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第534号 POSレジでも活用が広がるGS1二次元シンボル(後編)(2024年6月18日発行)

執筆者  岩崎 仁彦
(GS1 Japan(一般財団法人流通システム開発センター)
ソリューション1部 グロサリー業界グループ グループ長)

 執筆者略歴 ▼
    略歴
    • 世界110以上の国・地域が加盟し、サプライチェーンの効率化をめざしているGS1標準の動向調査や普及活動に従事
    • 国際部、グロサリー業界グループ、業務企画グループを経て、現在ソリューション1部にてGS1標準策定、メンテナンス、普及推進などを担当

*前号(2024年6月6日発行 第533号)より
 

目次

導入事例

  これまで近年整理されたGS1二次元シンボルに関連する標準を紹介してきたが、ここからは徐々に広がっている導入事例を紹介する。下図に示す通り、欧州の一部の国やタイ、オーストラリア、中国、韓国、ブラジル、そして日本の一部の企業では、現在公表されている事例において実証実験または実導入が確認されている。一方で、アメリカでは実導入が現時点で確認できていないが、2027年までに小売業POSで二次元シンボルを読み取れる環境を整備する活動が開始されている。

図6:各国での導入事例
(引用:GS1 Japan Webページ)

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ベルギーにおける導入事例

  ベルギーではGS1二次元シンボル活用の取り組みが早い時期から行われており、更に個社独自の取り組みではなく、複数の製配販及びソリューションプロバイダーが関与している点からも先進的な事例といえる。2017年には小売業4社、サプライヤー8社、ソリューションプロバイダー5社、業界団体8団体が参加し、精肉、鮮魚、生鮮品、チーズ、店内調理の惣菜などの商品について現状の課題とその解決方法について議論が行われた。当時これらの商品には、通常バーコードが表示されていないか、自社店舗内での商品管理用に用いる独自のインストアコードが表示されていた。主な原因としては商品生産段階でGTINの表示が困難であること、また商品の形状が小さかったり湾曲していることがバーコード表示を難しくしていた。しかし、この運用は主に以下の課題を抱えていた:
1. 商品選択間違い防止やレジ業務の効率化
2. セルフレジの利便性向上
3. トレーサビリティ確保:サプライチェーン上流でGTINを表示し、対象商品を一意に識別・記録・情報交換する必要性
4. 複数の会社が出展するプラットフォーム型ネット販売(ネットスーパー等)を活用する際、独自採番のインストアコードでは商品を一意に識別することができない(商品識別番号がバッティングする可能性等)
5. DXを進めるうえで、EDIや共通商品データベースの活用が広がってきているが、独自採番のインストアコードでは不都合が多い
6. 商品情報だけでなく、さらに多くの情報を入手し、業務改善や効率化に活用したい
その結果、以下の事項を中心に検討した結果、GS1二次元シンボルの活用が最適という結論が導き出された。
1. 上記のニーズを満たすためには、どのようなデータ項目が必要か?
2. どの自動認識技術(例:1次元シンボル、2次元シンボル、RFID、画像認識等)が最も有望で現実的か?
3. それらのコストパフォーマンス(ROI)はどうか?

下記に示す写真は2024年に筆者の同僚がColruytグループの店舗を訪問して撮影したものである。

図7:ベルギーにおける導入事例

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  店舗では精肉、鮮魚、生鮮品、チーズ、店内調理の惣菜などにGS1二次元シンボル(GS1データマトリックス)が表示され、POSレジで読み取られていた。同店舗で販売されるすべての商品にGS1二次元シンボルが表示されているわけではなく、例えば加工食品や日用品にはEAN/UPCシンボルが表示されているが、消費者も含めて混乱や特別な対応が必要な様子は見られなかった。また、このGS1二次元シンボルは生産ライン上で印字・貼付が行われており、実証実験の段階を超え、実際の導入が進んでいる状況である。

ノルウェーにおける事例

  ベルギーの事例ではGS1二次元シンボル(GS1データマトリックス)が単独で印字され、実際の店舗で利用されている。先に述べたように、当該商品は店舗でGS1二次元シンボルを貼付するのではなく、生産ライン上で印字・貼付が実施されているが、これは対象商品のすべての販売先が二次元シンボルでの運用が可能と判明しているからである。一方、特にNB品では、販売先(小売業)によってPOSレジなどの対応が完了するまでには企業ごとに時差があると想像されるため、移行期にはEAN/UPCシンボルとGS1二次元シンボルの両方を表示する必要がある。
  ノルウェーのNorgesGruppen社ではGTINよりも細かいデータを活用するため、GS1データマトリックスの導入を進行中である。まず、第一ステップとして自社のみで販売するPB商品に関してGS1データマトリックスへの切り替えを実施した。この商品に関してはベルギー同様、GS1データマトリックスの単独表示が行われている。次のステップとしてNB商品へのGS1データマトリックス表示対応の依頼を開始した。すべてのメーカーが即時に対応することは不可能であるが、GS1ノルウェー担当者によると、一部メーカーからの対応が進められており、2023年の時点で250商品以上に表示が施されているという。EANシンボルとGS1データマトリックスが併記された商品をPOSレジで運用する際、システムやソフトウェアの更新も必要であり、例えばダブルスキャン(二重計上)を発生させないことが必須条件となるが、そのような問題は発生していないとのことである。

図8:ノルウェーにおける事例(左PB品、右NB品)
(引用:2023年度 流通コード委員会資料 2023年11月6日開催)

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  ベルギー及びノルウェーの事例では、データフォーマットはGS1 element string シンタックス、そしてデータキャリア(シンボル)はGS1データマトリックスを活用している。先に紹介したが、POSで取り扱われる商品にGTINに加えて日付情報やロット番号、シリアル番号を表示するためのデータ形式として、GS1 element string シンタックスとGS1 Digital Link URIシンタックスの2種類が存在する。次に、GS1 Digital Link URIシンタックスを活用した事例としてブラジルと韓国における事例を紹介する。

ブラジルにおける事例

  ブラジルのベーカリー兼食品店であるParla Deliでは、GS1 Digital Link URIシンタックスをエンコードしたQRコード(以後、「GS1 Digital Link URI形式のQRコード」と表記)を商品に表示し、在庫管理の向上、食品ロスの削減、食の安全性及び顧客満足度の向上などに活用している。
  POSレジでは、商品に表示したGS1 Digital Link URI形式のQRコードをスキャンすることで、商品のGTIN、ロット番号、シリアル番号、製造日、重量、価格などの詳細情報の読み取りと記録が可能となった。これにより、期限切れ商品の販売を防ぐシステムだけでなく、この情報を在庫及び生産管理にも活用し、在庫管理の速度と精度を大幅に向上させ、食品廃棄を50%削減にも成功した。
  GS1 Digital Link URIシンタックスは、ウェブで用いられるURL形式であることは先に紹介した。このGS1 Digital Link URI形式のQRコードは、POSレジでのスキャンやParla Deli社の在庫管理等のオペレーションだけでなく、消費者が自身のスマートフォンのカメラアプリでこのQRコードをスキャンすることで、Parla Deliが提供する情報(ウェブ上の情報)にアクセスできる。同社では、消費者が詳細情報や購入方法をリアルタイムで確認できるような仕組みやサービスを構築し、顧客満足度の向上や購入後の満足度調査にもこのGS1 Digital Link URI形式のQRコードを活用している。

図9:ブラジルにおける事例
(引用:GS1 Japan Webページ)

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韓国における事例

  韓国では、リサイクル促進を目的とした政策の一環として、2026年1月からケース販売される商品の個品についてラベルレス義務化が予定されている。韓国トップシェアのミネラルウォーターブランド、JEJU PROVINCE DEVELOPMENT CO.は、この規制対応の一環として、GS1 Digital Link URI形式のQRコードを活用し、消費者に対する情報提供を開始した。
  同社ではこれまで主に各個品ごとに貼付していたラベル(文字情報)で商品情報、栄養素、注意事項、キャンペーン情報などを提供していた。これらの情報は販売時の荷姿(ケース販売)では引き続きケースのラベルに記載した文字による情報提供が可能であるが、消費者が商品購入後、個品単位に分けた場合、ケースのラベルはすでに廃棄されていたり、消費時手元になくすぐには見つからないなど、消費者が必ずしも必要な時に即時その情報にアクセスできるとは限らない。そこで、消費者に個品単位で商品情報を提供する方法として、各ペットボトルのキャップにGS1 Digital Link URI形式のQRコードを表示し、消費者が自身のスマートフォンのカメラアプリでこのQRコードをスキャンすることで、Webを介して必要な情報へアクセスできるようにした。

図10:韓国における事例
(引用:2023年度 流通コード委員会資料 2023年11月6日開催)

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日本における事例

  日本では残念ながら実導入の事例はまだないが、2023年に株式会社日本総合研究所、今村商事株式会社、株式会社サトー、西日本イシダ株式会社、株式会社まいづる百貨店の協力で店舗業務の効率化、売り切り促進、食品ロス削減、製造見込み数の精度向上を目指し、佐賀県唐津市のまいづるキャロット浜玉店で25 SKUのパンを対象にGS1データマトリックスを活用した実証実験が実施された。

  本実証実験のニュースリリースにもあるように、主な期待効果は以下の3点である。
1. 店舗業務効率化、人手不足解消
ダイナミックプライシングシステムと電子棚札の活用により、商品の自動値引きを行うことで、値札の差し換えや値引きラベルの貼り付け作業といった重労働をどれほど軽減できるかを検証する。

2. 食品ロスの削減と売上アップ
手作業による微細な値引き作業で食品ロス削減を実現していたが、自動値引きでも同等の食品ロス率を維持できるかを検証する。また、消費者行動に応じた微細な値引きが売り上げ増加効果をもたらすかも検証する。

3. 食品メーカーにおける製造見込み数の精度向上
  賞味期限や割引率ごとの販売データを利用して、より高度な販売予測が可能になるかを検証する。
(ニュースリリースより引用:
https://www.sato.co.jp/about/news/2023/release/20230124.html

  実験では、商品にGS1データマトリックスが表示されたラベルが貼られ、電子棚札が設定された価格に自動的に更新されるシステムが導入された。POSレジでは、消費期限もエンコードされたGS1データマトリックスをスキャンし、電子棚札に表示された価格を正確に反映した値段でチェックアウトが行われた。

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図11:日本における事例

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  今回の事例は実証実験のため改善・改良の余地もあるかもしれないが、様々な可能性が垣間見えたと言える。例えば、消費者自身が電子棚札(価格)とグループラベルを確認し、自身のニーズに合わせて(例:直ぐ消費するので消費期限が短いが値引き商品を選択 VS 後日消費するので、消費期限が長い定価商品を選択等)商品を選択すること可能にしている。これは電子棚札(価格)とグループラベルを消費者が確認して、購入商品を選択するという、新しい消費者行動と認知を必要とするかもしれない。しかし、人手を介さず、またより機動的で緻密な価格設定が可能になるという点は、人手不足が深刻な現在非常に魅力的であり、事実大いなる反響があったと聞いている。実証実験の報告書によると期間中、1682商品が値引きされたのちに購入された。そして、この商品の平均値引き回数は1.375回であった。一度の値引き作業(値引きシールの貼付)を10秒と仮定すると、合計6.42時間が削減できたことになる。今回は、まいづるキャロット浜玉店で販売されていたパンのうち10%がこの実証実験の対象となった。値引き自動化システムの対象を全てのパンに広げたと仮定すると、1か月で57時間の削減となる。人件費を2,000円/時間で計算すると、1店舗あたり約114,000円/月(4,000円/日)の人件費削減効果が見込まれる。
  更に機動的で緻密な価格設定が可能になれば、売り場の在庫をより適正に保つことが可能になり欠品や過剰在庫、そして食品ロスをより防ぐことにつながる可能性を秘めている。また、期限別の店舗在庫の可視化が可能になることで、この情報を活用して例えば製造見込み数の精度向上を図るなど、これまで把握することができなかったデータを活用することで様々な可能性を秘めている。

おわりに

  近年のデジタル変革の波の中で、小売業界においても次世代技術の採用が進んでいる。特に、これまでEAN/UPCシンボルに表示されていた商品識別コードであるGTINに加え、ロット番号や日付情報といった細かい属性情報もGS1二次元シンボルに表示して活用することが注目されている。GS1標準に基づく標準化されたデータフォーマットは、サプライチェーン上の様々なステークフォルダー間での情報共有を効率的に実施し、あらゆる業務効率化や消費者の購買体験の向上などが期待されている。
  これら効率化をなしうるうえで重要なポイントは、標準化されたデータフォーマット/構造化データの採用と利活用を前提としていることにある。標準化されたデータフォーマットによって、異なる事業者/システム間でのデータの相互運用性が保証され、情報の精度とアクセスの速度を飛躍的に向上させることが可能になる。これにより、国際的な商流においても効率的なデータ交換が可能となり、グローバルなビジネスの機会拡大に寄与することが期待されている。
  将来的には、二次元シンボルを活用した新たなビジネスモデルやアプリケーションが更に進化し、ロット番号やシリアル番号ベースの農場から食卓までのトレーサビリティの確立や、消費者への効率的で正確な情報提供、そしてサステナビリティの実現など、多岐にわたる課題への対応が期待されている。

以上



(C)2024 Yoshihiko Iwasaki & Sakata Warehouse, Inc.

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