2006年12月21日発行)
執筆者 | 野口 英雄 有限会社エルエスオフィス 代表取締役 |
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目次
1.また悪夢のような人手不足の時代に
バブル時代の苛烈な思いが未だ脳裏に焼き付いているが、再び人手不足に物流業各社が喘いでいる。新卒の内定を約束しても逃げられ、途中入社で即戦力を入れても直ぐやめられてしまう。パート・アルバイトとて同じ状況で、高齢者に何とか頑張って貰っているのが実情ではないだろうか。人材を集めるだけではなく、引き止める方策も真剣に考えなければならない。
実業時代の経験では、365日稼働で集合教育しようにもそのための時間が取りにくく、全国からの参加の旅費や講師費用も重かった。漸く社内勉強会を設定しても思わぬ事態が発生し、それどころではないということもあった。コンサルとしての今、相変わらず経営トップは事業の結果だけを性急に求め、人材育成のための総論や理屈等いらないと嘯く場面によくぶつかる。
今ここで問われているのは単なる労務政策ではなく、人事戦略だ。目先の法対応もままならない状況で、将来の人材確保や育成策でもないと思われるかも知れないが、物流業界はいつもこの繰り返しだった。景気が良くなればこの業界には人は回ってこないという悪循環を、どう断ち切っていくかを真剣に考えなければならない。
2.人材育成セミナーに物流業界から殺到
しかしJILS(日本ロジスティクスシステム協会)の人材育成セミナーのお手伝いをさせて頂くようになって、この先入観を大いに改めることになった。物流技術管理士講座に受講者が殺到し、そのほとんどが物流業界からの参加で以前とは大きく様変わりである。物流管理士補には自費で参加している人も何人かいた。JILSの活動の原点がここにあるなら、大いに支持したいと思う。
その一つの背景は、3PLを始めとして事業が一筋縄ではいかなくなり、小手先の対応や経験則だけでは難しくなったのではないか。本格的な流通知識の習得や専門家の育成を迫られてきているのではないか。ロジスティクスはフィールド学問とはいえ、厳然とした理論や原理原則がある。総論や理屈等いらないと言っていたトップは、もはやそのような口は開けないだろう。
参加物流事業者の中身を良く見ると、物流子会社も多い。親会社はもう物流をやり尽くし、子会社にその業務をアウトソーシングしたので物流部門を廃止してしまった企業もある。本当に物流管理がクリアできたのだろうか、これも素直には喜べない。グループとして物流は子会社が主体的に行うという位置付けになっていればまだいいのだが、単に業務を切り離すというだけなら子会社としてたまったものではない。
3.物流からロジスティクスの時代に
物流管理とは単にコスト面だけではなく、他にも幾つかの重要要素がある。コストとは物流の機能としての側面であって、その効率を高めるということである。もう一つ重要なのは顧客接点としての戦略面であり、いわば顧客への効果・目的性の追求である。しかし未だ大半の企業がここまでに至っていない。顧客との接点という事は、納品という行為が次工程として顧客の工程までつながっているということである。これは売り手側の販売戦略にも係わる重要な問題であり、販売支援やリテイルサポートにならない物流では効果がないと言える。
さらには、物流からロジスティクスの段階での展開が必要になってきている。これは単なる物理的な機能だけではなく、明らかに複合的な体系としての働きになってくる。従来の個別最適としての物流機能だけでは解決し得なかった、計画や統制を含むまさに全社最適を目指す取組みとなる。従って物流事業も従来の延長ではない。
物流システムは商物分離を前提に、ひたすら効率を追求してきた。しかしロジスティクスでは、マーケティングとの車の両輪としての位置付けであり、商物連携が必須となる。ロジスティクス・ビジネスもここに入り込めなければ意味がない。
4.外注からアウトソーシングに
物流子会社に物流業務を丸投げしているという現象をもう少し善意に解釈すると、それはアウトソーシングということだろう。アウトソーシングは単なる作業外注とは訳が違う。この政策をもとに子会社に機能分担したのであれば、そのような時代になってきたのだと考えなければならない。逆にロジスティクス業界にとっては、ビジネスチャンスが到来しているということである。
これを受託するアウトソーサーは、生半可なことでは対応できない。まさに顧客の経営戦略そのものであって、要求される機能や責任が極めて大きくなる。それがコンペで選択され、契約で厳しく評価される。良き人間関係で何とかやるというレベルでは既にない。
ロジスティクスはもはや企業としてのコア・コンピタンスではないのかと言いたいが、どうやらそれもアウトソーシングする時代になったのだろうか。マーケティングのみが自社としてのコアだと考える風潮に対しては、異論を唱えていきたい。セキュリティーの面から再びインソーシングに回帰するという動きもある。マーケティングとロジスティクスがあらゆるビジネスモデルの根幹であって、その一部を外部に機能分担するというのが本来の姿であると思う。
5.ロジスティクス・ビジネスにおける真の人材育成策は
物流事業から、真に若者にも魅力あるロジスティクス・ビジネスにフェーズを上げていくことがまず重要になるが、それで果たして人材が集まってくれるだろうか。企業としてのロイヤリティーを高めることができるだろうか。少子高齢化という構造的な問題を抱え、それはますます困難になることを想定しておくべきだろう。
そこではサービス業としてのマーケティングが基本的に必要であり、その中で何を売っていくのかというブランディングが不可欠となる。これが明確でなければ顧客にアピールすることも出来ず、社員のモチベーションも上がらない。もちろんモノを売る商売とは違って、目に見えないソフトを売るという難しさはある。だがそのサービスは人が生み出すわけであり、従ってブランドというのも単なるロゴマークやキャッチフレーズだけで済むものではない。そこに社員が参画しなければ意味がない。
さらにはロジスティクス・システムを設計する基幹技術を持つ必要がある。それは一朝一夕で身に付くものではなく、体系的・継続的にやるしかない。
もちろん技術・手法だけではなく、顧客へのマインドをどう高めていくかという事がもう一方で必要になる。これはもうもう一過性の、おざなりの教育をすればいいというものではない。ON-THE-JOBが基本で、さらにOFF-THE-JOBで補完する。
その時、経営者や管理者が人を育てる価値観を持ち、その先頭に立たなければならないのは当然だ。もちろんこんなところまでやってくれる外部セミナー等ない。まずは手作りで、試行錯誤でもいい。
品質管理(QC)をもう一度経営としてやってみれば、これらの要素が組み立てられる。すなわち出発はまず経営としての方針管理であり、前提となるリーダーとしてのコミットメントである。5S活動等もお題目だけではなく、そこに意図を込めれば重要な活動ツールになる。要は人が最大の経営資源であり、その活性化策こそが生き残りの道である。
以上
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