第495号 物流・ロジスティクスの最近の動向 ーDXからXXへー(中編) (2022年11月10日発行)
執筆者 | 長谷川 雅行 (株式会社NX総合研究所 経済研究部 顧問) |
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執筆者略歴 ▼
目次
*前号(2022年10月18日発行 第494号)より
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*サカタグループ2022年7月28日開催 第25回ワークショップ/セミナーの講演内容をもとに編集しご案内しています。
*今回「物流・ロジスティクスの最近の動向 ーDXからXXへー」と題しまして、事例等を交えて講演いただきました「株式会社NX総合研究所 顧問 長谷川 雅行」様の講演内容を計3回に分けて掲載いたします。
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3.物流スタートアップ
次に物流スタートアップ(急成長をする組織)です。
この資料は、SOUCO(ソウコ)という会社の中原社長が、「日本の物流スタートアップの現状」について今年出された資料です。これはSOUCOさんのホームページ(https://www.souco.space/library/)から見ることができます。
中原社長は、不動産業ご出身でSOUCOを起業され、空き倉庫のマッチングシステムを提供・成長されており、私も何度かお会いしています。
この図には、フルフィルメント、ドローン、AI、先程お話したラピュタさんのようなロボット、あるいはインベントリーマネジメント=在庫管理がマップされています。ウェアハウジングのところでSOUCOさん、あるいはデジタルフレイトフォワーダー、ブロックチェーンなど各分野に物流スタートアップが出てきます。
私も全分野から話を伺ったのではありませんが、直接お話を聞いただけでもスタートアアップの皆さんは、とても頑張っていますね。それでは、いくつかのスタートアップ企業をこれからご紹介したいと思います。
(1)CBcloud
こちらはCBcloudさんです。先ほど述べた「物流研究会」でご説明いただいた「PickGo」です。
「PickGo」(https://pickgo.town/)とは、荷主さんと貨物軽自動車の個人事業主のドライバーさんの間を、「PickGo」というクラウドシステムを使って、求荷情報と求車情報をマッチングするサービスです。今は普通トラックにも広げていますが、最初は貨物軽自動車を中心とした求荷求車システムでした。
このサービスが進んでいる点は、ドライバーがGPS機能付きのスマホを持っていれば利用できることです。ドライバーが今どこを走っているのかGPSで分かります。荷主さんからスマートフォンに「東京都〇〇区から△△市行きの□□という貨物がX個あります」という情報をPickGoに登録すれば、その情報を見て「運びたい」と思ったドライバーがスマホから申込する、つまりWEB受発注システムと同じ仕組みで、これがCBcloudさんの提供するクラウドサービスPickGoです。
CBcloud社長の松本さんは元々航空管制官で、奥様の実家が貨物系の会社で、その会社から新事業の企画があり、KDDIさんの「KDDI∞Labo DemoDay」(大手企業とスタートアップを結びつけ、新たなビジネスの創出を目指すKDDIの取り組みを披露するイベント: https://thebridge.jp/2016/09/10th-demo-day-kddi-%E2%88%9E-lab)というプログラムに応募して最優秀賞を受賞後、KDDIさんとともにこのサービスを事業化したされました。
それが拡大して、例えば全日空さんの航空貨物の地上運送、あるいはトランコムさん(https://www.trancom.co.jp/transport/)だとか、全日本トラック協会さんが行っている求荷求車情報ネットワーク「WebKIT」(https://www.wkit.jp/top/)のよう普通トラック用のサービスも提供しています。
それは、旅客のMaaS(マース:Mobility as a Service https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/japanmaas/promotion/)と同じで、旅客が貨物に変わっただけです。人がバス~新幹線~私鉄~地下鉄と乗り継いで、東京から大阪へ行くのと同じように、貨物軽自動車と航空機など異種輸送機関を自由に選択して輸送できるという、「モノのMaaS」というサービスを提供されています。
(2)ロジクラ
倉庫関係のスタートアップ企業では、ロジクラという商品をご紹介します。社長さんは長浜さんという方ですが、「物流研究会」にお招きした際は、立ち上げ直後でオフィスもなくて、六本木のレンタルオフィスでお会いしました。
長浜さんは、大学生の時に倉庫でアルバイトをされて、倉庫で保管するだけではおかしい(不十分)と考えた結果、倉庫はあくまでも手段であり、そこで需要予測をして在庫を適正化する、あるいは、倉庫に滞留している不動在庫を動産担保として融資を受けて換金化する(昔なら倉荷証券)、あるいは在庫をプラットフォーム上に公開して売買をする、そういうことも事業化できるのではないかということで、ニューレボという会社を、学生さんの時に、直接スタートアップを立ち上げ、実際に仕入予測、仕入・販売を行いました。
ニューレボさんが提供する「ロジクラ」は、在庫管理(https://logikura.jp/)のSaaSソフトウェア(Software as a Service:必要な機能を必要な分だけサービスとして利用できるようにしたソフトウェア)であり、「一番基本的な部分は無料でいいですよ、その代わり在庫情報はロジクラに提供して下さいね」ということで、どんどんデータを集めて、ビックデータ化していって、そのビックデータから仕入予測だとか需要予測だとか、あるいはどの位の資金力になるのかなど、そういった在庫の適正化・換金化・流動化のためのデータ活用事業を行っています。
データ蓄積事業を通じた仕入予測等について、複数の企業と提携して在庫データを活用した金融商品の開発や、在庫売買プラットフォーム事業を進めているということです。
先ほどのCBcloudさんもそうですし、ニューレボさんもそうですが、その事業モデルについて面白そうだから、いろんな会社がスタートアップ資金を出しているのですね。
つい先日、2022年の上期のスタートアップの資金調達状況について、日経新聞に出ていました。物流関係で一番資金調達が多かったのは、先ほどのラピュタロボティクスさんが数十憶円を調達していますね。ですから、出資される皆さんも、「成長が見込まれるスタートアップだったらお金を出してもいい」という企業が増えているのかなと私は考えています。
余談ですが、私も、あるクラウドファンディング(物流関係ではありません)に僅少ですが出資(寄付)したことがあります。
(3)SOUCO
倉庫のスタートアップでは、SOUCO(ソウコ)をご紹介します。
世界中に同様の倉庫スペースのパンチングサービスを提供するいろいろな会社があります。一番大手の企業は、アメリカのフレックス(FLEXE: https://www.flexe.com/)です。あと中国のW6ほか、各国にあります。これは倉庫版の求荷求車システムです。オンデマンド・ウェアハウジングと言っていますが、空いている倉庫と荷主さんをマッチングするサービスを提供しています。
荷主さんにとっても、例えば夏場に暑くとなると、飲料水が急に売れます。そうすると、飲料水を急いで作って10日後に出荷するが、10日間の保管スペースが足りないというようなことが起こります。そのような時に、求荷求車システムの倉庫版「SOUCO」(https://www.souco.space/)を使って、どこか空いている倉庫を探し、在庫を預かってもらうということです。
ただし、パレットあるいはロールボックスパレット単位で預かることが条件になっています。ですから、空きスペースを持っている倉庫側も、フォークリフトなどで機械荷役ができるので、作業者を増やす必要もありません。
大手の倉庫会社さんでも、倉庫の空きスペースをSOUCOさんに登録していると聞いています。
例えば2000坪の倉庫があったとして、1800坪しか埋まっておらず、200坪空いている。100~200坪単位のような小ロットの貨物は、なかなか見つかりません。ですからSOUCOさんに登録しておいて、短期でも100~200坪の貨物が入ってくると、固定費は変わらずに収入が増えることになります。
この仕組みは、空きスペースがある倉庫会社さん、保管して欲しい貨物の利用者は、仲介業者のSOUCOさんに依頼し、SOUCOさんは仲介手数料を得るという仕組みになっています。
SOUCOさんも自社施設を営業倉庫として登録して「再寄託」という形をとるなど、事業を展開しています(ご紹介する各スタートアップとも、貨物利用運送業や倉庫業として許可・登録・届出等をしている)。
このマッチングサービスは、SOUCOさんだけでなく、大手の企業でも行っているところがあり、全国各地で拡大していると聞いています。SOUCOさんもトランコムさん(トラックの求荷求車システム)と提携して倉庫のマッチング+トラックのマッチングという「保管+輸配送」一貫サービスとして業務の拡大を図っていると伺っています。
(4)207
次に、倉庫の話だけでなく宅配の話もしたいと思います。
207(ニーマルナナ)社さんも「物流研究会」にお招きしてお話をして頂きました。「207」は、同社の高柳社長の誕生日からとったと伺いました。
207さんが提供するサービスは、CBcloudさんと同じように、貨物軽自動車のドライバーを対象に提供しているクラウドサービスです。
宅配時にお届け先がご不在で再配達をすると、労働時間や燃料が無駄になってしまいます。国は宅配便の再配達率を下げようとしていますが、207さんも「宅配の再配達率を減らそう」というサービスを提供している点です。
その仕組みは、お届け先側からではなく、例えば「長谷川さんというお宅に配達したけれど留守だった」という情報を、ドライバーが配達先でスマホ入力すると、不在情報が他のドライバーにも伝わります。「TODOCUサポーター」(https://lp.todocu.cloud/)に登録しているドライバー全員には、長谷川さん宅の不在情報が共有されるのです。
長谷川さん宛ての宅配貨物を持っているドライバーは「今行っても留守だから後にしようか」という情報が事前に把握できて、「持ち戻り」が回避でき、効率の良い配送が可能になります。これがTODOCUで、207さんのビジネスモデルです。
さらに、今流行りのネット通販、EC物流の荷主さんにもTODOCUを提供して再配達を減らしていくことも進めています。
高柳社長は、ご自分で配送を行ってみて、「不在持ち戻り」という問題点が分かって、その対策としてドライバー同士で配達先の情報を共有化しようと考えて、このサービスを立ち上げたとのことです。
207さんが、今展開しているサービスがスキマ便(https://sukimabin.com/)です。
ネット通販の商品をヤマト運輸さん、佐川急便さん、日本郵便さん、西濃運輸さんが配達に行った時、そこで発生する不在持ち帰りを何とかしましょう、というのがスキマ便です。
このようにマッチング・プラットフォームでも、CBcloudさんのPickGo、求荷求車システムのトランコムさん、ハコベルさん(https://www.hacobell.com/)、いろいろなサービスがあります。
それから倉庫との関係では、バース予約管理や配車管理と繋げるような仕組みができないかということも、207さんでは進めています。
(5)物流スタートアップ(まとめ)
他にも、例えばドローンをやっているブルーイノベーションさん(https://www.blue-i.co.jp/)など、「物流研究会」ではさまざまなスタートアップをお招きして話を伺っていますが、時間も迫ってきましたので省略させていただきます。
今お話しした、例えばCBcloudさん、SOUCOさん、ニューレボさん、207さんなど、皆さんそれなりの活躍をして、資金を集めており、大手の企業も出資しています。
大手の企業と手を組んでいる例としては、CBcloudさんと全日空さん、あるいはSOUCOさんとトランコムさんとが組んで活躍されています。私もそういう企業の若い社長さん達と話をしてみて、凄いなと思います。
皆さん共通して仰るのは、「物流は宝の山です。いくらでも改善のネタや課題があります」ということです。
課題とは、先ほどのSOUCOさんの事例で言えば、既存の倉庫会社が2000坪のうち100坪が空いていて、それを「仕方ない」と思うか、「何とかこれを埋める方法はないか」と思うかということです。
スタートアップ各社がどのような仕組み・仕掛けでサービスを提供しているのか、それが物流DXです。最新のデジタル技術を用いた仕組み・仕掛けを作って、それを手段・武器として物流ビジネスの変革をしている訳です。
CBcloudさん・207さんとも皆スマホが中心です。
昔の高価なハンドヘルドコンピューター、ハンディーターミナルが、今はスマホになり、それも中古機を安く買い集めています。数十万円した昔のハンドヘルドコンピューター、HHT(Handheld terminals)で構築した仕組みが、2~3万円の中古スマホという安価な端末の使いやすいアプリ載せるだけで、物流、ロジスティクスのDXが進められているのです。
では、既存のトラック運送会社、倉庫会社にとって、スタートアップは競合相手なのかというと、決してそうではなく、ゆくゆくはGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazonの4社の頭文字)のような企業がスタートアップから出れば良いと、私は思っています。
ユニコーン企業(「評価額が10億ドルを超える、設立10年以内の未上場のベンチャー企業」)まで到達している物流スタートアップはまだ出ていませんので、既存のトラック運送会社・倉庫会社と連携して成長することが期待できます。先ほどのCBcloudさんの物流MaaSのような大手企業との提携にも注目したいと思います。
今は、バス・タクシー会社も私鉄もコロナ禍で乗客が減っており、貨客混載に取り組んでいます。バス・タクシーや電車で貨物を運ぶことに垣根がなくなっています。昔で言うと、それぞれの法律(業法)で業界ごとの垣根がありましたが、もうそんなことは言っていられない状況なので、今はアイデア・発想の時代と感じます。
※後編(次号)へつづく
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