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第510号 幅が広く、奥も深い「調達」物流(前編)~(2023年6月20日発行)

執筆者  長谷川 雅行
(株式会社NX総合研究所 経済研究部 顧問)

 執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    • 2022年 株式会社NX総合研究所に社名変更
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 流通経済大学客員講師
    • 港湾短期大学校非常勤講師
    • 日本物流学会会員
    • 日本SCM協会会員
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか

本論文は、前編と後編の計2回に分けて掲載いたします。

目次

  • 1.はじめに~調達物流とは
  • 2.製造業における調達・購買業務
  • (1)調達・購買業務とは
  • (2)調達・購買業務の重要性
  • (3)CPOとPMI
  • 3.グローバル調達と国際バルク戦略港湾
  •  

    1.はじめに~調達物流とは

      物流を領域別に分類すると、一般的には「調達物流」「社内物流」「販売物流」「回収物流」の4つとなる(図1参照)。

    (筆者作成)
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      本稿で取り上げるテーマは、原材料・部品等が納入メーカー(図1では「原材料納入メーカー」。サプライヤーあるいはベンダーと言う)等から届く「調達物流」である。
      図1では加工・組立を行うメーカー、即ち「製造業」を例示しているが、卸売業・小売業の「流通業」でも同様に、商品の仕入れに伴う物流が調達物流(procurement physical distribution)に相当する。
      また、製造業側から見た「調達物流」は、「原材料・部品納入メーカー」側から見れば「販売物流」となり、二面性を有していることが分かる。  さらに企業会計的に考えると、原材料・部品の価格は「運賃込みの納入価格」であることが多く、製造業側では納入に伴う運賃(原材料・部品納入メーカー負担)も「製造原価」となる。一方、販売物流に要する「支払運賃」は、企業会計としては「販売管理費」に計上されることが多い。このように、企業会計的には「運賃」も勘定科目が異なるという二面性を有している。
      そのため、例示した製造業など多くの荷主企業では、支払運賃については、物流部門が年間予算等で厳しい管理(物流コスト管理)を行う一方で、製造原価に含まれる納入運賃については、物流部門ではなく後述の調達・購買部門が管理することが多く、しかも「運賃込みの納入価格」なので、厳しい物流コスト管理が及んでいないことが多い。
      なお、JISにおいてロジスティクスとは、「物流の諸機能を高度化し,調達,生産,販売,回収などの分野を統合して,需要と供給の適正化をはかるとともに顧客満足を向上させ,あわせて環境保全及び安全対策をはじめ社会的課題への対応をめざす戦略的な経営管理」(原文のまま)と定義されており、調達も含まれている。
      筆者は、調達物流の「専門家」ではないが、これまでの経験から、物流の一領域で、社内(生産)物流・販売物流の前工程である調達物流は、意外と幅が広く、奥が深いと感じている次第であり、そのあたりを紹介したい。

    2.製造業における調達・購買業務

    (1)調達・購買業務とは

      それでは、製造業における調達・購買業務とは、どのような仕事であろうか。物流事業者として調達物流に食い込むにあたっては、まず「敵を知る」ことが重要である。
      JIS Z8141:2001「生産管理用語」では、「g)資材管理」で「2)調達」に関する用語を定めている。そこには、「7206 購買管理」「7207 購買計画」「7208 購買条件」「7209購買方針」「7210 国際購買」「7211 購買方式」と「購買」に関する用語が列記されている。
      なお、「7210 国際購買」即ち「海外調達」に関する物流は、3項以下で、「原産地証明」等を含めて後述する。
      調達(procurement)の方が、購買(purchase)より上位で広範な概念のようである。
      生産管理用語辞典などでは、調達とは「必要なものを整え、それを要求者に届けること」であり、購買は「必要なものを買い入れること」とされていることが多い。「届ける」意味合いを含むので「調達物流」というが、「購買物流」とはいわないのかも知れない。
      そう言えば、アメリカの電話帳でウォルマートの項には、電話番号では記載されておらず「No EDI,No PO」と書かれていると聞いたことがある。「(商談は)EDIでなければ、purchase order(購買発注)はしない」ということであり、ウォルマートが商品を求めて世界中からprocurement(調達)するのは別だということだろうか。
      参考文献に掲げた「調達・購買の教科書」は、調達・購買人材スキルが、「調達・購買業務基礎」「コスト削減・見積り査定」「海外調達・輸入推進」「サプライヤマネジメント」「生産・モノづくり・工場の見方」(以上、原文のまま)の5つの軸で書かれており、調達・購買プロフェッショナルの育成を目指している。
      本ロジスティクス・レビューNo.486~487「高度物流人財になろう」の拙稿では、高度物流人財とされる幾つかの資格について紹介したが、「調達・購買人材」についても幾つかの資格がある。国内では日本能率協会の「CPP(Certified Procurement Professional)」と日本資材管理協会の「資材管理士」がある。
      前者のHPを見ると、「調達のプロフェッショナルCPPに必要なスキル・知識」として、
      「調達の基本事項」「調達組織」「CSR(社会的責任)」「リスクマネジメント」「調達倫理」「調達戦略」「調達計画・目標展開」「調達マネジメント」「海外調達」「開発購買」「サプライヤー戦略」「サプライヤー評価」「コスト分析・査定」「調達交渉」「調達管理」
    の15が列挙されている。
      後者の資材管理士は専門コース(必修科目・選択科目)を履修する必要がある。筆者は、長年、選択科目の「在庫管理」を担当しているが、製造業以外にも、流通業・運輸業からも資材・購買担当者が受講している。

    (2)調達・購買業務の重要性

      江戸時代の商店では「利は元にあり」と言われていた。これは「利(儲けの基本)は元(仕入れ)にある」ということで、売り値よりも仕入れ値を重視していたことが伺える。今日の製造業・流通業でも、「良いモノ(原材料・部品または商品)を安く安定的に仕入れる(調達・購買する)」ことが重視されることは言うまでもない。そこに調達・購買業務の重要性や厳しさ・難しさがある。
      筆者は、国鉄時代の末期に、N社Y支店の「通運」契約担当として、3年間国鉄コンテナの輸送枠を「仕入れ」ていたことがある。当時の国鉄貨物は、「売上=運賃収入の拡大」で行くか、「数量確保=シェア奪還」で行くか揺れ動いていて、拡販施策が四半期ごとに次々と目まぐるしく打ち出されていた。そこで、通運業者としても事業存続を図るために、良い品(北海道・九州向けなど、トラックと競争力のある区間)を安く(割引率を拡大して)、安定的に(少なくとも四半期単位で)仕入れるべく、国鉄各局貨物課の運賃担当と交渉をするのである。筆者が国鉄と結んだ契約(四半期分の発送運賃合計)に向けて、コンテナ基地店は荷主に運賃割引を提示してセールスを展開する。契約運賃を達成しないと割引が得られず、荷主に対する割引額が持ち出しになるので、月末・四半期末には胃が痛む。
      その後、本社営業部門に移り、量販店のバイヤー(仕入れ担当者)に同行して、数日かけて千葉・茨城・栃木のハム製造会社数社の工場を回ったことがある。そこで、商品の品質・価格、工場の衛生管理・出荷作業など、バイヤーの仕入れに対する厳しさを実感し、「仕入れ(調達・購買)とはこういうものか」と大いに勉強になった。
      例えば、Nハムでは、得意先のバイヤーといえども帽子・白衣・長靴などを着用させて、手指などを消毒しないと工場や出荷場に入れてくれなかったが、Tハムでは、工場隣接の廃校になった小学校施設を、ピーク時の臨時出荷場所にして作業していたが、外気温と同じ状態で素人目にも「品質管理」が気になった。

    (3)CPOとPMI

      アメリカ企業などでは調達・購買業務が重視され、CPO(Chief Procurement Officer 最高調達責任者)が任命されるなど社内的地位が高いが、日本ではそうでもないようである。
      例えば、企業の購買活動については、「購買担当者景況感指数」というものがある。これは、製造業やサービス業の購買担当者を調査対象にした企業の景況感を示す景気指標の一つであり、Purchasing Manager’s Indexの略でPMIと言われる。
      製造業の購買担当者は、製品の需要動向や取引先の動向などを見極めて仕入れを行うため、製造業PMIは今後の景気動向を占う先行指標とされている。米国ISM(供給管理協会)の米国製造業・非製造業景気指数、中国の製造業購買担当者景気指数などが代表的である。なぜか、日本ではあまり活用されていない(日銀短観やNX総研の「企業物流動向調査」などでは活用されている)。これも、日本の製造業における調達・購買部門の評価が低いことの表れかも知れない(残念ながら物流部門の評価はもっと低い)。
      日本で重視されている鉱工業生産指数や機械出荷統計は、どちらかと言えば、景気との一致指標であり、最近では工作機械受注統計など先行指標が注目されているので、PMIの活用が望まれる。
      また、JILS(日本ロジスティクスシステム協会)が毎年実施している物流コスト調査(2022年調査が最近発表された)が、業種別の売上高物流コスト比率などを知るのに活用されている。しかし、これはJILS会員の大企業を中心とした約200社の調査である。しかも、調達物流についてのコストや改善策などの回答は少ない。これは、上述のように、調達コストは、生産部門の「聖域」である製造原価に含まれているので、物流部門として管理されている事例が少ないからとも考えられる。
    コロナ禍や円安・米中対立により、供給網(サプライチェーン)が分断され、原材料・部品の安定的な調達に影響が出ている。2022年は、半導体の品薄で、日本の自動車メーカーの生産が前年を下回った。
      生鮮品・原料等は、国際市場で中国やインドなどに買い負けているとも聞く(温暖化と乱獲のため、水産品は世界的に資源が枯渇しているという報道もある)。国際市場だけでなく、日本の漁港に中国からのバイヤーが来て、マグロなどの高級魚を高値で買い付けるので、日本の仲買人も仕入れられないと報道されていた(2023年1月8日のTBS)。
      製造業・流通業を問わず、ますます、調達・購買業務の重要性が高まるとともに、担当部門にはスキルアップが求められている。
      いずれにせよ、製造業における調達・購買業務と担当者、さらにはそのスキル等を知ることは、物流事業者にとって調達物流をセールスするにあたり、必要な知識と言えよう。

    3.グローバル調達と国際バルク戦略港湾

      1項で、「調達コストは製造原価に含まれている」と述べたが、グローバルな原材料の調達コスト管理はシビアである。
      国土交通省の港湾統計(2021年)によれば、日本の外国貿易貨物は、1,143百万トン(輸出 265百万トン、輸入 878百万トン)であり、重量ベースでは海上輸送が99%以上占めている。輸入ではコンテナによる157百万トンを除いた82.1%が、原油・鉄鉱石・石炭・穀物などのバルク貨物である。資源の乏しい日本は、外国から原材料・穀物等を大量かつ遠距離に輸送する、「壮大」なグローバル調達物流で成り立っていると言えよう。
      ところが、日本国内へのゲートウェイである港湾は、巨大化しつつあるバルク(ばら積み)貨物船を受け入れるには、水深・岸壁・航路の港湾インフラが不足していた。
      このままでは、資源を爆飲みしている中国に買い負けるという危機感から、2000年代初頭に2020年を目標年次として、より大きなバルク貨物船(例:ケープサイズ=載貨重量15万トン前後、吃水19m、鉄鉱石・石炭用)が入港できるように、選択と集中により重点的に整備しようと「国際バルク戦略港湾」構想が生まれた(図2・表1参照)。

    図2 穀物、鉄鉱石、石炭の主な輸出港及び海上荷動ルート
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

    表1 国際バルク戦略港湾の選定結果(国土交通省)
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      筆者は、2009年から2011年まで国際バルク戦略港湾検討委員会に加わり、グローバル調達ネットワークについて学ぶ機会を得た。同時期に開催された「国際コンテナ戦略港湾」検討委員会にも加わり、最近は、厚労省所管の港湾短期大学横浜校で国際物流を教えているのも、何かの縁と言えよう。
      図2の輸出国(港)からはCIF(コスト・保険・運賃込み)の貿易条件で、日本向けに大型のバルク貨物専用船(バルカー)で輸送される。従って船舶等の手配は輸入者である日本企業側が行う。文字通りの調達物流である。
      最近では、ブラジルの鉱業メジャーのヴァーレ社は鉱山採掘以外でも稼ごうと、自ら巨大な鉄鉱専用船=ヴァーレマックス型を中国で建造して、海運まで乗り出している。
      なお、国際バルク戦略港湾の目標年次(2020年)を過ぎた現時点では、「釧路港」「徳山下松港・宇部港」「小名浜港」が整備されている。
      ライバルである中国・韓国のコンテナ港湾・バルク港湾も視察したが、中国・大連でみた水深30mの鉄鉱埠頭(日本では大分・日本製鉄の23mが最深)や、巨大サイロが林立する穀物埠頭(日本の穀物埠頭サイロは数本)には脅威を感じた。
      穀物埠頭では荷役中のパナマックス型穀物専用船が小さく見えるが、日本ではパナマックス型が接岸できない穀物埠頭が多い。

    写真1 大連港の鉄鉱埠頭(筆者撮影)
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

    写真2 大連港の穀物(サイロ)埠頭(筆者撮影)
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

    ※後編(次号)へつづく


    【参考資料】
    1.上原 修「購買・調達の実際」(日経文庫、2007年)
    2.坂口 孝則「調達・購買の教科書 第2版」(日刊工業新聞社、2021年)
    3.国土交通省「国際バルク戦略港湾の選定結果について」(2011年)
    4.JIS Z 8141 2001「生産管理用語」(社)日本経営工学会編「生産管理用語辞典」(日本規格協会、2002)に収録
    5.日通総合研究所編「ロジスティクス用語辞典」(日経文庫、2007年)
    6.鈴木 暁 編著「国際物流の理論と実務 6訂版」(成山堂書店、2017年)
    7.鈴木 邦成 著「トコトンやさしいSCMの本 第3版」(日刊工業新聞社、2020年)
    8.小川 千晴「情報・製造・流通 フルフィルメント・サービスのご紹介~付加価値物流サービスによる品質向上と業務効率化~」(ロジスティクス・レビューNo.493、2022年)
    9.国土交通省・中小企業庁・財務省関税局等の資料。日本能率協会・山九等のホームページ。日経新聞等、各誌紙の記事その他


    (C)2023 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.

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