第425号 医薬品・医療機器へのバーコート表示とトレーサビリティの国内外動向(2019年12月5日発行)
執筆者 | 前川 ふみ (GS1 Japan 一般財団法人流通システム開発センター) |
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目次
はじめに
医薬品、医療機器の安全性が非常に重要であることは、疑いようのない事実です。人の生命にかかわる製品が、いつ、誰によって製造され、どのようなルートをたどり、実際に患者に使用されたのか、こうした情報を正確にとるための手段として、利用が始まっているのがGS1(ジーエスワン)の仕組みです。
GS1とは、国際的な標準化団体で、商品を識別するためのコードや、商品情報を表すバーコード・電子タグなどについて国際ルールを策定しています。GS1のルールにのっとったバーコードを活用することで、サプライチェーン上のだれもが同じ商品コードでモノを識別することができ、さらに、その情報を手書きで記録するのではなく、バーコードのスキャンによって取得することができます。
GS1標準のバーコード(以下、GS1バーコード)は、近年、医療分野では、法規制により表示が求められることが多くなってきています。今回、世界的なGS1バーコードの表示動向と活用例についてみていきたいと思います。
1.世界のGS1バーコード
医薬品、医療機器ともに、GS1バーコード表示は世界的に進んでいます。しかし、医薬品と医療機器で少々傾向が違っています。
まず、医薬品についてです。バーコード表示を義務化する規制の名称が、米国ではDrug Supply Chain Security Act、欧州ではFalsified Medicines Directiveとされていることからもわかるように、医薬品のバーコード表示要求は「偽造薬」対策としての側面が大きいです。米国、欧州ともに、医薬品の販売包装にGTIN(ジーティン:GS1の商品識別コード)、有効期限、ロット番号、シリアル番号などの表示が求められています。患者に渡す前に、GS1バーコードで表示されたシリアル番号の認証を行うことによって、不正な医薬品をサプライチェーンから排除しようとしています。
一方、医療機器については、IMDRF(国際医療機器規制当局フォーラム)が医療機器識別のためのガイダンスを出しており、各地で、このガイダンスを参考に、バーコード表示を含む医療機器の正確な識別のための規制(UDI(Unique Device Identification)規制)を進めています。UDI規制で求められることは、基本的にすべてのパッケージに商品識別コード、必要に応じて有効期限、ロット番号、製造年月日などを国際標準のバーコードで表示すること、製品名やメーカー名などの医療機器に関する基本情報を公的なデータベースに登録することです。バーコードを使って、誰もが医療機器を正確に識別することができる環境を整え、患者安全、ケアの最適化を図ろうとしています。
2.日本のバーコード
日本は、世界的な動きよりも早く、医療製品にGS1バーコードを取り入れてきました。
日本の医療用医薬品については、偽造薬対策というよりも、医療安全の観点からバーコード表示が取り入れられています。海外では前述のとおり販売包装にバーコード表示が求められていますが、日本では調剤包装(アンプル、バイヤル、PTPシートなど)についてもバーコード表示が求められています。反対に、販売包装に対するシリアル番号の表示は求められていません。
日本の医療機器のバーコード表示については、国際的な表示要求と大きな違いはないものの、厚生労働省からバーコード表示に関する通知が出されたのが2008年と10年以上前であることから、当時の技術等に鑑み、本体直接表示やダイレクトパーツマーキングは、バーコード表示の対象外とされています。
3.海外の活用例
表示されたバーコードが実際にどのように使われているのか、いくつか事例をご紹介します。
まず、欧州の医療用医薬品です。欧州では2019年2月から、一部の国を除き、シリアル番号の表示とシリアル番号認証が必須となっています。図1のようにサプライチェーンに関わる全ての人がシリアル番号認証を行うのではなく、end-to-end方式、つまり、サプライチェーンの端と端である、メーカーと薬局がシリアル番号を発番・認証を実施します。
GS1ヘルスケア国際会議での報告によれば、現在、フランスの総合病院(1000床)では年間25万箱の受け取りをする(つまり、シリアル番号認証をする)必要があるそうです。将来的には、近隣病院から医薬品の一包化も請け負う予定となっており、確認しなければならない医薬品が80万箱まで増加することが見込まれています。このため、この病院では、バーコードスキャンのスピードが上がることはもちろん、より簡単に多くのシリアル番号認証を行うことができるよう、システム改善を求めていました。
欧州ではend-to-end方式が採用されましたが、サプライチェーンの全ての関係者がシリアル番号認証を行う国もあります。韓国では実際にシリアル番号認証がすでに実施されており、米国も2023年までに完全なトレーサビリティの実現を目指しています。
4.日本の活用例
医療用医薬品には、すでにGS1バーコードが調剤包装にまで表示されています。特定生物由来製品には、GTIN(商品識別コード)のほか、有効期限、ロット又はシリアル番号も表示されています。
薬局や病院の薬剤部では、ピッキング時にGS1バーコードをスキャンすることで、取り間違いを防いでいます。また、医薬品の混注時にもバーコードをスキャンし、誤ったものを混注しないようにする取り組みも行われています。混注については、混ぜてしまった後には目視確認をすることが難しいので、混注前にバーコードを読み取ることが、医療安全上非常に重要です。
医療機器についても、手術で使用した医療材料の記録にGS1バーコードを使用する病院が増えてきています。バーコードをスキャンすることで、GTIN(商品識別コード)から使用した商品が何だったのかを特定するとともに、ロット番号も記録し、万一のリコールの際にその記録を役立てています。また、特定医療保険材料については、病院は保険償還の手続きも行う必要がありますが、その場で使用したものを正確に記録できるので、償還漏れを防ぐこともできます。
さいごに
GS1バーコードは表示して終わり、というものではなく、バーコードの情報を活用することではじめて意味が出てくるものです。
現在、POSレジを使用していない小売店はかなり少ないと思います。スーパーやコンビニでは、GS1バーコードをスキャンするとともに、その購買データを分析・活用することが当たり前になっていますが、医療の世界でも同じように、GS1バーコードのスキャンと、そこから得られる消費データの分析が当たり前になっていくのかもしれません。
以上
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