第539号 「物流共同化の過去・現在・未来についての考察」~物流共同化実態調査研究報告書より~(中編)~(2024年9月5日発行)
執筆者 | 浜崎 章洋 (大阪産業大学 経営学部商学科 教授) |
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執筆者略歴 ▼
目次
- 2.物流共同化研究
- 3.物流共同化を阻害する要因
- 4.近年の物流共同化の事例
2.物流共同化研究
2008年に先ほどお話した津久井英喜先生、東京経済大学の中光政先生他が中心となって、『物流共同化実態調査研究報告書』を出されました。この報告書は、作成するために、大体2年ぐらい前から調査を始めています。
私はちょうどこの2005年に、東京に単身赴任していたこともあって、津久井先生にお声がけいただいて、このプロジェクトに一メンバーとして参画させていただきました。物流学会で初めての調査だったので、2008年の報告書が出る以前の、過去数年間の事例をさかのぼって全部調査を行って、このような報告書が出来上がりました。
次に、第2次ということで、2009年から2012年まで、東京経済大学の中先生、そして津久井先生、関西では当時、立命館大学におられた土井先生が、集まって2012年に『物流共同化実態調査研究報告書』を出しました。
これは、事例を集約したもので、実際に物流共同化を行っている企業の個別事例を調査して報告書を書いたり、物流共同化の効果算定をしたり、物流の共同化あるいは共同配送等に関する文献、要望について調査を行ったものです。
これも報告書がでています。このときも私はメンバーとして参画しています。2018年、今から5年程前に報告書を作成しました。このとき事務局は我々が担当し、前回と同様に事例を収集して、実際に物流共同化をされている企業様13社に調査をさせていただいて、報告書を作成しています。物流共同化に関する書籍、論文、業界誌の記事を全部集めて整理し、報告書にとりまとめています。
そして今、正に、2023年度の調査報告書を作成しているところです。実は今日も、行きの新幹線で原稿の最終チェックをしていて、来週早々に入稿し今月末に発刊する予定です。
これ以外に日本物流学会の一つの研究会として、関西共同物流研究会があります。この中では、物流共同化をされている企業の方を講師に招いて、講演会形式で研究会を行っています。2013年から7年間実施してきましたが、その後コロナの影響で開催を中断しています。物流共同化の、実際の事例を発表して講演いただく研究会という趣旨のため、オンラインにそぐわないということで、クローズドで開催しています。現在少し中断していますが、この2023年度の報告書が完成後、再開したいと思っています。
もう一つは、関西共同物流研究会の幹事のメンバーが集まって、関西物流共同化ネットワークという活動を行っていまして、ここで2ヶ月に1回、「物流共同化研究」という機関誌を発刊し、PDFデータをメール配信しています。例えば、新聞、ビジネス誌、ネット記事に出てきた、物流共同化、共同配送、貨客混載等の物流共同化に関するキーワードの記事を集めて、日付順に並べて掲載しています。
大体25ページ位ありますが、2ヶ月に1回発刊しメール配信してます。これを5年分整理したものを、先ほどの日本物流学会が出している、『物流共同化実態調査研究報告書』に入れています。
また、文献整理として、調査対象期間に発刊、発表された物流共同化に関する書籍、論文、雑誌の記事の一覧表を作っています。例えば、本の中の数ページに、物流共同化とか共同配送の記載があれば、全てチェックしていますので、我々は、物流とかロジスティクスに関する書籍は、ほぼすべて目を通していると思っています。
その他に、2012年の報告書では、物流共同化の用語の整理とか、物流共同化の効果算定などを実施しています。共同物流に関するいろいろな事例を5年分ぐらい集めてパターンごとに整理し、例えば共同出資で共同物流を始めているとか、組合を作っている等、そういったパターン毎に整理しています。
今日はその中で、どのような事例があるのかご紹介したいと思います。2012年と2018年発刊分と、現在準備中の2023年の事例を集計してきました。
大体、通常500以上ある記事の中から整理しています。2012年は合計88事例で、2018年は250事例、2023年は531事例ということで、若干の期間の差はありますが、傾向としては、物流共同化に関するニュース、記事が、明らかに増えていることがわかるかと思います。
では、実際にどんなパターンがあるのかというと、例えば荷主企業が、共同出資して共同の物流運営会社を作りますというパターンは今でもあるのですが、そんなに多くはないのです。あるいは、株式会社ではなくて、協同組合とか協議会とかを作って取り組んでいく、これも今でもあるのですが、そんなに多くはないのです。また、流通業の方が一括物流を始めることは、今当たり前になってきたので、特に記事にならないのかもしれません。物流会社さんが主導し、共同化を推進していくというケースは、件数としては多くなってきています。
物流会社さんではないですが、個別の企業が複数集まって共同化に取り組んでいこうというケースは、130件あります。例えば、将来の経営統合とかを含めて、物流共同化を進めていきましょうというケースは、増加傾向にあるのです。
2012年にはなかったのですが、貨客混載、例えば路線バスで宅配の貨物を運ぶとか、ハイウェイバスで産地の名産品を運ぶとか、旅客電車で貨物を運ぶとか、そういった貨客混載というのは、2018年の調査から出てくるようになりました。現在、非常に件数が多い状況です。
今回、この5年間の調査で新たに出てきたことは、製造業とかサービス業の1企業が、物流共同化を始めていくというケースで、合計49件あります。
これはどんなことかというと、イメージで言うとAmazonさんが自分たちで物流網を持っています。うちの物流網を活用してもらっていいですよ、この指止まれ、みたいな感じです。あるいは、全く荷主企業でも何でもない、例えばITベンチャー企業さんが、物流マッチングサービスを始めますとか、共同配送のプラットフォームを作りますから皆さん参加してください、みたいなケースが、案件としてすごく増えています。このような傾向がでてきています。
それと、9番、これも今回の新たな例として出てきたのですが、例えば、経済産業省や都道府県、あるいは、ロジスティクスシステム協会が、物流共同化の取り組みについて賞を出しますよとか、補助金を出します、という事例は、今回件数が非常に増えています。この9番については、いきなり出てきたのではなくて、既に実施されていたもので、以前はこの1から8のどこかに入っていたものと思います。
物流共同化に関する、報道の記事として、今回非常に件数が多かったので、新たに(パターンを作成して)取り上げている次第です。実際に、本、論文とか雑誌の記事とか、どうなのかと言うと、物流共同化というタイトルではなくて、物流とかロジスティクス、サプライチェーンに関連する書籍の中で、例えば、文章中の章や節に、物流共同化とか共同配送とか、貨客混載とかが入っている、もしくは、サブタイトルで入ってたりする、そういったものを全てでチェックして集計しています。
書籍でいうと、2012年だと25冊、2018年では40冊、2023年だと41冊位あります。ということで、10年前に比べるとやはり、物流共同化に関連する書籍も増えているということがわかると思います。
論文に関しては、倍以上に増えています。逆に言うと、10年前ぐらいは、物流共同化に関するテーマがあまりなかったということが言えるかと思います。
新聞とか雑誌に関する記事については、10年ぐらい前から、一定の頻度で物流共同化に関する記事が、出ているということが、これを見てわかるかと思います。
3.物流共同化を阻害する要因
では、共同配送や物流共同化を阻害する要因として、どんなことが挙げられるのかということですが、荷主企業の方がよく言われるのは、「競合他社に納品の価格、出荷数がわかってしまうからあまりやりたくない」とか、「共同配送するのはよいが、自社商品の納品条件や、出荷時間優先してもらえるのか」とか、営業販売部門からは、「熾烈な販売競争をしているのに、ライバル企業と一緒に商品を運ぶのは困難」、といったようなことが反対意見として出てきます。実は、これは全部対応できるわけなのです。
一番目の納品価格とか納品数量がわかってしまいますよというのは、実際に、委託されている物流会社、運送会社と秘密保持契約を締結すれば解決する話なのです。
二番目の自社の納品条件とか出荷時間を優先できるのか、ということなのですが、こんな事を言ってる場合じゃないのです、今のままでは運べなくなるのです。近い将来納品できなくなる(リスクが有る)のですから、こんな事を言ってる場合ではないのです。
三番目の熾烈な競争をしているのに、他社製品と一緒に商品を運ぶのは困難、ということなのですが、こういった感情論とか、精神論は、実は対策が難しいのです。だから、どうすればいいのか、これについては一旦置いておきます。
最後にもう一つ、観念的なものや感情的なものではなくて、共同化を阻害する要因の一つに、標準化とか、情報システムとか、運用といったところも大きいと思います。実際の運用ルールとか、荷姿とか伝票とか外装表示とか、こういったところを、実務面で統一化できていないと、物流共同化は難しいと思っています。
私は、企業の方に誘われて、ヨーロッパとか、アメリカ、中国、インドの、物流視察に行くことがあります。コロナ禍になる前は、毎年、ヨーロッパへ行っていたのですが、ヨーロッパでは、物流の標準化が非常に進んでいる、ということを少しお話ししたいと思います。
こちらは、皆さんよく見るプラスチックコンテナです。スーパーのバックヤードとかで、よく見るものです。これは、ヨーロッパの小売業さんの物流センターの見学に行ったときに、見せていただいたのですが、プラスチックコンテナの種類は、全部で3パターンしかないのです。
これは、縦と横がすべて同じサイズなのですが、底が深いものと浅いもの、それと中くらいのものの計3種類だけなのです。例えば、野菜の中でも、大きい白菜とかスイカとかでしたら、底が深いもの、胡瓜とか人参とかは底が浅いもの、レタスだとこの中間ぐらいのもの、こんなふうに使い分けていますが、高さが違うだけで、底面の大きさが同じサイズなのです。これは、標準化されているということなのです。
一方、日本のスーパーのバックヤードへいくと、プラスチックコンテナは、こんなにたくさんの種類があります。これは皆さん価値がありますか? うどんを納品するトレーで、豆腐が納品されますと、皆さん怒りますか?、誰も怒らないでしょう。そもそも、我々消費者は、どのトレーで納品されるのかわかりません。これらは、店舗からすると、個別に管理しないといけないのです。例えば、豆腐の納品業者さん用のトレーはここに置いて、牛乳の納品のトレーはここに置いて、等のように、個別にコンテナ/トレーを管理しないといけないので、大変手間がかかります。どちらが効率がいいですか、ということなのです。
こういった標準化が遅れていると、物流の共同化が阻害されるのではないかと思っています。例えば、ヨーロッパで活用されているユーロパレットW800☓D1200mmを、イギリス、フランス、ドイツ、スペイン、イタリア、トルコ、ポーランドでは、みなさん使用しています。
ユーロパレットにはコンテナが、縦方向に2個、横方向に2個並ぶので、このプラスチックコンテナの底面サイズは、W400☓D600mm で、ユーロパレットにぴったりのサイズに収まっています。さらにそれを載せているカーゴ台車ですが、底面サイズは実はユーロパレットのサイズの丁度半分なのです。
このため、トラックの荷台にユーロパレットを一貫パレチゼーションで乗せて、かつ、カーゴ台車を2台乗せたら、ぴったり荷台に収まるということです。もっと言うと、このパレットの大きさはどこから来ているのというと、トラックの荷台の大きさからパレットの大きさが決まって、パレットの大きさから外装箱(コンテナ)の大きさが決まっています。
このようにして輸送包装寸法を定めることを、包装モジュール化といい、このように包装の標準化を進めていきます。これについては、後で事例を詳しく説明したいと思います。
4.近年の物流共同化の事例
次に、ここ10年程前から、館内物流というサービスが出てきました。大型の商業ビルとかオフィスビルでは、それぞれ個別に委託された物流会社、宅配会社がビル内のテナントへ直接納品するのではなくて、その建物の中の、例えば地下3階の共同納品センターに納品して、その後の「縦持ち」(建物内の上下の移動)は、その館内物流を請け負っている物流会社が行い、まとめて納品する、こういった縦の共同配送も増えています。
これは、新しいオフィスビルや商業ビルでは、、大体そういった仕組みを導入しています。これによって、納品のトラック台数が減り、荷捌きの駐車場のスペースが削減でき、さらに交通渋滞も減ります、ということで、こういった館内物流サービスの導入が増えてきているのです。
この10年位で共同物流関連で、特に記事が多いのが「貨客混載」です。路線バスに宅配会社さんが、拠点間輸送の貨物を載せるということで、特に過疎化が進んでいる地域での取り組みが増えています。
例えば、ヤマト運輸、佐川急便の現地の営業所まで行くのに、片道1時間位かかるから、そこを通っている路線バスに、運送会社の現地の営業所まで運んでもらって、そこから、山間部にある納品先へ、宅配便のドライバーが配達するようなケースが非常に増えています。これは、宅配業者にすると、片道1時間の、しかも物量の少ない荷物を、現地の営業所まで運ばなくて済むのと、路線バスの会社にとっては、この宅配便の貨物を運ぶことによって、新たな収益源となって、路線バスの維持に役立つということで、非常に件数が増えています。なお、ヤマト運輸では、「貨客混載」を「客貨混載」と呼んで取組を拡大していますが、記事を検索するとたくさん出てきます。
路線バス以外でも、鉄道を利用したものや、タクシーを利用したものがあったりとか、宅配の貨物だけではなくて、東北、北陸とか、九州の南部とかから都心部に向けて高速バス、いわゆるハイウェイバスで、産地のものを輸送するという事例もあります。例えば、都心の百貨店の店舗で、東北で採れた朝採りの農産物を、ハイウェイバスで持ってきて、その日のお昼から販売するようなことも増えています。
以上のような形で、この「過客混載」は、今、宅配貨物だけではなく、いろいろな面での取組みが非常に増えています。
では、コンテナラウンドユースを、皆さんご存知でしょうか。輸入貨物を海上コンテナで内陸部まで持っていき、貨物を降ろした後に、空のコンテナをまた港まで持って行く輸送費が勿体ないから、この空コンテナを、今度輸出される企業さんのところへ、そのまま横持ちして、そこで輸出貨物を積み込んで港まで持っていく、そうすると空コンテナの港までの往復輸送がなくなります、という取組みです。このコンテナラウンドユースは、非常に増えてきています。後
あるいは、中継輸送と言われるもので、大阪から東京へ行く貨物と、東京から大阪行く貨物があって、それぞれの車で運んで帰ってくると、ドライバーさんは1泊2日かかりますが、途中の静岡で待ち合わせをして、トラックを乗り換えて元の出発地へ戻る、そうすることにより日帰りで帰れるようになります、という形の中継輸送の事例がニュースで放送され、非常に増えてきている、ということをお伝えしたいと思います。
※後編(次号)へつづく
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