第533号 POSレジでも活用が広がるGS1二次元シンボル(前編)(2024年6月6日発行)
執筆者 | 岩崎 仁彦 (GS1 Japan(一般財団法人流通システム開発センター) ソリューション1部 グロサリー業界グループ グループ長) |
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執筆者略歴 ▼
目次
- はじめに
- 標準動向
- データフォーマット~POSレジで取り扱う商品に利用可能な2種類のデータフォーマット~
- GS1アプリケーション識別子とは
- GS1標準バーコードの種類
- POSレジを通す商品へのGS1二次元シンボルの表示ルール
- EAN/UPCシンボルと二次元シンボルを併記する際の標準
- HRIのルール
はじめに
1971年、米国の大手消費財メーカーと小売業者間で商品識別コードUniversal Product Code(以後「U.P.C」と表記。)の規格が確立され、商品パッケージへのU.P.C表示方法としてバーコード(UPCシンボル)の採用が合意された。1974年にオハイオ州のスーパーマーケットでこのバーコードがPOSレジでスキャンされてから約50年が経過している。日本ではこのバーコードがJANコード(国際的にはGTIN:Global Trade Item Numberと呼ばれる。以後「GTIN」と表記。)およびJANシンボル(国際的にはEAN/UPCシンボルと呼ばれる。以後「EAN/UPCシンボル」と表記)の名称で知られており、現在でもPOSレジでの精算だけでなく、検品、仕分け、受発注、棚卸し等、サプライチェーンの様々な場面で活用されている。
一方、近年ではGTIN以外の情報もバーコード化し、これまでにないソリューションの実現や業務効率化に役立てられるようになってきている。新しい技術の開発が進み、2017年ごろからは日付やロット番号、重量、単価などの情報を二次元シンボルに表示し、新たなアプリケーションやソリューションの試行が世界各国や企業で始まっている。
これを受けてGS1は、産業界の要望を受け、2027年までに小売業POSで二次元シンボルの読み取りが可能な環境を整備する活動を開始した。主にPOSレジで取り扱う商品に対する利用可能なデータフォーマット、GS1二次元シンボルの種類、およびシンボル表示に関するルールを議論し、標準としてまとめて公開している。本稿では、この新たに整備された標準について説明し、その後各国での導入事例を紹介する。
標準動向
GS1では、分野や用途ごとに利用可能なデータフォーマット、GS1標準バーコードの種類、そしてバーコードの印字などに関する標準を定めている。
データフォーマット~POSレジで取り扱う商品に利用可能な2種類のデータフォーマット~
2024年5月現在、POSで取り扱われる商品にGTINに加えて日付情報やロット番号、シリアル番号に代表される属性情報を二次元シンボルに表示するデータ形式としてGS1 element string シンタックスとGS1 Digital Link URIシンタックスの2種類がある。GS1 element string シンタックスは従来から利用されてきたデータフォーマットである。一方、GS1 Digital Link URIシンタックスはウェブで用いられるURL形式で表現する。これにより、データキャリアにエンコードしこれまでのように利用することも可能であるし、GS1識別コードに関連するウェブ上の情報・サービスの場所を発見するために使用することも可能である。どちらのデータフォーマットもGS1アプリケーション識別子を用いて表現するが、データの表示順序が異なるなど細かい点は相違があるので、利用の際はGS1総合仕様書(GS1 General Specifications)及びGS1 Digital Link Standard: URI Syntaxをご確認いただきたい。例えば、GTIN、賞味期限日、ロット番号を2種のシンタックスで表現した場合、下記の通りとなる。
図1:GS1 element string シンタックスとGS1 Digital Link URIシンタックス
(引用:流通情報システム化の動向2023-2024を基に一部筆者にて加筆)
GS1アプリケーション識別子とは
GS1アプリケーション識別子(GS1 Application Identifier、以後「AI」と表記)は、一次元バーコードや二次元シンボルなどの自動認識技術を用いて、さまざまな情報を企業間で交換するためのデータフォーマットのGS1標準である。例えば、サプライチェーンにおいては、多くの企業間で多様な情報をやり取りする必要がある。もし各企業が個別のデータ形式を採用してしまうと、データの突合せや変換が必要となり、企業間で情報を正確に理解することが困難になり、手間やコストが増大する。そこでGS1では、情報項目ごとにデータの長さや使用可能な文字種などを定め、誰もが標準的に使用できるように標準化を行っている。この標準体系をAIが構成しており、各データ項目には2桁から4桁の識別コードが割り当てられ、情報の種類やフォーマット(データ内容の定義、データの長さ、使用可能文字)が定義されている。現在、120種類以上のデータ項目があり、それぞれのフォーマットはISO/IEC 15418として国際規格になっている。詳細および利用時の確認は、GS1総合仕様書(GS1 General Specifications)を参照されたい。
図2:GS1アプリケーション識別子の仕組例:GS1-128シンボルを例に
(引用:流通情報システム化の動向2023-2024)
GS1標準バーコードの種類
POSで取り扱われる商品にGTINに加えて属性情報を表現することが可能なGS1二次元シンボルは、利用するデータ形式によって異なる。GS1 element string シンタックスを利用する場合、GS1データマトリックスが標準のシンボルとなっている。一方で、GS1 Digital Link URIシンタックスを利用する場合は、QRコードが推奨シンボルとされ、データマトリックスが利用可能シンボルとなっている。
また、GS1 element stringを選択した場合、利用可能なシンボルはGS1データマトリックスのみであるが、これは単品(POSレジでの利用を想定)のみに限られる。言い換えれば、例えばダンボールや物流ラベルなどにGS1二次元シンボルを表示する場合は、GS1データマトリックス及びGS1 QRコードの2つのシンボルが標準として選択可能である。
図3:POSで取り扱われる商品に利用可能なデータフォーマットとシンボル
(引用:GS1 Japan Webページ)
POSレジを通す商品へのGS1二次元シンボルの表示ルール
GS1二次元シンボルを対象商品に表示することを想定して、印字面では主にEAN/UPCシンボルと併記する場合と目視可能文字(HRI: Human Readable Interpretation、以後HRIと表記)に関する標準もデータフォーマットや利用可能シンボルと同時に議論、整備された。
EAN/UPCシンボルと二次元シンボルを併記する際の標準
EAN/UPCシンボルとGS1二次元シンボルを併記する際の留意点は以下の3点である。
原則1)一つの商品に表示するEAN/UPCシンボルとGS1二次元シンボルには、同じGTINを利用する。
原則2)EAN/UPCシンボルとGS1二次元シンボルの用途が同じ場合(例:両方ともPOSレジでの商品の精算に使用)、EAN/UPCシンボルの中心から50㎜以内にGS1二次元シンボルを近接表示するのが望ましい。ただし、クワイエットゾーンと呼ばれるバーコードの始まりと終わりを検出するための白地の部分は確保することが必須である。クワイエットゾーンは一次元シンボルの場合は左右の両端、二次元シンボルの場合は外周に設ける。また、二つのシンボルの向きや配置順はブランドオーナが決定する。
原則3)EAN/UPCシンボルとGS1二次元シンボルの用途が異なる場合(例:EAN/UPCシンボルをPOSレジでの商品の精算に使用し、GS1二次元シンボルを消費者への情報提供に使用)、読み手が意図しないシンボルを読み取るのを防ぐため、それぞれを離して表示するのが望ましい。
図4:EAN/UPCシンボルと二次元シンボルを併記する際の3つの原則
(引用:2023年度 流通コード委員会資料を基に筆者作成 2023年11月6日開催)
HRIのルール
GS1二次元シンボルを単独で表示する場合は、シンボルを読み取れなかった際のバックアップとして、少なくともGTINのHRIをGS1二次元シンボルに隣接させて表示することが必要である。一方で、EAN/UPCシンボルとGS1二次元シンボルを近接して表示する場合は、GTINのHRI表示をEAN/UPCシンボルに限定しても問題ない。
図5:HRIのルール
(引用:2023年度 流通コード委員会資料 2023年11月6日開催)
以上
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