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インタビュー

第511号 ロジレビュー・インタビュー ~角谷 曜雄氏(アイスター株式会社)~ (2023年7月6日発行) 

■はじめに

  2022年7月より新たに開始しました、企業様へのインタビュー、第8回目の今回は、弊社のお取引様であるアイスター株式会社の角谷 曜雄(かくたに あきお)様にインタビューにお答え頂きました。物流に関するITソリューションの他、DXやSDGs等に関する取り組みについてのお話を伺いました。
→過去のインタビュー記事はこちら

■ご紹介

アイスター株式会社
弊社は1994年の創立以来、情報システムのコンサルティングからソフトウエアの設計・開発、システムの運用・管理、インフラの構築、データ入出力の支援など、情報処理にかかる社会の様々な要請に応えて参りました。
また、2006年には2019年7月に創業120周年を迎える住友倉庫のグループ会社となることにより、安定した財務基盤を固めることができました。また、情報セキュリィテイ面でもプライバシーマークやISO27001の認証を取得し、その維持に努めることにより情報システムに携わる企業として安心してお取引いただける体制を整備しております。
参照:アイスター株式会社 ホームページ(https://www.i-star.co.jp/company/

アイスター株式会社 代表取締役社長 角谷 曜雄 氏
【プロフィール】
角谷 曜雄(かくたに あきお)
1959年9月19日生
1982年3月 神戸大学 法学部卒業


 インタビュー者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1982年4月   株式会社住友倉庫入社
    • 2003年2月   生産本部 統括管理部 生産管理課 主任
    • 2012年6月   同・監査部長
    • 2013年6月   同・経理部長
    • 2015年6月   同・執行役員・経理部長
    • 2019年6月   当社代表取締役社長 執行役員社長
    • 現在に至る

 

■インタビュー

――物流業界向け貴社サービスの強み、物流課題解決例について教えてください。
  弊社は物流業界向けで限定すると、受託開発の切り口から、ITのモダナイゼーション(modernization: 近代化)と呼んでいますが、かなり前に開発し、現在稼働しているシステムを分析して、最新のテクノロジーに移し替えるという手法があります。サカタさんが端的な例ではあります。そういう場合に、新しい技術はもちろん必要ですが、歴史のある企業でないと、過去のテクノロジーを知っているエンジニアは少ないのです。弊社の場合はIT企業としては、歴史のある方だと考えており、古いIT技術に関しても、ある程度知見があります。そういったエンジニアを用意できることが、物流業界向けの強みとなっています。有名な企業様から、物流システムや販売管理システムのリニューアルであるモダナイゼーションの依頼を受けて対応できることが、1つの強みになってくると考えています。

――HPを見させていただくと、AI活用による開発と書かれていますが、どのようなものですか。
  これはNECさんが、かなり先端的なことを研究されていまして、主には東京のNECさんがされているプロジェクトに、弊社のメンバーが参画するという形で参加させていただいています。AIの中身は何かと言いますと、まず、顔認証のシステムがあり、物流業界でいうと、例えば、倉庫に色々な人が出入りをします。そのときに顔認証システムを動かしておくと、登録している人以外の人間が倉庫に侵入しようとした時に、それを検知して、警報が管理室で鳴るという技術に活用できます。多数の来場する方から、特定の人を検知する技術をNECさんが研究されているので、そういったプロジェクトに参画しています。
  あるいは、AIによる需要予測システム。倉庫の入出荷の頻度を季節や気温などの色々な情報を分析して、こういう時には入出荷が多い時期なので、事前に準備をする、といった需要予測技術もあります。
後は、チャットボット(chatbot)と言われるAI技術を活用した自動応答システムです。色んな問い合わせに機械が自動で応答する技術を、弊社が開発しているのではなく、そういった所へ参画することによって、技術をマスターして、お客様に提案できるといったことを目指しています。そういった先端技術のプロジェクトに、弊社の要員を入れさせてほしいとNECさんにお願いして、技術力を上げようと考えています。

――新しい技術をどんどん学んでいくという方針なのですか。
  その通りです。我々が、今までになかったテクノロジーを独自に開発していくことは、会社の規模からしても難しいので、NECさんと協力して取り組みましょうということなのです。NECさんにとっても、今後の開発に向けた要員が育成できるというメリットがあるのです。

――DX、ECに関連したサービスや導入事例について教えてください。
  ECというと、物流関連の事例では、これもNECさんと共同で取り組んでいますが、「HIT-MALL」(https://www.hit-mall.jp/)というECパッケージを利用して、色々な店舗向けにシステム導入を行っている部隊に一緒に参画して、開発している事例があります。NECさんは会社も大きいですし、技術もしっかりしていますので、そういう所に入って、EC事業に必要な人財を育成しています。弊社は人が財産であり、ECパッケージを持っている訳ではないので、NECさんのパッケージを基盤としてシステム開発をするというスタイルで仕事をしています。
  「HIT-MALL」はECパッケージの製品名ですが、購入しただけでは使えないので、それをカスタマイズしたり、アドオンという形で機能を追加したり、そういった加工する技術を弊社が持っているということです。

――AWS(Amazon Web Services)への転換を進められているとお伺いしたのですが、どのような状況ですか。
  AWSはアマゾンさんのインフラで、クラウドコンピューティングサービスというものなのですが、社内で利用するという意味では、以前は社内にある色々なお客様の開発用データを社内サーバーに保存していたのですが、セキュリティの問題もありますので、本社の移転を機に、社内の開発用のデータ、開発用に使うサーバーをすべてクラウド化して、AWSに移動したということが、一番大きな活用方法です。
  お客様の仕事の面では、AWSは最近、汎用的なので、お客様ごと、案件によって、積極的にAWSで行きましょうという提案をしています。あるいはお客様自身がAWSを選択されて、それに対して弊社がシステムを構築していくという動き、社外向けの営業としてはそういった活動状況です。
  社内での技術者の養成についても、通信教育や資格の取得についても、報奨金を出したりして、積極的にAWSに対する知識と人材をを増やそうとしています。

――物流業界に対する課題認識について教えてください。
  我々が関連することとして、親会社である住友倉庫の小野社長が年頭挨拶で言われましたが、日本倉庫協会(https://www.nissokyo.or.jp/)としても、物流DX(https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/seisakutokatsu_freight_mn1_000018.html)に関しては積極的に取り組んでいくという方針を示しています。ただ、物流面の課題については、アイスターが考えるというよりも、親会社の住友倉庫では、お客様の方で整理していただいた課題・問題について、住友倉庫の情報システム部にて、解決すべき課題とターゲット、大きな方向性を設定していただく形になります。実行部隊として弊社がシステム開発を担当することが、グループ内での動きになるかと思います。

――お客様の方でも、色々な課題認識を持たれていますよね。
  そうですね。そこが一番難しくて、何が課題なのかは会社によって違います。システムの問題以上にいろいろな要素が絡み合っていて、新しいシステムを導入するだけで解決するケースは、あまりないと思っています。

――コンサルティングとして、ヒアリングをされているのですか。
  サカタさんのシステムを構築する時でも、要求分析と言っていますが、現場の作業を管理されている方に、実際に現場に行って、お話を聞くこともありますし、紙に書いたもの(要件書)だけを見てつくるというのは、単純にシステム開発という部分ではできますが、一からシステムを作っていく場合では、インタビューとかヒアリングを行い、現場のニーズや実態を把握することが必要となります。

――弊社の他にも、物流業者に対して、私たちの立場に立って、ヒアリングし課題の確認を行ったことがありますか。
  もちろんございます。
  物流関係のシステム構築をしてきた経験のある人員が多数いますので、他社ではこうやっていたのに、サカタさんではこういうことはしないのだろうか、という、他社のシステムを作らせていただいた経験による気づきの指摘等が、我々のシステム開発力を使っていただくことのメリットだと考えています。日々の業務に埋没していると自社では問題点をなかなか気が付いていないこともあります。

――コロナ禍による影響や、取り組みについて教えてください。
  基本的にはお客様の事務所に常駐している社員が多いので、そういった社員はお客様の事業所ごとでコントロールされます。日々の勤務については、テレワークの実施など、お客様と相談して決めているケースが多いです。
  社内独自の取り組みとしては、親会社の住友倉庫から、各子会社にコロナに対するガイドラインを提示していますので、例えばマスクをしましょうとか、パーティションを設置しましょう、入口で消毒・検温をしましょう等のルールに関しては、グループ内でのガイドラインに従って実施しています。
  最も留意しているポイントはクラスターが発生した場合、事業部門全体が止まってしまうので、クラスターが発生しないようにするにはどうしたらいいかという点です。社員個々の生活においてコロナに感染することは仕方ないので、1つのセクションで全員が感染しないようにするためにはどうしたらいいかについて、特に注意しました。
  具体的には、3~4名以上で飲食しないようにしてほしいとか、従来は年何回か打ち上げとかしていましたが、コロナになってからは全く無くなり、社内での忘年会・歓送迎会は基本的に控えています。

――コロナが収束してきたら、テレワークを減らしていく可能性もありますか。
  積極的にテレワークをしなさいということは行いませんが、個人・チームの判断で対応していただければと考えています。支障がない場合は、テレワークをしていただいたらと思います。

――SDGs、人手不足(2024年問題)に関連した取り組みや対応事例について教えてください。
  こちらが、新入社員向けに作っているパンフレットで、開くと弊社の福利厚生が全部見えるようになっています。弊社の採用活動で使用しているものです。
  「アイスターの福利厚生」 https://www.i-star.co.jp/welfare/

「アイスターの福利厚生」
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

  弊社の経営資源は人財が中心なので、採用して社員数を確保することと、人財の質を上げることという、2つの取り組みが必要です。それを目に見える形で進めていこうということで、福利厚生を含めて色々な取り組みをしています。ここに載っている項目のうち、かなりの部分は、私が社長になってから開始したものです。
  投資として最も大きかったものは東京に社宅をワンルームを中心に十数戸整備しています。我々は大阪の企業ということもあって、IT企業が多い東京では、競争面で不利となっています。そのため、大阪で採用した方が、東京で入居する施設も必要ですので整備を進めているということです。
  資産形成については、IT業界の給与は(意外に思われるかもしれませんが一部の例外を除いて)そんなに高くありません。従業員が将来安定して働くために、自ら少しずつ資産を形成していくことが、必要だと考えています。その方策として、一つは親会社である住友倉庫の株式を持株会を組織して購入しています。また、給与天引きによる積立NISAも実施しており、両制度の補助金は、持株会が従業員の拠出額の10%、積立NISAが同じく5%としています。
  また、教育研修は、資格の補助金や取得するまでの通信教育をほぼ無償で受けられます。これは人財の質を上げるという戦略の部分です。これらを実施した結果、公的な資格を含めて、色々な技術資格を取る方が、かなり増加しました。

――資格や教育関連の制度について教えてください。
  資格によって違いますが、10年ぐらい毎月資格手当が支給される資格もあります。ソフトウェア会社としては、ビジネススキルを持っているヒューマン・アセット(人財)が、我々の企業価値に直結すると考えています。どういう資格を持っているかによって、経営資源のグレードを上げるという考え方でとらえ取り組んでいます。
  淀屋橋に大阪本社(https://www.i-star.co.jp/company/enterprise.html)を移したことにより、応募で本社に来られた学生の印象が変わると思います。本社の移転に伴って、オフィスにウォーターサーバー、コーヒーメーカーを設置して、フリードリンクにしています。毎日の100円、200円が積み重なると大きいので、そういう細かい所でも従業員に喜んでいただいています。
  ESG(環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance))的なところで言いますと、ソーシャルな部分で、障がい者雇用に取り組んでいます。物流業界もそうですが、障害者には3種類の類型があり、身体障がいの方、知的障がいの方、精神障がいの方があります。どの業界でも、身体障がいの方は、車椅子でも勤務できるので、比較的雇用しやすいのです。しかし、知的障がいの方や精神障がいの方は非常に雇用するのが難しいのです。ところが、障がい者雇用促進法の関係で、法定雇用率というのが定められていて、その雇用率を達成しないと会社としてペナルティを受ける制度となっています。
  なかなかシステム開発をできるような身体障がいの方は、絶対数が少なく、採用が難しいのです。かと言って、そういった方が出来る仕事はないので、非常に困っています。
  そこでそういった事業に取り組む、エスプールプラスさん(https://plus.spool.co.jp/service/employ/)という会社は、障がい者が働くための農園を運営されています。枚方市でいうと、3,000㎡の土地に、十数棟のビニールハウスを建てて農園を運営されておられます。当社ではその農園のごく一部を賃借し、障がい者の方3名を雇用して、そこで農作業をして働いていただいているのです。できた野菜の販売は基本的に考えておらず、社内で従業員に配布するほか、枚方市のこども食堂と提携して、3月から提供を始めています。
  障がい者農園は1年近く運営しています。毎週一度、担当者が訪問するほか、私も毎月通っていますが、雇用している従業員はとても喜んで働いていると思います。

――エスプールプラスさんは、採用の支援の部分までされているのですか。
  候補者を探すところまでは有料ですが、支援してくれます。採用するかどうかは、弊社の採用の判断になります。ご興味ありましたら、エスプールプラスの会社ホームページ(https://plus.spool.co.jp/service/employ/)を見ていただければ、大体わかると思います。当社が参画している枚方市の農園と同規模の農園が全国で数十か所あって、就労社数は3000人を超えているそうです。それだけの障害者雇用を作り出すというのは凄いことです。同社はもう十年近くやっていているので、色々なノウハウを持っています。東証プレミアム市場に上場している有名企業も多数利用されています、
農園の形態も弊社は屋外型で、ビニールハウスで野菜を作る形態ですが、もう少し負荷が少ないものは建物の中で人工灯で水耕栽培する形態です。水耕栽培は葉物しかできないので、弊社では、働いている人が楽しくないのかなと思い、色々な野菜を選んで、色んな収穫物ができる方が、暑いけど働く人にはやりがいの面でいいのかなと思い、屋外型で始めたわけです。

――収穫量は多いのですか。
  それほど多くはありません。面積自体が障害者の方に負荷かけるほど借りていないので、無理をしなくていい、できた範囲で収穫物を配ったら良いと思っています。そもそも売上を期待して実施していることではなく、雇用が目的なので、昨年の暑い時期は1か月半ぐらい休みにしていました。去年は暑くなったのが早く、ビニールハウスはすぐ40度に温度が上がってしまうので、休憩しながら作業をしていましたが、さすがに熱中症になってしまうのではないかということで、特別休暇にしたのです。

――他に取り組んでいることはありますか。
  今後の予定としては、健康経営優良法人(https://kenko-keiei.jp/)という経済産業省の認定制度に応募するつもりです。団体保険を含めてお付き合いがある住友生命さんからアイスターさんぐらい色々取り組まれていたら、健康経営優良法人を取得した方がいいのでは、とお薦めいただきましたことがきっかけです。
  この制度は、経済産業省にて年1回申請受付があり、今年は8月からですので、それに向けて、現在、申請の準備中です。取得できれば、採用面で会社のイメージアップにつながるので、ホームページの掲載等に活用しようと思っています。大阪では他の都道府県に比べ取得企業が多いそうです。
  従業員に対しては。福利厚生を充実していくことによって、従業員満足度が向上し、仕事の生産性向上にも寄与します。物流業は倉庫などのアセット(資産)が収益を上げるビジネスを持っておられるので、従業員に還元できますが、我々ソフトウェア業界は人が売上を増やさないと、賃上げもできません。
  社員個々人が実力をつけて、お客様の事業に貢献したうえで正当な対価をお願いし、高い収益を上げる、という良いサイクルになるように、会社としても色々取り組んでいるつもりです。
  弊社の大きな課題、目標としては、アセットビジネスみたいなものを作れないかな、物が稼ぐビジネスが欲しいというのが私の望みです。弊社はIT企業であり、なかなか簡単ではありませんが、今後の売上拡大に向けて、新たなアセットビジネスの創出に向けて模索していきたいと考えています。

――お忙しい中、インタビューにご協力いただき、ありがとうございました。
(聞き手:サカタウエアハウス株式会社 営業開発部)



(C)2023 Akio kakutani & Sakata Warehouse, Inc.

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