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グリーン・ロジスティクス

第471号 一貫パレチゼーションのすすめ(前編)(2021年11月4日発行)

執筆者  長谷川 雅行
(株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)

 執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会理事
    • (社)中小企業診断協会会員
    • 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    • 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか

 

目次

1.はじめに

(1)物流標準化に追い風
  物流の標準化・効率化については、後述のようにパレットやコンテナの「器材」が利活用されている。
  パレットを利活用するのを「パレチゼーション」、コンテナを利活用するのを「コンテナリゼーション」という。さらに、前者では、発地から着地まで積替なしで輸送することを「一貫パレチゼーション」という。
  本稿では、誌面の都合でコンテナを省いて、「追い風」という好機を捉えて一貫パレチゼーションに取り組もうとする読者の一つのヒントとしたい。

  筆者は、あるところで2004年から「物流標準化」について話をしているが、最近になって「追い風」が吹いているように感じている。そこには、さまざまな要因があると思う。
  「ドライバー不足で手荷役が嫌われている」「物流センターの作業者不足で機械化・自動化を迫られている」「外装を規格化・標準化して物流共同化を進めたい」などの質問・要望も多い。
  ご存じのように、2019年から国土交通省・経済産業省・農林水産省が合同で「『ホワイト物流』」推進運動」を展開している。同運動のサイトを見ると、2021年7月末で1,256者(企業・組合・団体等)が賛同し自主行動宣言を打ち出している。自主行動宣言の推進項目(複数)で最も多いのは、「パレット等の活用」で約半分である。裏返せば「パレット等を活用していない」企業が半分いるということである。パレットを活用した一貫パレチゼーションが、大いに期待されるところである。
(筆者注:どのくらいパレットが活用されているかについては、JILS「一貫パレチゼーション普及調査 (1992-2000年度)」がある。そこでは、「パレット化可能な輸送物量」のうち、「パレット輸送している物流」の比率を「パレット化率」として表しているが、最新(?)の2000年でみると調査対象25業種の平均は76.5%であり、国交省などもこの数字を使っている。)

  さらに、「総合物流施策大綱(2021~2025)」(1-(2)参照)では、「物流標準化」を重視する方向を打ち出している。
  「物流標準化」については、「大綱」概要の参考資料「物流DX」にもあるように、ハードである「包装・パレット」などの標準化と、ソフトである物流情報などの標準化があるが、誌面の都合もあるので、ここでは外装・パレット等のハードについて述べることにする。
  なお、本稿で述べる包装は特記以外、「外装(輸送包装)」をいう。
  当然、JIS(日本産業規格)や国際物流についてはISO(国際標準化機構)規格が中心となる。
  また、標準化・規格化については、農林水産品であればJAS(日本農林規格)、冷蔵冷凍食品であればHACCP、医薬品であればGDPなどでも定められているが、ここでは省略する。

(2)「総合物流施策大綱(2021~2025)」
  2021年6月に閣議決定された「総合物流施策大綱(2021~2025)」(以下、「大綱」と略す)では、「Ⅲ.今後取り組むべき施策」として、「①物流DX や物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化(簡素で滑らかな物流の実現)」「②時間外労働の上限規制の適用を見据えた労働力不足対策の加速と物流構造改革の推進(担い手にやさしい物流の実現)」「③強靱性と持続可能性を確保した物流ネットワークの構築(強くてしなやかな物流の実現)」の三本柱を掲げている。そのうち、①②では「物流標準化」も入っている。

図1 「大綱」の概要(抜粋)

(出所)国土交通省「総合物流施策大綱(2021~2025)概要」
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  ①では、「物流標準化の取組の加速」として、後述するユニットロードが取り上げられている。パレットの規格については、「将来的な国際一貫パレチゼーションの実現に向け、国内外の状況を注視しつつ、中・長期的な取組の方向について関係者の合意形成を図る」(下線は筆者。以下同じ)と、国際的な標準化への取り組み姿勢が伺われる。
  このうち、加工食品分野の取り組みについては、(3)で述べる。
  ②では、「農林水産物・食品等の流通合理化」として、「パレット規格や外装の標準化、パレットの運用ルールの確立等によるパレット化を促進する」とされている。
  これまで、農林水産物の物流については、 第456号・第457号「卸売市場法改正と最近の生鮮食品流通」で述べたように、国民生活に欠かすことのできない重要な物資であるにもかかわらず、輸送・荷役の機械化が遅れていた。
  それら「(農林水産物・食品等の)流通合理化・効率化を図ることで、持続可能な物流が実現されるよう、関係省庁で連携して業界の取組を後押しする」とされたのは大きな一歩である。農産品物流については、2016年から農林水産省 ・経済産業省 ・国土交通省による農産品物流対策関係省庁連絡会議で、パレット・フレキシブルコンテナを導入した改善・効率化に取り組んでいる。

(3)加工食品物流効率化における標準化の動向
  上記①では、「物流標準化の取組の加速」のなかで、「業種分野ごとに物流の標準化を推進」することとされており、そのトップバッターとして、2020年から加工食品分野で「物流標準化」が進められている。
  既に、ガイドラインも策定して、その進捗状況がフォローされている。
  例えば、「パレット規格」については、「飲食・酒物流ではT9型パレット(筆者注:通称「ビールパレット」)が主流となっており、T12型等ほかのパレット規格との親和性が低い」と現状・課題を指摘しており、その「解決の方向性への論点」としては、「飲料・酒については引き続きT9型の利用を推奨。加工食品で利用されているT11型、T12型も念頭に置いた庫内運用を推進」すると述べられている(「荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン 加工食品、飲料・酒物流編」2021年4月、国土交通省)。
  加工食品分野以外にも、「大綱」では目標数値(KPI)として、「業種分野別の物流標準化に関するアクションプラン・ガイドライン等策定数」を3件(2021~2025年度)としている。上述の「農産品物流」も先行しているので、5年間で3件は少ないような気もするが、とりあえずは期待したい。

図2 食品業界の一貫パレチゼーションの実現

(出所)国土交通省資料
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(4)フィジカル・インターネットと物流標準化
  上述の「大綱」では、フィジカル・インターネットとは「貨物情報や車両・施設などの物流リソース情報について、企業間情報交換における各種のインターフェイスの標準化を通じて、企業や業界の垣根を越えて共有し、貨物のハンドリングや保管、輸送経路等の最適化などの物流効率化を図ろうとする考え方」としている。
  インターネットでは、データを細切れにしたうえで、パケット(小包。1パケット=128KB)という共通の「容器」に入れて、ネット上を瞬時に伝送する。
  フィジカル・インターネットでも、貨物を一定の荷姿(パレットやコンテナ)でパケット化して、保管機器・輸送用具でつながったネットワーク上を、シェアしながら輸配送される(と筆者は思っている)。

2.標準化の現在地

  ここでは、パレットを中心に、物流標準化の意義や現在地について述べ、標準化に関する情報の理解・共有化を図りたい。

(1)標準化の意義
  物流には、「輸送」「保管」「包装」「荷役」「流通加工」「情報」の6つの要素から構成されると、一般的には言われている。各要素の所管省庁は、国土交通省(運輸・倉庫)、総務省(情報)などに分かれている。包装や流通加工は、各業界を所管する経済産業省(自動車・電機・鉄鋼など)、農林水産省(食品・農水産物など)・厚生労働省(医薬品など)等が担当していると言えよう。それでは「荷役」はどこかというと、ユニットロードシステム通則(3-(3)参照)やマテハン機器から見ると経済産業省が所管しているようである。
  というように、物流の6要素を一気通貫に所管する省庁がないのが、日本の物流政策上の問題ではないかと、筆者は考えている。
  「標準化の意義」等については、経済産業省が「知っていますか標準化」というパンフレットで、分かりやすく説明している(図3・4参照)。

図3 知っていますか標準化

(出所)経済産業省
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図4 標準化でできることって何?

(出所)経済産業省
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

(2)標準化の進め方と効果
  標準化の目的は、後述の産業標準化法第1条に定める通り、「鉱工業製品等の品質の改善、生産能率の増進その他生産等の合理化、取引の単純公正化及び使用又は消費の合理化」である。
  標準化の進め方は、一般的に以下の通りである。

①共通する製品や機能の相互理解を促すための基準づくり
  まず、皆で用語・記号・製図などを揃える必要がある。
  用語について、本稿の主題である「パレット」と書けば、読者は貨物を載せる輸送保管用の機材をイメージする。仮に、本稿が図2のようなイラストを描く教本であれば。絵の具を混ぜる「パレット」をイメージする。同じ「パレット」という「用語」でも、全く異なるモノを指す。
  物流に関する用語でも、企業内だけ通じる用語、業界だけで通じる用語(ギョーカイ用語と言われる)など、さまざまである。各地の方言には歴史や文化的価値があるが、ビジネスとしては「標準語」でないと困る。
  そこで、物流についても、JIS Z0111で標準語としての「物流用語」が定められている。「まず、言葉から統一しましょうヨ」ということである。
  「物流用語」では、「1001物流」から始まって「7007トレーサビリティ」まで、7分野76用語について定義や対応英語が定められている。
  同様に、記号・製図(図面)の標準化も欠かせない。

②製品や機能を利活用する際の環境・安全等の基準づくり
  次に、「標準化」された製品・機能を利活用する人間が、安心して利活用できるように、健康・環境・安全等の基準が必要となる。図2で言えば、自動車の安全基準や、工作機械の環境基準(振動・騒音等)である。物流センターの換気・温度・照度などもその一つである。

③システムの整合性の確保のための基準づくり
  三番目に、多くの製品や機能は単体で利活用されるより、一つのシステムとして利活用されるので、そのための「共通性・互換性」が必要となる。パレットの大きさは、輸送機器・保管機器間での共通性・互換性を重視して、JISで定められている。
  標準化の効果としては、図4でも示されているが、企業サイドから見れば「生産性向上」「品質向上」「コスト低減」「納期短縮」「安全」などが挙げられる。現場改善のテーマであるPQCDSそのものである。

※中編(次号)へつづく


(C)2021 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.


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