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第529号 今求められる、オリコンの標準化:国内の動きとドイツ「GS1 SMART-Box」の事例(2024年4月11日発行)

執筆者 笹瀬 麻由
(GS1 Japan ソリューション第2部 RFID・デジタル化推進グループ)

 執筆者略歴 ▼
  • 著者略歴等
    • 2022年 GS1 Japan(一般財団法人 流通システム開発センター)に入所。
    • 電子タグ関連標準やEPCIS・GS1 Digital Link等のデジタル化関連標準を担当。
    • URL:https://www.gs1jp.org/

 

目次

  • 1.危機的状況を乗り切るには“協力”が不可欠
  • 2.フィジカルインターネット実現に向けて
  • 3.オリコンの標準化検討
  • 4.ドイツの標準化オリコン「GS1 SMART-Box」
  • 5.GS1 SMART-Boxの導入事例
  • 6.2030年までの動き
  •   

    1.危機的状況を乗り切るには“協力”が不可欠

      最近、物流業界に関するニュースとして「共同配送の開始」、「モーダルシフトの実施」、「即日配送の取りやめ」といったものをよく耳にする。2024年問題をはじめとする物流業界の危機的状況を乗り切るための具体的な取り組みが増えており、それらは共通して関係各社の“協力”が業務負荷の軽減に繋げられている。競合他社との協力、他の輸送機関の協力、着荷主側の理解という協力、といった形である。人手不足の解消や労働環境の改善を実現するには、価格競争やマンパワーに頼った個社だけの競争領域でのアプローチでは限界を迎えており、協調領域での取り組みが不可欠だ。
    国としても、物流総合効率化法 などにより、従来から物流業界における協調領域での取り組みの促進を行っていたが、現在、更に一歩踏み込んだ検討がされている。物流機能の維持、効率化の鍵として“フィジカルインターネット”の実現を掲げ、本稿で紹介するオリコン(折りたたみコンテナ)の標準化などを業界関係者と連携しながら進めている。

    2.フィジカルインターネット実現に向けて

      フィジカルインターネットとは、インターネット通信の考え方をフィジカル、つまり物流の世界にも適用しようという考え方である。インターネット通信においては、データの塊をパケットとして定義し、パケットのやりとりを行うための交換規約(プロトコル)を定めることにより、回線を共有した不特定多数での通信を実現している。これを、物流の世界にも適用しようとしているのである。より具体的には、積替を前提として輸送の途中にハブを設け、受け渡しする単位(貨物の規格)を統一し、物流リソースを共有化してモノのやりとりをしようという考え方の元、従来の発・着の事業者同士をそれぞれ直接結ぶ輸送網ではなく、事業者横断で貨物・ルートを集約し積載効率を上げようとしている。
    2021年10月に経済産業省と国土交通省は「フィジカルインターネット実現会議」を設置し、その中で2040年を目標年次としたフィジカルインターネット・ロードマップを策定した。物流資材やデータ、業務プロセスの標準化を通じ、効率性や強靭性などの向上を図る。物流資材やデータ、業務プロセスを標準化することで、企業や業種を越えて物流機能やデータの共有が可能となり、競合他社や他の輸送機関とも連携が容易となる。

    3.オリコンの標準化検討

      2030年までの具体的なアクションプランを策定するために、「フィジカルインターネット実現会議」の分科会として、業界ごとのWG(ワーキンググループ)設置された。その中の一つ、スーパーマーケット等WGにおいて、2022年3月に「フィジカルインターネット実現に向けたスーパーマーケット等アクションプラン」がまとめられた。このアクションプラン策定を受け、製・配・販連携協議会 で引き続き検討が進められることとなり、2022年7月に「製・配・販連携協議会 総会/フォーラム」において、賛同宣言が行われた。
    製・配・販連携協議会ではアクションプランの重要項目ごと更に4つのWGを組成しており、このうちの一つ、「物流資材の標準化及び運用検討」WGにて、代表的な物流資材であるオリコンの標準化が検討されている。オリコンの標準化が重要であることは、経済産業省の調査報告書 の中に、「規格化された容器がフィジカルインターネットを機能させるための最も中心的な要素の一つであることや、統合された物流網での混載・積み替えの容易性を確保する上で、規格化された容器が必須である」と言及されているところからも読み取れる。
    オリコンの標準化検討にあたり、既にオリコンの標準規格となるGS1 SMART-Boxの段階的な運用が開始されたドイツの事例が参考にされている。以下にその概要や導入事例を紹介する。

    4.ドイツの標準化オリコン「GS1 SMART-Box」

      GS1 SMART-Boxは、GS1 Germany がドイツ国内の会員企業と開発したオリコンの標準規格である。2015年に導入プロジェクトが立ち上げられ、2021年より段階的な運用が開始している。2023年時点で、GS1 SMART-Boxは日用消費財業界を中心に20社で10万個が利用されている。
    プロジェクト立ち上げ当時、オリコンの種類が多様化していることでパレットへ効率的に積載が出来ないことや、オリコンの運用が各企業の閉鎖的なシステムになっており取引先ごとに異なる運用が必要であることといった課題があった。GS1 SMART-Boxを導入することで、これらの課題を解決することとともに、物流コスト、段ボールケース消費量、CO2排出量の削減が期待された。

    GS1 SMART-Boxの概要を図1のとおりまとめた。サイズだけでなく、重量、色などの本体仕様が標準化されている他、耐久性や防火基準などの基準も整備されている。規格を遵守すれば、メーカーは誰でもGS1 SMART-Boxの製造に参画することが可能だ。
    標準規格ということもあり、GS1 SMART-Boxには国際標準であるGS1標準が利用されている。識別する対象ごとに使い分けるGS1識別コードのうち、GS1 SMART-BoxではGRAI(リターナブル資産識別コード)、GTIN-14(集合包装用商品コード)、SSCC(出荷梱包シリアル番号)といったコードを利用している。

    図 1 GS1 SMART-Boxの概要
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

    5.GS1 SMART-Boxの導入事例

      GS1 SMART-Boxはメーカーおよび小売のDC(配送センター)で主に活用されている。

    DCの機能も有する、P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)オイスキルヒェン工場では、取扱商品全400品目中32品目にGS1 SMART-Boxを利用している。ポーランドの工場で製造された商品が、GS1 SMART-Boxに詰め込まれてP&Gオイスキルヒェン工場に運ばれる。商品は、GS1 SMART-Box内に隙間ができないよう外装を変更している。隙間ができないようにすることで、緩衝材を使用する必要がなくなり、資源節約にもつながっている。(図2)

    図 2 商品を詰め込んだGS1 SMART-Box
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

    P&Gでは、GS1 SMART-Boxを導入したことでトラックへのダブルスタックが可能となり、配送効率が向上した。さらに、既に段ボールケース70トン分の削減を達成したことに加え、従来からフォークリフトのフォークが段ボールケースに当たり商品が破損してしまうケースが多くあったが、GS1 SMART-Boxを使うことで商品の破損も減ったという。

    ドイツの大手ドラッグストア小売業者、dm drogeriemarkt(dm)のヴァイラースヴィストDCでは、取扱商品全1万4000品目中70品目(7、8社の商品)でGS1 SMART-Boxを利用している。メーカーからヴァイラースヴィストDCに、GS1 SMART-Boxに詰め込まれた状態で商品が納品される。段ボールケースで納品される場合と異なり、GS1 SMART-Boxには上蓋が無いので開梱の必要がなく、そのままピッキングエリアまで運ばれる。
    dmでは、GS1 SMART-Boxを導入したことで、従来100%手作業で行っていた段ボールケースの開梱作業が不要になり、業務効率化が図れるとともに、自動化の促進に繋がっている。
    壊れやすい物品や防火基準を満たさないような商品、カートン・ケースのまま販売または店舗まで配送される商品など、GS1 SMART-Boxが適さないケースもある。全てをまかなう想定ではなく、GS1 SMART-Boxに適した商品で運用がされている。

    GS1 SMART-Boxの規格が作られたことで、各企業統一したオリコンを使うことができるようになった。また、GS1 SMART-Boxには、国際標準であるGS1標準が利用されており、企業間のデータ連携も容易だ。現在個社単位でも、配送効率の向上、段ボールケースの消費量の削減、破損商品の削減、自動化の促進といったGS1 SMART-Boxの導入効果が出ているが、今後導入企業が更に増えることで、サプライチェーン全体での連携が実現できるだろう。

    6.2030年までの動き

      さて、国内に話を戻そう。前述した物流資材の標準化及び運用検討WGでは、2030年までに日本版スマートボックスの普及をするためWG参加企業間で議論が行われている。WG設立初年度である2022年度には、パレットへの適合性などを考慮した上で、スマートボックスの底面サイズが決められた。こちらは、第3回官民物流標準化懇談会にて経済産業省から報告もされている。
    続く2023年度にはスマートボックスの高さや色、素材などの仕様、対象アイテムや積載方法といった運用、データ管理のルールなど、より具体的な検討を進めている。検討された内容は、実証実験での検証も予定されている。計画では、翌年度以降スマートボックスの実導入をすすめていく予定である。
    標準化オリコンが完成したとしても、それを各社が活用をしなければ意味がない。物流業界の危機的状況を乗り切るため、協調領域での取り組みに是非積極的にご参加いただきたい。



    *1:共同配送やモーダルシフトといった、二以上の者が連携して流通業務の総合化および効率化を図る事業に対しての支援措置などを定めた法律。
    国土交通省「物流総合効率化法について」
    https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/bukkouhou.html
    *2:経済産業省「フィジカルインターネット・ロードマップを取りまとめました!」
    https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220304005/20220304005.html
    *3:経済産業省後援の下、(公財)流通経済研究とGS1 Japanが共同で事務局を務める協議会。メーカー、卸、小売企業が加盟している。
    *4:フィジカルインターネット実現に向けたスーパーマーケット等アクションプラン賛同宣言
    https://www.gs1jp.org/forum/pro.html
    *5:令和3年度 商取引・サービス環境の適正化に係る事業(スーパーマーケット等における流通・物流の諸問題に関する調査)調査報告書
    https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/202203sm_report.pdf
    *6:1974年にドイツリテール協会の後援のもと設立されたGS1加盟組織。
    *7:第3回 官民物流標準化懇談会 【資料6】フィジカルインターネットの実現に向けた取組について
    https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/content/001628774.pdf



    (C)2024 Mayu Sasase & Sakata Warehouse, Inc.

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