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WSセミナー

第171号価値提供型SCM革新で競争優位を実現する(後編)(2009年5月14日発行)

執筆者 菅田 勝
株式会社ロジスティクス革新パートナーズ 代表取締役
物流効率化アドバイザー(中小企業庁)
エコアクション21審査人(環境省)
環境カウンセラー( 〃 )
グリーン物流PS会議 政策企画委員会 委員
リコーロジスティクス株式会社 クオリティー(KAIZEN)アドバイザー
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 大阪府立大学工学部経営工学科卒業、㈱リコー入社。
    • 社長室経営企画担当課長、英国製造会社取締役、研究開発本部本部長室長を歴任。
    • リコーロジスティクス㈱経営管理本部副本部長、三愛ロジスティクス取締役を経て、
    • 現在クオリティー(KAIZEN)アドバイザーに就任。
    • また、自身でコンサルティング会社を設立し、業務改革、教育研修、講演など活躍中。
    • (社)JILS 日本ロジスティクスシステム協会委員・講師、経産省/国交省”
    • グリーンP パートナーシップ会議”広報企画WG委員。
    • 著書に「ロジスティクス管理2級(中央職業能力開発協会)」他 がある。

*サカタグループ2008年5月20日「第13回ワークショップ」の講演内容をもとに編集しご案内しています。
*今回は3回に分けて掲載いたします。
前編(2009年4月9日発行 第169号)
中編(2009年4月21日発行 第170号)より

目次

5.活力ある人材育成の進め方

5-1.3PL委託における問題点(国交省資料他)


  ここでは、最後に人の育成(現場力)をしっかりしないと、どんなに良い3PLやSCMであっても、効果実現できないということを申し上げたくて、国交省ホームページのデータを流用しています。
3PLを利用する動機(荷主企業)


  3PLを利用するにあたって、荷主サイドはこのようなことを期待しているということを、左上に枠で囲っています。
委託後の問題点・課題(荷主企業)


  併しながら、委託を「やってみたけれどどうだった?」と聞いたら、こちらに書いてあるように、「期待していたのにがっかりだ」という内容です。
委託先(3PL事業者)に必要な人材(荷主企業意見)


  荷主サイドに何が駄目なのか聞いたら、要は『3PL事業者側に、きちんとマネジメントできる拠点長がいない。或いは現場の改善をしっかりやれるような人材がいない、ノウハウが少ない。もっと基本をきちんとできる人を配置してほしい』といったようなことだったとの結果です。
3PL業務を受託しての問題点・課題


  荷主側に対して、受託した物流事業者側の意見は、物流事業を受託して、①「プロがいない」。これはまあ仕方ないですが、②コストダウン要求がきつい とか、③利益が出ない とかがあります。この結果は、私も物流事業者の立場なので良く理解できるのですが、これらは荷主側の思いと随分ずれているのですね。このようなずれがある段階では、やはり顧客満足なんて、とても得られないということを申し上げたかったのです。
革新の進まないSCM(JMAC)


  JMACコンサル(事)の松本氏が、革新の進まないSCMはこのような理由だと仰っています。
  また、日本を代表するコンサルティング・ファームの調査結果ですが、270社のSCMを調べたら、「効果が出た・まあまあ良かった」という結果は大体1/3だと。残り2/3は、「効果は少しかない・殆ど効果らしきものはない。コストは一部下がったかもしれないけれど、リードタイムや品質に問題あり、トータルで見たらメリットが出ていない」という意見なのだそうです。
  私はさもありなんと思うのです。SCMや3PLというものは、そんなに簡単なものではないのです。商品や事業や顧客を知らない人がやって、ただ運ぶだけ中心の発想では、上手くいく筈がないのです。心して掛らなければいけないと、申し上げたいのです。

5-1.3PL委託における問題点(国交省資料他)


  この資料で私が申し上げたい事は、「現場力というのは土台です」ということです。
  土台が腐っていたら、この上にいくら良いSCMやWMSやTMSを構築しても、全部土台から崩れていってしまうのです。住宅と同じで、まず土台がしっかりしないと、新システムの効果は出ません。
21世紀 信頼され、成長できる会社構造(CSR活動体質)

*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  物流は、拠点分散型のネットワークビジネスです。ポイントは、しっかりとした良いマインドや実践行動の出来る物流のメンバーを育てるということ、言い代えると、お客様を大切にするという思想集団を育てることです。このような人材をしっかりと育てた所に、如何に良い事業システムを載せられるかということです。この基本が出来ていなくて、その上にいくら良いシステムを載せても、基礎が出来ていない所では上手くいく訳がないのです。まず以って、この辺りをしっかり取り組んでいかなければならないのです。

5-3.現場力の強化例 リコーロジス顧客満足お届けサービス



  これは今から約4年半前にインタビュー受けた時の新聞記事です。私はCS推進担当責任者として、全国のクレームを集めて、クレーム報告書も出したりもしたのですが、一番意識したことは、CSドライバーを育成することでした。その為に、私共の全国・全世界に分散している125拠点に、ドライバーの良い模範事例(A3用紙)をどんどん紹介するようにしたのです。
  模範事例を増やす為にも、全国の事業部にはドライバー勉強会を促進してくれるように要請していきました。マシン搬入等、商品知識や納品作業方法の勉強会は勿論、身だしなみ・ビジネスマナーやドライバー納品作業からはやや離れたトナーカートリッジの交換作業方法まで、実に様々な教育を実施してもらいました。
  そしてドライバーが納品先のお客様から感謝されたり、(発)荷主から褒められた例(感謝状を授与された)などを、どんどん流していったのです。お客様が喜び、感謝していただいた事例、そして更に、ドライバーが納品先のお客様と良い人間関係が構築できること(いわゆるCRM(Customer Relationship Management)により、営業部門が助かった事例などを積極的に収集し、社内報にして、推奨模範事例として発信していきました。このやり方は、全社に顧客満足の為にCSドライバー育成の大切さを根付かせ、活動活発化に効果的だったと自負しています。

5-4.顧客クレーム情報の活用例

  もう1つは顧客のクレームです。先程クレーム情報ばかりをフィードバックしていても駄目だということで、良い模範事例を優先して出していったと申し上げましたが、クレーム対応については実際どのような事をやったかということが、最後の説明になります。
  私が当時責任者になった時に、顧客クレーム発生率100PPM未満(納品件数当たり)にしようとの目標を立てました(100ppmとは、1万回納品して1回というレベルです)。結果的には、その当時2年間でクレームが1/10に激減しました。やはりドライバーの意識変革や各種教育、そして「あなた方がリコー事業を支えているのです」という「役割・やり甲斐感」というものを職制通じて、どんどん出していった成果だったと思っています。
①CS経営実績による”競争優位の体質創り”


  クレーム対応に対する対応策を概念図にしました。大多数の会社は、トラブルが出たら誤りに行って、なんとか許してもらう、これで一件落着で良かったということで、社内には注意を喚起する程度で、真の原因に手を打たない、もぐら叩きで終わってしまう。一般的に、大体我々はいつもこの3級レベルです。
  2級レベルとは、お客様が「こんなことがあったら良いのだけれど・・・」と言ったら、「はい」と言って、PDCAを回し、実現対応するレベルを指します。言われて初めて、受け身ではあるが、実現していく実践行動を指します。クレーム内容もしっかり分析し、真の原因を突き止め、再発防止の施策(標準化や教育訓練)を実施して、荷主に結果報告する活動が必要です。私は、せめて2級レベル以上に上がらないといけないと推進していきました。
  1級レベルは、お客様が気付いていない状態で、「お客様、このようなものがありますがどうですか?我社は、例えば物流品質について、この水準を目指します。よろしいでしょうか?!」と言って説明に行けるレベルですね。ここまで来れば、お客様は泣いて喜ぶのです。要は、お客様を大切にする、業界ナンバーワンの企業になるということです。我々は、せめて2級以上にはならなければいけないということを申し上げたいと思います。
②顧客クレーム情報共有化システムのポイント


  我社では当時、お客様クレーム情報が経営幹部にまで上がるのには、時間が掛っていました。レポート中心でした。今では、社内グループウェアのデータベースから飛ぶようになっています。「どこそこのお客様が怒っている」等といった情報が、販売会社の受注センターで入力していただくと、それが経営幹部にまで即飛んでくるのです。皆が、お客様の声をシャワーのように浴びていかなければ、いくら口で言っても顧客満足の体質なんてできないのです。全員がそのような状態に置かれる環境を創らないと駄目だということです。
  先程(旧)ムービング社のことを言いました。毎月7,000枚、こういったこと(クレーム情報)を回収してやっておられるのです。伊勢丹も最近競合する会社を買収・実質救済したということですが、当然のことだと思うのです。お客様を大切にしている会社の業績が良いのは当たり前ですね。
  右側の図(組織のピラミッド)はそういったことがちゃんとトップに伝わった結果、トップが率先垂範して、ちゃんと方針施策を出し、フィードバック掛けているということを意味します。CSは特別のことではなく、当たり前のことを凡事徹底できているかどうか?ということになるのだと思います。
  クレーム情報システムDBでは、再発防止の改善策が3日以内に掲載されないと、警告メールが飛んでくるようになっています。

6.サマリー(ロジスティクス革新において大切なこと)


  最後に申し上げたいことですが、私共OA機器の場合は、エンドユーザーに直接行きますので、消費者物流というのは、ドライバーさんのお届けの仕方次第で、お客様の満足度が随分変わってきてしまいます。最悪の場合、喧嘩して帰ってくることもありました。私は、『製品+ロジスティクス=商品』になり、需要創造のサポート役になると信じています。多摩大学水嶋先生が『価値発現のロジスティクス』と仰っていますが、正にその通りだと思います。当社も存在価値を出せるロジスティクスサービスをやらなければいけないということで、取り組んでいます。
お届けサービス 業界トップを目指して・・・


  私は、『物流はマーケティング』だとよく言ってきました。物流における(マーケティング)4Pとは、最初の2つのPは、プロダクツとプライスです。物流サービスの製品力だと考えます。
  3つ目はプロモーションと言える部分で、インフラが該当します。例えばIT情報システムやWMS、配送のTMS、拠点ネットワークや動態管理Sや代引S等です。最初の2Pと3つ目のP、合計3Pが一般的に言われるビジネスモデルだと思うのです。この部分は、各社にまねをされると、ITの新化やソフトパッケージ化が進展しているため、長期間に亘って、優位性を確保するのは困難になります。
  4番目のPは、プレースメント、又はパーソン(人間)と言われる部分で、実運送をやっている私達には一番泥臭く、且つ真似され難い部分です。長期間に亘って、優位性を築くには、この部分の工夫が最重要になります。私が皆様に申し上げたいのは、この部分です。物流というものは、やはり人間が介在しないとモノが動かないのです。このお届けするドライバー力があるかないかで、そのビジネスモデルの真の優位性が決まってしまうのです。
  昨今、不景気だということで、給料を下げたりしてベテランドライバーが辞めたりして、今は新人のドライバーがものすごく多いのです。20%以上が入れ替わると言われています。このような状態で、どうしてまともな物流サービスが遂行できますでしょうか?表札を見てベル押し、玄関でただ届ければ終わりということ程度でしたら出来ると思いますが、新しい付加価値のある仕事をやろうとしたら、また会話をし、お客様を満足させようとしたら、誰でもできるとは限らないのです。ドライバーをしっかりキープして、やる気にして、教育し、しっかり業務遂行してもらってお客様を喜ばして、それでちゃんと給料も報いてあげないと定着しません。そのようなところを、きちんとやらなければ駄目なのです。
  この資料の真ん中を優先にした議論が多いですが、この部分はパッケージ化などで汎用品化してきていますので、そうすると差別化できるのは右端(プレースメント、又はパーソン)だけなのです。この部分を重要視した施策をやらないと、物流品質や顧客満足は上がらないと思います。
現場力の大切さ


  これは『現場力を鍛える』(東洋経済新報社)という今から2年位前の書籍です。読まれた方もおられると思います。この書籍を読んでつくづく感じたのは、私は戦略による優位性の期間も勿論ありますが、戦略ではない、オペレーションだなと考えたのです。現場のオペレーションが他社よりも優れている会社の方が、やはり長続きすると。戦略はどこも数年の内で追いついてくるのです。現場のオペレーション第一でやっていかなければいけないということです。
CSR見地 現場力+価値創造による物流革新


  この資料は2年半位前に、東京ビッグサイトで国交省と経産省共催のエコプロダクト展で話をしなさいということで出させていただいた内容です。
  これは概念図ですが、左下がSCMに代表される効率性アプローチです。注文品が届く・コストが安い、それは良かったね、というレベルですね。しかし、これからの日本の社会は、これだけでは駄目です。もっと右側に行かなければいけないということを申し上げたいのです。
  それは社会ニーズの変化をしっかりと捉えた、例えば安全や環境や安心・感動ということを与えられる物流サービスに入っていかなければならないということです。効率性は当然として、これからは効果性や高付加価値の分野だということを申し上げたいのです。
  右側に吹き込みで作りましたが、「また、あそこに頼みたい」とか、「お宅でやって下さいよ」と言ってくれるような状態でないと、量が増えないですね。維持することすら、ままならないでしょう。私はこれを「恐れ入りました!お届けサービス」と言いたいのです。これができるようなリコーロジスティクスになろうよということで、社内で檄を飛ばしてきた経緯があります。
  右上には、物流連会長栗林さんが以前北側大臣へ出された要望書というものがあります。「顧客の営業の核心をサポートする真のパートナー・・・・」というくだりがありますが、全くその通りです。真のパートナーになる為に、何をやらなければならないかということです。本日、事例で申し上げているようなことをやっていけば、結果として物流サービスの高度化が実現して、量が減ってくる時代に売上・付加価値が増えて、なんとか生き残っていけるのではないかと考えております。
  今日お話しした中に、皆様方に1つでも何かご参考、ヒントになる部分があれば幸せです。
  長時間ご静聴、どうもありがとうございました。

以上


(C)2009 Masaru Sugata & Sakata Warehouse, Inc.

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