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グリーン・ロジスティクス

第473号 一貫パレチゼーションのすすめ(後編)(2021年12月9日発行)

執筆者  長谷川 雅行
(株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)

 執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会理事
    • (社)中小企業診断協会会員
    • 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    • 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか

 

目次

*前号(2021年11月16日発行 第472号)より

3.一貫パレチゼーション

(1)一貫パレチゼーションとパレットプールシステム
  以上、JISに基づく包装・パレット、さらにはユニットロードシステム通則の現在地を長々と述べてきたのは、これらを共有ツール・資産として円滑な一貫パレチゼーションを導入してほしいからである。
  例えば、図5の加工メーカーの工場倉庫では機械荷役・パレット保管しているが、トラックへの積み込みの時には「手積みしてパレットは持ち出すな」、量販店の配送センターでは、入荷の際に「パレットに積み付けて行け」ということはないだろうか?
  それを図5のように、「一種のパレットで流通を一本化」するのが一貫パレチゼーションである。

図5 一貫パレチゼーション

(出所)日本パレットレンタル(JPR)社資料
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  パレタイズド貨物が1つのユニットとして、途中での積換えなしに(一貫して、スルーして)、発地から着地までの物流過程を経過していく。そこで、一貫パレチゼーションと呼ばれ、使われるパレット(2003年版のユニットロードシステム通則では1100mm×1100mmに限定)には、「Through(スルー)」の頭文字を冠して「T11型」とされた。2020年改定版では、上述のようにT11型に加えて、1200mm×1000㎜サイズも採用されている。
  一方で、一貫パレチゼーションの阻害要因としては、

①管理面
・パレットの流失・紛失(盗難?)が多い
・保管・修繕等の管理が必要
・空パレットの返回送

②作業面
・製品(貨物)の輸送包装寸法が整合しない
・保管、荷役設備や輸送機関と整合しない
・輸送機関の積載率が低下する

などが挙げられる。
  一貫パレチゼーションを実現するためには、上述のように、関係者間で標準化されたパレットを相互に共同運用するパレットプールシステムが有効である。
  パレットプールシステムの一つとしてについて、EUで行われているのが、納品したときに同じ枚数の空パレットを引き取る「即時交換方式」である。この方式の欠点は、「悪貨は良貨を駆逐する」と言われるように、古くて壊れたようなパレットが戻ってくることである。パレットプール機構における補修費等の負担が大きくなる。
  日本で行われているパレットプールシステムが「レンタル方式」で、ユーザーがパレットレンタル会社からパレットを借り出し、使用後は返却するという仕組みである。
  2-(3)-①で紹介した平原先生は、「パレットは物流における通貨である」として、パレットの共同運用を提唱しておられた。「通貨」であれば、どこでも預け入れ・引き出しできる金融機関窓口やATMが必要である。パレットも同様に、図6のようにパレットレンタル会社ごとにパレットデポが設置されている。レンタルパレットで隔地間輸送をする場合は、レンタカーの乗り捨てのように、着地での返却も可能である(図6)。
  「通貨」と違うのは、各社のパレットデポが共用化されていないことである。パレットデポの「共同化」が実現されれば、着地での返却や、パレットの共同回収の効率化が進むと思われる。

図6 パレットプールシステム

(出所)日本パレットプール(NPP)社資料
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  日本パレット協会によれば、2020年度のレンタルパレット保有枚数は約2,423万枚、うち約1,752万枚がプラスチック製パレット(うち1100㎜×1100mmが約1,422万枚)である。
  レンタル方式による利用者(発荷主等)の利点として、資産管理、保管・補修、返回送(回収)の手間、初期投資が不要等を挙げることができる。
  筆者はパレットレンタル会社の肩を持つわけではないが、物流センターの実務としては、パレットの種類は絞り込んだ方が、スペースや作業効率から望ましいと思う。
  図7は、あるホームセンター店舗のバックヤードである(筆者が公道から撮影)。左はレンタルパレット導入前であるが、納品された多種多様のパレットが積まれている。「一番下にある当社のパレットを返してほしい」と引き取りに来たら、パレットの山を崩して取り出さなくてはならない。一方、右はレンタルパレット導入後であり、数種のパレット(レンタルパレットを含む)が整然と積まれている。どちらが良いかは一目瞭然であろう。

図7 ホームセンター店舗バックヤードのパレット置き場

(左)レンタルパレット導入前          (右)レンタルパレット導入後
(筆者が、敷地外の公道から撮影)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  一方で、レンタル方式の課題として、

①経済性
  パレットの多種化が難しい。使用料が高い。流失・紛失して返却不可能のパレットに対してもレンタル料を払い続けるか、パレット代を弁金しなくてはならない。

②迅速性・信頼性
  パレットが急に必要となったときの貸出に対応できるか(最近も、レンタルパレット不足が生じた)。パレットの品質管理(各パレットデポで検査・修繕している)。)

③付加価値
  バーコード・RFIDによる追跡管理が可能なプラスチックパレットが増えている。

等が挙げられる。
  ③については、プラスチックパレットにRFIDを装備して個別管理しているレンタル会社もある。パレタイズドした貨物のバーコード等と、パレットのRFIDを紐付けすれば、パレットを追跡管理することで貨物のトレーサビリティに役立てることができる。
  コスト的には、レンタルパレットの種類・枚数・期間などもあるので、一概に言えないが、自社保有の場合は、パレット購入費用以外に、回収・修理整備・補充・空パレット保管スペースなどの費用もかかる。
  あるパレットレンタル会社HPでは、レンタル費が1日1枚8円(11型木製パレット)、プール料金(納品地から発地までの回送料金)が1枚150円(同。東京~大阪間)等と例示されており、「詳細は見積り」とされている。
  さらに、各レンタルパレット会社HPでは、一貫パレチゼーション導入企業の事例が紹介されているので、参考にされたい。
  また、パレットの共同利用事例としては、

①業界ごとの共同利用・共同回収システム
  製紙パレット機構(1100mm×800mm)
  石化方式共同一貫パレシステム(1400mm×1100mm)

②JPR11型レンタルパレット共同利用・回収推進会(略称「P研」。会員310社、共同回収店1643店)
  2019.3.31活動終了し、2019.4.1以降は、日本パレットレンタル(JPR)社の事業運営に移行して従前どおり運用されている(社数・共同回収店数は非公開)。

③(一社)Pパレ共同使用会 http:///www.p-pallet.jp/
  ビール業界共通プールパレット「ビール9型プラスチックパレット」(1100㎜×1100mm×140mm)。ビール各社のパレットを共通運用する仕組み。各社は売上高に応じてパレットを補充する(図6右写真で最も左がビールパレット。共通運用なので、各社別に分けて管理する必要がない)。

(2)一貫パレチゼーションの導入
  冒頭1項で述べたように、 「ドライバー不足」「物流センターの作業者不足」「物流共同化」さらには、「ホワイト物流推進運動」の高まり等で、一貫パレチゼーションの導入が増えている。
  以前は、日本パレット協会などでは「手引書」を作成配布していたが、最近は、パレットレンタル会社が既製のパレットプールシステムの利用を働きかけたり、荷主・物流企業に最適なシステム導入をコンサルティングすることが多い。また、その方が、準備期間も短い。
  一方で「持たざる経営」ということで、自社でパレットを購入して資産管理(固定費管理)するより、レンタル料として変動費管理することが選好されている。
  ポイントとしては、次のようなことが挙げられる。

①現行の物流システム見直し
  ちょうど良い機会であるから、この際、「包装」もユニットロードシステムに合致するように見直す、あるいは設計・製造部門または荷主に見直しを提案する(包装変更は時日を要するので、同時並行ということもある)
  包装を提案する際には、ぜひ包装モジュール寸法を活用して頂きたい。その後の物流効率化に資するところ大である。

②パレットの規格や保有・運用方法
  これまで、一貫パレチゼーションというと、パレット寸法は一定という先入観(とくにT11型)があったが、最近の共同輸送やモーダルシフト事例を見ていると、かなり柔軟な活用方法が増えている。
  N食品とA飲料による低床トレーラを利用した、関東~九州間の共同輸送では、軽量品のN食品HDは12型パレット(1200mm×1000mm)を上段に、重い飲料品のA飲料は9型パレット(1100mm×900mm)を下段に積み合わせている。
  また、H自動車では関東から北海道への部品輸送を、JRコンテナにモーダルシフトする際、11型6枚では積載効率が悪いので、11型4枚に13型(1300mm×1100㎜)2枚を積むことで積載率を高めている。
  複数サイズのパレットを共載することは、これまで管理の複雑さ等から「禁じ手」であったが、この2例のように柔軟な活用も検討すべきであろう。
  ただし、レンタルパレットの場合は、日本パレット協会のデータからも明らかなようにT11型プラスチック製パレットが主流なので、他サイズはレンタル料が割高になる。
  自社パレットにするか、レンタルパレットにするかは、上記(1)を参照されたい。

③関係者の連携とテスト輸送による検証
  関係者の連携については、1-(1)で述べた通り、ホワイト物流推進運動に賛同した1200者以上の半数、600者が「パレット等の活用」に取り組む姿勢を見せているので、これまで以上に連携しやすい状況にあると思われる。
  「パレット化しないと、ドライバーも物流センター作業者も来なくなる」という切り口で働きかけるのも一つの方法であろう。
  テスト輸送から実現までは、思ったより時日を要する。2-(2)で触れた農産物のパレット輸送では、筆者たちがお手伝いした実証実験が2017年夏であった(図8)。

図8 農産物のパレット輸送実証実験

(出所)厚生労働省資料
*画像をClickすると拡大画像が見られます。
図9 卸売市場に着いたフルトレーラ

(筆者撮影。下の木製パレットが市場の特大サイズパレット)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  ところが、消費地側の卸売市場では(場外に持ち出されないよう)特大サイズのパレットに、農産物のサイズ・等級あるいは仲卸業者別に仕分け卸ししなければならなかった。
  その後、産地・トラック運送業者・消費地(卸売市場)の協議が整い、卸売市場がT11型パレットに変更して、一貫パレチゼーションが実現したのは2021年4月であった(2017年度調査の後も注目していた筆者としては、感慨深い)。
  このように、一貫パレチゼーションなどの物流標準化は、粘り強い取り組みが必要となる。

4.おわりに

  物流標準化のツールは、パレットだけではない。プラスチック製通い容器(オリコン・クレート)や、ハンガー輸送におけるハンガーリサイクル(共同化)がある。また、包装については、1-(4)の加工食品業界以外にも、アパレル業界でも標準化の取り組みが始まっている。また、少量貨物のロールボックス輸送である「JITBOXチャーター便」も、輸送容器を統一した特別積合せ貨物の共同輸送業界ぐるみの標準化事例と言えよう。
  誌面の都合で、それらの最新動向に触れられないのが残念である。
  標準化は、労働力問題や環境問題など社会性がある課題であり、一企業や一業界の枠を超えた協同の取組みが必要である。
  物流システムに対する社会的関心が高まり、かつ企業の社会的責任が問われている今日、行政と産業界が一体となって標準化を進行していかなければならならない。
  読者をはじめとする物流関係者が、標準化の意義を強く認識し、標準化マインドを高揚させる一助になれば幸いである。

以上


  
【参考資料】

  • 1.「総合物流施策大綱(2021~2025)」並びに関係資料(国土交通省ほか。2021年)
  • 2.「荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン 加工食品、飲料・酒物流編」(国土交通省。2021年)
  • 3.「JISハンドブック62『物流』(日本規格協会。2019年)
  • 4.本稿に挙げた各省庁・各社・各団体のHP並びに資料。


(C)2021 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.

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