第303号 物流力を高める極意(基本)(2014年11月6日発行)
執筆者 | 髙野 潔 (有限会社KRS物流システム研究所 取締役社長) |
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執筆者略歴 ▼
目次
- 1.はじめに
- 2.自社の物流現場を知ること
- 3.整理整頓を優先すること
- 4.仕事の段取り(取り組み)を考えること
- 5.根回しを考えること。
- 6.職場の信頼関係を醸成すること
- 7.リーダーとしての存在感を高めること
- 8.物流現場に求められる能力
- 9.物流現場には、日々の改善活動が必須です。
- 10.最後に
1.はじめに
いま、物流が面白い! アベノミクスで景気が上向きつつある中、女性、高齢者など、個々人が多様な基準で認められる「名誉の分かち合い」などで、幅広く活用する気運が高まり、実践され始めています。
これからは、老若男女を問わず、個々人が持っている資質や能力を提供できる環境が整いつつあり、責務と高待遇(役割、報酬など)を享受できる時代に突入、益々弱肉強食(貧富の差)の厳しい時代が訪れようとしているのを感じています。
物流に携わる一人として、個々人が物流力を高める(能力アップ)を常に心がけ、日常の実務の中で必要とされる目的に沿った能力をいつでも発揮できる力量を備蓄し、多様な基準で認められる「名誉の分かち合い」に加わりたいものです。
そこで、私の実務経験、コンサルティング経験から物流現場で意識したい課題を上げてみました。参考になれば幸いです。
2.自社の物流現場を知ること
生産から消費に至るまでの物流を一貫した流れとして捉え、①輸送(入荷・出荷)、②荷役(搬送・ピッキング)、③仕分け・包装、④保管、⑤情報の5ツの物流活動を有機的に結合、作業のスピードアップ、トータルコストの低減、顧客へのサービス性、作業品質・納品精度の向上などで物流現場の最適化を追求したいものです。
中小企業の経営トップ層は、学ぶ機会が多く、頭でっかちになりがちです。
物流業務の基本は、新しいこと、高邁なことに目を向ける前に足元の自社の物流活動の堅実性と今日より明日へのレベルアップに着目して欲しいものです。
物流活動の基本は、先ず自社の物流業務を数値で表現し、IT(特にWMS・ERP)との関わり合いを理解しておくべきと考えます。
3.整理整頓を優先すること
物流現場の基本は、スタッフ事務所も現場作業場も整理・整頓が肝心です。
多くのコンピュータアウトプット資料(情報)や連絡文書が毎日発生します。
すべて大事に保管しておくと、それこそ、山のように溢れて収拾がつかなくなり、どれが、本当に重要なものかの判断がつかなくなります。
在庫管理と同じで、不要なモノは、どんどん捨てていく勇気を持ちたいものです。
古くなったもの、既に用済みのもの、重複保存してあるものなどは、即、廃棄すべきと考えることです。
4.仕事の段取り(取り組み)を考えること
何を考えるのか・・・。
通路幅は、経路・動線は、商品の滞留は、人の滞留は、高積みは、在庫が多い保管場所は、フォークリスト・台車・作業者の交差は、機材・資材の置き場所は、etcを少し立ち止まって状況をみる余裕が欲しいものです。
そして、物流業務全体の設計図(レイアウト)を描いてみることです。
物流業務全体をどう取り組むか、どう取り組めば良いのかを設計をすることです。
そして、仕事の段取り5原則を描くこと、これが重要なポイントです。
5.根回しを考えること。
仕事は、日常業務と突発業務が絡んで発生します。
当たり前のことですが、手順としては、緊急度と重要度が高いという2点の事項が優先的に予定を支配します。
納期を守らない仕事は、仕事とはいえないのです。 関係者に根回しせよ!・・・。
予定が決まり、スケジュールを明記したら、そこで、あらかじめ行なっておきたいのは、これから先に協力をお願いする利害関係者への根回しです。
既に依頼することがわかっているときは、早めに声をかけ、相手にも無理のない仕事の計画を組んでもらうことが大切です。
着実で合理的な行動が求められ、段取りとスケジュールの内容の組み立てで、勝負が決まります。 あとは、与えられた日程、時間の中で着実に行動するのみです。
6.職場の信頼関係を醸成すること
職場の信頼関係の醸成は、挨拶という行動からはじまります。
どんな職場でも、人と人とのコミュニケーションが必要です。
コミュニケーションの第一歩が「挨拶」です。
この「挨拶」が出来ないとコミュニケーションは円滑にいかず、職場としての協調性や柔軟性などが不統一になり、人間関係がギクシャクとして上下関係(指示命令系統)にも支障をきたし、業務にも影響をきたします。
朝晩の職場内での「おはようございます、お疲れ様でした」やお客様に「こんにちは、いらっしゃいませ」の一声がよりよい職場づくりの第一歩になるのです。
特に外部からの訪問者への挨拶は、より良い職場、活気のある職場を伝達します。
職場の仲間やお客様を意識することは、所属の職場内だけでなく、企業全体の品質や生産性向上などに前向きに取り組んでいる雰囲気を与えます。
逆に、挨拶の声が無い職場は、業務への信頼感のなさを感じてしまうものです。
7.リーダーとしての存在感を高めること
先ず、自社の物流現場を知ること、私のサラリーマン(現役)時代の話しですが、敷地面積42万7000㎡(約13万坪)にN自動車メーカーのサービス部品、補修部品を集中管理、月間約206万件/行の出荷件数をさばく大規模な9つの倉庫棟(物流センター)のトップ責任者(小生のサラリーマン時代の上司)が毎日始業前に主要倉庫を約90分、目的意識(役割責任とご自身の健康管理も兼ねていた・・・。)を持ち巡回していました。
社員、関連企業従業員を含めて約1,600名の職場を纏める責任者でした。
コミュニケーション重視と職場の日々の動きを把握するのが巡回の目的でした。
巡回中に挨拶や作業員と談笑しながら職場の雰囲気、前日の作業の様子、在庫量や製品の保管、通路の整理整頓状況、安全確認などを行っていました。
良好な職場と感じた際は、直接周囲の作業員にお褒めの言葉を投げかけていました。
問題点、疑問点が生じた場合は、巡回中に現状把握をしっかり行い、始業後職場責任者に現状実態を報告させ、質問や改善案の提示を求めていました。
このように自社の物流現場を知ることが物流の基本だと考えます。
さらに、それぞれの現場責任者は、物流現場を熟知しているトップ責任者からの質問などに答えられるように自分の職場(定点)を常に知ることに力点を置いていました。
トップ責任者以上に何事にも積極的に目配りを行い、事業活動の拠点である現場の日々の実態を自主的に知る努力をしていました。
この事例は、物流の基本である自社の物流(現場)を知ること、良いことは直接作業者にお褒めの言葉を与えること、不都合なことがあれば、職場の担当者ではなく、責任者と直接議論することなど、階層的な人心掌握術を駆使していました。
さらに、「定点観測」を徹底して実践していた好事例ですが、この行為により、1,600人を束ねる事業所のトップ責任者、部署毎の責任者の存在感が高まっていました。
8.物流現場に求められる能力
労働集約型の塊である物流現場では、相手の立場を尊重し、相手個人ではなく、事実に焦点を当てて、事実をもとに広く、深く推察(物事の判断)できることが肝要です。
組織が活性化するには、組織に属する一人ひとりが、「受け身・他責的」な意識から「自発・主体的」な強い意識を持ち行動することが現場の変革、活性化に繋がります。
人の意識を変えるのは、一長一短ではいきません。
意識とは、他者から変えられるものではなく、自ら気づくことで変わるからです。
気づくために最も大切なのは、現場責任者がリーダーシップ能力を発揮、気づきを促すための「学びと対話の場」を職場につくることだと考えます。
その「場」という言葉は、欧米でも“BA”として使われています。
国内、海外を問わず「現場の活性化」は、企業が成長する要素の一つとなっています。
例えば、いつもミスを起こす人がいます。
ミスを生み出した問題行動は何か、そのような問題行動を起こす原因は何か、2度とそのような問題行動を起こさないようにするには、どんな工夫をすべきかを個人の問題としてだけで捉えるのではなく、職場の教訓として捉えていく必要があるのです。
9.物流現場には、日々の改善活動が必須です。
物流業務を実践する中で、問題点や課題が必ずと言っていいほど、生まれてきます。
どんな物流現場の改善をするのでも自分流に漠然とやっていては、効果がありません。
そこには物流現場改善の王道とも言うべき「基本的な流れ」というものがあります。
その基本を徹底して繰り返すこと(繰り返しは力なり!)が非常に大切になるのです。
そこで、日常業務の中で管理サイクル(PDCA)を使いこなしたいものです。
まず目標・狙い(何をするか/どこをめざすか)を決めます。
目標のない物流改善など、基本的にはありえないのです。
いったん物流改善の目標が決まると次のサイクルを回すことが必要になります。
また次のPlanがスタートするのです。
このようなサイクルを「PDCA」と呼び、このサイクルは個人の仕事、組織全体の取り組みなど物流(経営)部門だけでなく、組織全体に連動して機能していると言っても過言ではありません。
企業は生き物であり、それを取り巻く外部環境はもとより、刻々変転万化しています。
誰にとっても、いつでも、どこでもこれが正しいという絶対的な真理は、マネジメントの世界には存在しないと思います。
管理サイクルの視点は、①公の立場(個人の立場を離れて全体に関わること)に立って考え行動すること ②合理性を尊重すること ③人間尊重の精神の三点に要約されるとのサラリーマン時代に管理職養成研修「N-MBT」の中で問題解決技法の一つとして勉強した際の文言が印象に残っています。
この管理サイクルは、どの職場にも、どこの会社にも共通する基本中の基本であることを認識して下さい。
10.最後に
職場づくりの基本と企業基盤づくりの実践は、人材(人財)採用時点からはじまり、資質の高い人材の採用という投資判断こそが、強固な企業づくりの基礎、企業の成長と利益を上げる出発点になるのです。
マネジメント力を伴った物流人材の育成、継続的な改善活動を支える資質の高い有能な人材の確保が求められています。
特に物流現場の最高責任者である有能なリーダー(センター長など)の確保・育成が顧客に信頼され、物流部門の企業収益づくりを決定づける大きな要素を含んでいます。
人に対する投資ほど顧客の信頼や利益確保のリターンの大きい投資はないと断言することが言えます。
設備投資は、使用年数が経過すれば資産価値が減少しますが、人材は仕事をすれば、するほど経験を積み上げ仕事を通して成長(人的資産の付加価値増大)できるものです。
これは、人という資産の大きな特長といえるでしょう。
人材は人財と言われるように、同じ仕事を広く深く経験することと、日々の繰り返しや研修を通して期待以上にどんどん成長する人もいれば、そうでない人もいます。
そこを見極め、的を射た弱点補充の研修や強みを発揮できる適材適所への人材再配置、リスクを覚悟で、さらなる有能な人材の再投資に一歩踏み込める企業が伸びる企業になるのではないかと考えています。
冒頭に述べましたように、これからは、老若男女を問わず、個々人が持っている資質や能力を提供できる環境が整いつつあり、物流力を駆使して、責務と高待遇(役割、報酬など)を享受できる時代になりそうです。
物流現場の世界でも今まで以上の厳しい時代が訪れようとしていますが、日々、努力と研鑽を重ね、勝ち組みと言われる物流力を有した個々人とハイレベルの収益を確保ができる企業に変革したいものです。
以上
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