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グリーン・ロジスティクス

第341号 第3回 買い物行動とロジスティクス -連載「二極化する物流」-(2016年6月9日発行)

執筆者  山田 健
(山田経営コンサルティング事務所代表 流通経済大学非常勤講師)

 執筆者略歴 ▼
  • 主な経歴
      1979年日本通運株式会社入社。1997年より日通総合研究所で、メーカー、卸の物流効率化、コスト削減などのコンサルティングと、国土交通省や物流事業者、荷主向けの研修・セミナーに携わる。2014年6月山田経営コンサルティング事務所を設立。
      著書に「すらすら物流管理(中央経済社)」「物流コスト削減の実務(中央経済社)」「物流戦略策定のシナリオ(かんき出版)」などがある。中小企業診断士。

 

目次

1.買えない枝豆

  あまり飲める方ではないが、たまには家でビールを飲みたくなる。ビールのつまみといえば枝豆である。先日、つまみの枝豆パックを買おうと、帰り道のコンビニに寄った。同じような人は多いとみえて、枝豆の競争率は結構高い。だが、この日は運よく最後の1パックを手にすることができた。ところがレジでお金を払おうとしたら、POSレジが反応しない。
  どうやら賞味期限を数時間超過してしまったために、レジがシャットアウトしてしまったのである。賞味期限切れの商品はすみやかに棚から撤去しなければならないのだが、たまたまチェックに漏れた品を筆者が手にしてしまったのだ。普段から、2、3日の賞味期限切れなどまったく気にせず口に入れてしまう筆者(決してケチっているわけではない)は、「期限切れでもいいから売って」と粘ったのだが、店員は「レジを通せないので売れない」の一点張りである。
  日付も見ないで買う方も買う方だが、それを絶対に「買えなくする」仕組みもすごい。
  以前、期限切れ商品を安売りしてフランチャイズの本部から訴えられたコンビニオーナーがいたが、今はITの力でそれを阻止しているわけである。「物流とIT」を武器にしたコンビニの実力を再認識させられたできごとではあった。

2.弁金100万円

  こちらは、先日訪れたある倉庫会社での話である。インスタント食品の保管業務を物流不動産開発会社から新しく借りた物流センターに移転させたところ、大赤字だという。収支内容を見ると、収受保管料が借庫料に対して逆ザヤになっている。これはもう契約上の問題であり、少々の効率化を図ったところでどうにもならない、とサジを投げかけたとき、ある異常な数値に気が付いた。
  毎月弁金(弁償金)額が100万円近く発生しているのである。100万円の弁金と言ってもピンとこないかもしれない。何十年も前であるが、筆者が勤務していた物流会社の物流センターでは、大手酒類メーカーの保管から配送までの物流を一括して引き受けていた。その当時の路線便の品質は惨憺たるものであった。あまり大きな声では言えないが、商品の破損、ターミナルでの仕分け間違い、誤配送などの物流事故は日常茶飯事で、毎月荷主へ多額の弁金を支払う羽目に陥っていた。その弁金額が多い時で月50万から60万円である。商品価格には酒税が含まれているため高額になっていることは確かではあるが、それにしても高額な買い取り額(?)である。
  こうした事情から決して偉そうに指摘できる立場ではないが、商品価格がはるかに低いインスタント食品の弁金額が100万円というのは明らかに異常な数値である。いったいどうしたら100万円もの商品を破損、紛失できるのか。そもそも商品はどこへ行ってしまったのか。
  詳しく聞けば、事情はこうである。商品の入ったカートンには製造月日が印字されている。同じ納品先に前に納品したものより古い日付の商品を納めて(いわゆる日付の逆転)しまうとすべて返品となってしまう。古い日付が返品されたわけであるから、他の納品先への出荷もできない。そこで出荷ミスを起こした倉庫会社が弁金を払って買い取ることになる。それが100万円の正体である。

3.中途半端な情報化はしないのと同じ

  直接的な責任はもちろん誤出荷した倉庫会社にある。しかし、実態を調べていくと、倉庫会社だけを一方的に責めるには気の毒な事情も多々あることに気付いた。少々細かい話になるが「物流の二極化」と無関係ではないので、詳しく説明しよう。
  まず、商品はパレット積載で物流センターに入荷するが、全量倉庫会社所有のパレットへの積み替えが行われる。たぶんパレットの流出を防止するためであろう。
  カートンには商品名のJISバーコードがプリントされているものの、製造年月日はバーコード化されておらず印字のみである。ここから先の入庫、出庫作業はすべて、作業者の目視による作業となる。商品名、製造年月日を確認しながら格納を行う。ロケーション管理は行われていない。
  納期はオーダー翌日であるので、入出庫はほぼ24時間作業となる。作業者はシフト勤務である。そうすると、入庫と出庫は別の作業者が行うことになる。ロケーション管理が行われていないので、出庫担当は広い物流センターの中で商品をあちこち探し回ることになる。しかも、出庫のピークは夜中の2時から明け方にかけてである。探し回って疲れ切ったところで、ようやく見つけた商品の日付をよく確認せずに出荷してしまっても不思議ではない。
  ハンディ・ターミナルでバーコードを読み取り、アドレスを決めてロケーション管理をやればいいじゃないか、と思われるかもしれない。ここで問題となるのが「カートンに製造月日がバーコード印刷されていないこと」である。日付管理が必要な商品は、同じ商品名であっても製造年月日が違えばまったく別な商品として管理しなければならない。
  商品名だけバーコード化されているカートンに日付別のロケーション管理を導入しようとすればどうなるか。まず入庫時に作業者は商品名をスキャンし、カートンの製造年月日と数量をハンディに手入力しなければならない。次にカートンの格納場所まで移動したら、ロケーションを手入力する。
  出庫担当はピッキングリストに表示された格納場所で商品名をスキャンして確認後、製造年月日と出庫数量をハンディに入力して出庫登録を行い、商品を出庫する。
  こう書いてきただけで、ハンディ・ターミナルへの手入力の煩雑さがわかるだろう。仮にロケーションをバーコード化したとしても、製造年月日を手入力していたのではあまり手間は減らない。中途半端な情報化は、情報化されていないのと同じなのである。
  実際、この倉庫会社ではハンディによる入出庫管理システムを導入しようとしたが、時間に追われる作業者が煩雑な処理を続けられるわけもなく、使われないまま無用の長物となってしまっている。

4.情報化は「モト」から

  カートンに製造月日が印刷されていない食品は珍しくない。日付やロット番号などの可変情報が入った属性情報バーコードは、事前に印刷ができないため、生産・包装段階でラベルシールに印字して段ボールに貼付するか、包装材にIJP機器を用いて直接印字する必要があるからである。当然コストもかかる。
  そのような場合、パレット単位に製造年月日を含む商品情報と紐づいた「パレット伝票」を添付しておくのが普通である。入庫時、出庫時にこのパレット伝票のバーコードをスキャンすることによってすべての情報を取り込むことができる。数量はカートン1つ1つをスキャンするか、まとめて総数を入力するかで済むし、ロケーションは格納場所にバーコード表示しておけばいい。返品を伴うほど厳密な日付管理を要求する以上、そこまでしないのはメーカーの片手落ちである。
  ちなみに、このインスタント食品メーカーでは納品先への配送はすべて手積み手卸しである。商品単価が安いため、積載率の落ちるパレット配送ができない事情はわかるが、ドライバー不足の昨今、もっとも嫌われるのが手積み手卸しである。このような「前近代的」な物流を続けていると、近い将来誰も運んでくれなくなることに早く気付くべきである。
  要は企業として物流への関心が低い、あるいは物流部門の位置付けがいまだ低いことがこの背景にあると思える。工場から出てしまえば、あとは物流事業者の責任といった姿勢では本当の効率化はできない。とくに情報化は工場出荷時点である「モト」から行わなければ意味がないのである。

5.日付の逆転と1/3ルール

  枝豆が買えなかったり、多額の弁金が発生したりといった大きなムダが生まれている背景には食品業界独特のルールがある。その典型が日付の逆転と1/3ルールである。
  日付の逆転はすでに説明したとおり、流通業者において以前に納品したより古い日付の商品が荷受け拒否されることである。日付の逆転が起こると、たとえ賞味期限が残っていてもその商品は出荷不能になる可能性が高くなる。
  「物流センターで先入れ先出しをきちんと行っていれば日付の逆転は起きないのではないか」と思われるかもしれない。常に同一のセンターから同一の納品先へ配送していれば、たしかにそうであるが、現実には物流センター間での在庫の偏在が発生する。在庫の遍在が起きると、ある商品が不足したセンターに他のセンターから急きょ在庫を移動して出荷することになる。物流センターによって在庫の日付には違いが出るので、移動した在庫が以前のものより古い、という事態は発生しうるのである。
  1/3ルールは食品業界に関係ない人には耳慣れない言葉かもしれない。理屈は単純である。賞味期限を3分割し、最初の1/3をメーカー、次の1/3を流通業、最後の1/3を消費者の手元で許容される期限とする。このルールの下では、メーカーから卸や小売りに納品された時点で賞味期限の1/3を超えていれば、残りの2/3は保証できなくなるので返品となってしまう。先の日付の逆転とこの1/3ルールはどちらか一方でも抵触すればアウトである。
  このようなルールが厳密に適用され、まだ食べられる食品が大量に廃棄されていることを一般の消費者はまず知らないだろう。

6.行き過ぎた賞味期限管理がムダな物流を増やす

  このようなルールによって食料が大量に廃棄されることにくわえ、物流面でも大きなムダが発生することはいうまでもない。一度納品された商品が返品されることによって、往復の輸送・配送コスト、保管コスト、返品処理コストのすべてがムダになる。とくに返品処理は手間がかかるので、コストは通常配送の何倍にも膨れ上がることが多い。
  さらに深刻なのは、この連載でもすでに述べてきたように、いまや貴重な「有限資源」であるトラックをムダに運行させてしまうことである。もはや増えることは見込めないトラックを有効活用するには、極力運ぶべき物量を減らす必要があるのだが、返品物流はその流れに逆行してしまう。
  話は少しそれるが、食品の物流にはこれ以外にもさまざまな問題が指摘されている。なかでもドライバー不足に影響が大きいと考えられるのは、卸の納品時間指定である。物流事業者に聞くと、大手食品卸の指定時間はおおむね午前中の8時から9時。その時間に納品するために6時ころから並んでいると、整理券をくれる。まともに待っていると午前中の回転がまったくできなくなってしまうので、整理券を受け取った後は、いったん社に戻り別な配送を行うのだという。一仕事終わって11時ころに戻っても、そこでさらに待たなければならないらしい。
  「午前中荷受け、午後出荷」という一般的な物流センターの作業スケジュールにしたがっている結果であることは十分に理解できるところではあるが、貴重なトラック資源を有効に活用するためには、トラックの運行に合わせて構内作業のスケジュールを組み立てなければならなく日も遠くないかもしれない。

7.食品リサイクル法

  農水省の資料によると、平成22年度の推計で食品廃棄物の年間排出量は、メーカー、卸、小売り、外食産業などの事業系で641万トン、家庭系で1,072万トンだそうである。そのうち、まだ食べられるものが事業系で300~400万トン、家庭系で200~400万トン。世界の食糧援助総量470万トンをはるかに上回る「まだ食べられる食料」が廃棄されていることになる。
  もちろん、これには先のルール以外で廃棄されている食料も含まれているわけであるが、いずれにしろとてつもない「食料浪費大国」であることは間違いない。
  これも意外と知られていないが、政府は平成12年に「食品リサイクル法」を制定し(19年に一部改正)、食品廃棄物の削減と再生利用を促している。法の趣旨は以下のとおりである。
  食品の売れ残りや食べ残しにより、又は食品の製造過程において発生している食品廃棄物について、
①発生抑制と減量化により最終処分量の減少を図るとともに、
②資源として飼料や肥料等に再生利用又は熱回収するため、食品関連事業者による再生利用等の取組を促進する。
  そして、業種別の再利用率の目標として、食品製造業(85%) 食品卸売業(70%) 食品小売業(45%) 外食産業(40%)を掲げている。
  公表されたデータを見ると、廃棄率は徐々に下がってきているようであるが、あくまでも推計値であり、最近の賞味期限管理の厳密さなども加味すれば、生活者の実感としてはむしろ増えているようにすら思える。

8.買い物行動

  では、この原因はどこにあるのだろうか。日付の逆転や1/3ルールを作った流通業か、それを守れないメーカーか。2011年に経済産業省が黒子役となり、大手のメーカー、卸、小売りが中心となって「製・配・販連携協議会」が発足、賞味期限表示やルールそのものの見直しに向けた取り組みが始まっている。しかし今のところ、1/3を1/2にするかどうかといった議論に留まっており、目立った成果はみられない。なぜだろうか。
  元をたどっていけば、その根本的な原因は私たち消費者の買い物行動にあるからである。私たちはスーパーでわざわざ古い日付の食品から買うだろうか。まず間違いなく棚の奥から取り出す。もちろん筆者も例外でない。その結果、棚の前列にはいつまでも古い日付が残され、やがて廃棄の運命をたどることになる。そのような私たちの買い物行動が根底にある限り、残念ながら日付の逆転も1/3ルールもなくならないだろう。
  コストばかりかかって誰も得をしないのだから、おそらくメーカーでも流通業者でもこのような商慣行をやめたいに決まっている。ただ、サービス・レベルに対する消費者満足は後戻りすることがない。一度、慣れ親しんでしまったサービスを少しでも落そうものなら、「あの店の商品は古い」というレッテルを貼られ、客が寄り付かなくなる。それがわかっているから、ムダを承知で踏み出せない、というのが現実であろう。

9.最後は値段か

  古い日付の商品を残さない方法がないことはない。一つは、賞味期限をまったく表示しないことである。伝統的な自分の鼻で賞味期限を判断する方法である。でも今どきそんなことが受け入れられるはずもないので、これは問題外。
  二つ目は棚に1つの賞味期限の品しか陳列しないことである。古いものが売り切れたら順次新しい商品を並べる。倉庫の先入れ先出しと同じ手法である。一見有効な方法に思えるが、陳列管理に大変な労力がかかる。商品在庫を仮置きする広いバックヤードも必要になる。接客に精一杯のコンビニなどではとても無理であるから、これも現実的でない。
  最後は価格による需給調整機能を使うことである。賞味期限ギリギリあるいは切れている商品の値段を下げることである。実際、スーパーなどで夜遅い時間に値下げをして売り切り行っているところは多い。まわりの主婦に聞いてみても、安ければ気にしないで買う、という意見は多い。
  問題は新鮮な商品を求めている「お客様のニーズ」を盾に、値下げを認めず廃棄を選んでしまう小売り側にある。理由はむしろ別なところにあるのかもしれない。多くの消費者は価格調整機能を歓迎するはずである。高くても新鮮なものを買う人もいれば、古くても安い方を選ぶ人もいる。判断は消費者に任せればいいのである。ドライバー不足が深刻度を増す中、現実に向き合わなければならない時が確実に近づいている。

以上



(C)2016 Takeshi Yamada & Sakata Warehouse, Inc.

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