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物流システム

第491号 物流標準化にGS1識別コードの活用を(2022年9月8日発行)

執筆者 分部 佳奈
(GS1 Japan ソリューション第1部 グロサリー業界グループ 研究員)

 執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 2019年 GS1 Japan(一般財団法人 流通システム開発センター)に入所。
      以来、グロサリー業界を中心とし、GS1標準の普及推進を担当。

 

目次

1.はじめに

1.1.物流業界の現状
  日本では物流の危機が叫ばれ始めて久しい。その大きな原因の一つが人手不足である。特に、トラックドライバー不足についてはその状況が顕著であり、ピーク時よりも従事者が約21万人減少し、有効求人倍率が全職種と比べておよそ2倍となっている(*1)。最近ではEコマースの利用拡大に伴うラストワンマイル配送の増加や、コロナ禍・自然災害などの予測できない事態による影響も物流現場の負担をより大きなものとしている。さらに、2024年4月からは自動車運転業務における時間外労働の上限規制の適用により、ドライバーの時間外労働が960時間に制限される(いわゆる「物流の2024年問題」)。その一方、物流現場は「書面手続や対人・対面に拠るプロセスが多いなど非効率な部分も多く」(*2)、現在のオペレーションではこれまで通りにモノを運ぶことさえ危機的な状況である。まさに、物流業界全体での大きな転換期が差し迫っているといえよう。
  このような状況の中、昨年6月に2021年度~2025年度の総合物流施策大綱が発表された。大綱では、物流業界が今後目指すべき方向性を下記3点としている。
1.物流DXや物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化(「簡素で滑らかな物流」の実現)
2.労働力不足対策と物流構造改革の推進(「担い手にやさしい物流」の実現)
3.強靱で持続可能な物流ネットワークの構築(「強くてしなやかな物流」の実現)

1.2. 物流標準化とGS1標準
  総合物流施策大綱1点目の方向性で述べられている物流標準化にはいくつかの要素がある。例えば、パレットや外装サイズが標準化されると、物流倉庫へのロボット導入や、より簡潔なトラックの積み込み方法を検討することができる。また、伝票や配送コードの標準化が進むことにより、配送業務の効率化、作業の汎用化・簡素化が可能となる。さらには、商品の分野をまたいだ共同配送など物流全体の効率化にも活用することができる。これらの標準化においては自社や一部の取引先だけの独自ルールではなく、物流業界全体で共通したコードやデータ形式を用いることが重要である。
  国際的なサプライチェーンで最も広く活用されているGS1標準は、物流標準化においても活用できる要素が多く、官民の垣根を超えてその検討が進んでおり、総合物流施策大綱においても、物流標準化の推進にGS1標準を踏まえた取り組みを行うことが言及された。

2.物流標準化に使えるGS1識別コード

2.1.GS1識別コード
  GS1標準には大きく分けて3つの要素がある。①識別コード②データキャリア③情報の共有方法である。つまり、①共通の識別コード②標準のデータキャリア(バーコード)で表示し、③業界全体(もしくは業界の垣根を超えた)共有方法を用いることにより、国際的なサプライチェーンの効率化を達成するという訳である。
  そのうち、最も基礎となるGS1識別コードはサプライチェーン上の様々な対象に付けるコードのことであり、商品やサービスに設定するコードであるGTIN(ジーティン)が最も広く使われている。GS1識別コードは各事業者に貸与されたGS1事業者コードを使い、各社がその対象をユニークに識別するために設定するため、国内外を問わず、コードの重複がない。また、設定方法や運用ルールが決められているので、企業間の事前調整が不必要である。(図1


図1 GS1識別コード
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  現在、12種のGS1識別コードが定義されているが、本稿では特に物流分野で活用できるGS1識別コードについて、その概要と活用方法や事例について紹介する。(下記の各識別コード体系図は全てGS1事業者コードが9桁の場合の設定例である。また、C/Dはチェックデジットの意味である。)

GLN(ジーエルエヌ)(企業・事業所識別コード)
  GLNはGlobal Location Numberの略称で、国内および国際的な企業間取引において、組織や場所を世界的に唯一に識別できるコードである。GS1事業者コード+ロケーションコード+チェックデジットの全13桁で構成される(図2)。


図2 GLNのコード体系
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  GLNの設定対象は、①法人(企業、団体等)、②事業部門(経理部等)、③物理的な場所(事業所、工場、物流拠点、店舗等)、④電子的な場所(システムのアクセスポイント等)の4つの区分がある。それぞれの区分ごとに、異なるロケーションコードを設定することが推奨されている。1つのGLNを異なる複数の区分(①法人と③物理的な場所(法人の住所)等)に設定し利用することもできるが、管理が煩雑になる可能性がある。
  すでに、流通BMSなどの標準EDIでは広く活用が進んでおり、また、現在、物流業界においても場所の識別にGLNを活用すべきとの検討が進んでいる。

SSCC(エスエスシーシー)(輸送・梱包シリアル番号)
  SSCC(Serial Shipping Container Code)は、物流・出荷などの輸送用梱包単位の識別コードで、個々の物流梱包(パレット単位等)を識別する。SSCCは、頭1桁の拡張子、GS1事業者コード、シリアル番号、チェックデジットの計18桁で構成される(図3)。欧米を中心に広く利用されており、日本でも、一部企業でその活用が始まっている。また、近年では輸出する際の梱包単位に海外の取引先からSSCCの設定を求められることもある。


図3 SSCCのコード体系
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  物流梱包単位などにSSCCをバーコード表示(*3)し、SSCCをキーとする事前出荷データを納入先に送信する。納入先では、受領した梱包のラベルに表示されているSSCCを読み取り、突合したASN(*4)データを消し込むことで、検品作業が完了する。検品のために梱包を解く必要が無いため、トラックの待機時間や検品作業時間の大幅な短縮が期待できる(図4)。


図4 SSCCによる検品作業効率化イメージ
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GRAI(ジーアールエーアイ)(リターナブル資産識別番号)
  GRAIは、カゴ台車や折り畳みコンテナなどの、企業間で繰り返し利用する資産を管理するための識別コードであり、リーディング・ゼロ、GS1事業者コード、資産タイプコード、チェックデジットの数字14桁で構成される。資産タイプコードは、同じサイズや種類の資産ごとに事業者が任意に設定する。例えば、パレットとカゴ台車、またカゴ台車でもサイズや種類ごとに別々の資産タイプコードを設定する。なお、チェックデジットの後ろにシリアル番号を設定することにより、個別の管理も可能である。その場合、シリアル番号は最大16桁で表示する。(図5
  国内の物流資材管理にGRAIを活用している企業では、物流資材の個別管理が実現し、資材の在庫管理業務の負荷低減、各物流拠点における資材の滞留状況や移動履歴の把握など管理精度の向上、追加購入コスト削減などの効果が上がっている。


図5 GRAIのコード体系
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GIAI(ジーアイエーアイ)(資産管理識別番号)
  GIAI(Global Individual Asset Identifier)は企業や組織の資産を個品単位で管理するための識別番号で、物流分野では車両やコンテナなどの識別に利用できる。GIAIは可変長のコードで、GS1事業者コードと資産番号を組み合わせて、最大30桁まで表すことができる。GRAIとは異なり、資産番号はタイプやサイズごとではなく、個品ごとに設定する。


図 6 GIAIのコード体系
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GTIN(商品識別コード)
  もちろん、商品識別コードであるGTIN(Global Trade Item Number)も物流効率化の重要なキーである。「どの商品」を輸送するかをグローバルで識別する際にはGTINの設定が不可欠である。GTINは商品識別コードの総称であり、GTIN-13(JANコード)や、GTIN-14(集合用包装商品コード)はその一部である。その他、小さな商品に表示する際に設定されるGTIN-8(JANコード短縮型)や、北米で広く活用されているGTIN-12(U.P.C.)もある。


図 7 GTINのコード体系
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2.2.GS1識別コードの活用例
  GS1識別コードを活用した物流効率化のイメージを図8に表す
  まず、荷物の発着地はGLNで識別する。住所以上の詳細な場所(倉庫の番号や棚位置)などもGLNで区別することにより、より明確な場所の特定が可能となる。GTINが設定されている商品を梱包した物流単位にはSSCCを設定。ASNでGTINやロット番号、製造日・期限情報などの情報をSSCCと紐づけて事前送付することにより、検品レスやドライバーの待ち時間短縮を実現する。利用が終わった物流資材(折り畳みコンテナやパレット)の返却時には、GRAIを確認することにより、どの物流資材がどれだけ返却されたかを確実・効率的に管理することが出来る。


図8 GS1識別コードを活用した物流効率化イメージ
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3.おわりに

  2022年3月10月には経済産業省と国土交通省が「フィジカルインターネット実現会議」を立ち上げ、フィジカルインターネット実現に向けたロードマップ(*5)を作成した。フィジカルインターネットとは、物流を効率化するために「インターネットでデータが運ばれる際と同様に、貨物を運ぶ際にもハブでつながれた共通の経路を通り、動的なルーティングを行って標準化された輸送・梱包単位を効率よく運ぶ自律型の物流」という考え方である。このフィジカルインターネットの考え方においても、やはり企業間の標準化が重要視され、実現するにはまず基盤となるルール作りが必要である。
  GS1 Japanではこういった動きの中でもGS1標準を役立てていただけるよう、企業や産業界と積極的な情報交換を行い、より具体的な方法について検討していく。物流標準化や効率化に取り組む企業におかれては、GS1識別コードの活用をぜひご検討いただきたい。
参考URL:https://www.gs1jp.org/standard/industry/logistics/

以上


  

  • (*1)引用:「物流標準化と物流現場の現状https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001410731.pdf
  • (*2)引用:「総合物流施策大綱」https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/butsuryu03100.html
  • (*3)SSCCをバーコード表示する際には、GS1-128シンボルの利用が推奨されている。
  • (*4)Advanced Shipping Noticeの略で事前出荷情報の意。EDIなどで商品発送前に商品情報などを送信する仕組み。
  • (*5)https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/physical_internet/pdf/20220308_1.pdf



(C)2022 Kana Wakebe & Sakata Warehouse, Inc.

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