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物流システム

第299号 流通・物流での電子タグ活用上の課題とGS1識別コード(2014年9月4日発行)

執筆者 浅野 耕児
(一般財団法人 流通システム開発センター 国際部上級研究員)

 執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1991年より凸版印刷株式会社勤務。印刷業務システム、ITシステムのSE・企画開発業務に従事。
    • 2006年より財団法人流通システム開発センターに出向し、電子タグの標準化活動に従事。
    • 2012年より一般財団法人流通システム開発センターに勤務。以来、電子タグを始めとして自動認識関連の標準化、普及活動に従事。

 

目次

◆はじめに

  ここ数年、流通・物流業界において業務効率化に向けたUHF帯電子タグ導入の動きが顕著になってきている。これまでは投資対効果がみえないといった理由から導入が進まなかったが、先進的な導入事例では導入コストを上回る効果が報告されており、ここにきて一気に電子タグ導入が広まる気配もある。
  UHF帯電子タグの大きな特徴である「離れたところから複数タグを一括して読める」機能を活用することで大幅な業務効率化が期待されているが、一方で、今後導入が広まるほどにUHF帯電子タグが持つ特徴が引き起こす問題も視野に入れておかなければならない。ところが、導入に向けた動きがやや過熱気味なためか、どのような問題が起こるのか、その対処方法などは議論されていないのではないか。
  今後、流通・物流業界に携わる全ての企業・関係者がUHF帯電子タグを業務効率化のためのツールとして有効に活用できるよう、ここでは再度、UHF帯電子タグの特徴とそれが引き起こす問題を振り返り、その対処策として「標準識別コード」が重要になることを解説したい。

◆UHF帯電子タグの特徴

  UHF帯電子タグの大きな特徴は、以下の3つである。
・離れたところからタグを読める。
・複数のタグをまとめて読める。
・遮蔽物があっても(電波が届けば)タグを読める。
  これらはバーコードと大きく異なる特徴であり、このような特徴を活用することにより、流通や物流業務の大幅な効率化が可能となる。
  特に棚卸や在庫管理など商品や在庫品の数を数えるといった業務の効率化は顕著である。また、タグひとつひとつを識別することができるため、どの商品を顧客が手に取ったかを把握でき、マーケティング情報としての活用も期待されている。

◆UHF帯電子タグの特徴が引き起こす問題

  前述のように業務効率化に非常に役立つ特徴があるものの、その特徴が一方で「読みすぎ」問題を引き起こすこともある。
  前述の特徴を裏返していえば「離れていても見えていなくても読めてしまう」ため、人間が読みたいものだけを読むことは難しい。
  例えば、ゲートを通ったものだけを読みたくても、ゲートの周囲にあるタグも読んでしまう。また、店頭のある棚の商品だけに読取範囲を限定することは難しく、その周囲にあるタグも読んでしまうのである。もちろん、電波の出力や向きの調整をするにしても、完璧に制御することは不可能だろう。
  このような読みすぎ問題はこれまでにも指摘されており、運用上の対策やシステム上の対策が取られては来ているが、今後はより広い範囲での読みすぎ問題を考えなくてはならない。それは、自システム内だけではなく、他者の電子タグシステムとの間の読みすぎ問題である。
  例えば、ショッピングモールなどで隣り合う店舗が電子タグを使っていたらどうなるであろうか。棚卸業務では手の届きづらい高いところの展示商品など、より広い範囲の商品(の電子タグ)を読み取るために、電子タグリーダの出力は高めに設定するだろう。すると、そのリーダの電波はまず間違いなく隣の店舗の商品にも届くことになる。電波が届けばタグは応答する。結果的に、読みたくない(読むべきでない)隣の店舗の商品情報も読んでしまう事態となる。
  また、物流倉庫や配送センターなどではどうだろうか。このような物流拠点では必然的にさまざまな荷物が集まってくる。電子タグが付いている荷物とそうでない荷物を予め分けることは不可能だろう。このような場所で電子タグリーダから電波を出せば、電波が届く範囲のタグは全て応答してしまう。したがって物流拠点では、その物流拠点でのみ読みたい電子タグがあったとしても、他者のタグも読んでしまうことを前提にシステム構築をすることも考えなくてはならない。

◆電子タグリーダは識別コードを読み取る

  このような読みすぎが起こった場合に、より具体的にはどのような問題が起こるのかを次に考えてみたい。が、その前に、電子タグリーダは電子タグから何を読み取っているのかを再確認しておく。
  電子タグは、個々の物品を個別に識別することを基本的な目的にしている。したがって、電子タグリーダがタグから読み取るのは、まずは電子タグに書き込まれた「識別コード」である。ここでいう識別コードとは、電子タグを貼付した物品が何であるかを識別するためのコード(番号)のことである。
  もちろん、電子タグは一種のコンピュータ・メモリであり、様々なデータを(0か1かのデジタル・データとして)書き込むことが可能であるが、まずは識別コードをもとにひとつひとつを特定した後に、識別コードを頼りに個別の電子タグから様々なデータを取り出すことになる。
  誤解を避けるために説明すれば、この識別コードは電子タグのチップメーカーがタグに書き込んでいるコード(いわゆるタグID)のことではない。特に、一般に使われているUHF帯電子タグ(Class1 Gen2仕様)ではタグIDと物品を識別するための識別コードの領域は明確に分かれている。このことからも、UHF帯電子タグは物品を識別することを主な目的に作られたものであることがわかる。

◆読みすぎ問題の具体例

  さて、このように電子タグリーダが「識別コード」を読み取るとして、前述のように他者のタグまで読みすぎてしまった場合に、より具体的にはどのような問題が起こるだろうか。
  説明のために、隣り合う店舗でそれぞれの商品管理に電子タグを使っていると想定しよう。識別コードには商品を特定するためのコードが使われているはずである。
  まず考えられるのは、意図せず読んでしまった隣の店舗の商品の識別コードが自分の店舗の商品の識別コードと重複してしまう場合である。自分の店舗ではすでに売り切れているはずなのにまだ在庫があると誤認識してしまう、在庫数が合わない、といったことが起こりうる。
  次に考えられるのは、意図せず読んでしまった識別コードをコンピュータ・システムが理解できずに処理ができなくなってしまう可能性である。自店舗のシステムは自店舗の識別コードを読んで理解することができるが、他店舗の独自の体系で作られた識別コードを理解することはできないだろう。システムとしてはエラーとして処理するしかないが、場合によっては膨大な数のエラー処理が発生してしまい、本来の業務システムとしての機能が果たせなくなる可能性もある。
  また、場合によっては、識別コードが読めない(理解できない)ということは自店舗のタグ側に問題があることを示すサインでもあるが、他店舗の識別コードが読めないのか、自店舗のタグが読めないのかを判断することも難しくなり、対処のしようがなくなる。
  他店舗の商品の識別コードを誤って自店舗の商品として判断してしまう可能性はないだろうか。取り扱っていないはずの商品が在庫として存在するということが起こらないとも限らない。エラーとなってしまえばまだしも、自店舗の商品としてシステムが認識してしまったとしたら、それをどう扱うかは結局人間が判断せざるを得ず、無駄な業務が発生してしまうことになる。
  また、UHF帯電子タグはEAS(万引き防止)タグとしても使われている。自店舗内にある商品に対してアラートは当然出さないが、他店舗のタグを読んでしまうとすれば、むやみにアラートが鳴ってしまうことにもなりかねない。
  以上、他者の電子タグシステムとの間の読みすぎ問題として起こりうる具体的な問題を挙げてみたが、電子タグは流通・物流分野ではまだ使われ始めたばかりであり、現時点で想定できない問題が起こる可能性もある。
  このような、広い意味での読みすぎ問題は、とても厄介なことに電子タグの利用者が被害者にも加害者にもなってしまうことである。他者のタグが読めてしまうということは、自分のタグも読まれてしまうということである。
  システムとして他者に影響を与えるべきではないことはもちろんであるが、いちいち他者の電子タグシステムを調べながらシステム構築するわけにもいかない。また、いつ他者が電子タグを使い始めるかもわからないのである。
  しかも、自分で使っているタグが他者から読み取られてしまっているかもわからないため、他者に影響を与えているかどうかも事前にはわからない。したがって、前述のような問題が発生してからようやく気が付くということになりかねない。新しい店舗がオープンした途端に自分の店舗のシステムが動作しなくなるといったことも起こりうる。

◆読みすぎ対策としての標準識別コード

  さて、それでは以上のような読みすぎ問題にどのように対処すべきだろうか。
  電波を出した際に、電波のやりとりの段階で事前に読むべきタグを選択することはできない。したがって、タグを読み、その識別コード(場合によっては識別コードとその付加情報)を取り出し、その識別コードを「理解」したうえで、自分が必要なタグのみを選択するといった「読み分け」が必要になる。
  読み取ったリーダあるいはそのホストとなるコンピュータが識別コードを理解するには、その識別コードの体系をあらかじめ知っておく必要がある。各社独自の識別コードの体系を全ての関係者で共有することは不可能である。むしろ“標準となるコード体系”を皆で使うというアプローチをすべきである。
  この標準となるコード体系がまさにGS1が定めているEPC(Electronic Product Code)なのである。このような標準識別コードを採用することが読み分けに繋がり、前述のような「読みすぎ問題」の対策の第一歩となると考える。
  なお、EPCという呼び方をしているが、GS1が定めているGS1識別コードを電子タグに格納しやすくしたフォーマットと考えてよい。したがって、たとえばGS1識別コードのひとつであるJANコード(国際的にはGTINと呼ぶ商品識別コード)を電子タグに格納する際のフォーマットがEPCである。
  GS1識別コードには、商品を識別するためのコード(JAN=GTIN)や場所や企業を識別するコード、資産管理のためのコード等、複数の体系がある。これらのそれぞれに対してEPCとしてのフォーマットが規定されている。

◆識別コード読み分けのために

  読み分けのロジック自体は電子タグの使い方による。例えば店舗での利用の場合で言えば、自店舗で扱う商品だけを読み分けたいだろうし、物流センターなどではむしろ全ての荷物のタグを理解し、全てを適切な処理につなげる必要がある。
  このような機能はシステムごとに実装することも可能だが、ミドルウェアとして切り離すことで、コードの読み分けはミドルウェアに任せ、システムは業務処理に集中させるなど、システムが複雑になることを避けることができる。また、このようにすることで、電子タグに特有な処理を切り離すことになるため、システムから見れば電子タグ以外のバーコード等さまざまなデータキャリアにも対応しやすくなる。
  以上のような、標準識別コードを適切に処理できるミドルウェアを提供することが電子タグ利用者の利便性を向上させ、今後のより一層の電子タグの普及につながると考えられる。
  より広い視野に立てば、ISOの標準仕様も含めた標準識別コードに対応できることが理想である(GS1標準識別コードはISO標準の一部である)。
  GS1 EPCglobalでは、前述のようなミドルウェアとしての機能に関連して、LLRP(Low Level Reader Protocol)やALE(Application Level Events)という標準仕様を公開している。このようなミドルウェア機能を実装した機器やソフトウェアが今後充実していくことを期待したい。

◆最後に

  電子タグの導入事例は今後ますます増えていくだろう。電子タグシステムの導入にあたっては「離れたところから複数のタグを読める」という電子タグの特徴的な機能が、他者にも影響を与える可能性があることを認識しておく必要がある。
  また、電子タグを様々な業界・企業で混乱なく効果的に使うためにも、識別コードによる読み分けが必要になると考えられる。読み分けのベースとなるのが、GS1のEPCを代表とする標準識別コードである。電子タグシステムの導入の際には、EPCのような標準識別コードもセットで導入していくべきである。

以上


(C)2014 Koji Asano & Sakata Warehouse, Inc.

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