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物流システム

第146号物流施設のライフサイクルと維持保全(2008年4月22日発行)

執筆者 久保 章
久保総合技術研究所
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1947年2月生まれ
    • 1971年3月 早稲田大学大学院 理工学研究科建設工学専攻 修士
    • 1971年4月 株式会社 大林組入社 東京本社建築本部設計部 構造担当 配属
    • 1994年3月 本店エンジニアリング部 物流担当 異動
    • 2007年2月 株式会社 大林組 定年退職
    • 2007年3月 久保総合技術研究所(建築設計、耐震診断、物流システム) 創設
    所属
    • 日本建築学会、日本物流学会、日本建築構造技術者協会、物流技術管理士会
    資格
    • 一級建築士、建築構造士、物流技術管理士、監理技術者、構造計算適合性判定員
    表彰
    • 2005年1月 社団法人 日本プロジェクト産業協議会「フラッグシッププロジェクト提案公募」受賞
      共同提案(輸送ネットワークシステムin東アジアフリーマーケットプラザ)

目次

1.はじめに

  食品賞味期限改ざん、製造日偽装、産地偽装、冷凍餃子中毒事件等で「食の安全・安心」というキーワードは頻繁にマスコミに登場し、国民の関心の高さと共に、国により概ね高いレベルで守られていることを実感できる。一方「建物の安全・安心」に関しては、「安全な建物」は建築基準法・施行令・消防法等で守られているが、「安心な建物」については、法令では守ることをしておらず、「食の安全・安心」と比較して大きな開きがある。
  建物の「安全」と「安心」は、似て非なるものであるが、その違いを認識している国民は少ない。
  「安全な建物」とは建築基準法等で守っている主として耐震性能のことで、大地震時には崩壊せず、人命を倒壊や階の破壊による圧迫死から守るというものです。法令が守る耐震性能では、建物の損壊が酷く補修するよりは、建て直しの方が廉価である場合もあり、資産価値を守ることにはなっていない。つまり「安全な建物」の「安全」とは、生命だけを守ると言う意味での「安全」です。
  一方、「安心な建物」とは大地震でも損傷が殆どなく、資産を守ることができる性能です。免震建物、制震建物及び安全率(余裕率)を大きくする建物が、この性能にあたります。つまり、生命だけでなく資産までも守るため、地震直後も概ね「安心して生活できる」と言う意味の「安心」です。但し、ライフラインがストップするため、数日間は不便な生活をすることにはなります。
  分かり易くたとえれば、マンション購入希望者に対して、「生命を守る耐震性能は保証しているが、資産価値を守るほどの性能は保証していない。それゆえマンションの耐震性能は自己責任のもとで購入してください」と伝えるなら、間取り、内装、設備だけでなく建物の性能に対しても関心をもち、マンション販売員に耐震性能を問うことになる。
これは、建築主や設計現場においてよく言われる「経済設計(ローコスト設計)するように」という言葉が、「安心できるマンションを造るように」と変わることを意味する。
ところで経済設計とは、現行基準に対してギリギリの設計をすることです。余裕率はほぼ零に近い。一方、地震が発生し被害が大きければ、1~2年後に構造基準が改正になります。つまり現行基準を守っていても安全とはいえないことを意味する。

2.ライフサイクル

  物流施設等の建築物またはその部分の企画、設計から、それを建設し運用した後、除去するに至るまでの期間をライフサイクルという。 表-1 にライフサイクルの段階毎の項目を示す。
  近年、超寿命建築や200年住宅(長期優良住宅)を建設しようと言われだして来た。これは地球環境という切迫した問題と建物を大事に使うという精神的な面からです。これまではスクラップ・アンド・ビルド方式といわれ、物流施設・ビル等の建物は30~40年で建替えられてきた。長期間使い続けることができるのは躯体だけで、設備・仕上げ・物流機器はもっと短い。物理的・機能的・社会的劣化により、建物の供用期間を決めている。
  今後は、数回の大規模修繕・改修があることを前提としなければならない。今までと違い、建物を建てる前から将来の大規模修繕・改修に対応できるように、フレキシビリティについて配慮することが必要である。それだけでなく、日常のメンテナンスや企画・設計段階から維持保全を考えることも重要である。
  施設は、経年と共に劣化が進行する。その劣化の項目を 表-2 に示す。
  物理的劣化の中で、経年劣化(自然・人為的)による損耗、特に建築材料であるコンクリートのひび割れ、鉄筋の発錆、材料の欠損等の発生やそれらに起因する防水性能、防錆性能、物流機器の作動能力低下等の性能劣化が特に多い。また機能的劣化としては、法令の改正、生活水準・要求水準の向上により陳腐化する。社会的な周辺環境の変化等を起因とする劣化も発生している。

3.ライフサイクルコスト(LCC)について

  物流施設のLCC(Life Cycle Cost)は、施設の生涯に必要なすべての費用(企画設計費、建設費、運用管理費及び解体再利用費)を指す。このうち運用管理(保全、修繕、改善、更新、運用、一般管理)に係わる費用が、初期建設費に比べて圧倒的に大きく、管理方法や状況によるが、40年程度の施設では初期投資額がLCCの1/4程度であり、3/4は運用費が占める。
  初期投資額は、氷山の一角であり、100年建物では、建設費は全体のわずか14%程度であり、今後施設の寿命が延びれば延びるほど、維持保全の重要性は増すといえる。
  一般的に初期投資に意識がいきがちで、経営の判断も初期投資の費用で判断しがちであるが、施設の生涯を通じた運用費を含めたLCCを検討しなければ、本当の経営を判断したことにはならない。
  LCCは、施設所有者の意思決定の手法として極めて有益であるが、万能の手法でない点に留意する必要がある。LCC計算には、各部材や機器等の修繕周期、修繕費用、物価上昇率などの適切なデータが必要であり、各部材や機器の耐用性の表示とその保障の仕方などが前提として必要である。
  一方、課題としては物価変動や技術進歩の激しい時代では、将来予測が困難であり、施設に要求される機能などの全てが、金銭に換算できないことである。
  物流施設では、初期建設費を低く抑えるため、法規ギリギリの経済設計を行っている例が多く、竣工後1年程度で、よく床にひび割れが発生しているのを見かける。

4.品質管理

  姉歯元一級建築士の耐震強度偽装事件発覚後、姉歯だけでなく、既存分譲マンションの無作為抽出調査により更に多くの一級建築士が、強度偽装を行っていることが発覚した。
  一方、偽装ではないが構造計算ミスや構造関係技術基準解説書を都合のよいように解釈し、鉄筋や鉄骨等の構造躯体数量を減らして、安全性の低い建物を設計していた。ビルや物流施設の偽装等の報告がないのは、建築主事等による抽出調査や第三者による検証をしていないだけである。
  偽造が発覚した建物の元請け設計者は、これまでは中小の設計事務所だった。それが大手の設計事務所でも行われていたことが発覚した。一方、品質管理についてもミスが見つかった。例えば大手ゼネコンが配筋ミスをし、大手設計事務所の工事監理者が、きちんと品質管理(工事監理)していなかったためミスの発見が遅れ、後日、住宅性能保障機関の検査で見つかった。更に設計・施工をしていたスーパーゼネコンでも、鉄筋強度不足が発覚した。このように日本を代表する会社でも、品質管理ミスが起こった。
  更に、組織ぐるみの不正や偽装も発見された。エレベーターの鋼材に強度の低い鋼材を使用し、建築基準法の強度を満たしていなかった。受注優先主義がはびこり、建材の耐火性能偽装で大臣認定を取得し、建材販売していた。
  最近では、信じたくないような不正が発見されている。エレベーターや建材を生産している一社だけの不正なら、まだ分からないではないが、その業界の大部分が不正していることが問題である。企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility略してCSR)の欠如であり、利益優先のため、品質管理が充分に行われていないし、企業内の不正防止機能も欠如していた。
  基準や規格は、企業に社会的に成熟した人格を求めており、「公平性」、「透明性」、「社会的責任」を求めているにもかかわらず、今の日本の状況は、モノを造る人達から良心が失われ、サービスをする人達から安全意識が失われ、経営者や担当部門の責任者からは自分自身を律する倫理観が失われている。

5.違法建築物と既存不適格建築物

  違法建築物とは、検査済証を交付された時点では適法であるが、その後、改修や用途変更して不適法な状態になることがある。よく見かけるのは施設改築の確認申請なしで、倉庫の中に居室を設置したり、メザニン設置や荷捌き場に屋根をかける場合である。
  既存不適格建築物とは、建築確認申請時の建築基準法又はこれに基づく法令や条例の規定などに適合した建物でも、その後に法令が改正されると、その建物の全体又は一部が、新しい基準に適合しなくなる場合がある。このような建物をいう。耐震強度偽装と不適切な設計防止のために、構造基準改正を中心に施行された2007年6月20日改正建築基準法により、またしても多量の耐震基準不適格建築物が出来上がってしまった。
  近づく巨大地震に備えて旧耐震設計建物(1981年5月以前建築確認済み)の耐震補強を進めなければならないときに、新耐震設計建物(1981年6月以降建築確認申請受付)の物件までもが加わってしまった。特に増築を希望される物流施設では、新耐震建物であっても補強が必要な場合があり、このような増築計画に対応するための取り扱いが、今後の課題になった。

6.維持保全の必要性

   表-1 に示したライフサイクルの中で、重要な項目として運用管理段階の維持保全がある。維持保全は、施設の機能を維持しつつ、これを長持ちさせるために施設に働きかける行為の総称であり、持続的かつ長期的な行為である。
  物流施設等の建物の特性は、費用が高額であり、容積が大きく、供用期間が長く、利用者が多数で、要求される機能や性能が高く、多量の資源やエネルギー消費し、更に社会資産の一部でもある。
  そのため、 表-2 に示した物理的、機能的、社会的劣化による影響は他の一般的な製品や商品よりはるかに大きく、施設の維持保全の必要性は高く、地球環境保護にも繋がるものである。
  施設が大規模になり、複雑になると、安全性の確保が極めて重要になる。そのため、適切な平面計画や防災や避難のための設備の設置だけでなく、非常時に適切に作動させるため、完成後の防災機器の定期的な点検や操作等も必須である。安全性、衛生性の確保のための維持保全については、各種の法律で資格者の関与や定期的な点検、検査・調査報告等を定めている。
  空調、衛生、電気、搬送その他の設備等は、施設の快適かつ衛生的な環境や機能性の確保に不可欠であるが、日常の維持保全なしには機能しない。また屋根や外壁についても、漏水の防止という観点から定期的な点検や補修が必要であり、施設の内外装の清掃も部材の保護や快適性、美観の確保のためにも必要である。
  一方、社会の変化や技術の革新に伴い、施設の有する機能性や性能が、社会の要求する水準より劣ってくることはやむを得ないが、施設は活用されてこそ、資産として価値や投資費用の合理化が図られる。したがって、現実の施設の用途なり、機能や性能は常に利用される目的に対して最適であるように、特にロジスティクスは日々進化しており見直しが要求される。

7.リスクマネジメント

  リスクには、自然被害、人為的な被害及び作業時の事故等がある。わが国は諸外国に比べて自然災害である台風、集中豪雨、地震、豪雪の被害が多いが、人為的な被害である火災、爆発、テロ、暴動、広域停電等は少ない。
  企業における生産拠点、物流拠点及び取引先等の集約が進んでいるが、効率化によるコスト削減をもたらす一方、その拠点や取引先に障害が発生した場合に、代替拠点や取引先の手配を困難にし、基幹事業の停止に直結する確率が格段に増加している。特に地震・火災等の災害時に、重要業務が中断しないこと、また、万一事業活動が中断した場合でも、目標復旧時間内に重要な機能を再開させ、業務中断に伴う顧客の競合他社への流出や企業評価の低下等のリスクを最低限に抑えるために、平常時から事業継続について戦略的に準備しておくことが必要である。
  事業継続性(Business Continuity Plan)のことを略してBCPという。自社の業務が、災害等により深刻なダメージを受けるという前提で計画を立案し、自社のコア事業を再確認し、継続方法を考え、ボトルネックの解消に向けて事前対策を実施すること等がボイントとなる。
  リスクは災害だけでなく、日々の作業時や身近なところでも発生する可能性があり個人・企業それぞれの立場において、リスクがあってはならないという認識ではなくて、リスクの存在を認識し、その大きさを事前評価し、最小化する予防システムや万一を想定した行動規範を作っておくことが重要である。
  このリスクに対する対応はリスクマネジメントと言われ、リスクの低減等を目的に工夫、展開されている。それぞれのリスクの低減を目指してロジスティクス企業は配慮しなければならない。
  維持保全コストでは、経常的に支出されるコストは予測しやすいが、事故や災害によるリスクコストは予測が難しい。このような予測困難なリスクコストをなるべく小さくし、また、毎年の変化も小さくして適正管理を行うことが、リスクマネジメントの目的であり、リスクマネジメントの本質は未然防止にある。
  維持保全とリスクマネジメントは密接な関係にあり、施設内で起こる設備機械や電気系統故障、屋上防水不備等のリスクは、大部分が予防保全をベースとした日常の維持管理でリスクを低減することが出来る。また数年毎に定期的に実施される施設の診断等により、給排水設備の劣化による漏水等の事故も予防することが出来る。
  リスクマネジメントと維持保全管理とをきっちりと行うことにより、施設を快適な状態で長期間活用でき、物流コストの低減にも寄与することになる。

表-1 物流施設のライフサイクル及びコスト項目による分類


段   階 費用項目 概   要
企画設計 企画・調査 建設企画 企画調査、都市計画、規模計画、予算計画、資金調達計画、物流システム、建物のコンセプト、ライフサイクル計画、マネジメント計画
現地調査 用地選定、測量、地盤調査、自然環境調査(測定)、電波障害調査(測定)
用地取得 土地鑑定、用地取得、諸手続
基本計画 現状把握・予測 現状物量調査・分析、将来物量予測
基本計画 物流システム、物流情報システム、建物の基本計画、概算コスト算出
環境管理 環境アセスメント、近隣住民対策
設計 設計 物流システム等基本設計、模型製作、実施設計、設計外注業務、申請手続き
設計支援 技術研究、実験
効果・分析 省エネルギー計画、LCC計画
建設 見積・工事契約 工事契約 業者選定、入札図書作成、現地説明、入札・契約
施工 建設工事 地業工事、建築工事、電気設備工事、設備機器工事、物流機器工事、特殊工事、補修工事
工事管理 工事現場管理、工程管理、物流機器材料・性能等検査、各種検査記録
設計監理 各種検査立会、書類検査、設計監理
環境管理 防災対策、環境対策
施工検査 中間検査、竣工検査、引渡し検査、物流機器等試運転
建設支援 免震装置等採用技術支援、サイト実験
運用管理 運営・財産管理 一般管理 公租公課、保険料、減価償却、運用計画、試運転教育、テナント交渉、費用徴収、業務外注事務、業務外注検査、不動産管理の経済性
運用支援 財産台帳事務、最新・最先端技術導入検討
維持・保全 運転・点検・保守・予防 物流機器、建築設備の運転、法令点検、点検保守、清掃、保安計画、契約、経常的修繕、植栽管理
修繕・改修 修繕・更新 物流機器等の交換、修繕、更新の計画、調査、設計、契約、施工、管理
改修・改造 物流システム等の改修、改造、改築、改装、模様替えの計画、調査、設計、リスク管理、契約、施工、管理
除去 解体 解体 解体工事、仮設工事、解体工事管理・検査
環境対策 防災対策、環境対策
処分 リサイクル 物流機器、設備機器及び建設資材のリユース、リサイクル計画、売買交渉
廃棄 処分先選定、埋立や焼却処分

表-2 物流施設の劣化項目による分類


劣化 項  目 内   容
物理的 自然的損耗 雨、風、雪、湿気、温度、寒冷(凍害)、海水(塩害)、蟻害等による損耗
人為的・材料特性による損耗 人的歩行・接触、フォークリフト、トラック、積載荷重、物流・設備機器運転、建築材料特性等による損耗
自然・人為的被害(事故)による損耗 台風、地震、落雷、火災、爆発、テロ等による損耗
設計不備による損耗 不同沈下、傾斜、浮上り、地下漏水等による損耗
二次的な物理的損耗 修繕工事・改善工事による無理な改造、隣接建物の工事により影響を受けて起こる損耗
機能的 法令改正による陳腐化 法令等が改正され陳腐化
物流・設備システムの陳腐化 システムが改善・開発されたことにより陳腐化
建物内外装材の陳腐化 性能のよい内外装材に改良されたことによる陳腐化
積載荷重の不足 取扱アイテム変更、荷姿寸法・荷重が増大し最大荷重を超えたため効率悪化
設備容量・能力の不足 コンベヤ等スピードアップ、過容量のため改修
天井高の不足 想定荷姿をオーバーし効率が悪化
社会的 都市計画の変更 再開発地域指定されたことによる土地利用規制の変更
都市環境の変化 交通渋滞の発生、周辺から発生する騒音・振動の変化、水環境・大気の質の悪化
地価の上昇 採算性の悪化、土地利用効率の変化
事務執務面積・居住面積・駐車面積の不足 用途変更、規模変更

以上



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