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物流関連

第479号 2024年に向けた、もう一つの「トラック不足」問題(2022年3月10日発行)

執筆者 久保田 精一
(合同会社サプライチェーン・ロジスティクス研究所 代表社員
城西大学経営学部 非常勤講師、運行管理者(貨物))

 執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1995年 東京大学 教養学部教養学科 卒
    • 1997~2004年 財務省系シンクタンク(財団法人日本システム開発研究所)
    • 2004~2015年 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所
    • 2015年7月~ 現職
    活動
    • 城西大学 非常勤講師
    • 流通経済大学 客員講師
    • 日本工業出版「流通ネットワーキング」編集委員 ほか(いずれも執筆時点)
    著書
    • 「ケースで読み解く経営戦略論」(八千代出版)※共著 ほか

 

目次

1.はじめに

  トラックドライバーへの残業時間規制改正が2024年に予定されている。残業時間を削減するということは運べる貨物の量が減ることに直結するため、トラック不足がこれまで以上に深刻化することが懸念されている。
  この問題と今後、リンクしてくる可能性があるのが、モノとしての「トラックの需要拡大」と「納期長期化」の問題である。執筆時点では残業時間規制の全体像が明らかではなく、影響が見通せない状況ではあるが、物流の今後に少なくない影響を与える可能性があることから、この問題のアウトラインについて簡単に整理しておきたい。

2.トラック市場の概況

  まず最初に、トラックの市場概況を抑えておきたい。
  図表1ではトラック販売台数の推移を示す。図から明らかな通り、長期的に見てトラックの販売台数は縮小傾向にある。
  90年代には40~50万台で推移していた販売台数は、近年は10~20万台のレンジを行き来しており、2000年降で20万台を超えたのは、首都圏でPM(粒子状物質)等の規制が導入された2003年以降の数年のみである。
  その後は再び低迷期に戻るが、そのような中、2009年にリーマンショックが直撃する。この時、10万台を下回る水準へと大幅な落ち込みを記録することになるが、この影響は各社とも深刻で、大規模な人員削減に踏み込むなど、生産体制を縮小する動きが続く。
  2010年代後半になると販売量も一定の回復を見せる。その後数年は比較的安定した状況が続くが、2020年には新型コロナの影響に見舞われる。部品供給等のサプライチェーン問題の影響を受け、一部では工場の稼働停止といった生産能力低下に見舞われている。
  このように見てくると、過去20年間はトラックメーカーにとっては厳しい経営環境であったことが分かる。
  その背景になるのは、運送業の苦境である。
  言うまでも無く、トラックメーカーの経営はトラック運送業の景況と表裏一体である。この間の運送業は、「運賃低迷」と「貨物量低迷」という二重苦に見舞われていた。運送業が経営に苦しみ、投資余力が限られている以上、トラックメーカーの経営が順調とは言いがたかったのは当然とも言える。

図表1 トラック販売台数推移(ブランド別、年別)
注:各ブランドにおける道路運送車両法上の分類における「普通トラック」「小型トラック」の台数を集計したもの。そのため軽トラックを含まない。なおUDトラックス(旧日産ディーゼル)のほか社名変更前のデータを含む。図中の「三菱ふそう」のうち、2002年12月以前は三菱自動車のデータ。三菱自動車はその後も少数ながらトラック販売を継続して等の事情により厳密には連続性がない。またスカニア等の輸入車が含まれない。
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

3.経営体制、市場シェアの変化

  そのような経営環境の悪化を受け、メーカーの経営体制も大きく変わった。
  大手4社のうち三菱がダイムラー傘下へと移行(2003年)、日産ディーゼルがボルボ傘下へ移行(2006~8年)するなど、資本構成も大きく変わった。そして、海外資本は低迷する国内市場よりも、成長が著しいアジア市場を重視する方向性であったこともあって、国内市場は一部メーカーへのシェア集中が進んだ。2021年にはいすゞがボルボからUDトラックスを買収した影響もあり、図表1からも分かるとおり、上位2グループで8割程度のシェアを占めるに至っている(軽トラックや輸入を除く)。
  これには日本市場の特殊性も関係している。
  日本の物流は世界的に見て著しく小ロットであり、トレーラーを含む大型車が主流の諸外国とは市場特性が著しく異なる。そのような特殊性を持ち、かつパイの小さい国内市場を、多数のメーカーが奪い合うのはもともと無理がある。そのため上位企業に集約化していくのはやむを得なかったとも言える。
  一方、ユーザーである運送業の立場からすると、車種の選択肢が限られる、納期が伸びる等の影響を受けているのも事実である。特に台数が少ない中小運送会社は、年間を通じて発注のある大手運送会社よりも「バイイングパワー」で劣る。そのため必要な車両を投入できず、受注の機会損失を生じることもある。

4.大型車両の需要の伸び

  このような問題が特に顕著なのが、トレーラー等を含む大型の車両である。
  少子高齢化等によってドライバー不足が深刻化しているのは周知のとおりだが、特に拘束時間が長く宿泊を伴うことの多い長距離トラックのドライバーのなり手は激減している。長距離ドライバーは他のトラック以上に高齢化が進んでいることもあって、人手不足の問題が深刻である。
  この問題への解決策の一つが、「トラックの大型化」である。例えば、車種をトレーラーに転換すれば、単純計算では従来の大型車で約2台分の貨物を積める計算になるため、ドライバーの給与を上げたり、休日を増やすといった対応を取る余地が生まれる。このような背景から、近年、トレーラーや、更に大型の「連結トラック」への需要が拡大しており、その担い手である架装メーカーも順調に販売を伸ばしている(注1)。

5.需要増加の影響等

  一方で、この需要拡大は、納期の長期化を生じている。トレーラーを含む特装車の受注は架装メーカーの生産能力を超えている状況で、「納期は1年~1年半と長期化している」(注2、執筆時点)。
  特に深刻なのは「連結トラック」「スワップボディ車」といった特殊な車両であり、複数のユーザー企業にヒアリングしたところ、2年前後の納期となるケースが生じている。連結トラック等は、国の補助金を利用して導入を計画する企業も多いが、納期の問題から補助金の利用を断念するといったケースも聞いたことがある。
  10~13トンの大型車については、それほどの納期とはなっていないものの、筆者の調査によると6~12月程度の納期を提示されるケースがあり、課題として認識している運送会社が少なくない。

  なお、前述のとおり昨今の納期の長期化には新型コロナの拡がりも影響している。
  新型コロナの蔓延によってアジア等からの部品供給が寸断しており、いすゞの藤沢工場が稼働を停止(2021年8月下旬)したほか、三菱ふそうトラック・バスも川崎製作所の稼働を一時停止(同9月)するといった影響が生じている。
  図表2は四半期ベースの販売台数を示すが、2021年の3Qの台数は43千台と、コロナ前(2019年)の同時期より3割程度少ない。この一部は、生産調整等による間接的な新型コロナによる影響と考えられる。
  ちなみに余談ながら、このような納期の長期化の影響で、すぐにトラックを使いたい運送会社のニーズによって、中古車の販売が活況を呈するといった影響も生じている。(注3)

図表2 トラック販売台数推移(ブランド別、4半期別)
資料:日本自動車工業会データベースを元に筆者作成。
注:図表1と同様。
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

6.トラックメーカーの対応

  このような課題に対し、トラックメーカー、架装メーカーも対応を進めている。
  例えば日野自動車は、古河工場(茨城県)にグループ会社の架装工場を新設(2022年1月)し、シャシーから架装までの一貫生産体制を確立。納期短縮を図っている。(注4)
  また、架装大手の極東開発工業は、2022年度から3カ年で300億円もの巨額を投資し、生産能力を2~3割増強すると発表している。これにより、トレーラー等の納期を2~3割短縮する見込みという。同社の子会社の日本トレクスは上記のほか連結トラックやスワップボディ車の生産にも強いが、親会社の方針と平仄を合わせて工場の用地を拡張するなど、生産能力の強化に取り組んでいる。(注5)

7.2024年問題への荷主の早めの対応が必要

  このようなメーカー各社の努力もあって、2022年度中には生産能力が一定程度改善することになる。各社ともこれまでの受注残を抱えているため、効果がすぐに現れるわけではないかも知れないが、関係者の努力が実ってトラックの円滑な流通が実現することが期待される。
  冒頭に述べたとおり、2024年には「残業時間の上限規制」という大きな制度改正が予定されている。これに向けて、荷主各社が様々な物流効率化策を検討しているところである。代表的な取り組みとしては、「中継輸送を導入する」「貨物をパレット化する」「受注リードタイムを延長する」といったものが挙げられる。そしてこれらの改善策は、いずれもトラックの新規購入に繋がる。中継輸送にはスワップボディ車やトレーラーが利用されるし、パレット化が進めば、パレット荷役に適した大型ウイング車の需要が増大するからである。
  残業時間規制の詳細は検討中であり、まだ全体像が明らかではないが、本稿で述べたような事情から、特に設備投資を伴う対策は早い時期から検討することが必須である。ただしその際、運送会社サイドでは、上記のような「運び方」を抜本的に変えるような対策を講じることは難しく、荷主が主導することが是非とも必要である。
  2024年というと先の話のように感じられるかも知れないが、残された時間は2年弱しかない。2022年度の早い時期から、対策に取り組むことが期待される。

以上


  

  • 注1:「パブコ、ヒルマン・フォルカー社長インタビュー」日刊自動車新聞、2021.01.15付等による。
  • 注2:「極東開発、特装車を増産 設備投資300億円」日刊工業新聞、2021.11.18付
  • 注3:「商用車リースを展開するタカネットサービス」日刊自動車新聞、2020.06.30付
  • 注4:「日野、古河工場で架装 同一敷地内で一貫生産 納期短縮へ」日刊自動車新聞、2021.12.23付等による。
  • 注5:「連載『勝機到来』」日刊自動車新聞、2020.04.23付


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