第121号食品業界の物流コストモデル(2007年4月5日発行)
執筆者 | 平野 太三 有限会社SANTA物流コンサルティング 代表取締役社長 -物流改革コンサルタント Dr.SANTA- 兵庫県芦屋市出身。 |
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目次
1.食品業界の目指すべき物流
企業は会社を存続させるために、売上を増加し、適正な利益を確保していかなければならない。しかし、最終ユーザーの一般消費者の信頼無くしてはビジネスは成り立たない。昨今、法令順守がより一層叫ばれているが、食品業界は良い商品を販売するために、物流の位置付けが強まりつつある。つまり、いくら良い商品を作って(仕入れて)も商品を保管している時、あるいは輸送中に品質を劣化させたのでは意味が無い。物流でも「トレーサビリティ」の感覚が非常に重要で、「いつ入荷したものを、どういう方法で保管し、どういう手段で輸送した」かを証明できなければならない。万一、商品の不具合が発生した場合、どこのタイミングで発生した可能性が高いかをすぐ判別し、詳細調査ができる体制が必要である。物流は、以上の様な物流品質管理以外に、①無駄な物流コストの削減、②お客様への物流サービスの向上、を目指す必要がある。
2.物流コストモデルのコンセプト
「品質を良くする」ことと、「物流コストを下げる」ことは相反すると考えられがちであるが、いずれも物流管理能力を上げるという点では同じである。昨今の物流は、10年前に比べると物流改善の考えは定着化しつつあり、ピッキングや配送という様なグループ内の改善を卒業し、物流部門内の改善に進みつつある。例えば、「ピッキング担当者の協力を得て、検品がしやすい商品の収納を行なう」「物流作業のスピードアップを行い、運賃の高い配送を防ぐ」ことがそれにあたる。しかし、社内全体の最適化という考え方はまだ低い。多くの会社は得意先を重視するあまりに過剰サービスを発生させてしまう。過剰サービスが無ければ販売単価の値下げや販売促進支援が実現できるはずなのに、利益が減った分を還元できずに結局はお客様に物流コスト負担増を強いてしまう。お客様はそれを望んでいる訳ではないため、何をやっているのかさっぱりわからない。今後は全社の最適化を経て、他社とのアライアンスによる最適化を進めるステージに進まなければならない。具体的には、業界のアライアンス、地域のアライアンスが必要になる。(図1) つまり、1社だけの物量では最適な物流は構築できないが、複数社の荷物を合算した物量があれば、今よりも効率の良い物流が推進できるのである。
アライアンスを進める上での重要なポイントは、参加する企業がお互いメリットを実現できなければならないということである。そのためには、お互いの地域毎の物量、物流経費の状況、運用ルールを開示しなければならない。ただ、現実的には、親会社と子会社の関係はともかくとして、企業文化の違う会社同士が前述のデータを公開するのは難しい。たとえ、共有化できたとしても、受注締め時間等の業務運用を変える必要があるのであれば、社内調整(特に営業調整)が非常に難しい。よって、アライアンスは誰もが考え方は良いことはわかっていることであるが、アライアンスが進みにくい。以上の壁を突破するためには、物流コストの状況がわかり、全社最適の物流改善やアライアンスにより、どれだけ効果が出ているのかを具体的な数字で見える様にしなければならない。これを実現するひとつの手段が、「物流コストモデル」である。
3.物流コストモデルの種類
物流コストモデルを大きく分けると3つある。「得意先コストモデル」「商品コストモデル」「車両コストモデル」である。(図2) この物流コストモデルの最終成果物として、それぞれのコストモデルでの物流コストの状況が見えるが、その成果物を作る途中の段階で、問題点が明確になり、そのデータを活用して改善が進むことができるのが特徴である。
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通常は営業の評価として、売上高と営業利益の2つの視点で評価されている場合が多いと思う。だが、最近はお客様毎に物流サービスの内容が大きく変わる。受注締時間、オンライン受注、出荷単位、流通加工(袋詰め、シール貼り等)、指定納品書、物流ラベルがそれにあたる。ただ、実際はそれぞれの業務にどれぐらいのコストがかかっているのかわからない場合も多い。それであれば、得意先毎の売上高、営業利益だけでなく、物流経費他の諸経費を算出しることで、真の利益(≒得意先毎の経常利益)を掴むことが出来れば、取引条件の見直しも可能となる。
得意先コストモデルは、得意先分類コストモデル、得意先コストモデル、納品先コストモデルの3階層になっている。(図3) 得意先分類は、問屋・百貨店・大手スーパー・中小スーパー・ホームセンター・通販等の販売チャネルと考えればよい。販売チャネルにより大まかな物流サービスが似ているため、これを比較すると物流サービス毎の物流コスト構造が見えてくる。この得意先コストモデルを全得意先で行なうのは莫大な時間がかかるが、主要20社程度であれば1週間前後の時間をかければ作成できる。仮に諸経費を入れると赤字の得意先があれば、あとは経営判断で取引を続けていくかを決めればよい。この情報を知っていて継続するのと、知らないで継続するのと結果は同じでも大きな違いがある。
次に、商品コストモデルであるが、商品の形状・重さ・品質管理等の理由により、物流コストは大きく変わる。例えば、運賃は商品の金額で変わるものでは無く、容積や重量により運賃が決定する。よって、商品毎の売上や利益を算出するだけでは、企業に対するその商品の貢献度は見えにくい。得意先コストモデルと同様に、商品毎の物流コストを算出し、商品毎の経常利益の算出が必要になる。商品コストモデルも、商品分類(商品カテゴリorブランド)コストモデル、商品特性(商品形状or温度管理)コストモデル、商品コストモデルの3階層になっている。
車両コストモデルは、日配品の様に貸切便で毎日定期配送(曜日別定期配送も含む)をしている業界の配送ルート別のコストモデルである。一般的に貸切便の場合、積載率という指標がある。つまり、貸切り運賃は荷物の量にかかわらず一定のため、荷物を積めば積むほど1ケース当りの運賃が低くなる。その考え方も一理あるが、納品先が地域で点在する場合は、納品時間の関係もあるため納品件数が限定される。地方の配送の場合は件数を多く回ることも物量を確保することもできない。基本的には食料品は人口と比例して需要が決まるため、人口が少ない地域での配送効率は非常に悪くなる。よって、車両コストモデルは、得意先コストモデルの中の納品先コストモデルを配送ルート毎に集計して、収支を見るコストモデルである。このコストモデルの目的は、収益の悪いルートはその収支を把握して取引先への納品条件を変える様な交渉を行なうか、同一地域限定の共同配送を検討するか、色々な改善手段をたてることが出来ることである。食品の配送効率が悪いルートであれば、他社でも同じ問題を抱えている可能性が高い。その企業にアプローチをすれば、案外簡単に共同配送が実現するかもしれない。
4.物流コストモデルの作り方
物流コストモデルの作り方は、極めて簡単である。実際にかかっている物流コスト(人件費、輸送費、保管費、物流資材費等)を配賦するルール決めをして、算出するだけである。
例えば、得意先コストモデルの人件費は、どこ得意先の仕事をしていたのかを算出することになる。例えば、ピッカーはピッキング行数により仕事の負荷が違うため、ピッキング行数でピッキング人件費を按分する。出荷担当者は、個口数により仕事の負荷が違うため、個口数で按分する。この様な段取りで社内でルールを決めて、物流詳細科目別で按分するだけである。(図4)
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物流コストモデルを作成する途中段階の成果物の例として、週間作業集計表がある。(図6) 業務別の役割分担、作業効率も作業コストもわかる。(図5) 業務改善を続けていくと、物流コストも同時に改善されるため、物流コストモデルも変わる。ルール決めをすれば、自動計算も可能なため、一度トライして頂きたい。
以上
(C)2007 Taizo Hirano & Sakata Logics, Inc.