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第11号運賃値上げの回避策が生んだ物流改革(2002年07月12日発行)

執筆者 河西 健次
株式会社カサイ経営 代表取締役社長
    執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 旭硝子株式会社で営業・経理・物流を担当
    • 82年物流専門コンサルティング会社カサイ経営設立。
    • 著作、講演、コンサルティングと幅広く活動。早稲田大学システム科学研究所講師、日本物流学会監事、日本経営士会会員。郵政省、通商産業省、農林水産省等の各審議会・研究会アドバイザー、委員等歴任。
    • 83年全国能率大会最優秀論文通産大臣賞受賞。
    • 著作は『物流請負作業料金の決め方』、『実践物流管理読本』、『すぐ使える実践物流コスト計算』など多数。

目次

はじめに

トラックの実勢運賃が、いまだに下げ止まっていない。
弊社で、荷主企業の物流診断を行う際、そのなかで契約している運賃、倉庫料、物流作業料金の価格水準が適正かどうかについてもチェックしている。
トラック運賃は、荷主の業種、取扱貨物、付帯サービスなどの状況によって、ある程度の差がある。しかし、ものには程度というものがある。許容範囲を超えていた場合には、高ければ値下げを、安過ぎていれば値上げを勧告している。
値下げのケースは、比較的実施しやすい。ところが、値上げということになると、元々「物流コストの削減」を目的とした物流改善プロジェクトが多いので、容易には進まない。
これからご紹介する事例は、運賃値上げを回避するための対策が、大きな物流改革に発展していったケースである。仮に、食品メーカーS社としておこう。

1.運送実態調査と運賃水準

弊社では、ほぼ3年おきに東京、大阪、名古屋地区で「実勢運賃」の調査を行って、その結果を出版している。又、昨年から「標準運送原価計算ソフト(CD-ROM)」も発行して、適正な運賃水準の浸透、普及に努めている。
輸送コストの削減に取り組む場合は、まず運行状況の実態調査からスタートする。
実態調査は
・走行時間(走行距離と時速および高速道路の利用状況)
・積卸時間(積込場所、荷卸場所ごとに)
・待機時間(積込場所、荷卸場所ごとに)
を分析して、荷主側の責任で発生している稼働時間と走行距離分の原価を算定し、運賃を決定するようにしている。
(注) 原価で算定するのは、原則として日帰り圏の客先向配送を対象としている。幹線輸送及び地域間長距離輸送は、実車率(帰り荷の有無)が運賃相場に決定的な影響を与えるので、競争入札方法で決定することにしている。
S社の配送車を調査した結果、運行実態をそのまま認めて原価計算を行うと、運賃を値上げせざるを得ない状況にあることが分かった。
私はS社に対し、運送業者と懇談会を行って忌憚のない意見を吸い上げるよう提案した。その結果、業者からの要望は荷主の経営環境が厳しいことを理解していたこともあってか、値上げではなく長時間にわたる拘束時間の短縮に集中した。
次が、標準的な配送車のスケジュールである。
○標準的な配送車の稼働スケジュール
04:00 業者車庫を出発(時間指定をふくむ数ヶ所卸しの配送を行う)
14:00 S社工場へ帰場(配車指示を待つ : ドライバーはトラックを離れても良いが、帰社できない)
17:00 宵積み開始
20:00 工場出庫完了後、業者の車庫へ帰社
以上の通り、配送車は4:00に出発すると、20:00頃にならないと自社の車庫に戻れない状況であった。
出発して工場に帰場するまで約10時間。一見これは普通に見えるが、工場に帰場してから宵積みを終了して自社の車庫に戻るまでに、約7時間の時間を要していたのである。
14時から17時は、出荷指示伝票が発行されるまで待たされる。さらに積込時間が最低1時間、最長で3時間以上も要していたのである。運送業者は、この長時間にわたる拘束時間の短縮を切望したのである。

2.問題点(発生原因)

そこで、拘束時間が長くなっている原因を詳細に分析した。主なるものは、次の通りである。
(1)営業側の原因
午前11時の受注締切時間が守られていない、午後2時、例外的には4時、5時になることもあり、配車が遅れる。修正される。
(2)製造側の原因
工場は製品ごとに2工場10ライン(工場間の走行時間約15分)、製造所属の出荷係17名が配置されていた。17時以降に出荷指示書を持参したトラックが到着してから、荷揃えを開始する。このためトラックは、最大10ヶ所の出荷口を巡回しないと宵積みが終わらない。当然社員も慢性的に残業が発生していた。
(3)物流側の原因
配車業務は特定のベテラン社員に依存し、専任状態にあった。しかも配車業務に4時間以上を要していた。

3.改善策と効果

(1)受注締切時間の励行
受注締切時間を12:00に繰り下げて顧客サービスを向上させる一方、それ以降の受注は受け付けないよう改め、ル-ルを徹底した。
(2)出荷口の集約化と出荷係の物流移管
①出荷場所を10ヶ所から4ヶ所に集約化し、出荷係が複数ラインを担当するように改善した。
②出荷係を製造から物流所属に移管し、集約化と多能工化によって人員を17名から11名体制にして、6名を省力化した。
③製品の先入れ先出しを徹底し、鮮度管理を強化した。
(3)配車計画支援システムの導入
①弊社の開発した「配車計画支援システム」を導入し、受注締切の30分後、12:30に配車を完了し、工場に帰場したトラックに対して直ちに出荷指示書を発行するようにした。
②配車計画業務が標準化されたために、誰でも配車業務を担当できるようになった。又、配車業務は4時間から30分になり、3.5時間短縮された。
③出荷指示の内容は同時に出荷係にLANで送られ、トラックが出荷口到着する前に荷揃え作業を準備、完了できる体制をとることができた。
④宵積み開始は13:00以降、終了は17:30の定時間に終了されるようになった。又、1台当たりの積込時間は、最長でも1時間以内に短縮され、宵積みの待ち時間はゼロになった。
⑤配車計画支援システムによって、トラックの積載効率が向上し、配車台数を平均16%減少した。
○改善後の稼働スケジュール
04:00 業者車庫を出発
14:00 S社工場へ帰場
14:00 宵積み開始
15:00 宵積み終了、業者車庫へ

まとめ

運賃は、どれだけの物量(重量又は容積)を、どこまで(距離)運んだかという付加価値に対する対価だと言われている。したがって、運行実態の調査を行って、次の視点で改善に取り組んでいくことが効果的である。
①走行時間
運送業務のなかで価値を生んでいる時間。より「効率的」にできないかという視点で、改善する。
②積込、荷卸時間
走行時間の前後に付随して、発生する時間。価値が低いので、できるだけ「短縮する」という視点で改善する。
③待機時間
待機時間は、まったく価値を生まない時間。現実的には難しいが、「ゼロにできないか」という視点で改善する。
以上のように、視点を変えていくと運賃切下げ以外のコスト削減策は、いたるところに転がっている。安易な運賃切下げに走るよりは、その方がはるかに本質的なロジスティクス改革を達成することができるのである。

以上



(C)2002 Kenji Kasai & Sakata Warehouse, Inc.

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