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第548号「いまふたたび認可運賃?」(2025年1月21日発行)

執筆者 山田 健
(中小企業診断士 流通経済大学/文教大学非常勤講師)

 執筆者略歴 ▼
  • 著者略歴等
    • 1979年日本通運株式会社入社。1997年より日通総合研究所で、メーカー、卸の物流効率化、コスト削減などのコンサルティングと、国土交通省や物流事業者、荷主向けの研修・セミナーに携わる。2014年6月山田経営コンサルティング事務所を設立。
    • 著書に「すらすら物流管理(中央経済社)」「物流コスト削減の実務(中央経済社)」「物流戦略策定のシナリオ(かんき出版)」などがある。中小企業診断士。
    • URL:http://www.yamada-consul.com/

 

目次

  • 1.ルート66のヒッチハイク
  • 2.さらに減る賃金
  • 3.認可運賃の議論を
  •   

    1.ルート66のヒッチハイク

    少し前のことであるが、某テレビ局でアメリカ大陸横断ヒッチハイクの旅(正確な番組名は忘れた)という番組が放映された。旅の舞台はルート66(国道66号線)。大陸を横断するこの道は、アメリカ西部の発展を促進した重要な国道であり、映画や小説、音楽などの中に多く登場し、今なおアメリカのポップ・カルチャーの題材にされている。
    何人かの日本人のタレントがリレー方式で、西海岸から東海岸までこの国道を中心にヒッチハイクして旅するドキュメンタリー形式のバラエティである。私事で恐縮だが、この手の「ゲーム形式の路線バスの旅」系の番組が好きで欠かさず視聴している。目的地までやらせなし(たぶん)で進行するガチンコ旅である。道中で起きるさまざまなハプニングに出会いながらの旅はなかなかスリリングで目が離せない。番組の宣伝をするつもりはないが、行く先々の未知の名所に出会えるのも楽しいし、行きあたりばったりの冒険的な要素もなかなか魅力的である。
    それにしても、決して治安のいいとはいえない米国でのヒッチハイクは乗る方も乗せる方も相当リスキーである。まあ、撮影スタッフが付いていくロケであるから多少心強いかもしれないが、女性タレントも含まれるリレーはなかなか無謀で大胆な企画ではあった(喜んで観ておきながらなんではあるが)。
    実際、乗せてくれる車を探す苦労は想像以上だ。道端で行き先のプラカードを掲げて手を振っても、走っている車はまず100%停車してくれない(当然!)。やむを得ず、ガソリンスタンドやトラックターミナルなどに停車しているドライバーに直接交渉する羽目になる。自家用車に同乗させてくれるケースはまれで、大半は長距離トラックでのヒッチハイクとなるのはやむを得ないところであろう。
    登場する米国のトレーラーの大きさには驚かされる。何千キロという長距離を大量輸送するのには当然であろうが、おそらく日本のトレーラーの1.5倍以上はあるのではないか。
    と、職業目線が登場してきたところで、助手席に乗せてもらったタレントがある女性ドライバーと交わした世間話(もちろん通訳付きで)に職業アンテナが反応した。道中のドライバーとの会話がおそらくこの番組の見どころの一つであるが、「なぜトラックドライバーになったの」というタレントの質問に彼女はこう答えた。「給料が高いから」。以前は教師をしていたが、より給料の高いトラックドライバーに転職したのだという。妙に納得感のある理由であった。
    以前にも書いたが、米宅配会社UPSのフルタイム勤務のドライバーの年収(2023年時点)は、同国世帯平均の約1.25倍の7万4580ドル(約1,370万円)である。ドライバーの給料が他産業より高いのは「常識」なのであった。
    もうお察しのことと思うが、今回のテーマはドライバーの給料、そしてその原資となる運賃である。これまでも本連載ではたびたび触れてきたテーマであるが、2024年問題が佳境に入りつつある現時点での「運賃のいま」について考えていきたい。

    2.さらに減る賃金

    あらためて言うまでもないが、2024年問題に限らず構造的なドライバー不足を緩和する施策には枚挙に暇がない。共同配送に始まり、長距離輸送の中継方式、モーダルシフトそして物流センターでの待ち時間短縮、パレット荷役、バース予約システムなどなど。もちろん、「これをやればすべて解決」などという決め手はない。一つひとつできるところから地道に手を付けていくしかないのが現状である。
    こうした施策の効果がどれほど期待できるのかは別にして、一つ重要な点は共同配送などトラックの積載効率を上げていく対策を除けば、ほとんどがドライバーの勤務時間短縮を招くことである。
    「時間外労働を減らすことが目的なのだから当たり前じゃないか」といわれそうだが、ドライバーにとって勤務時間減少は賃金減に直結する。歩合給が半分以上を占めるといわれるドライバーの賃金体系であればなおさらである。それでなくとも一般より1~2割低いといわれる給与がさらに下がってしまうことを意味する。待遇の悪化はドライバーの減少にさらに拍車をかける。
    実際、長距離輸送の中継方式を導入したある大手運送会社のあるドライバーは、中継方式により長距離輸送が減ったおかげで時間外勤務が激減。賃金が大きく下がったため他産業への転職を真剣に考えているという話も耳にした。こうしたドライバーの離職分は公表されている「何も対策を講じなければ2030年には3割以上の貨物が運べなくなる」といった数字には含まれていない。現実はははるかに深刻な事態に陥ることが危惧される。
    先の米国のドライバーの例を挙げるまでもなく、さまざまな施策とは別次元で運賃を上げ、ドライバー給与を他産業並み、どころか「他産業以上」に挙げていくことが喫緊の課題となっているといっても過言ではない。
    3.運賃のいま
    では、時間外規制の適用が始まったいま、運賃はどのような状況にあるか。実勢運賃の推移を知るのにもっとも参考となるデータとして筆者が活用してる資料に、トラック運送事業協同組合が毎月公表している「WebKIT運賃成約指数」がある。これは全国のトラック運送事業者およびトラック運送事業協同組合のためのインターネットを利用した求荷求車情報ネットワークシステム「WebKIT」での成約運賃を、2010年4月を100として指数で表したものである(図表1)。

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    直近の特徴的な年度を見てみると、トラック運賃はいわゆる「宅配クライシス」が起きた翌年の2018年度をピークに、コロナ禍の2020年にボトムまで下がり、その後コロナの5類引き下げと経済の回復とともに徐々に上昇し、時間外規制が始まった本年度に2018年の水準を超えた。運賃が上昇しているのは間違いない。
    では実際の運賃はどうなのかというと残念ながら決して十分とは言えない水準である。
    図表2は国交省が今年公表した標準運賃と実勢運賃の比較である。標準運賃は、認可運賃から届け出制に移行した現在のトラック運賃について、民間同士での交渉ではあまりにも運賃があがらないことに危機感を持った国交省が、「強制ではなく」「参考までの」運賃として公表した「苦肉の策」である。ドライバーの労働条件を改善し、トラック運送業がその機能を持続的に維持していくに当たって、法令を遵守して持続的に事業を行っていくための参考となる運賃(国交省HPより)である。本来ならこれだけ収受しなければ運送会社の経営が成り立たないという水準であって、米国のように世帯平均より高い賃金を前提としたものではない。

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    ここでは関東の4トン車と10トン車を取り上げたが、いずれも実勢運賃は標準運賃の6~8割の水準である。仮にドライバー賃金を世間並み以上に引き上げようとすれば、標準運賃をはるかに上回る運賃が必要となる。

    3.認可運賃の議論を

    上昇基調にあるとはいえ、現在のアップ率では世間並みの賃金にさえほど遠い。実際、知り合いの中堅運送会社の労務担当の話では、相変わらずドライバーの応募はほぼゼロで、たまに応募があっても50代、60代。若者は皆無という。少々の運賃アップでは少なくとも採用面では「焼け石に水」なのである。
    それでも今後運賃の上昇基調は続くものと思われる。しかし、これまでのペースでは、標準運賃を上回るようなアップは期待薄である。まして、コロナ禍や最近のイスラム過激派フーシによるスエズ運河の脅威などによって数倍に跳ね上がった海上運賃のような上昇は望むべくもない。それどころか過去のパターンからも推測できるように、景気が少しでも落ち込んで貨物量が減少すれば、たちまち元に戻ってしまう懸念さえある。運賃が上がらなければドライバーの待遇も改善されず、ドライバー不足は解消はおろか緩和もされない。加速するドライバーの減少ペースをくい止めることは不可能である。
    ここからは、拙速で乱暴な議論という非難をあえて承知の上で述べることをご容赦願いたい。
    もはやトラック運賃は民間同士での取引で決定するのは限界という次元にきていると思えてならない。そもそもトラック運賃は図表3にあるように、1989年にトラック運送業への参入規制が免許制から許可制に緩和されたことにともない、認可運賃から事前届け出制、事後届け出制へと自由化されてきた。認可運賃とは国に届け出て認可を受けた運賃であって、利用者に不当な不利益をもたらしたり、事業者間での不当な競争を引き起こしたりする

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    場合は国土交通大臣が変更命令を出せる仕組みとなっている。国による強制力がある運賃である。
    現在のトラック運賃体系は、かつての認可運賃をベースにしてはいるものの運送会社の裁量で決められる。ところが、実際は認可運賃当時から荷主と運送会社の交渉で決まる「実勢運賃」が慣習となっていた。当時の荷主はもとより、お恥ずかしながら物流会社の営業を担っていた筆者さえも認可運賃の意味を理解することなく「実勢運賃」による値決めを当たり前としていた。それは今も変わらない。運賃タリフ(運賃表)の存在さえ知らない運送業の社員も珍しくない。制度は変わっても実態は何も変わっていないのが現実なのである。
    荷主と運送会社の間に存在する圧倒的な力の差を見据えたとき、ここはいま一度、かつての認可運賃のような運賃制度を原点から検討する時期にきているのではないだろうか。少なくとも、運賃の上限と下限を定めてその範囲を逸脱する場合に、要請や勧告、社名公表など元受を含めた運送会社と荷主を国が指導する「強制力」を持たせることが必要ではないか。昨年新設されたトラックGメンは、運賃交渉の不当な据え置きや交渉に応じないことを勧告などの対象としているが、一歩踏み込んで運賃水準そのものをチェックの対象とするのである。いわば現在の標準運賃とトラックGメンの機能を、認可運賃という法的根拠をもとにより強固なものにするのである。
    素人である筆者には不案内な法制度や制度設計などは霞が関の優秀な官僚たちにお任せするとして、せめて議論の土俵くらいには乗せる必要はあるのではないか。当然、行政や荷主など関係業界の大きな抵抗が予想されるものの、もはや事態は一刻の猶予も許されない局面に差し掛かっているように思える。


    (C)2025 Takeshi Yamada & Sakata Warehouse, Inc.

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