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第155号 エクセレント ロジスティクスへの挑戦 ~資生堂を取巻く環境の変化とロジスティクス改革について~(前編)(2008年9月4日発行)

執筆者 飯田 正幸
(資生堂プロフェッショナル株式会社 企画管理部部長 ロジスティクスグループリーダー)
    執筆者略歴 ▼
  • 略 歴
    • 1951年生まれ。
    • 1973年 株式会社資生堂入社、販売会社や本社にて、営業・マーケティング・商品開発を担当。
    • 2000年より物流子会社、本社ロジスティクス部にてSC改革・物流構造改革を担当。
    • 2007年 資生堂プロフェッショナル株式会社へ異動し、現在に至る。
      経済産業省所管-海外技術者研修協会の要請を受け、アセアン諸国の中核研修機関に対する協力事業に参加。
      国内外でアセアン地域の物流人材育成のためのロジスティクスマネージメント講座などを実施。
    • (社)日本ロジスティクスシステム協会認定 ロジスティクス経営士

*サカタグループ2008年2月26日開催セミナーの講演内容をもとに編集しご案内しています。
*今回は2回に分けて掲載いたします。

目次

  皆さま、こんにちは。資生堂プロフェッショナル(株)の飯田でございます。
  本日ご案内する内容は、資生堂のロジスティクス改革についてです。皆様とエクセレントロジスティクスとは如何に在るべきかを考えながら、資生堂の取り組みに対して評価をいただければ幸いでございます。

  はじめに、皆さまも耳にされたことがあるかもしれませんか、幾つかエクセレントロジスティクスについて述べられている例をご案内して、エクセレントロジスティクスについて共有したあと、資生堂のロジスティクス改革をご案内します。

1.高度なロジスティクスシステムの要件

  一つ目が、東京海洋大学の川島教授がお話をされている「CSR企業経営時代のロジスティクス」である。
  「企業の究極の目的は利益を上げて存続することである。」これはイスラエルの物理学者エリヤフ・ゴールドラットが書いたベストセラー「ザ・ゴール」のサブタイトルにもなっているが、これまでは企業が利益を上げて存続するために、企業倫理を守り法を犯さなければ良かった。しかしCSR企業経営時代の今日では、社会的責任の履行という高度な取り組みが求められており、この取り組みの中でロジスティクスが果たす役割が重要となっている。具体的には、ロジスティクスが経営に寄与することは当然として、環境への負荷が少ないロジスティクスの実現や循環型社会を担うロジスティクスなど、CSR活動に求められる取り組みの多くの項目に対して、如何にロジスティクスが寄与していくかを問う事が重要である。・・・と述べられている。
  また、ロジスティクスの重要性について、昨今の食の安心・安全や偽装問題を例に捉えて述べられている。例えば食品に不都合があり、これが朝刊ですっぱ抜かれる。お昼の記者会見でそれらの商品が「何処にどの程度有り、どの様に処理する。」など明確な対応を発表しなければ企業の責任を追及されることとなる。責任者が曖昧な返事を繰返し責任を認めると、直ちに夕刊紙面などに「社長引責辞任」などと書かれかねない。そこにはロジスティクスに問題があり、トレースアビリティーが確立されていない証拠である。ロジスティクスの未発達が企業の存亡に影響を与えかねない。
  即ち、CSR企業経営時代のロジスティクスは、
① 経済的側面からの貢献(ローコストオペレーション、物流サービスの向上ほか)
② 環境的側面からの貢献(循環型システムの構築、環境負荷軽減の運営ほか)
③ 社会・人間的側面からの貢献(安心・安全の構築、情報セキュリティー確保ほか)
が必要である。・・・と述べられている。

  二つ目は、日本ロジスティクスシステム協会(JILS)が作成した「ロジスティクス コンセプト」である。(当協会ホームページで参照可能)
  ロジスティクスの目的は、企業の競争力を強化して企業価値を高めることにある。従って、ロジスティクスは以下の5項目の視点で取り組む事が必要だと述べている。

(1) 経営の視点
ロジスティクスは、経営に対して供給コスト削減による利益の増大、在庫の削減による資産圧縮という形で貢献する必要がある。更に、ロジスティクス経営管理指標の設定と評価。CLO(Chief Logistics Officer)の育成と組織機能の再編成。取引条件などサービスレベルの適正化などの取り組みが必要である。

(2) グローバル化の視点
効率的なグローバルサプライチェーンを実現するためには、全世界の生産や在庫を可視化し、変化に即応できるシステムや体制の構築が不可欠である。また、企業活動のグローバル化においては、効率的でシームレスなロジスティクスが必要である。

(3) 環境の視点
健全な地球環境と地域環境が最も重要な財産であり、将来世代へ引き継ぐ責務を有する。そのため、地球温暖化・大気汚染・廃棄物・騒音・振動など環境に与える負荷の軽減や循環型社会の形成を目指したロジスティクスの構築が必要である。

(4) コンプライアンスの視点
ロジスティクスは経済活動のみならず国民生活を支えるインフラである。従って、様々な活動で安全・安心を提供しなければならない。具体的には、物流の安全対策の充実、消費者の安全・安心の充実、国際的なセキュリティー確保などである。

(5) 人材・労働環境の視点
ロジスティクスの構築と運営には専門的な知識と幅広い知見を有した人が不可欠である。また、ロジスティクスは経営に大きな影響を与えることから、トップマネージメントによる管理が必要である。従って、少子・高齢化への対応、ロジスティクス人材の育成、経営と実務を結ぶ人材の育成が必要である。

  今ご案内した2つが、私の経験から今日的なエクセレントロジスティクスのポイントを網羅したガイドと思われる。皆さまのご参考になればと思いご案内した。

2.㈱資生堂の概要と環境変化

  資生堂は西洋調剤薬局として1872年に創業して136年が経った。社名は中国の古典「易経」の一節「至哉坤元万物資生(至(いた)れるかな坤元(こんげん)、万物(ばんぶつ)資(と)りて生(しょう)ず)」から引用し、「大地のあらゆる物を融合する事で新たな価値を創造しお客さまのお役にたつ」との創業者の想いが込められたものである。様々な事業を展開しており、先日発表されたミシュランガイドの三ツ星に輝いた、銀座のフレンチレストラン・「L’OSIER (ロオジエ)」もその1つである。

  業績は国内化粧品事業が売上げと収益の多くを占めている。海外のウェートは約3割を占め、ここ数年急速に拡大している。資生堂には長い歴史がありその事で老舗と言われてきたが、グローバル化やニーズの多様化また激しい競争環境の中ではメリットでは無くなっている。
  次に、資生堂の歴史について振り返える。
  1872年に創業した資生堂は1897年に化粧品事業に進出し、1923年に化粧品小売店をチェーンストア制度で組織化した。この歴史は大変古く、経営の神様といわれた松下幸之助さんの松下電器が1935~1938年に、のちにナショナル店会と呼ばれるチェーンストア組織を作り上げた。12~13年後の話で資生堂のチェインストア組織構築がいかに早かったかお解り頂けると思う。
  1927年に販売会社制度を導入してメーカー直販体制を作り、1937年に愛用者を組織化する「花椿会」を発足して現在も継続している。この様に1930年代にお客さまの情報が資生堂の仕組みを通じて収集できるサプライチェーンの基盤を作り上げていたことになる。
  更に物流面では、1977年から各地の販売会社にあった物流機能を束ねて商物分離に着手し、15年の歳月を架けて全国11箇所の物流拠点配置を終えた。

  一方、資生堂を取巻く環境の変化をマクロ的に見てみる。
  1920年代に呉服ブームが起こり百貨店が本格的に発展した。1950年代には食や衣料の洋風化が起き、60年代はテレビの普及によってマスマーケティングの時代を迎え、大型量販店が誕生して急速に流通構造が変わった。更には、80年代後半からバブルが起こり、人口の都市部集中と地方の過疎化が促進され地域間格差が著しくなった。また、消費が成熟化し消費者ニーズが多様化したのである。

  この様な中、資生堂の内部では様々な問題が起こっていた。これまでチェインストア組織のもと売上げを伸ばし、1980年代に化粧品専門店の売上げが大部分を占めていた。しかし先に述べた大型量販店やドラッグストアといった新しいチャネルが拡大しその対応が後手に回り売上げが低迷してしまったのである。そこで、売上げを上げるために新製品をどんどん出し商品アイテムが膨れ上がってしまった。生産部門は生産効率を上げるため大量に作る。物流部門は品切れを起こさないように在庫を多く抱える。このような部分最適がいろいろな悪循環を起し、品切れと偏在の山を生んだのである。

  1990年代の半ばに作り上げた全国11箇所の物流拠点でも問題が起こっていた。要因は市場性の地域格差拡大に加え、大型量販店やドラッグストアといった新しいチャネルからの物流要請である。大型量販店の流通センターが設立され一括納品などの例であるが、北陸地方のある大型量販店への化粧品は近くの当社センターからではなく、当社の名古屋センターから出荷され中部地区にある大型量販店の流通センターを経由して供給される。この様な結果、都市部を管轄するセンターは設計能力を超えた業務量のため毎日残業が続き、一方、地方のセンターは物量が漸減傾向となり、様々な努力を行なうものの赤字経営を余儀なくされたのである。

  この様に、新しい流通チャネルへの対応を初めとした時代の変化への対応が後手にまわり、資生堂の多くのところで悪循環を招いたのである。

※後編(次号)へ続く

以上



(C)2008 Masayuki Iida & Sakata Warehouse, Inc.

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