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第477号 続々・軽トラ運送が熱い(後編)(2022年2月10日発行)

執筆者  長谷川 雅行
(株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)

 執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会理事
    • (社)中小企業診断協会会員
    • 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    • 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか

 

目次

*前号(2022年1月18日発行 第476号)より

4.軽トラック・バンのEV化

  軽トラックのEV化については、第448号の「6.軽トラックの未来」でも紹介したので、併せて読まれたい。
  本稿が配信される頃(2022年春)には、日産・三菱自動車が実質200万円(補助金等による)でEV乗用車を発売していると思う。
  ここでは、まずエコカー(HV・EV・PHV・FCV)について簡単にお浚いして、執筆時点(2021年11月)における軽自動車のEV化動向についてご紹介したい(自動車技術は専門ではないので、EV化技術については省略する)。

(1)エコカー(HV・EV・PHV・FCV)とは
  環境に優しい自動車については、「低公害車」「エコカー」「環境適合車両」など、いろいろな呼び方があり、省庁・関係団体等によっても違うようである。
  ここでは、トラック経営として関心が高い「税制」である「エコカー減税」の対象となる、「エコカー」を使うことにする。

①HV(Hybrid Vehicle ハイブリッド自動車)
  2021年現在、日本で最も普及しているエコカーがHVである。HVはエンジンとモーター、2種類の動力を搭載して効率的に使い分け、あるいは組み合わせて低燃費を実現する。乗用車のほかにバスにも活用されている。
  HVは、パラレル方式、シリーズ・パラレル(スプリット)方式、シリーズ方式に3分類され、走行特性も異なる。パラレル方式はエンジン駆動主体で、発進・低速時などのエンジンが苦手とする領域でモーターが補助をする。シリーズ・パラレル方式は、エンジンとモーターの動力使い分け可能なタイプで、発進・低速時はモーター、通常走行時はエンジン、急加速時はエンジン+モーターと、走行条件に合わせてエネルギー効率の最大化を図る。シリーズ方式はエンジンを発電専用とし、モーターで駆動する方法で、鉄道でもディーゼル機関車等に導入されている。

②EV(Electric Vehicle 電気自動車)
  EVは、自宅や充電施設などで車載電池(リチウムイオン電池)を充電して、モーターを動力として走行する。エンジンはないので、走行中にCO₂を排出しない。夜間電力などを上手に活用して充電すれば、ガソリン・ディーゼル車よりも燃費を低減できるケースもある。
  最も注意すべきは電池切れで、充電施設の整備が十分でない地域もあるので、常に電池残量、充電施設をチェックしておく。充電に必要な時間も考慮する。エアコン・補機も電力を要するので、夏季や冬季には電池切れのリスクが高まる。
  国内では、2~4トン車の小型トラックでの導入が進められている。
  ヤマト運輸では、2020年1月から、ドイツポストDHLグループ傘下のストリートスク-ター社と共同開発した、バンタイプのピックアップ型小型EVを首都圏で導入しており、筆者も横浜市内で二度見かけたことがある。2030年までに小型集配車の半数5000台を置き換える計画とされている。
  また、SBS HDも2021年10月、フォロフライ(京都市)が開発して中国・東風汽車集団グループの東風小康汽車が生産するルートバンタイプ(積載量1トン、航続距離300km、1台約380万円)をグループ全体で1万台導入すると発表した。国産のEVトラックの約1千万円と比較すると超低価格と言えよう。

③PHV(Plug-in Hybrid Vehicle プラグインハイブリッド自動車)
  PHVは、EVのように「外部電源から充電可能な」HVである。HVの車載電池は、走行・減速時のエネルギーを利用して充電するため、外部から充電できない。自動車メーカーによってはPHEVともいう。
  PHVの最大のメリットは、車載電池に電力があれば、モーターで駆動するEVとして走り、電池が切れればエンジンを併用したHVとして走行可能である。長距離走行時にもHV同様に車載電池切れの心配がない。
  なお、HVについてはトラックでも導入されたが、最近はHV・PHVともトラックでは活用されていない。

④FCV(Fuel Cell Vehicle 燃料電池自動車)
  燃料電池は、水素と酸素の化学反応により発電して得られた電力をモーターへと送り、動力として使用する。エンジンを使用しないので、EV同様に走行中にCO₂を排出しない。
  燃料の水素を750気圧という高圧で圧縮する必要があり、高圧水素ボンベを含め車両価格が高く、重くなる。さらに、水素の供給設備(水素ステーション)の整備が進んでいない。
  欧米ではFCVトラックの開発が進められており、大型トラックでは本命視されている。日本でも小型トラックで実証実験が始まっている。

(2)EV軽トラックの動向
  上述②のように、小型集配車ではEVの導入が始まっている。
  EV軽トラックについては、従来は三菱自動車のミニキャブ・ミーブトラック「MiEV」だけであったが、車両価格が税込みで180万円超と高く、軽集配車としては採算が難しい。しかも、現行のミニキャブ・ミーブトラックは衝突安全性を向上させるため、車体が大きくなり、軽自動車規格をオーバーして登録車(小型車)となっている。
  第448号で紹介した日本郵便やヤマト運輸(写真6)にしても、実証実験的な要素が強い(日本郵便については、2021年11月時点でも東京都千代田区・港区で見かけた)。

写真6 ヤマト運輸の軽EVバン(三菱自動車 ミニキャブMiEV)

(筆者撮影)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  ところが、執筆時点では、中国EVメーカーからのEV軽トラックの導入が報じられている。上記②のEV小型トラックにしても、商用車については日本メーカーではなく海外メーカーばかりなのが気になるところである。企画・開発は、ファブレスメーカーである日本のスタートアップが多い。
  今回は、そのうち、佐川急便とオートバックスセブンの事例を紹介したい。

①佐川急便
  同社では、2020年6月にEVの企画・開発・製造を手掛けるASF社(東京都港区)とEVの共同開発・実証実験を行うと発表した。
  その後、同社の持株会社であるSGHDが2021年2月になって、「2030年をめどに、配送用の軽自動車約7000台全部をEVに切り替える」と発表した。上記AFS社と共同開発したEV軽バン(車両寸法 L3395mm×W1475mm×H1950mm2人乗り、最大積載量350kg、航続距離は200km、最高速度100km/h)を、中国・広西汽車集団グループの五菱汽車で製造する。
  自動車関連雑誌では、「EVはモーターよりも電池が課題」「モーターは1万円で作れるが、電池は30万円」などとあるが、ガソリン車と同じ積載量・容積を確保して1日200km走れるのであれば、ラストワンマイルの配送車として及第点ではあろう。
  問題は価格である。最近では、「10万円で世界一安いEVとして知られる中国製のChang Liが、米国で好調な売れ行きを見せている」「中国・五菱汽車製の宏光(ホンガン)MINI EVは日本円換算で約50万円」などと報じられている。なかには、電動ミニカーのようなものもあるようだ。
  上記のホンガンのスペックは、長さが2.92mと日本の軽自動車規格より50cm近く短いが、荷物を載せなければ4人乗車(1人60㎏換算で240kg)が可能である。最高速度100km/h、航続距離120~170km(電池により異なる)と近場の移動には十分であるといえよう。
  執筆時点では、ホンガンは日本に輸入されておらず、仮に並行輸入してもナンバープレートが取得できないとのことである。
  2-(2)で紹介したAFの例では、集荷センターから配送に出て再び戻ってくるまでの走行距離は平均35kmと説明されている。車庫から集荷センターまでの往復を加算しても、日常のラストワンマイル配送の走行距離は100km程度と想定される。
  ホンガンを製造している五菱汽車が、そのノウハウ・実績等を基に佐川急便のEV軽バンを受託生産するとなると、案外ローストで導入できるのかも知れない。1台130〜150万円といわれる国内の軽商用エンジン車と同程度という報道もある。
  その後、2021年6月には双日がASF社と資本業務提携を行い、7月には日本電産のEV用駆動モーターが同車に採用されるなど、自動車メーカー以外の動きもあり、国内の軽自動車メーカーの動きも併せて、暫くは注目したい。

②オートバックスセブン
  同社は、カー用品の販売と取付・交換サービスや、車検・整備を提供する小売店舗(自社・FC店合わせて全国約600店舗)で構成されるFC本部であり、読者のなかにもマイカーの点検・整備を同社店舗に依頼している人もいると思う。
  同社では将来の収益の柱としてディーラー事業を掲げ、BMWやMINIのディーラーを拡大中である。
  そこで、同社では2021年10月、中国製の多用途小型商用EVであるMETRO(メトロ)を日本向けに改修したELEMO(エレモ)を製造・販売しているHWエレクトロ(東京都江東区)と提携し、軽EVの販売・メンテナンスに乗り出すと発表した。

写真7 HW ELECTROのELEMO

(出所:HW ELECTRO社ホームページ)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  ELEMOは、2021年4月に小型商用EV車として国内で初めてナンバーを取得し、7月から販売を開始しており、既に花キューピット社で導入されている。
  荷室のカスタマイズや温度管理も可能とされ、最大積載量は400~650kgなので軽規格とは言えないが、おそらく軽規格も出してくることが想定される。価格は航続距離200kmタイプで330万円と少々高い。
  (1)–②で紹介した、ヤマト運輸が首都圏で導入始めたバンタイプのピックアップ型小型EVに近いのかも知れない。
  オートバックスセブンが新分野と目指すディーラー事業の中で、EVの拡販戦略に注目したい。

  これまで紹介した日本郵便・ヤマト運輸・SBSHD・佐川急便・オートバックスセブン(本シリーズでの掲載順)のEV化事例を見ても、現時点でのEV化は、カーボンニュートラルへの対応、ESGやSDGsの推進の一環と考えられる。
  一方で、EVではドライバーの運転負荷(疲労等)の軽減も期待できる。極論すれば、EVは遊園地の電気自動車と同じくらい、運転は簡単である。筆者も、小型EV乗用車を運転したことがあり、運転の容易さ・静粛性・登坂
力などに感心した。
  とくに、発進・停止の多いラストワンマイル配送は、EV車の運転は楽である。今や、トラックでもAT車が増えており、AT車に乗り慣れたドライバーはMT車に戻らないと聞く。EV化が進めば、同様にEVに乗り慣れたドライバーは、エンジン車に戻らなくなるかも知れない。ドライバー不足が今後も続くとすると、EVでドライバーを募集することが有利となるかも知れない。さらには、運転負荷の軽減による交通事故防止の効果も期待できよう。
  また、EV化によりエンジン回り・燃料タンク・三元触媒・マフラー等の主要部品が減る(一説には2万点超の部品が約1万点に減ると言われている)と、車両の保守面では点検・整備の手間・コストが減る可能性も大きい。
  佐川急便のEV導入は、2022年9月開始と報じられている。その頃には、また軽トラックを巡る動向が熱くなっているのではないだろうか。楽しみである。

以上


  
【参考資料】

  • 1.長谷川雅行「軽トラ運送が熱い」ロジスティクスレビュー第372・373号(2017)
  • 2.長谷川雅行「続・軽トラ運送が熱い」ロジスティクスレビュー第447・448号(2020)
  • 3.長谷川雅行「物流スタートアップの動向と課題」ロジスティクスレビュー第439~441号(2020)
  • 4.アマゾン・フレックス「Amazon Flex はじめてガイドブック」(2021年4月初版)
  • 5.本稿記載の各社・各団体・省庁の資料・ホームページほか。


(C)2022 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.

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