ロジスティクス・レビュー

第423号 働き方改革関連法改正と実務的対応(その2)【後編】(2019年11月7日発行)

執筆者  長谷川 雅行
(株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)
    執筆者略歴 ▼

  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会理事
    • (社)中小企業診断協会会員
    • 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    • 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか

目次

*前号(2019年10月22日発行 第422号)より

4.「パートタイム労働者・有期雇用労働者」雇用管理のコツのコツ

  中小企業では2021年4月に施行される「同一労働同一賃金」については、厚労省のガイドラインに基づいて説明した。
  (1)から(11)までの各項目に対して、早めの準備が必要となる。このうち、(1)~(7)と(11)は、就業規則や賃金規程の改定も必要なので、各企業の総務・労務部門の担当となる。しかし、パートタイム労働者・有期雇用労働者の賃金水準(時給)や諸手当の決定は現場である営業所長・物流センター長に任されているケースもある。さらに(8)~(10)の説明行為そのものは、採用面接をする営業所長・物流センター長の仕事である。
  このことをしっかりと認識して、会社全体で「同一労働同一賃金」に向けて取り組んで頂きたい。

  ここでは、筆者の経験や各社でのヒアリング、さらには最近の職場環境の変化を交えて、パートタイム労働者・有期雇用労働者の雇用管理について触れたい。

(1)物流センター長に必要な知識

1)ハローワークの「求人票」は、ウソを書かず、詳細に
  ハローワークへ行くと、人手不足のご時世で求人票が多数掲出され、「売り手市場」の様相を呈している。ドライバーも不足しているが、「運行管理者」「衛生管理者」の有資格者の求人も多い。
  求人票を眺めていると、各項目がビッシリ書き込まれた求人票と、勤務場所・勤務時間・勤務日・給与程度しか書かれておらず、「委細面談」と余白の目立つ求人票が散見される。どちらの求人票が信頼できるか、求職者の立場で考えてみれば、一目瞭然である。
  図表6は、少し古い2012年における某運送会社の求人票であるが、これで応募したくなるであろうか。

図表6 ハローワーク求人票の例

出所)筆者収集の資料
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

2)一つの学区に集中して採用しない
  通勤手当を節約しようと、物流センター近くの学区から集中採用すると、学校等のイベントの際に、大量欠勤が発生する恐れがある。
  最近では、父親も参加できるように、運動会などは日曜開催が増えているが、あちこちの学区から取り混ぜて採用する方が、例えば、インフルエンザ流行による休校(子供の看病で欠勤者が出る)など、リスク対応の点からも良いと思う。

3)家に居るより楽しく過ごせるように
  仕事は時給を支払った分、しっかり働いてもらうが、3項(6)-1)にも書いたように、最近は、食堂・トイレ(化粧室)・休憩室・更衣室のクリンリネス(清潔性)や広さなどが、パートタイム労働者・有期雇用労働者が物流センターを選ぶ基準になっている傾向がある。豪華でなくとも、休憩室・更衣室・化粧室・トイレはスペース・数を十分かつ清潔にする。
  作業スペースにも、スポット空調を付けたり、ビニルカーテンなどで風を避け保温する。
  また、仕事面でも台車等の省力化機器を多用し、少しでも疲れないように配慮する。筆者たちが見学した「きくや美粧堂」の物流センターでは、パートタイム労働者の提案で、さまざまな機器を開発・運用している。
  要は、パートタイム労働者が家に居るよりも楽しく(「楽に」ではない)過ごせるように、仕事の内容や流れを変え、ひいては生産性を上げることが望ましい。

4)ボスを味方に
  職場には、どうしてもグループが生まれる。とくにパートタイム労働者では、中心となるメンバー(ボス)の紹介で働いているケースもある。そこで、ボスに反乱を起こされると、ある日突然、「出社拒否」「大量退職」というトラブルが起こらないとも限らない。
  別に「ボスにゴマすれ」という訳ではないが、有能なボスには「班長」「グループ長」という役職で報いたり、本人が希望すれば教育訓練の機会を与える等の配慮も必要ではなかろうか。

5)人間関係のトラブルに注意
  パートタイム労働者・有期雇用労働者間でも、人間関係は難しい。筆者もメーカー工場や物流センターで、刑事事件にまで発展したトラブルを聞いている。
  センター長・班長・グループ長は、「非正規労働者だから関係ない」と思わず、日頃からコミュニケーションを図って、人間関係などに留意するようにしたい。
  飲食店での不適切動画など「バイトテロ」ならぬ、「パートテロ」にも注意が必要である。
  以前に、冷凍食品工場で職場に不満を持った有期雇用労働者が、異物を混入した事件があった。
  某大手ドラッグストアの物流センターを受注した日用品雑貨卸売業の派遣労働者が、センター内の段ボールに放火して、火災が発生した。そのため、しばらくの間、物流センターが休業となり、卸売業がドラッグストアに賠償した。
  このような「パートテロ」も、今後は想定される。

6)「苦情相談担当者」選び
  図表5のように、事業場の責任者(物流センター長など)を選んでいる例が多いが、物流センター長は、荷主対応や業績確保、センター運営など本業のほか、労基署・消防署などの行政対応、学校や地域とのコミュニケーションなど、それこそ席の温まる暇もないくらい、八面六臂の忙しさである。作業要員に欠員が出たときは、場合によっては一作業者とならねばならないこともある。
  3-(9)の新規採用の際の説明義務は、採用時のセレモニーでもあるので何とかこなすとしても、ともすれば苦情相談は後回しになっていないだろうか。
  そこで、職場を熟知していて、世話好きのベテランに「苦情相談」を依頼する方法もある。労働者も、物流センター長よりは困りごとを話しやすいかもしれない。
  「苦情相談」は、雇用問題に限定せず、日常の職場の問題も話してもらう。「匿名相談」にすれば、物流センター長の知らないトラブルの芽を、事前に摘むことも可能になる。そのためには、「聞きっぱなし」にしないことも重要である。

7)人材引き抜き合戦
  マルチテナント型の物流センターなどでは、少しでも時給の多いところに移る。「重い水物はイヤだから、軽いアパレルに移りたい」「寒い(暑い)からイヤだ」と、物流センターを渡り歩くパートタイム労働者も多い。賃金だけでなく、上記3)のような手立てをして、人材流出を防ぐことも必要である。
  「午前はフォークリフトに乗って稼げるが、午後はピッキングで時給が下がるので、午後は、近くの他社でフォークリフトに乗っている」という、「副業」で稼いでいる短時間労働のフォークマンもいる。
  某紙に出ていたパートタイム労働者の事例では、「午前中にA社で働き、一度家へ帰って夕食の支度をしてから、午後はB社で働く」ケースもある。
  「1日4時間は無理だが、(副業・兼業で)1~2時間でも働きたい」というニーズも多い。飲食店のアルバイトなどは、専用のスマホアプリを活用して集めている。物流センターでも、超短時間労働の組合せを図らないと、人材不足には対応できない。

  最近では、マルチテナント型物流センターが増えてきて、いろいろなトラブルが増えている。マルチテナント型の物流施設オーナーからは、テナント企業に対して、以下のような問題が提起されている。
①共用施設(駐車場・食堂・休憩施設・トイレ等)の利用ルールを守らない。汚す・落書きする・勝手にマイカーを駐車するなど。
②同居テナントとトラブルを起こす。同居テナントから苦情が多い。ごみ出し、従業員の引き抜き、時間外の運営、エレベータの占用など。
③テナントの従業員教育ができていない。とくに安全・防火・防災等の基本的な教育は必ずやってほしい。

  そこで、大手物流不動産会社(REIT)では、テナント(入居カスタマー)を対象に、「雇用課題解決セミナー」を開催したと聞いた。
  上述の3)~6)から思えば、大家も家賃が入ってくるのを安閑として待っているだけでは済まなくなってきたのかも知れない。上記「パートテロ」のような放火事件がマルチテナント型大規模物流センターで起これば、他のテナントにも被害が及んでしまう。

8)子ども・家族による職場の見学会
  最近は、地域社会とのコミュニケーションを図るために、事業所や物流センターを地域に開放して、見学会やフェスティバル等を開催する事例も多い。
  それを一歩進めて、パートタイム労働者・有期雇用労働者の子ども・家族を職場に呼んで、母親たちが毎日どのように働いているかを見せることも考えたい。
  子どもが母親たちの働く姿を見て感謝すれば、母親たちのモチベーションも向上する。また、物流・ロジスティクスに対する子どもの理解は、将来のファンづくりや物流人材の要請にもつながる。
  横浜市の印刷会社では毎年、非正規労働者を含む従業員の子ども・家族を会社に呼んで、職場見学と交流会を開催している。

(2)物流業における働き方改革の今後

  国では、「働き方改革」について、「同一労働同一賃金の実現など非正規雇用の待遇改善」「長時間労働の是正」「高齢者の就労促進」を政策課題として取り組んでいる。
  残念なことに、物流業界では3つとも当てはまっており、荷主・物流業界が連携して取り組まないと、各法の施行期日には間に合わない。
  その方策として国では、
①賃金の引き上げ、②テレワークの普及促進(2020年東京五輪対策も含む)、③兼業・副業の普及、④女性の活躍促進、⑤子育て・介護と仕事の両立、⑥ハラスメント防止、⑦若者の活躍促進、⑧高齢者の就業促進、⑨障害者の活躍促進、⑩転職・再就職支援、⑪教育訓練・能力評価、⑫外国人材の受け入れ
などを掲げている。③⑫など、物流業界では馴染まない方策もある(②も物流現場では難しい)。③は、本業でも長時間労働を是正しなければならないので、副業をさせれば、さらに長時間労働になってしまう。なかには、上記6)項で紹介したような副業・兼業の事例もある。
  ⑫は、外国人材の受け入れ業種に運輸業が指定されていないが、今後の大きな課題である(放っておけば、他業界に外国人材を取られてしまう)。
  とくに①④⑦⑧⑨などは、物流業界で積極的に取り組んでいかないと、人手不足の時代に物流業に来てくれる人材がいなくなるのではないかと危惧している。
  これらの方策については、筆者もお手伝いしていることもあるので、また、いずれかの機会に述べてみたい。

(3)同一労働同一賃金の「逆転の発想」

  小売りや外食の労働組合で構成されるUAゼンセンの2019年春季労使交渉では、パートタイム労働者1人当たりの平均賃上げ率が2.55%(時給24.4円相当)と5年連続で過去最高を更新した。この賃上げ率は正規労働者を上回っており(両者の待遇差が縮まり)、「同一労働同一賃金」の流れが押し寄せていることが感じられる。

  これは、物流業にとっても他人事ではない。パートタイム労働者は、小売り・外食業界と物流業界で奪い合いになっているケースも多い。

  これから説明することは、「非正規労働者の処遇改善」というこの流れに棹を指すようなので、働き方改革関連法の主旨に沿わないのではないかとお薦めしないが、「逆転の発想」についても簡単に触れておきたい。

  「同一労働同一賃金の実現」には、これまで述べたような「非正規労働者の処遇改善」以外に、「正規労働者の処遇引き下げ」という「逆転の発想」がある。
  例えば、現在の正規労働者:非正規労働者の処遇が100:70だったものを、100:100にするのではなくて、極論すれば85:85にして処遇差をなくそう(会社の増支出を抑えよう)という考え方である。
  働き方改革関連法公布前の2018年に、「日本郵政が非正規労働者の処遇を引き上げると同時に、10年かけて正規労働者の処遇を引き下げる」と報じられた。
  労働契約法によれば、就業規則等で定める労働条件の引き下げ(不利益変更)は、労働組合と協議を行って労使合意の上ならば可能とされており、日本郵政では最大労組のJP労組と合意した(かつて、総評を支えていた全逓を知る者にとっては、驚天動地の出来事である)。
  最近の人材会社の調査では、「約300社の大企業のうち5社に1社が、正社員の労働条件の引き下げを検討している」と報じられていた。その多くは、3-(2)-2)で述べた、総人件費(賞与や退職金への跳ね返り)抑制のために増加した諸手当の廃止・水準切下げと思われる(日本郵政も同様)。
  いずれにせよ、労使交渉という関門が待ち受けており、労使合意を得ても裁判で争われた事例も多く、「一発逆転」を狙うのは法の主旨からしてリスクやデメリットが大きいと思われる。

5.終わりに

  繰り返すようであるが、働き方改革関連法の施行時期が次々と迫ってくる。
  個々の法律への対応は当然であるが、施行時期から遡って、今何をやらねばならないかという観点から、総合的な対応計画を立てて、「その1」「その2」で説明した事例を参考にした実務的対応を切に願うものである。
  トラックの運転や物流センターの運営など、物流業務を支えるのは「人」であり、実務的対応の基本は、あらゆる雇用区分の人たちが働きやすい職場づくりであることは言うまでもない。

以上


  
【参考文献】

  • リーフレット「同一労働同一賃金ガイドライン」(2018)ほか、「同一労働同一賃金」に関する厚生労働省資料
  • 岡崎淳一「働き方改革」(日経文庫ビジュアル 2019)
  • 正社員と有期雇用労働者(契約社員)の各種手当に関する待遇の違いが不合理かどうかが争われた事件の最高裁判決(2018.6.1)最高裁判所第二小法廷判決
  • 正社員と有期雇用労働者(嘱託社員)の各種手当に関する待遇の違いが不合理が否かが争われた事件の最高裁判決(2018.6.1)最高裁判所第二小法廷判決
  • 2019年3月4日付ロジスティクス・トゥディ記事、2019年5月9日付LNEWS記事
  • 2018年4月16日付東洋経済オンライン「日本郵政の手当廃止が示す正社員の未来」
  • <長谷川雅行「働き方関連法改正と実務的対応(その1)」(サカタウエアハウス・ロジスティクス・レビュー No.415・416 2019年7月)/li>
  • 長谷川雅行「物流業と労働力問題」(流通ネットワーキング 2013年7・8月号)

(C)2019 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.


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