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第186号食品リバースロジスティクスに関する一考察 (2008年度環境調和型ロジスティクス調査より)(2009年12月15日発行)

執筆者 五関 信之
社団法人日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所 准主任研究員

執筆者略歴 ▼
  • 学歴
    • 1996年 埼玉大学大学院理工学研究科博士前期課程建設基礎工学専攻修了
    • 2006年 多摩大学大学院経営情報学研究科ロジスティクス経営コース修了(MBA)
    • 1999年 社団法人日本ロジスティクスシステム協会 入職

目次


1.はじめに

本レポートは、食品残渣の物流に係る問題・課題を明らかにするとともに、ロジスティクスの視点から課題解決の方向性を示すことを目的として、学識経験者及び企業関係者からなる委員会を設置して実施された、経済産業省の委託調査である、「2008年度環境調和型ロジスティクス調査」の調査結果の概要をまとめたものである。

2.食品残渣物流の実態

食品産業における食品残渣の発生量は、10,919千トン(平成13年)から11,352千トン(平成18年)と、わずかながら増加傾向を示している。業種別に見ると、外食産業は減少傾向であるが、製造業、卸売業、小売業は増加傾向である。特に小売業は5年間で10%を超える伸びを示している。
一方、食品残渣の再生利用(飼料化、肥料化、油脂化、メタン化)等の実施率の推移を見ると、全体として増加の傾向にある。業種別に見た場合(平成18年度データ)、製造業が81%と高く、逆に小売業、外食産業がそれぞれ35%、22%と低い率となっている。
業種間での比率が乖離している要因として、①製造業では、工場から比較的加工度の小さい原材料系の食品残渣が大量かつ安定的に排出される場合が多いのに対し、小売業では、店舗から加工度の大きい商品系の残渣が少量かつ分散型で排出される傾向にあること、②工場においては、敷地内での再生利用機器や保管庫の設置スペースの確保が比較的容易であるのに対し、店舗においては、それらの設置スペースの確保が困難な場合が多いこと、などが推測される。
また、本調査では、企業ヒアリングにより食品残渣物流の実態を調査した。その結果を表1に示す。
表1 食品残渣物流の実態

引用先 2008年度環境調和型ロジスティクス調査報告書
*画像をClickすると拡大画像が見られます。
ヒアリング調査や既存資料の整理により抽出された食品残渣の物流上の課題は以下のとおりである。

(1) 食品残渣は腐敗しやすい。特に飼料化する際には注意しなければならない。食品残渣の品質に影響を及ぼさないためには、短期間回収や輸送時・保管時に保冷機能が必要となる。
(2) 食品残渣が悪臭を発生する可能性があり、かつ形状不安定であるため、悪臭漏れ防止や破損防止のために、輸送時・保管時に保管容器が必要となる。
(3) 回収した食品残渣をリサイクルするためには分別が必要となる。
(4) リサイクルを行う中間処理施設が回収エリアの近隣に存在しない場合は、遠方の中間処理施設への長距離輸送が発生する。
(5) 法制度による制約があるため、非効率な物流が行われている(例 廃棄物処理法:再委託の禁止、一般廃棄物と産業廃棄物の明確な区分、動脈・静脈の混載等の禁止、積替保管の禁止、許可区分範囲の厳格な規定等)。
(6) 特に小売業や外食産業からの食品残渣は、①多店舗から少量が発生する、②発生量に変動がある、③回収時間が集中する等の特徴があるため、非効率な物流が行われている。
(7) 食品残渣を発生させやすい商慣行も問題点として挙げられる。例えば、賞味期限前に店頭から商品を除外する、頻繁な新商品販売・企画変更、欠品防止のための在庫保有、最小出荷ロットと注文量のミスマッチ等である。

このような課題に対して、物流・ロジスティクスの視点から解決策を検討した。まず、食品残渣物流量そのものを減少させられる発生抑制対策とボトルネック(表2参照)を検討し、対策を実施しても、なお発生する食品残渣に対しては、再生利用を前提として、物流・ロジスティクス視点からの解決策とボトルネック(表3参照)を検討した。なお、現状の法規制の範囲内で解決策を検討するとなると、ごく限られたものとなってしまうため、ここでは法規制の制約は課題として位置づけて解決策を検討した。

表2 発生抑制策
対象拠点 発 生 抑 制 策
工場
  • 社員への発生抑制に向けた教育・啓発の徹底
  • 食品残渣が出にくい全体システムの導入
  • 食品残渣が発生する際は、極力、工場内で循環利用する(ゼロエミッション)
物流センター
  • 減量化等の設備の導入
  • 売買契約の徹底
店舗
  • 精度の高い需要予測に基づく仕入れ及び調理の実施
  • 店員への教育の徹底
  • 売り切る(適切な販売期間の確保、値引き、見切り販売等)
  • 食べきってもらう(適切な提供量)
  • 売れ残り、食べ残し食品の有効活用(フードバンク、ドギーバッグの活用等)
  • 減量化等の設備の導入

2008年度環境調和型ロジスティクス調査報告書をもとに筆者が作成

表3 物流・ロジスティクス視点からの解決策
解   決   策
輸送 (1) 隔日回収の実施(回収回数の削減)

  • 工場、物流センター、店舗等に食品残渣の保冷庫を設置するなどして、回収回数を削減し、効率化を図る。

<ボトルネック>保冷のためのエネルギー使用量(CO2排出量)に配慮が必要。

(2) 同一車輌における他品目混載、動脈静脈物流の一体化

  • 運搬車輌への保冷機能、間仕切り等を設置し、混載あるいは動脈・静脈物流の一体化を行う。

<ボトルネック>廃棄物処理法、食品衛生法上の制約。

(3)運搬事業者同士の連携

  • 複数の運搬業者が協力して車輌を融通させる(再委託の実施)。

<ボトルネック>廃棄物処理法上再委託は原則禁止。

(4) 中間処理施設の近接化

  • 集中して食品残渣が発生する地域の近傍に中間処理施設(リサイクル施設)を建設(設置)し、輸送距離の短縮を図る。

<ボトルネック>建設(設置)スペースの確保、特に都心部では住民の同意を得られにくい。

(5) 小売・外食産業等との共同回収

  • 同業、異業との共同回収の実施。

<ボトルネック>既存回収方法の変更、再構築の手間、食品残渣の分別、企業秘密の管理。

(6)回収車輌の小型化

  • 回収車輌の小型化、低燃費化を推進し、積載率の向上、輸送費用の低減を図る。

<ボトルネック>特になし。

(7) 回収時間の融通性の拡大

  • 回収時間をフレキシブルに設定し、車輌移動の効率化を図る。

<ボトルネック>努力次第で可能であるが、店舗側での人的余裕のある時間に限定される場合もある。

(8) 他店舗・他業種との共同回収

  • 同業、異業との共同回収の実施。

<ボトルネック>既存回収方法の変更、再構築の手間、食品残渣の分別、企業理念の違い、企業秘密の管理。

(9)回収拠点の集約

  • 近隣の店舗に食品残渣を持ち込み、全体での回収拠点を少なくし、効率化を図る。

<ボトルネック>近隣店舗への移動方法、受け入れ体制等。

荷役 (1) 適正な分別の実施

  • リサイクル用途、リサイクル施設の機能に合わせた分別の実施。

<ボトルネック>手間と時間(コスト)。

(2) 運搬車輌への保冷機能の設置

  • 運搬車輌への保冷機能を設置する。

<ボトルネック>設置コスト。

(3)リサイクル施設の機能向上

  • ひとつの施設で多様なリサイクル機能あるいは食品残渣とその他のものの混同処理可能な機能の付帯(排出者側での分別必要なし)。

<ボトルネック>コスト。

(4) クロスドック拠点の設置

  • 一定のエリアで食品残渣のクロスドック拠点を設置し、箇所あたりの回収量の増加と分別作業の合理化を図る。

<ボトルネック>クロスドック拠点のスペース確保、クロスドック拠点の管理、産業廃棄物・一般廃棄物を一体とした場合、積み替え保管となる場所の廃棄物処理法への対応等。

包装 (1) リサイクルしやすい包装資材の採用・開発

  • リサイクルの推進に適した分別の手間がかからない、あるいは分別のいらない包装材の開発を行う。

<ボトルネック>技術面、コスト。

2008年度環境調和型ロジスティクス調査報告書をもとに筆者が作成

3.食品残渣リサイクルモデルの検討

3-1 リサイクルモデルの構築
販売期限切れの商品(弁当やおにぎり等)や調理くず・野菜くず等の食品残渣が少量分散型(多店舗)で排出され、小ロットでの回収が日々行われている小売業(コンビニエンスストア)と外食産業(ハンバーガーショップ)を対象として、食品残渣リサイクルモデルを構築した。概要は表4のとおりである。なお、現状の法規制の範囲内で実施可能性が高いモデルを提案するとなると、ごく限られたモデルのみの提案となってしまうため、ここでは法規制の制約は課題として位置づけてモデルを作成した。

表4 食品残渣リサイクルモデル 概要
ID 名 称 概     要
A 現況モデル
  • 現況の再現を試みたモデルである。
  • 対象エリア内のトラック拠点を回収車両の発地とする。
  • コンビニエンスストアの食品残渣は、企業(チェーン)毎に回収し、遠方の中間処理施設へ輸送する。
  • ハンバーガーショップの食品残渣は、共同で回収し、近隣の中間処理施設へ輸送する。
  • 中間処理施設への輸送終了後、回収車両はトラック拠点へ戻る。
A-1 回収車両小型化モデル
  • 現況モデルの回収車両の最大積載量を小さくしたモデルである。<
  • 食品残渣の品質管理や回収時間の制約等の問題から、1日に回収できる店舗数に限界があり、食品残渣は積載率が低い状態で回収されている。回収車両を小型化し、車両1台あたりの二酸化炭素排出量を削減する。
A-2 隔日回収モデル
  • 回収頻度を隔日にしたモデルである。
  • 1店舗からの1日あたりの食品残渣排出量は少ないため、食品残渣は積載率が低い状態で回収されている。毎日回収するのではなく、隔日回収に変更し、回収車両の走行台数を半減させ、二酸化炭素排出量を削減する。
A-3 回収先集約モデル
  • 同じ町丁目内にある店舗の食品残渣を1店舗に集約し、コンビニエンスストア、ハンバーガーショップの回収先を集約し、回収するモデルである。
  • 1店舗からの1日あたりの食品残渣排出量は少ないため、食品残渣は積載率が低い状態で回収されている。回収先を集約することにより、回収車両の走行台数を減少させ、二酸化炭素排出量を削減する。
A-4 CVS中継拠点モデル
  • コンビニエンスストアの食品残渣を各社で回収した後に、中継拠点にて集約し、中間処理施設へ輸送するモデルである。
  • 積載率が低い回収車両が大量に中間処理施設へ輸送することは非効率であることから、各店舗から食品残渣を回収した後に、ある拠点(中継拠点)にて集約し、中間処理施設へ輸送する車両台数を減少させ(積載率も向上させ)、二酸化炭素排出量を削減する。
  • 中継拠点をトラック拠点とは別に設置するモデル(CVS中継モデル:A-4)と、トラック拠点内に設置するモデル(CVS中継拠点・ミルクランモデル:A-5)の2タイプのモデルを作成した。
A-5 CVS中継拠点・ミルクランモデル
A-6 CVS中間処理施設近接モデル
  • 遠方の中間処理施設から、近隣の中間処理施設に変更して輸送するモデルである。
  • 積載率の低い回収車両が遠方の中間処理施設へ輸送することは非効率であることから、近隣の中間処理施設へ輸送することにより、走行距離が短くなり、二酸化炭素排出量を削減する。
B1 共同回収・近隣共同処理モデル
  • コンビニエンスストアの食品残渣とハンバーガーショップの食品残渣を共同回収することを想定したモデルである。
  • 食品残渣の処理方法が同じである場合、業態問わず、共同で回収することが可能となる。
  • 中間処理施設の位置を、回収エリアから遠方の中間処理施設Aと、近隣の中間処理施設Bの2タイプを設定し、それぞれを、共同回収・近隣処理モデル(B1)、共同回収・遠方処理モデル(B2)とした。
B2 共同回収・遠方共同処理モデル
C1 共同回収クロスドックモデル
  • コンビニエンスストアの食品残渣とハンバーガーショップの食品残渣を共同回収し、クロスドック拠点にて分別し、個々の中間処理施設へ輸送することを想定したモデルである。
  • コンビニエンスストアとハンバーガーショップの食品残渣の処理方法が異なる場合であっても、共同で回収した後に、ある拠点(クロスドック拠点)にて分別することが可能であれば、業態を問わず共同で回収することが可能となる。
  • クロスドック拠点をトラック拠点とは別に設置するモデル(共同回収クロスドックモデル:C1)と、トラック拠点内に設置するモデル(共同回収クロスドック・ミルクランモデル:C2)の2タイプのモデルを作成した。
C2 共同回収クロスドック・ミルクランモデル

2008年度環境調和型ロジスティクス調査報告書をもとに筆者が作成

3-2 シミュレーション結果
前節で構築した食品残渣リサイクルモデルにおける、食品残渣の輸送による二酸化炭素排出量のシミュレーションを行った。対象エリア(回収エリア)は東京都江東区とし、江東区内のコンビニエンスストア142店、ハンバーガーショップ32店、合計174店を対象店舗とした。
図1は、各リサイクルモデルの二酸化炭素排出量の比較結果を示している。
図1 各リサイクルモデルの二酸化炭素排出量(試算結果)

引用先 2008年度環境調和型ロジスティクス調査報告書
*画像をClickすると拡大画像が見られます。
(1) 総排出量比較
現況モデルと比較して、二酸化炭素排出量の削減効果が大きいモデルは、「8.共同回収・近隣共同処理モデル(B1)」と「7.CVS中間処理施設近接モデル(A-6)」である。この2つのモデルの共通点は、回収エリアと中間処理施設が近いことである。「地産地消」という言葉があるが、食品残渣においても、排出地と処理地が近いことが効果的であることがうかがえる。
次に削減効果がみられるモデルは、「11.共同回収クロスドック・ミルクランモデル(C2)」、「10.共同回収クロスドックモデル(C1)」、「6.CVS中継拠点・ミルクランモデル(A-5)」、「5.CVS中継拠点モデル(A-4)」である。これらのモデルの共通点は、回収エリア内で回収した食品残渣を集約することにより、遠方の中間処理施設へ輸送する車両台数を削減している点である。つまり、共同化が効果的であることがうかがえる。しかし、「9.共同回収・遠方共同処理モデル(B2)」のように、回収と処理を共同化しても、遠方の中間処理施設へ輸送する場合は、削減効果は小さい。
(2) 回収エリア内の排出量比較
現況モデルと比較して、回収エリア内の二酸化炭素排出量の削減効果が大きいモデルは、「11.共同回収クロスドック・ミルクランモデル(C2)」、「8.共同回収・近隣共同処理モデル(B1)」、「9.共同回収・遠方共同処理モデル(B2)」、「10.共同回収クロスドックモデル(C1)」、「4.回収先集約モデル(A-3)」である。これらのモデルは、コンビニエンスストアとハンバーガーショップが共同回収をしているモデルである。積載率の向上と回収車両の走行台数削減による効果と言える。
また、「3.隔日回収モデル(A-2)」のように、企業独自の回収であっても、回収頻度を少なくし、回収車両の走行台数を減少させることも効果的であると言える。
一方、「5.CVS中継拠点モデル(A-4)」、「6.CVS中継拠点・ミルクランモデル(A-5)」のように中継拠点を設置するモデルについては、全体としては削減効果があるものの、回収エリア内ではあまり削減効果が見られない。「5.CVS中継拠点モデル(A-4)」に関して言えば、二酸化炭素排出量が増加している。中継拠点の位置により二酸化炭素排出量が増加する可能性がある。

おわりに

本調査では、食品残渣物流の実態を把握するとともに、課題や解決策を整理された。さらに、リサイクルモデルが構築され、シミュレーションによる検証も行われた。
小売業や外食産業における食品残渣物流の非効率な部分を改善するモデルの実現が望まれるところであるが、法制度上の制約条件が実施上の高いハードルになっている。近年、注目されている分野の物流をテーマにした調査であるため、継続的な検討が望まれるところである。

以上



(C)2009 Nobuyuki Goseki & Sakata Warehouse, Inc.

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