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物流品質

第478号 こんなコンサルはいらない(2022年2月22日発行)

執筆者 山田 健
(中小企業診断士 流通経済大学非常勤講師)

 執筆者略歴 ▼
  • 著者略歴等
    • 1979年日本通運株式会社入社。1997年より日通総合研究所で、メーカー、卸の物流効率化、コスト削減などのコンサルティングと、国土交通省や物流事業者、荷主向けの研修・セミナーに携わる。2014年6月山田経営コンサルティング事務所を設立。
    • 著書に「すらすら物流管理(中央経済社)」「物流コスト削減の実務(中央経済社)」「物流戦略策定のシナリオ(かんき出版)」などがある。中小企業診断士。
    • URL:http://www.yamada-consul.com/

 

目次

I.物流は宅配だけ?

  仕事柄、物流にかかわるさまざまな相談を受ける。相談者は、コンサル・調査会社、金融機関、IT系などであるが、宅配危機以来は目に見えて増えている。
  相談の多くが宅配がらみであることは致し方ない。おそらくヤマトの宅配クライシス問題のインパクトを反映したものであう。ヤマトの発信力、そして何より社会のインフラとして欠くことのできない地位を確立した、宅配便の意義を世間に再認識させるできごとであったことは間違いない。その点で、注目されることの少ない日陰の存在であった物流に世間の関心を向けさせたヤマトが物流業界全体に果たした貢献度は計り知れない。物流業界や筆者を含めた関係者は感謝してもしきれないのではないか。
  ところで、先の相談者の多くは物流の門外漢であるという前提に立ったうえでも、ずっと気になっていることがある。それは内容が「物流=宅配「宅配=ラストワンマイル」という認識に偏っていることである。極論すれば、物流問題の大半が宅配、ラストワンマイルにあるという理解が一般的になっているようにも思える。
  本ロジスティクス・レビューの読者には承知されていることとは思うが、現在起きており、近い将来さらに深刻化するであろうドライバー不足をはじめとした問題の多くは宅配ラストワンマイル以外にある。
  実際、国内総貨物輸送重量に占める宅配便等混載輸送(特別積合せ便を含む)の割合は3%程度である(表1)。トラック輸送に占める割合に絞っても4%である。鉄道輸送や海上輸送のように少人数で大量に運べる輸送手段と、ラストワンマイルで多くの人手を必要とする宅配を同列にすることはできないけれど、物量の点では比較にならない。


表 1 2015年貨物純流動調査(3日間 単位:トン 国交省)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  サプライチェーン全体でみても、原油や化学品、鉄鋼、紙パルプなどの素材から中間製品、最終消費財にいたるまでの長い過程で発生する物流と、ネット通販など限られたチャネルで発生する宅配物量では規模が違う。
  さらに、宅配便のフローに限っても、集荷⇒集荷店⇒発ターミナル⇒着ターミナル⇒配達店という具合に長い工程を経てラストワンマイル(配達)に至るわけである。

II.宅配は危機ではない

  つけくわえると、筆者は宅配業界の人手不足はあまり心配していない。乱暴な言い方をすれば、宅配業界でのドライバー不足は本質的ではない。宅配を担うヤマト、佐川、日本郵便、どこも超大企業である。銀行や商社なみとはいえないまでも賃金や労働時間、教育などの待遇は他産業に劣らない。採用にはそれほど苦労しないはずである。現にヤマトは19年に1万人ものドライバーや作業員を新たに雇用している。しかもラストワンマイルでは、アマゾン・フレックスやデリバリー・プロバイダなど個人事業主を主とした新しい戦力が続々と登場している。
  本質的かつ深刻なのは、ラストワンマイルに至るまでの物流、そしてサプライチェーンの風上から風下までの圧倒的な量を持つ物流である。この分野の大半を担うのは貸切トラック。その97%が100人以下、7割が20人以下の中小零細企業である。ドライバー不足の根本的な原因はここにあるわけだが、こういう話をするとたいていの相談者は関心を失う。得体のしれない泥沼に足を突っ込みたくないのかもしれない。ドローンや配達ロボなどもっと希望の持てる先端のテーマに展開することを期待しているのかもしれない。おそらく世間一般の関心もこれに近いのだろう。
  同じような話がもう一つある。私事で恐縮であるが、数年前ある出版社から「物流の教科書」を書いてほしいという依頼をいただいた。物流業界を目指す学生などをターゲットに物流とは何か、どのような業界なのかなどを紹介してほしいという。
  そこで筆者は「トラック」「鉄道」「海運」「航空」「倉庫」「ロジスティクス」といった物流の基礎知識を網羅した「教科書」を企画したのだがどうも話が噛み合わない。何度かやり取りを繰り返した挙句、企画がボツになってからようやく意図が理解できた。出版社が求めていたのは物流の教科書ではなく、SCMやEC物流、宅配の本なのだと。最初から「ネット通販と宅配」がテーマといってもらえれば、すれ違いはなかったはずなのだが、出版社(=世間)のイメージする「物流」と筆者の考える「物流」がまるでずれていたわけである。
  こうした認識のズレが起きている現状で、われわれ物流の情報を発信する側の責任は重い。相手の聞きたいテーマを提供するのはマーケティングの基本中の基本であるとはいえ、筆者を含めたコンサルタントや研究者などは時流に乗ることだけを考えるのではなく、正しい、本当に重要なことを伝えていかなければならないのではないか。

III.コンサルは役に立つ?

  ここからが本題である。世間の認識とのズレを正し、クライアントを正しい方向に導かなければならないのがコンサルタントの使命とすれば、その責任は重大である。
  驚くことに(?)、いまコンサルタントが人気という。東大生の就職人気ナンバーワンは官公庁よりコンサルタント会社である。
  また私事で恐縮であるが、筆者が27年前に経営コンサルタントの国家資格である中小企業診断士資格を取得した時には、コンサルタントはお世辞にもメジャーな職業とはいえなかったように思う。「何その資格?」という反応がほとんど。怪しげな商売と思われ(診断士の方ごめんなさい)、まして仕事として成り立つなどと考えている人は周りにはいかなかった。何よりも筆者自身、コンサルが何をやる仕事かまったくイメージをつかめていないまま、何となく面白そうだという程度の認識で取得した始末である。それが世間の認知度も職業としての人気も高まった今、課せられた責任は重い。
  そこで今回は「こんなコンサルはいらない」というテーマで、クライアントとして、そしてコンサルタントとしてのあるべきコンサルタント像を探ってみたい。というよりは「これはやってはいけない」「こんなコンサルタントに依頼してはいけない」という視点で述べてみたい。いうまでもなく筆者にとって「天に唾する」きわめて危険な試みである。これまでの拙いコンサル経験の中での失敗を自ら(他者のことも含め)披露するものだからである。ただ、反省、振り返りという意味を込めて一度は整理しておきたいとかねがね考えてきたことでもあり、読者の何らかのお役に立てることも期待しつつまとめていきたい。

こんなコンサルはいらないその①~何が問題かは問題か
  一般的に賢いコンサルタントの使い方として、まず自社の課題をきちんと整理して、自社で取り組めること、専門家の力を借りることを切り分け、自社に足りない部分をコンサルに頼むべきだ、といわれる。たしかにそのとおりである。問題なり課題なりが明確で取り組むべきテーマもはっきりしていれば、コンサルはやりやすい。的確な分析、提案も期待でき成功の確率も高いであろう。
  また、やるべきことはわかっているのだが、自社内を説得するためにコンサルを利用することもある。身内が言ってもなかなか耳を傾けてもらえないので、第三者から言ってもらう、という意図である。いずれも経営資源に恵まれた企業の、けっこう贅沢なコンサルの使い方である。一般的に大手企業の依頼するコンサルのパターンといえる。
  ところが、よく考えてほしい。課題がきちんと整理され問題(あるいは原因)までもが見えているのであればそもそもコンサルは不要である。原因がわかった段階で問題の半分以上は解決している。そこまでできる企業であれば、その先のソリューションも行動も十分にできるだけの能力がある。
  むしろ何が問題なのか、何を頼めばいいのかわからない、といった状態こそコンサルが支援すべきである。こちらは中小企業に多いパターンである。どうしたらいいかわからないけど、とにかく困っている。そこから絡み合った糸を丹念に解きほぐしていき、「ほら、これがあなたのやりたかったことでは」と示してあげることがコンサルの役割なのではないかと思う。
  われわれが医者にかかるとき、原因なんてわからないことが多い。最初から「風邪ひきました」「胃腸炎になりました」とはいわないだろう。まずは「咳が出る」「おなかが痛い」といった症状を述べた上で医者が診察し原因を突き止める。しょせん素人である患者が課題(病気)を的確に把握しておくことなどできないのである。
  使えないコンサルタントは自分の役割を自ら放棄して、「まずはあなたが何をやりたいのかきちんと整理してからご相談ください」などと突き返してしまう。実は筆者も同じ失敗を犯したことがある。相談にきたクライアントに対し検討すべき課題などを理路整然と説明した結果、クライアント自ら「自分の整理ができてませんでした。整理してからまた出直します」と帰ってしまったのである。再度の相談はもちろんなかった。突き返したつもりはまったくなかったが、専門家ぶって「ああだ、こうだ」と講釈したのが「出直してこい」と受け取られたのであろう。医者が患者に寄り添うように、コンサルタントもクライアントに寄り添う姿勢が必要なのだと反省している。

こんなコンサルはいらないその②~数字を見ない
  物流コンサルでもっとも重要なのは「数字、データ」だと思う。現場を見たり、関係者のヒアリングをしたりするのはもちろん重要ではあるけれど、本当の姿、実態は数字を見なければわからないことが多い。
  よく、コンサルの相談を受けた段階で、クライアントから「プロなんだから現場を見ただけでどれくらいコスト削減できるかわかるでしょう」「おおざっぱでいいからおおよその削減見込みを教えてほしい」などと求められる。たぶん「10%は削減できますよ」などと言い切ることができれば、「さすが専門家」ということで即受注となるかもしれない。実際、そうしたコンサルタントも多いと聞く。
  経験から言えることではあるが、詳細な現場実態と、なによりも数字を見ないでコスト削減などの効果を推定するのはきわめて危険である。とくに物流の問題はちょっとした細部に宿ることがある。細部のことは詳細な数字を見なければまずわからない。
  本業ではない物流コンサルを手掛けているコンサルタント会社などから、こうした相談を受けることがあるが、具体的な数字を押さえていないケースが非常に多い。数字がわからないと的確なアドバイスをできないので、収集すべきデータや分析方法などを提言するのであるが、たいてい反応は芳しくない。データを集め分析するのは手間がかかるし、だいいち物流の実務に精通していなければ、分析した結果をどう読めばいいかもわからない。コンサル以前の話である。
  筆者も数字を押さえなかったため失敗したことは少なくない。
  ある大手化学品メーカーのコンサルでのこと。そのメーカーは一口に化学品といっても扱う製品は、液体原料から中間原料、危険品、最終製品など多岐にわたっていた。これらの物流はすべて製品群ごとの事業部により縦割りに管理されていた。経営者はこの縦割りでバラバラな管理に「横串」を刺せばコストを削減できると考えた。理屈ではたしかにそのとおりである。筆者も同じように考えコンサルを受注した。実際、口に出したかは定かではないが、この時点で10%くらいの削減はできる、といった「根拠のない」見通しも持っていたのは確かだ。問題だったのは、受注にいたる過程で数字はもちろんのこと、物流現場に足を運ぶことさえ怠っていた。すべては新設された物流部門の責任者とスタッフとのやりとりだけで契約まで進めてしまった。
  ところが、実態調査と物流データ分析を進めるにしたがって、この楽観的な予想はことごとく覆されていった。まず、同社の物量の4割は専用のケミカルタンカーによって輸送される液体原料であった。タンカーから貯蔵タンクに移されたケミカル品はタンクローリーに充填されてユーザーまで配送される。他の製品との「横串」どころではない。完全に独立した「特殊」輸送である。タンカー輸送など手を付けようがない。苦し紛れにタンクローリーをJR貨物のISOタンクコンテナに切り替えて長距離輸送を考えたが、輸送費は減らないばかりかコンテナを引っ張るトレーラ車両のサイズでは、納品先の敷地内カーブを曲がれないこともわかった。
  他の製品も荷姿がドラムや危険品などバラバラで、納品先の重複もない。エリアもかぶらないため混載のメリットもほとんど見込めない。期待されていた「横串」効果はほとんど発揮することができなかった。振り返れば、新設された物流部のメンバーは全員が物流の素人、こちらもコンサルタントとしてまったくの未熟者でという、いわば素人同士が行ったきわめてお粗末なコンサルの結末は悲惨であった。
  これ以来、コンサルに着手する前には必ず「プレ・コンサル」として、現場の実態把握と最低限の数字の押さえは欠かさないようにしている。受注できなかった場合は労力が無駄になるが、決して省略してはいけない重要なステップと考えている。現場や数字を見ないで提案してくるコンサルは要注意だ。

こんなコンサルはいらないその③~在庫問題に固執する
  在庫は物流にとって本質的な問題である。過大な保管コスト、過剰在庫と欠品、倉庫作業の混乱、誤出荷、在庫の不突き合い、無駄な横持による輸送コスト増大など、物流の問題の多くが在庫に起因する。したがって、在庫の問題を解決することが物流効率化に直結することは間違いないところではある。
  ただ、在庫の問題を解決するには物流以外の数多くの課題を一つ一つクリアしていかなければならい。相当の時間と労力を要するし、自社だけで解決できないことも多い。たとえば、海外生産品を調達しているメーカー(実質的には国内販売会社)に「必要な量を必要なだけタイムリーに調達して国内在庫を減らせ」といってもそれは容易ではない。現地の工場でのラインの空き具合まで踏み込んだ生産体制、貿易決済条件、海上コンテナのリードタイムや積載率から国内での販売予測方法など物流以外の分野にまで幅広く踏み込まないと解決できない。コンサルタントには、当然それらすべての課題を具体的に指導できるだけの知識と力量も必要である。
  いわば風邪をひいて高熱を出している患者に「生活習慣を変えて体質を改善しなさい」と諭すようなものである。そんなことよりまずは熱を下げて普段の体にしてもらいたいと考えている患者にとっては役に立たない。
  このようなケースで手を付けていかなければならないのは目の前の問題である。他倉庫も含めた在庫配置や倉庫内のレイアウト変更、作業方法の見直しなど、物流面で解決できる対症療法は少なからずある。
  気を付けなければならないのは、物流現場に精通していないコンサルタントがあえて最初から在庫問題に踏み込むことがあることである。あまり的確な表現ではないが、「物流に自信がないから在庫に逃げる」といえなくもない。
  筆者がまだ駆け出しのコンサルタントだったころ、ペアを組んでいた同僚がこのタイプであった。ある大手鉄鋼メーカーの物流効率化に取り組んだ時のこと。鉄の輸送では常識である工場岸壁に停泊中の内航船を見て、「初めて貨物船を見た」と漏らしたあたりから不安が広がりだした。きわめつけは、在庫の分析をしている中で、「需要動向に合わせて(高炉を止めたり動かしたりしながら)鉄を作らないからダメなんだ」と指導し始めた時には、筆者を含めたクライアント一同開いた口がふさがらなかった。おそらく消費財と鉄の製造方法の違いも知らなかったのだと思う。

  ここで挙げたのはほんの一部の例に過ぎない。紙面の都合で紹介できなかったお粗末な話は残念ながら山ほどある。コンサルタントの起用で、あるいはコンサルを行う上で失敗しないために参考になればと考え、自戒を含めてあえて披露させていただいた次第である。

以上




(C)2022 Takeshi Yamada & Sakata Warehouse, Inc.

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