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物流システム

第550号「データが欲しい」(2025年2月18日発行)

執筆者 山田 健
(中小企業診断士 流通経済大学/文教大学非常勤講師)

 執筆者略歴 ▼
  • 著者略歴等
    • 1979年日本通運株式会社入社。1997年より日通総合研究所で、メーカー、卸の物流効率化、コスト削減などのコンサルティングと、国土交通省や物流事業者、荷主向けの研修・セミナーに携わる。2014年6月山田経営コンサルティング事務所を設立。
    • 著書に「すらすら物流管理(中央経済社)」「物流コスト削減の実務(中央経済社)」「物流戦略策定のシナリオ(かんき出版)」などがある。中小企業診断士。
    • URL:http://www.yamada-consul.com/

 

目次

  • 1.ある共同物流の挫折
  • 2.データによる検証が先
  • 3.「データ至上主義」に注意
  •   

    1.ある共同物流の挫折

    その自治体は名産品の首都圏での共同物流を計画していた。巨大市場である首都圏や関西圏までの距離が遠いことで物流面でのハンディがあるという。注文から配送までのリードタイムが長くなることで、競合品に後れをとっていた。商品自体の競争力にくわえて、物流サービス水準が劣っていることが販売が伸びない一因と考えていたのである。そこで、自治体の販売支援策の一環として首都圏に共同配送センターを設置し、あわせて共同配送体制を構築する企画が固まったのである。
    筆者は物流面のアドバイザーとしてこの企画に参加することになった。ただ、参加を決めた時はすでに「共同物流ありき」で企画が進んでしまっていたことに気づくのが遅かった。もっとも重要な「共同物流のメリット」と「コンセプト」があいまいなまま自治体主導で走り出してしまっていたのである。不覚であった。
    共同物流を実施するのに何より大切なことは参加メンバーのモチベーションである。そもそも荷主主体で行う共同物流のハードルは高い。オーダーの締め時間が違う、出荷時間が違う、納品指定時間が違う、オーダーのフォーマットが違う、運賃・料金が違う、などなど上げればきりがない。こうした高いハードルを乗り越えるための最大の原動力は参加メンバーの「モチベーション」なのである。
    もちろん、あいまいながら「共同物流によるリードタイム短縮」という目的はあるにはあった。また、昨今なら2024年問題への対応策としての配送距離の短縮や車両の安定確保という「錦の御旗」を掲げることもできたであろう。ただ、計画当時はそのような動きはまだ見えていない。
    結局、参加メンバーの最大の関心は「物流コストの低減」にあった。これは物流の永遠のテーマであることは間違いない。2024年問題がこれだけ喧伝されている中にあっても、いまだにコスト低減にこだわる企業は多い(残念ながらほとんど不可能であるが)。
    当然ながら、参加メンバーによる共同物流化プロジェクトの会議は盛り上がらない。共同物流センターの選定など計画はどんどん具体的になるものの、乗り気でないメンバーによる議論はいつも堂々めぐりである。気が付けば常に原点に戻ってしまっている。皆はっきり口にしないものの、考えていることは一緒である。参加することに「どのようなメリットがあるのか」「コストはどれだけ下がるのか」である。
    一般的に、遠隔地に共同物流センターを設置して共同配送を行う場合、よほどの条件がそろわなければコスト低減は難しい。各社が別々に貸切トラックを走らせており、かつその積載効率が非常に低い、納品先が重なる、ベースカーゴがある(6割程度の物量を持つリーダー荷主)などである。通常、参加各社の在庫を保管する倉庫とは別に共同物流センターを設置することで拠点コストが増えてしまうこと、そのために2段階配送となり配送コストが増えてしまうことなどが原因である。まして、このケースでは単価の高い首都圏に設置することで大幅なコスト増は避けられない状況であった。企画への参加を決めた後に計画の詳細を聞いた時点で、ようやく筆者はそのことを悟った。
    やむを得ず、参加メンバーの出荷データを集めて共同配送の可能性とその効果の見込みをシミュレーションしてみることにした。データで効果を検証しないことには話が前に進まなくなってしまっていたからである。
    日別の納品先や配送重量などの出荷データを提供してもらい分析するわけであるが、これはそれほど簡単なことではない。フォーマットはバラバラ、数量や重量単位もバラバラ、中でもやっかいだったのは納品先の「名寄せ」である。納品先の表示名がA社、A社物流センターなど統一されていないことにくわえ、小売りチェーンの物流センターの場合は納品先(卸)のそのまた先の納品先名(小売りチェーン)だったりする。いまだったらAIがうまくやってくれるのかもしれないが、結局は住所を頼りに手作業で名寄せするしか方法はなかった。
    データを見てもっとも衝撃を受けたのは物量の少なさである。本来ベースカーゴとなるはずの大手荷主は、すでに首都圏に自前の拠点を構え配送網も出来上がっているため参加しなかったのである。共同配送は、理想的には6割くらいの物量(ベースカーゴ)を持つリーダー荷主に中小規模物量の荷主が「相乗り」させてもらうことでコスト面でのメリットが出る。物量の少ない「弱者連合」では共同配送は成り立たないのである。
    実際、配送データは特別積合わせ便レベルであった。どう足してみても貸切便を運行できる量にはならない。現在も遠距離の特別積合わせ便で配送している物量を、地元から共同配送センターまで輸送・保管してから、その先を特別積合わせ便配送する2段階配送ではコスト高になるのはシミュレーションするまでもなく明白であった。
    最後の望みをかけたのは同一納品先への配送であった。そこで、先のような「名寄せ」作業を行ったのであるが、重複する納品先は件数で1割、物量で約3割と意外に少ない。なかでも同一日に納品しているのは、件数、重量とも全体の2~3%にとどまることがわかった。もうひとつやっかいなのは異なる荷主の物流を1つにまとめて配送しても、特別積合わせ便事業者は発荷主ごとのロットで運賃計算するため、ロットまとめ効果(つまり共同配送効果)が得られないことである。このあたりはもう少し融通を利かせてくれてもいいのではないかとも思ったが、何せ物量が少ないため事業者側への説得力に欠ける。
    結局、共同物流は自治体の補助金が投入されている間は継続した。参加メンバーとして自治体に対する一応の面子が立ち、コスト増も避けられたことなどによってかろうじて共同物流はスタートした。しかし、金の切れ目は縁の切れ目。補助金が途絶え大幅なコスト負担が生じた時点で、リードタイム短縮以外のメリットはほぼなくなる。官民をあげての共同物流は数年で幕を閉じたのである。

    2.データによる検証が先

    この共同物流の挫折の最大の原因は、「計画段階で定量的な効果を検証」していなかったことに尽きる。効果のないことがわかっていればプロジェクトは発足していなかったであろう。悲しいことに、物流ではこうした「イメージ先行」型のプロジェクトが少なくない。「共同物流=コスト低減、積載効率向上」といったイメージが定着しているため、最初から「共同物流ありき」で計画が進んでしまうのである。本来、データによる定量的な検証があって初めて共同物流の余地があるのかどうか、トラックの積載効率が上がるのかどうか、メリットがあるのかどうか、などの要点が明確になるのである。その重要なステップを飛び越えた取り組みはあり得ないはずである。現在、2024年問題で関心が高まっている共同物流に同じような例が少なからずあるのではと危惧している。
    ところが、現実的にはこの問題は「鶏と卵」の関係になることも多い。参加企業にとっては、実現するかどうかもわからない段階でのデータ提供には慎重とならざるを得ない。ましては、検証の要となる出荷・配送データは門外不出の「秘中の秘」である。そう簡単に提供できないという事情も理解できるところではある。
    ただ、事情はどうあれ「データによる検証が先」であることは明白である。効果もわからないうちに走り出すのはリスクが高すぎる。メーカーであれば、需要やニーズが不明なまま工場を建設するようなものである。秘密保持契約(NDA)をきちんと交わした上で、第三者(コンサルタントなど)に検証を委託するというのが王道なのではないか。
    共同物流にかかわらず、一部の大手を除いて物流でのデータ活用はとくに遅れているように感じられる。とにかく、データにもとづかない感覚的な議論や判断が多すぎる。筆者も物流会社に所属していた当時はそうであったのでよくわかる。経験や勘にもとづく判断は当たるときもあれば外れるときも多い。
    実際、これはコンサルティングを行う中でも痛感することではある。当初のヒアリングで把握した実態とデータで検証した実態が大きく異なることも少なくない。よくあるのが、在庫のABC分析である。倉庫会社の担当に聞けば、「当社は在庫の出荷頻度や出荷量によるABC分析にもとづいて、よく動く出荷量の大きい商品を入り口近くに配置する在庫レイアウトを行っています」という話が返ってくる。裏付けのために、在庫・出荷データを取得して分析を行ってみると全然そうなっていない。要は感覚的に「よく動く、量が多い」ことを判断しているにすぎないのである。
    ある倉庫会社と荷主の間では在庫レイアウトにかかわるトラブルが頻繁に発生していた。倉庫会社からすれば、在庫の量が多すぎるので現有倉庫に収まらず、外部倉庫を借りある必要があるという。荷主にとってみれば、在庫の置き方が非効率なので格納できないのであり、適正にレイアウトすればオーバーフローはしない(つまり外部倉庫の借庫料は不要)という。この議論はどこまで行っても平行線で結論は出ない。判断材料となるデータによる検証がないのだから当たり前である。
    そこで、筆者が在庫データの提供を受け第三者の立場で検証を行った。商品ごとの在庫ロットとピッキング通路、メイン通路などをデータによりシミュレーションすれば理論上の必要スペースが算出できる。
    結論として、倉庫会社の主張は正しかった。現在の在庫量を保管するには現有倉庫では狭すぎることがわかった。非効率なレイアウトどころか「詰め込みすぎ」で、荷役作業に支障をきたすレベルであった。
    このように、データを活用すればさまざまなことがわかり、正しい判断をすることが可能となる。メーカーなどではデータにもとづかない提案や企画などは上司に見てももらえない、というのは常識である。
    私事で恐縮であるが、筆者はこのような背景を踏まえ、データで物事を見る手法や習慣の定着を図るために、業界団体や物流事業者向けに「物流データ分析入門研修」を実施している。物流業界でも「まずはデータ」という習慣が定着することを祈るばかりである。

    3.「データ至上主義」に注意

    データの重要性はいくら強調してもしすぎではないのだが、一方でデータだけで判断するのもきわめて危険であることを最後に付け加えておきたい。
    筆者がある自動車整備業の顧問を務めていた時のこと。自動車整備といってもこの会社は普通の整備工場とは違う。整備する対象は、トラック、高所作業車(電線工事などに使われる)や大型クレーン、除雪車などいわゆる特殊車両に特化していた。当然、乗用車などとは異なる特殊で高い技術を要求されるが、競合も少なく整備料も高額なため利益率は高かった。ニッチ市場に優位性を持つ有望な整備業である。
    ただ悩みの種は整備士の確保である。工業高校などを卒業して整備士を目指す学生が圧倒的に少ない。まして、特殊な整備技術を身に付けた整備士確保はさらに困難である。競合他社からの転職や自衛隊OBなどで人員補充しているものの、整備士さえ確保できれば仕事はいくらでもある状態であった。典型的な「供給制約事業」である。
    そこへ親会社が雇った大手コンサル会社が乗り込んできた。彼らは調査表に整備士ごとの一日の業務内容を分単位で記入させ、それを集計した報告書を持ってやってきた。驚くことにこれが初めての訪問でもある。報告会には筆者も立ち会った。
    「特殊車両を整備している1日の時間の中で空白の時間帯がある。この時間帯に乗用車など一般車両の整備を行えば〇〇円儲かる」という趣旨の報告であった。名の知れたコンサル会社であったし、まさかと思ったがこれにはさすがに唖然とした。空いた時間に都合よく整備を依頼してきてくる顧客がいるという超楽観的な前提にもとづく、特殊車両整備という強みをまったく無視した現実離れした提案である。おそらく一般車両に手を出せば、空いた時間の分だけ引き受けるなどという身勝手は許されず、顧客の都合に振り回され、本業の特殊車両整備が後回しになってしまうだろう。強みを台無しにしてしまう「悪手」であることは火を見るより明らかであった。
    これは現場に一度も足を踏み入れずにデータだけを分析し、誤った判断をしてしまった典型的な例といえよう。担当者や経営者のヒアリングを行い、現場を見ていれば本質的な課題が供給制約にあることは一目瞭然であったはずだ。
    「現場を知る」ことが大切なのはあらためて指摘するまでもない。現場を知らず、知ろうともせずにデータだけで判断する愚を犯してはならない。
    ところで、この「現場を知る」とはどういうことであろうか。現場で行われている作業や業務を知ることなのか。筆者の拙い経験であえて申し上げれば、「現場を知る」とは「現場で働いている人たちの心理、気持ちを知り理解すること」なのではないかと考える。何らかの構想や施策を実施しようとするなら、「こういうことをやれば現場がどう感じるか」「喜んで取り組んでくれるか、嫌々やるのか」というレベルまでわかっていないとスムーズに受け入れてもらえないと思う。
    以前、ある荷主の新任物流部長が周りから「お前は現場を知らない」と責められ、朝から晩まで物流センターで現場を「見ていた」ことがあった。おそらくこれでは現場を知ったことにはならない。そこで働いている人たちと密接なコミュニエーションをとり、信頼関係が築けて初めて「現場を知った」ことになるのではないだろうか。
    データによる分析、検証や数字で表現することと現場を知ることは車の両輪のようなものであり、片方に偏ることなくバランスよく回していくことが何よりも重要である。


    (C)2025 Takeshi Yamada & Sakata Warehouse, Inc.

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